上 下
40 / 74
六章

「漆黒の魔剣使いとボス戦と裏ボス戦」その⑪

しおりを挟む


「俺はここに、マンドラゴラのセバスチャンに頼まれて、あんたを探しに来たんだ」
「セバスチャン……そういえばそんな者がいましたね。今まで忘れていましたよ。あの街でのことは、思い出したくもない悪夢ですから」
「え~っと、状況が分からなくなってきた」

 ロイは誘拐されて嫌々モンスターを作ってたんじゃなさそう。それにもう街に戻るつもりはないみたいだ。

「君が知っているロイ・グリンウェルとは、いったいどんな人物か、教えてもらえるかな」
「どんなって、確か別の大陸で魔道士やってて、どこかの国に雇われて、ゴーレムとかモンスターの研究をしてた。でもその国が魔王との戦いで滅びかけたから逃げたんだよな」
「ほほう、よく調べてありますね。で、その後は」

 ロイは楽しそうにニヤニヤと怪しげな笑顔を見せている。薄気味悪いし普通に怖い。

「だからディアナ大陸に逃げてきて、南にある商人の街、ゴールディ―ウォールに住み着いた」
「私はそこで何をしていたんでしょうね」
「変な生き物の研究とか、花屋?」
「ふふふっ、あっははははははっ‼ そう、その通りだ。私はそんな馬鹿なことをして時間を無駄にしていたんだよ」

 なんだよこいつ、いきなり人が変わったように険しい顔して激情的になったぞ。

「まったくもって悪夢だ。思い出すと虫唾が走り怒りが込み上げてくる」

 ロイは眉間に皺を寄せた怒りの表情で言った。その瞳には憎しみによって生まれた狂気が満ちている、そんな風に感じた。更に全身からオーラのようにまがまがしい魔力が放出されている。こいつもうヤバい奴で確定だろ。いつでも戦えるように心の準備だけはしておこう。

「おっと、これは失礼した。少し取り乱してしまったね」

 我に返ったように平静を取り戻し、ロイは魔力の放出を止めて真顔になった。

「君はわざわざ私を訪ねてきてくれたわけだし、本当のことを話してあげよう。真実とは、なかなかに面白いものだよ」

 これって冥土の土産に話してあげよう、っていうテンプレの死亡フラグなんですけど。聞き手と話し手どっちのパターンもあるよね。俺がモブならヤバかったが、ちょっとロイさん大丈夫なの、漫画やアニメじゃマジで死んじゃうやつだよ。ほぼ回避不能だからね。まあ俺には関係ないからいいんだけど、ってそんなわけない。だって今ここに居るの二人だけなんだから、フラグを成立させる死刑執行人は俺じゃんか。

「さて、何から訂正しようか……」

 やだもう無理。このタイミングでノリノリのロイさんの話を止めるとか無理ゲーすぎますよ。まったく空気の読めないおバカのクリスを連れてくればよかった。後はイスカンダルがまた現れて、この場の雰囲気とか流れを壊してくれたら有り難い。でも必要な時に天然って来ないんだよな。

「さっき君が話したことは、とある国に雇われて研究していた、というところまでは事実だ。でもね、国に攻めてきた魔王とその軍なんていなかったんだよ。だってあれは、私がやったことだからね」

 また怖いことを言い出したぞ。しかも言った後に高笑いしてやがる。

「私はね、自分の作ったモンスターがどのぐらいの完成度、そして強さか試したかったんだよ。だから魔王の噂を流し国をかく乱させて、自分のモンスターを次から次に攻め込ませた。それはもう滑稽だったよ。兵士も冒険者たちも、何も知らず必死に戦っていたからね」

 おいおいマジかよ。話がヘビーすぎるだろ。

「魔王の名は本当にいい隠れ蓑になった。驚くほど自由に行動できたし、何もかも思うとおりに事は進んだ」

 誰か助けてぇぇぇぇっ。もう話し聞きたくないんですけどぉ。

「だがっ‼ あと少しで国一つを滅ぼせる、という時に、あの忌々しい金髪のエルフがどこからともなく現れた」

 えっ、金髪のエルフ? なんだか嫌な予感しかしませんよ、その先の話は。まさかあのお方がそんなところにまで絡んでいるとかないですよね。
 うん、ないない、ある訳がない。そんな偶然あってたまるか。

「まさに金色の破壊神、圧倒的だった。簡単に私のモンスター達は壊滅させられた」

 キターーーーっ‼ 出ちゃいましたかその二つ名が。

「更に研究所までもが破壊され、私自身も死にそうになった」

 もう笑うしかないよ。あの暴君エルフがまさかの救世主って。
 知ってか知らずか、いやまあ知らずの方だけど、あいつのご乱行もたまには役に立つんだな。てかロイさんや、よく生き延びれたな。あんたもしぶといこと。
 しかしディアナ大陸に来た、というか逃げてきた理由がアンジェリカにフルボッコにされたからとか普通に泣ける。まあ悪人だから同情の余地はないか。自業自得だな。ホンとアンジェリカさんお仕置き乙。

