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六章
「漆黒の魔剣使いとボス戦と裏ボス戦」その⑩
しおりを挟む「ご苦労さん。あのタコモンスターの原料はどうだった?」
「爆風で飛ばされていましたが、金貨が四つありましたので、恐らくそれかと」
スカーレットの説明を聞いて少しがっかりした。
「金貨四枚か……デカいだけかよ」
さっき戦った赤いカバで金貨五枚だから、あれよりレベル低いモンスターってことなのか。
まあ巨大なだけで攻撃は単調だし、それほど強くなかったけどね。と言ってもぶっ飛ばされたし一番苦戦したかも。魔剣がなかったら簡単には倒せなかった。やっぱ相性ってやつがバトルにはあるんだな。勉強になった。
「あの、レオンさんの取り分って、どのぐらいですか?」
「いや、別にお金はいいよ。役に立ってないし」
悲しいけど自覚はあるのね。でもレオンの装備は大活躍だけど。
「じゃあ有り難く、全部貰っておきますね」
ゴブリンは小銅貨だから二百枚で二万円、トロールは中銅貨二枚だから十五匹で三十枚の三万円、タコが金貨四枚で十二万円、計十七万円。
一回のバトルでこの額なら上出来だ。今日だけでかなり稼げた。当分は家賃と生活費の心配しないですむし、色々と買い物できる。
因みに我が家の犬と猫は凄く重いのに頑張ってトロールのハンマーを十五個、ちゃんと拾ってウエストポーチの魔法空間に入れていた。
てかハンマーだらけだ。一回の冒険で十七個ゲットだけど、ここまで簡単に入手できるなら街の武器屋には腐るほどあるんだろう。やはりハンマーは熔かして原料にするのが正解だ。
そだ、ステイタスの確認だ。デカいタコも倒したし、レベル上がってるだろ。
確認すると商人レベルが一つ上がって14になっている。あとパーティー設定しているスカーレットもレベルが一つ上がって21になっていた。
一息ついていると、空間の真ん中あたりに移動魔法陣が現れる。
「嘘だろ、まだ続くのか」
レオンが呆れ口調で言った。
だが魔法陣からは何も送られてこず、ただそこに存在し怪しく光っている。
「ご主人、これは何でしょう。意味があるように思えますが」
「どうやらパーティーに招待してくれるみたいだな」
この魔法陣を使ってこっちに来い、そう言われている気がする。
「アッキー、それって罠だと思うが」
「その可能性もあるけど、この先でボスが待っていると思う」
「魔王なのにゃ、魔王がいるのにゃ」
「黙れバカ猫、はしゃぐな」
「にゃん、スカーレットちゃん顔が怖いのにゃ」
クリスがそう言うとスカーレットは透かさずお尻を蹴っ飛ばした。口は災いの元だよクリスさん。いつになったら学ぶのさ。
「ステージボスがイスカンダルとして、この先に居るのは裏ボスかな」
「あの魔人より強い奴が出てくるのか……」
レオンさんなにビビってんすか、どうせ戦うの俺じゃないですか。
「そうだアッキー、また魔人が出てくる可能性もあるし、私の盾も貸すよ」
「それは有り難いです」
遠慮なくレオンから盾を受け取る。ついに魔剣と盾を装備だ。
テンション上がるぅぅぅ。これよこれ、冒険者やってる気分になる。できれば全身鎧も借りたいよ。レオンのは様々な耐性だけじゃなく、魔法の力で温度調整されるから灼熱極寒関係なく装備できる高級品だ。いつか儲けて買ってみたい。
「ここからは一人で行きます。本当にボス戦になった時に、誰かが近くに居たら危ないので」
「ご主人、私は大丈夫です、戦えます」
「クリスチーナも一緒に行きたいのにゃ」
「ダメだ。誰も連れて行かない。誰かが側に居たら本気で戦えない。まだ魔剣を制御できないから」
「……御意」
「はいなのにゃ」
二人は元気なく耳と尻尾を下げて返事した。
「レオンさん、二人を連れてこの岩山から出て、ダンジョンに移動できる魔法陣のところまで下がっててください」
「わかった、そうしよう。兵にしか分からない、危険な気配を感じるんだな、アッキー」
「まあ、そんな感じです」
この先には本物の怪物がいる気がする。いや、絶対にいる。もしかしたら魔王かもしれない。
ちょっと怖いし不安もあるけどいまドキドキワクワクしている。俺ってこんなに肝の据わった奴だったんだな。自分で驚くよ。バトルで無双してお金をいっぱい稼げたからテンション上がっておかしくなってるのかも。
「じゃあ行ってくる」
魔法陣の中に入ると魔法が発動して光の柱を上げ、どこかへと一瞬で移動させられた。
送られた場所は大きな培養菅が左右に何十個も立ち並ぶ、薄暗くてひんやりしている研究室だった。その培養菅の中は緑、青、赤、紫などの培養液と製造途中のモンスターらしき物が入っている。様々な大きさの培養菅の上には巨大なパイプ配管が張り巡らされ、培養菅から木の根のように出た配管やケーブルで繋がっている。
「ここヤバい場所だな」
辺りを見渡しながら自然と出た言葉だった。
この研究室はドーム球場ほどあるさっきまで居た空間と同じぐらい広く天井も高い。壁や地面の感じからして恐らくまだ巨大な岩山の中で、今まで居た場所の上か下の階と思われる。
とにかく不気味なんだが、ここが予想していたモンスター工場で間違いなさそうだ。つまりロイ・グリンウェルがどこかに捕まっているかもしれない。面倒だけど助けて連れて帰れば、セバスチャンの依頼の方は一件落着だ。ただ恐れているのはその後の事だ。もしかしたらロイとも一緒に住むことになるのだろうか。
「よく来たね、冒険者殿」
気配なく突然正面に現れ言ったのは、見た目が人間の男性だった。俺は驚いて思わず後退る。が、その者の顔を見て更に驚く。
「いや、冒険者というより、異世界から召喚された勇者の方かな」
凄く穏やかな喋り方でフレンドリーなんだが、なんだよこいつの顔、まさか……ロイ・グリンウェルなのか?
