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三章
「永遠のライバルは二つ名ロリっ子⁉」その④
しおりを挟む「ご主人、このエルフかなり弱ってます、いまこそ止めを」
「コラコラ、怖い事を言うなよ」
スカーレットが超真顔で言うから吹き出しそうになった。
さてと、これからどうしようか、と思っていたその時、事態が急変する。突然、瓦礫の陰から無数の触手が飛び出し襲い掛かってきた。
アンジェリカは号泣状態で更に位置的に背後を取られていたので触手に捕まってしまう。一気に両手両足、胴体を触手に巻き付かれ身動きできぬ状態で宙に持ち上げられる。
「こ、これは……」
うひょぉぉぉっ、超マニアックな光景。美少女エルフに触手が巻き付いてるとか、もうアニメの世界だ。
「こらぁぁぁっ、アキト、見るなぁぁぁっ‼ 後で絶対ぶっ飛ばすからな‼」
色々と丸見えなのに、見るなとか無茶をおっしゃる。俺の記憶に永久保存決定。
しかしスライムの色が聞いてたのと違う。青や水色ではなく紫系の半透明だ。
「えっ⁉ デカっ。想像してたのより迫力あるな」
姿を現したスライムの本体は、ぷにょぷにょしていて半円形だが、大きさがワンボックスカーを二台並べたぐらいに巨大だ。
本体からは無数に触手が飛び出しており、俺たちを捕まえようと襲ってきている。だがスピードは速くないため距離を取っていれば躱す事はできた。
「ご主人、お気を付けください。これは毒のあるナームスライムです」
「毒って、アンジェリカ、体は大丈夫なのかよ」
「だ、だい、じょぶにき、きまっててるで、しょ。たっ、ただ、しびれ、て動けない……だけよ」
「それ大丈夫じゃないだろ。負けず嫌いだなぁ」
「ご主人、心配なさらずとも死にはしません。少しの間、動けないだけです。まあ絞められたり叩きつけられればダメージは負いますが」
「普通にピンチだな。でも倒すにしても、あいつが捕まったままだと邪魔だから、先に助けよう」
「分かりました。ご主人の命令とあらば」
スカーレットは納得いかないという拗ねた顔をしている。だがすぐ行動に移す。
腰に付けたウエストポーチ型の魔法の道具袋から大きめのナイフを取り出すと、アンジェリカに巻き付いている触手を全て切り裂いた。
スゲー、まさに疾風迅雷の動き。流石スピードが大事な盗賊だ。しかもナイフ捌きといい戦い慣れてる。なんて頼もしいんだろ。
アンジェリカは受け身を取れず地面に落ちたが、どうやら無事なようだ。本当はお姫様抱っこでカッコよく受け止めたらよかったんだけど、スライムの本体に近付くの怖いから止めた。
「クリス、アンジェリカを頼む。回収して後ろに下がっていてくれ」
「はいにゃ。と言いたいのですが、クリスチーナは動けないのですにゃ。実はいま捕まったのにゃ」
「ってコラっ、お約束かましてんじゃねぇ‼」
「ごめんなさいなのにゃぁぁぁっ。なんだか痺れてき、たの、にゃ」
この天才いいね職人が、いつの間に捕まったんだよ。しかもアングル凄いことになってんじゃん。触手がメイドインジャパンかよってぐらい仕事しすぎ‼
てかスライム先輩、最高でーーーーすっ‼ 俺得映像あざっす。
しかーしっ、そんな偉大なスライム先輩を倒さなくちゃならんとは、辛すぎる現実だ。毒さえ、毒さえなければ連れて帰るのに。
「スカーレット、クリスも助けてやってくれ」
「やれやれですね」
しぶしぶだがスカーレットはクリスに巻き付いた触手を切り裂き解放し、自分より遥かにデカい猫娘を軽々と抱え後方へと運んだ。この隙に俺はアンジェリカを助けクリスの横に転がした。
「お前らは邪魔だからそこにいろ」
「は、はにゃ」
「く、そっ、全部お、お前のせ、いだからな、アギ、ド。おぼえ、でろよ」
睨むなよ、怖いっての。でも即効性の毒でしびれて動けないわけだし、イタズラ、じゃなく攻撃しほうだいだな。このスライム召喚できたら使える奴かも。
「服は溶かさないようだけど、麻痺の他に気を付けることはないか?」
スカーレットと左右に分かれて安全な間合いを保ちながら会話する。
「触手に捕まれば、魔力や体力を奪われます」
「了解した。で、どうやって倒すのがいいと思う」
「先程斬った触手を見てください。徐々に溶けています。そのうち水分になって消滅するはずです。ナームスライムは分裂したら増殖するタイプではないので、斬ってダメージを与えていけば倒せます。ただこんなに巨大なものは初めて見ました」
流石スカーレットさん、なんでも知ってて役に立つ。
「んっ⁉ でもなんか水分にならず固まってゼリー状に、っていうか復活しようとしてないか?」
「た、確かに……申し訳ありませんご主人、私が知っているスライムとは違ったようです」