「分からないのは、奴が何のために戦ったのかだ。情報では金で雇われたわけでも知り合いがいたわけでもなかった。なのに何故、たった一人でモンスターの大軍と戦うのか」

 なに言ってんのこいつ、あの暴君の行動に意味とか考えがあるわけないじゃん。正義も悪もない、ただ暴れたかっただけだし。機嫌が悪くてむしゃくしゃしてたんだろ、どうせ。

「なんとか一命をとりとめた私は再起を図るためこの大陸に来た。その後すぐ、とある国に狙いを定め、研究者として取り入ろうとした」

 また同じことをしようとしたのかよ。回りくどいことしてないで、さっさと魔王を名乗ったらいいのに。まあモンスター作るにも金や人手が必要なんだろうが、基本的に裏でコソコソやりたいタイプなんだろうな。いま喋ってる時は、まさに陰謀とか策略とか好きそうな顔してるし。

「うまくいきかけていたある日、その国はドラゴンを操る魔人に襲撃された。だがそこへまた、あの金色の破壊神が現れた」

 ははっ、スゲーな、あいつどこまでも絡んでくるじゃん。流石真正のストーカーだ。
 もうアンジェリカ絡みの事は聞きたくないし聞かなくても、ウルトラハードな悲劇が起こったのが分かる。

「ドラゴンと魔人と破壊神が戦った時に私は逃げ遅れ、また死にかけた」

 国が襲撃された時にアンジェリカが来たってことは、街中で戦ってたわけだし、考えただけで恐ろしい光景だ。いったいどれだけの人が亡くなったんだろ。
 アンジェリカが今も無事でいるってことは、その戦いでドラゴンと魔人のコンビに勝ったんだな。ホンと恐ろしい子。
 それにしても立て続けのストーカー被害、これはあれかな、日頃の行いが悪いからってやつだね。女神様はちゃんと見てるよ。

「運が悪く頭部にダメージを負ったせいで、名前と日常生活に必要なもの以外の記憶を失った」
「えっ⁉ それって記憶喪失」

 どこまで運がないんだよ。やっぱ悪いことしてるからだって。悪の栄えたためしなし、とはよく言ったものだ。
 だがそうなると、アンジェリカが悪ではなく正義になってしまう。ただ考えてみると、アンジェリカが暴れた後って結果的に良いことが起こってる気がする。二つの国は滅ぶことなく救われ、消滅したアリマベープ村は温泉が湧いたし……まさか本当に救世主?
 いやいやいやいや、ないないない、絶対にない。もしもそうなら俺が女神のところに行って説教してやるぜ。

「記憶を失った私は別人のようになり、目的なく旅を続けゴールディ―ウォールに辿り着いた」
「それで色々あって花屋になったわけだ」

 たとえ記憶が無くてもモンスターとか変な生物を作ることはなんとなく覚えてたんだな。それで生まれたのがセバスチャンというわけか。
 悪人の時に作った生物じゃないから、セバスチャンは悪い影響を受けず温厚で優しい奴になったんだと思う。

「だがある日、取るに足らない出来事で、私は記憶を、自分を取り戻した」

 話によると、庭でロイが躓いて倒れそうになり、それを支えようとしたセバスチャンと頭と頭がぶつかり、その衝撃で記憶を取り戻した、とのこと。ってこらセバスチャン、前に記憶飛んだのこれじゃんか。全部お前のせいかよ。スーパーミラクルな頭突きかましてんじゃねぇ。

「忌々しい破壊神め、奴のせいで時間を無駄にしてしまった。この私が花屋をやりながら穏やかな時間をすごすなど、考えただけで胸糞悪い。これ以上ない屈辱だ」

 もう顔が別人だ。鬼のような形相で怖いっての。

「しかもあのエルフはまた私の邪魔をした。試作品だったが画期的な新型スライムを村ごと薙ぎ払った」

 えっ、アレって……。

「実験のために解き放ったばかりだったのに、まったくもって許せん」

 いやそれ村人のセリフだから。突然大量のスライムがアリマベープ村に現れたのは、そういう理由だったのか。

「あのスライム達は、コアを持っている個体が倒されない限りすぐに復活する。ほぼ無敵状態であり、攻撃を受けるたびに増殖していく」
「それは確かに画期的かもね」

 でもチート火力で一撃だったけど。残ってた一匹はもしかしたらコア持ちだったのかも。そうなら止めを刺してなかったら増えてたってわけか。
 アンジェリカが一撃で決めてなかったら、俺とスカーレットだけで大量にいた特殊なスライムを倒せただろうか。普通に考えて無理だよな。だって復活して増殖していくんだから。コアを持った奴は前線に居ないだろうし。そう考えると俺はあの時アンジェリカに助けられたのかも。
 ちょっと頭痛くなってきた。アンジェリカ関連で深く考えるのはやめだ。ここで話しの流れを変えよう。

「で、記憶が戻ったからさっそく魔王に取り入ったわけか」
「その通りだ。国でもよかったのだが、魔王と名乗る者が近くにいたので利用してやろうと思ったんだよ。本来は人間がモンスターを作るなど不可能だが、私はそれを可能にした。だから魔王も面白がって簡単に仲間にしてくれたよ」

 魔王が人間信じちゃダメじゃん。イスカンダルもだけど、魔人族って基本バカというか天然なのかよ。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...