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六章

「漆黒の魔剣使いとボス戦と裏ボス戦」その①

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 西のダンジョンへの移動中、先輩冒険者のスカーレットに色々と質問してバトルやダンジョンで注意すべき点などをそれとなく訊いた。
 スカーレットは盗賊でレベルは20。バランスのいいパーティーなら中ボスと戦える強さだと思う。なので心強い存在だ。しかしその心強さを全て帳消しにする天然星人が我がパーティーにはいる。
 気になるのは商人のレベルがバトルでどのぐらい上がるかだ。戦闘に向いている冒険者系の職業じゃないから、自分メインのバトルで得られる経験値で一気に上がるかもしれない。スゲー楽しみ。ただゲームみたいにレベルアップ音はないらしいから淋しい。
 馬車にいる間に俺とスカーレットはステイタスを出しパーティー設定をした。この設定をしていればバトルで得られる経験値が振り分けられる。
 二人とも前衛でバトルすれば均等に振り分けられ、後衛で回復や補助担当なら振り分けられる数値は少なくなる。更に後ろに位置してバトルに参加しなければ、予備兵力扱いでほとんど経験値は入らない。

 それから程なくしてダンジョンへ無事に到着した。たぶん一時間ぐらいだったと思う。
 その場は森林で既に何台もの馬車が止まっている。周りは冒険者のパーティーだらけだ。これはテンション上がる。
 戦士に魔法使いにタンクにヒーラーなど、皆ちゃんとした装備で一目で冒険者と分かる。普通なのは俺たちぐらいだ。てかジーパンにTシャツ姿ってスゲー恥ずかしい。冒険者を舐めるな、って怒られても仕方がないところだ。
 でも今の俺は冒険者じゃなく商人なんだよな。商人なのにモンスター狩りに来てるとか噂になるから言えないけど。
 とにかく冒険者系の職業の人たちとは現場ではあまり関わらないようにしよう。
 ダンジョンの入口は巨大な洞窟で、次々にやる気に満ちた冒険者パーティーが入っていく。それに続くように俺たちも入口に近付いた。

「あっ⁉ あれは……」

 驚いて思わず声が出た。

「どうかなさいましたか、ご主人」
「いや、何でもないよ」

 まず間違いない。入口付近の人だかりの中央に居る奴が、噂の二つ名、漆黒の魔剣使いだ。マジで一目で分かった。
 二つ名の冒険者は長身で190センチはある。白人系で精悍な顔立ちのイケメン。金髪のショートヘアで瞳はブルー、歳は二十五ぐらい。そして一目で分かった理由の装備が凄い。ヘビーな全身鎧と大きな盾は当然のブラック。アクセントにパーツのフチの部分は赤色で、それがクールに見える。とにかく物凄くカッコいい。
 腰には魔剣らしきものがあるが大剣ではなくただの長剣、いわゆるロングソードだ。柄の上の部分には赤い魔石がはめ込まれている。少しだがまがまがしい気配と魔力を感じる。
 まさかいきなり会ってしまうとは。俺が変な奴を引き寄せてるってことはないよな。
 ここは初心者ダンジョンだが最近は奥に行けば強いモンスターとエンカウントするようになったとサクラが言ってた。だから上級の冒険者がいるって訳だな。
 とりあえずアンジェリカみたいにバカじゃないことを願おう。冒険中にダンジョンごと破壊とかそんな無茶は止めてほしいものだ。流石に超人の俺でも生き埋めにされたら助からないもんな。

「私は誰とも組まない。一人で戦うのが性に合っているから」

 二つ名が苦笑いして、そんなことを言っているのが聞こえた。声までイケメンかよ。もう主人公にしか見えませんよ。

「おおっ、カッコイイ」
「流石二つ名の戦士」
「一匹狼とか最高」
「あまりに強すぎて、一人じゃないと巻き込んでしまうからだきっと」

 取り囲んでいた連中が次々に称賛する。たぶん全員初心者だ。
 関わり合いたくないので、ちょっとカッコよさに見とれたけど足早に移動してダンジョンに突入した。
 さあやるぞ、やってやるぜ‼

「そだ、クリスさん、色々と気を付けるように」
「はいにゃー」

 満面の笑顔でいい返事。うん、返事だけはいい。でも分かってないだろうな。だってバカなんだもん。

「壁とか含めて変なところは触らない、踏まない、ズッコケないでよろしく」
「はいにゃー」
「ご主人、この猫、全然わかってません。迷子にしてここに捨てていきましょう」
「スカーレットちゃん酷いのにゃ」
「うむ、前向きに検討しよう」
「にゃっ⁉ クリスチーナはいい子にするのにゃ。だから捨てないでほしいのにゃ」
「冗談だっての。とにかくお前は真ん中を普通に歩け。それでもトラップ発動するなら仕方がない」
「はいにゃー」