顔と声、体つきまでマンドラゴラのセバスチャンにそっくりだ。もしもこいつがロイなら、自分をモデルにしてセバスチャンを作ったに違いない。
髪は金髪で瞳がブルー、ちゃんと服を着ているところはセバスチャンとは違う。勿論、頭にタンポポは生えていない。
服装は白いワイシャツと黒いズボンと靴で、医者とか博士みたいな丈の長い白衣を着ている。
あと気になるのは見た目の年齢だ。六十代と聞いていたのに二十代半ばにしか思えない。どういうカラクリなんだ。
てかまたイケメンが現れたよ。もうイケメンはお腹いっぱいっす。
「人の顔を見て、何を驚いているのかな、勇者殿」
「いやいや、勇者とか冒険者じゃないので」
「ほう、ならば何者がここへやって来たのでしょうか、教えてもらえるかな」
「何者というか……商人ですけど、なにか?」
「ふふふっ、面白いことを言う」
まあデカい盾と魔剣を持ってるんだから普通は冗談と思うよね。笑われて当然ですな。
「あれほどの数のモンスターを倒したとはいえ、ここへ一人で来るとは、よほど自分の強さに自信があるんですね。やはり勇者殿かな」
「俺が何者かはなんでもいいよ」
「私的にはなんでもよくないのです。君がこの場に居るということは、イスカンダルという魔人を倒したということだね。あれは残念ながら頭の方は悪いが、それなりに強いんですよ」
「何が言いたいんだよ」
「見たところ、イスカンダルを倒せる風には思えなかったもので。何がどうなって君がここに居るのか理解不能なのです」
こいつ、俺の戦いを見ていたわけじゃないってことか。
「いま自分で言ったじゃねぇかよ、あいつはバカだってな」
「ふむ、なるほどねぇ……それでもまだ、理解できませんね」
「色々と運が良かった、と言っておこうかな」
「運ですか……あの魔人は運では倒せませんよ。上級の冒険者パーティーが何組かいても厳しい相手ですから。しかも試作品とはいえ、運で私の作ったモンスター達を倒したというのかな」
喋ってる内容が完全に敵側なんだけど、名前を聞くのが怖い。っていうかこの人、工場長なんですけど‼
「……そういうことですか。分かりましたよ、あなたの正体が」
「えっ、しょ、正体って、なに?」
「黒い髪に黒い仮面、黒い服装と黒い盾、そして魔剣、最近よく噂を聞く二つ名の冒険者、漆黒の魔剣使いとは君の事だね」
「いやいやいやいや、違うから、それ絶対に違うから‼ そこ勘違いされたくないところだから‼」
確かに色々と黒いけど人違いですから。服が黒いのはタコモンスターの墨のせいだし。
「その見た目で魔人や上級モンスターを倒したのなら、漆黒の魔剣使いで間違いないはず。ちょうど会いたいと思っていたんですよ」
「人違いだっての。てかなんで二つ名なんかに会いたいんだよ。基本危ない奴ばっかだと思うけど」
「理由はね、君が私の邪魔ばかりするからだよ」
「はぁ? 訳が分かんないけど」
「なら教えてあげよう。まず一つ目は」
何個もあるのかよ。今日のバトル以外では身に覚えないんだが。
「砂漠を越えた先にあるジャングルのダンジョン。私はそこで第三研究所を造る予定だった。故に冒険者たちが入り込めないように、門番となる強いモンスターを配置しておいた。が、君に倒された」
……それって巨大な猪型のモンスターのことか。確かに俺が倒したけど、表向きにはレオンがやったことになってる。
って事はアレ、魔造の上級モンスターだったのか。だったら高価な原料ゲットできたんじゃないの。知らない事とはいえ惜しいことをした。
「二つ目は砂漠のダンジョンだ。ここは第二研究所として既に手を入れていた。下層部へ行けないように数々のトラップを仕掛けていたのに、その全てを君が破壊してルートを作った。既に冒険者だらけと聞いている」
スカーレットが言ってたな、ダンジョンを改造してる奴らがいるって。あの極悪トラップ地獄はこいつの仕業だったんだな。しかし言われてみれば確かに邪魔ばかりしてるかも。
「そして今日もまた私の邪魔をする。本当に困った人ですよ、漆黒の魔剣使いさん」
「だから違うって」
「何か名乗れない訳があるみたいだね」
なにこれ、まだ続くのその話。掘り下げられても困るんだけど。
「もう俺の事はどうでもいいよ。それより、あんたもしかして、ロイ・グリンウェルって名前じゃないのか」
「ほう、私の名前を知っているとは」
やっぱそうだったか。これで人探しは完了だが、ここからはスゲー面倒なことになりそう。この先の展開が読めない。既にカオスだよ。ただただ嫌な予感しかしない。
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