 うん、やっぱり分かってないや。まあスカーレットが居てくれるから大丈夫かな。

 洞窟系ダンジョンの中は普通なら真っ暗だが、魔法の力で火の玉が現れ自分たちの周辺は明るくなっている。ただ俺は魔道具である仮面を付けているので暗くても夜目がきく状態だ。
 進んでいくと三本に分かれた道があり、クリスにどこがいいか聞いた。

「右の道がいいのにゃ」

 普通に考えれば反対の左か真ん中の道を行くのが正解だが、今回はモンスターに遭遇しなければならない。なので右に行くのが正解のはず。
 それに正規ルートで進んだらモンスターは居ないと思う。既に何組ものパーティーが先行しているからモンスターは倒されているはずだ。

「よし、右に行こう」
「わーいわーい、クリスチーナの意見が役に立ったのにゃ。嬉しいにゃ」
「はしゃぐなバカ猫。ご主人は運の無いお前が選んだ方ならモンスターが居ると思っただけだ」

 流石スカーレットさん、考えを見抜いてらっしゃる。

「にゃっ、そうだったのにゃ。でもクリスチーナは嬉しいのにゃ。運が無いことも役に立ったってことなのにゃ」

 そうとも言えないことはない。馬鹿と鋏は使いよう、ってやつだな。
 それにしても天然キャラって前向きだよな。折れないもん。ある意味メンタル最強なのかも。
 で、右に行ったのだが、まだモンスターは出てきていない。それから二度、二又の分かれ道をクリスに選択させて進んだ。すると天井が高く広い空間に辿り着く。大きさは学校の体育館ぐらいで、魔法の火の玉が上部に幾つも現れ全体を明るく照らす。

「冒険者は来てないか。って行き止まりかよ。でも今までの経験からして隠し扉かトラップがあるとみた」
「はい、私もそう思います」
「にゃっ⁉ 足元に踏みたくなるような石があるのにゃ」
「それ絶対にトラップだろ。勝手に踏むなよ」
「三歩下がって座ってろ、バカ猫」

 スカーレットは眉間に皺を寄せて牙を剥き威嚇した。

「にゃん、スカーレットちゃん怖いのにゃ」

 そう言いながらクリスは後退るが二歩でコケて豪快に尻餅をつく。その時クリスのお尻の下からガコンという音がした。
 はいもうそれトラップゥゥゥゥゥゥッ‼ さっそくデカ尻で発動させちゃったよ。ホンとどこまでも裏切らずお約束だな。

「なにやっているバカ猫‼ あっ⁉」

 スカーレットは激怒してクリスに詰め寄ろうとした。だがクリスが発見した踏みたくなるような石を自分で踏んでしまい驚きの声を上げた。
 その石は見事にトラップで、ガコっと音がして地面に沈んだ。
 しっかり者のスカーレットさんまでもがまさかのイージーミス。どうやらクリスの天然ドジっ子スキルは伝染するようだ。まったくもって天才とは恐ろしい。

「あわわわわっ、あの、その、ご、ご主人……」

 スカーレットは思いがけない失態で、今にも泣きそうな顔で振り返りオドオドしている。

「スカーレットちゃんが踏んだらダメな石を踏んじゃったのにゃ。力一杯踏んじゃったのにゃ」

 クリスさん説明乙。大事なことなので二回言いました、ってか。

「う、うるさいうるさいうるさいっ‼ お前のせいだバカ猫‼」

 スカーレットは顔を真っ赤にして恥ずかしさを誤魔化すように吠えた。
 その時一番奥の左右の壁が激しく揺れ動きゆっくり横にスライドしていく。どうやら隠し扉のようだ。前にもあったが、こりゃモンスターが出てくるな。

「別にいいんだけどね。ホンといいんだけど、もう少し気を付けようよ」

 モンスタートラップだから問題ないけど、あまりにもお約束すぎる。テンション低くて疲れてる時なら精神的ダメージ大きいかも。

「申し訳ありません、ご主人。どうかお気のすむまでお仕置きしてください」

 スカーレットは半泣き状態で四つん這いになってマントを捲りお尻を突き出す。
 いやいやいやいや、今からモンスター出てくるとこ‼ なにやってんのもう。ちゃんとバトルしようぜ。緊張感なさすぎだ、このヘッポコパーリィーは。

「にゃん、お仕置きは全部クリスチーナが受けるのにゃ。それはクリスチーナの大事なお仕事なのにゃ」

 はいそこ黙りなさぁぁぁい。てかお仕置き受ける仕事ってなんだよ。そんなこと人に聞かれたら白い目で見られるだろ。どんだけ鬼畜なご主人様なんだよ。
 で、クリスはスカーレットの横で同じように四つん這いになり、叩いてくれと言わんばかりにデカ尻を突き出している。
 なんなのこの子たち、お仕置きがご褒美にしか思えないよ。それにまだハードル高すぎるプレイだっての。

「お仕置きは無し。ミスはバトルで挽回しよう。さあ来るぞ、集中しろ。あとクリスは後ろに下がってろ」
「御意」
「はいなのにゃ」

 スカーレットは気持ちを切り替えすぐに立ち上がり、愛用のロングナイフをウエストポーチの魔法空間から取り出して構えた。
 クリスは元気なく残念そうに言って後ろへと下がった。この変態ドM奴隷は前のご主人様に調教され過ぎだっての。ちょっとジェラシー感じるじゃねぇかよ。
 既に隠し扉は全開しており、ぞろぞろとゴブリンの群れが扉の中から現れる。

「んっ⁉ 前に見たのと色が違う」

 現れたゴブリンは身長100センチぐらいで尖った鼻と耳、目は赤く狂気的で全身が緑色のスタンダードタイプだ。体は小さいが手足には鋭い爪があるため注意しないといけない。
 扉から出てきたゴブリンは20匹ってとこだな。じりじりと間合いを詰め今にも飛び掛かってきそうだ。
 こっちも既に刃渡り30センチあるダガーナイフを抜いて戦闘態勢は整っている。

「ご主人、このゴブリンは一番低級の弱い奴らで、攻撃は噛み付きか爪で引っ掻くかです。スピードもパワーもないので一気に殲滅しましょう」
「了解。じゃあ戦闘開始だ」

 言うと同時に動き先制したのはゴブリンの方だった。だがスカーレットは猛然とダッシュし、手前にいたゴブリンを切り裂いた。
 早い、流石レベル20。低級相手だし圧倒的だ。こりゃトロトロしてたら全部スカーレットが倒してしまう。気合い入れて頑張らねば。
 ライフがゼロになるダメージを負ったゴブリンはその場で爆発するように、ボンっという音と白い煙をモクモクだし消滅した。すると煙の中から何かが地面に落ちる。
 目線をやり確認すると、それは一円玉より少し小さい感じの小銅貨だった。これは倒した時にゲットできる原料か。ならばこのゴブリン達は魔人か魔王が作った魔造モンスターだ。
 魔造は斬られても血を出さないし臓器とかもないと聞いている。実際にいま斬られた奴は出血していなかった。
 モンスター製造に様々な鉱石を使うのは知っていたが、金銀銅貨をそのまま使う場合もあるんだな。その方が俺としては有り難い。まさにゲーム感覚で一気にテンション上がる。
 全部がお金じゃないだろうし、小銅貨は一枚で百円程度だけど、倒せば目の前にチャリンチャリン落ちてくるならスゲー楽しい。
 とか考えてたら眼前にまで迫られ、ゴブリンが容赦なく襲い掛かってくる。

「おらっ‼」

 反射的にナイフを振り下ろす。実力というより偶然直撃し、ゴブリンは煙を出して消滅した。
 こいつら弱い、いくらでも倒せそう。面白くなってきた。しかも煙の中から出てきたのはまた小銅貨だ。
 少し心配してたけど前にモンスターと戦った時と同じで、斬った感触を気持ち悪く思わないし嫌悪感もない。これなら普通に戦っていける。
 ははっ、超ヤベぇぇぇ、ゴブリンが金に見えてきた。こうなったらもう、狩って狩って狩りまくりのゴブリン祭りじゃい‼

「おわっ⁉」

 また考え事してたら先制されてしまった。ゴブリンがジャンプして襲い掛かり胸元辺りに爪を振り下ろす。
 しかしスピードが遅いので難なく反応し、俺のナイフが先にゴブリンを切り裂く。そして煙を出して消滅するとまたも小銅貨を残した。
 危ない危ない、テンション上がりすぎだっての。力が弱くても首をやられたら致命的なダメージを負ってしまう。素人なんだから気を付けねば。
 って今更だが、冒険に来てるのにポーションとか薬草みたいな回復系のアイテム持ってくるの忘れてるじゃん。スーパーウルトラミスだろ。自分が超人だから基本をつい忘れてしまった。しっかり者のスカーレットが持ってることを願おう。いやきっと持ってるね、持ってるに違いない。だってできる子だもの。
 スカーレットの方を見ると既に十匹は倒している。美人で強いとか素晴らしいね、我が家の忠犬は。

「よし、俺も本気だすか」

 テンションが上がってる状態で深く考えず、全身に力を入れて踏ん張りダッシュするように前進しようとした。すると足元の地面が軽く陥没した。
 えっ⁉ マジかよ。今のでパワー出しすぎなのか。力加減がどんどん難しくなる。
 動きを止めず流れのまま踏み込み眼前のゴブリンを斬った。当然のように一撃でゴブリンは消滅したが、斬撃が衝撃波のように飛んでいき、後ろにいたゴブリン達を数メートル吹き飛ばす。
 軽く振ったつもりだけど凄いパワーが出た。危ないぞこれ。前にスカーレットが居なくて良かった。
 しかし軽く振って衝撃波出せるなら、速攻魔法みたいに使える。バトルのバリエーションも広がるかも。
 この後は一気に低級のゴブリン達を斬りまくり殲滅した。と言っても、ほとんどスカーレットが倒したけどね。




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