「謝る必要はない。それより、斬るんじゃなく押し潰してもいいんだよな。攻撃は任せろ。スカーレットはスライムの気を引いてくれ」
「御意」
力強く言ったスカーレットはスライムに近付き触手を引き付ける。そして余裕ある動きで躱し続けた。
俺は後ろへと回り込み、大きな建物の一部であっただろうスライムと同じぐらい巨大な瓦礫を持ち上げる。
「おらっ、潰れろ‼」
投げるのではなく持ったままダッシュしてスライム本体に落とすように叩き付けた。するとスライムはゼリーを握り潰したようにバラバラに弾け飛んだ。
「やったね、一撃だろ」
「流石です、ご主人」
辺り一面に気持ち悪く弾け飛んだスライムは、蒸発して完全に消滅した。復活しようとしていた元触手たちも一緒に消滅する。
完全勝利できたけど、弱モンスターのスライムだし、そりゃ簡単に倒せるわな。
それでこの後は、冷凍マグロ状態で動けない二人をどうするかだが、万能奴隷のスカーレットさんが毒消しの薬を持っていたので事なきを得た。
「いまは村の事を考えなきゃだな。と言っても、素直に謝るしかない。何もかも無くなったんだから、どうすることもできないし」
村があった場所を見詰めながら言った後、アンジェリカの方を見た。
「なによ、私のせいじゃないからね」
いやいやいや、お前のせいだろ。どんなダイナミックなボケだよ。
「アンジェリカ、一緒に行ってやるから、村の人たちにちゃんと謝れよ」
「うるさいうるさいうるさい‼ 誰が謝るか、バーカバーカ、このド変態鬼畜ヤロー」
悪態をつくだけついてアンジェリカは空へと飛んで逃げていった。なんて勝手な奴なんだ。どうすんだよ村は。なんだか胃がキリキリと痛くなってきた。
本当にこれって現実なのか? 一撃で村が消滅するってどゆこと? 夢オチならそれでいいんだけど、って思えるぐらい無茶苦茶だよ。
「ご主人を愚弄するとは許せん。あのエルフ、やっぱり助けるんじゃなかった」
「まあまあスカーレットさん落ち着いて。あいつの事は考えるのをやめよう。疲れるだけだ」
そう、考えたところで仕方がない。何故なら奴は規格外だからだ。あの魔力と暴君っぷりは普通じゃない。やはり異世界転生者だけのことはある。アニメ見ててもチート能力持った奴らはクズばっかりだからな。
それから足取り重くキャンプに帰ってきた俺たちを、長老と村の人たちが迎えてくれた。あれだけの大爆発だし、そりゃみんな気になるわな。とにかく事の次第を話し、何もできなかったことを謝罪した。
「そうですか、あのエルフはやはり金色の破壊神でしたか。しかしあなたたちが謝る必要はありませんぞ。仲間ではないと聞いていますし。それに結果的にはスライムを退治してくれたわけですから、感謝しております。我々が生きてさえいれば、また村は作る事ができます、お気になさらぬように」
なんて素晴らしい長老と村人なんだよ。その優しさと前向きな力強さに心が温かくなって泣けてくるぜ。
「辛いのは皆なのに、気を使ってもらってありがとうございます。でも、このままじゃ俺の気がすみません」
この優しい人たちをスルーとか、俺の良心が許さない。なので皆が家を建てるための資金として、残りの宝箱全部を村に渡すことにする。
「スカーレット、お前のお宝だけど、全部あげてもいいだろ」
「それはもうご主人の物です。奴隷の私に何かを所有する権利などありません。お好きにお使いください。それにほとんどは前のご主人が集めたものですから」
「そうか、ありがとうな」
主人からのお礼の言葉を聞いたスカーレットは感無量状態で、照れくさそうに顔を赤くして尻尾をブンブン振っている。
ウエストポーチの魔法空間から宝箱を二つ取り出す。鞄に軽く手を入れ頭に思い浮かべるだけで吸い付くように現れ、引き出すと同時に小さくなっていたものが元の大きさに瞬時に戻る。本当に便利で楽しいぜ、魔法ってやつは。
宝箱のサイズは幅35センチ奥行40高さは30ほどあり硬貨や宝石だけならかなり詰め込める。
宝箱を見て村人たちはざわつき始めた。そしてゆっくりと皆の前で蓋を開けて中を見せる。宝石や金貨の神々しい輝きと共に、村人たちから歓声が上がった。
「長老さん、これを貰ってください。全然足りないと思うけど、皆の家を建てたり、道の整備や村を囲う防御壁を造ったりするのに役立つはずです」
「お待ちくだされアキト殿。これ程の大金、受け取れません。お気持ちだけで」
「これは俺のためでもあるんです。それに旅を続ける資金は別にありますから」
「アキト殿、あなたという人は……あったばかりの他人の我らを、ここまで思ってくれるとは、あなたは女神エルディアナ様のような人だ」
「じゃあ、貰ってくれますね」
「ありがたく、本当にありがたく頂戴いたします」
大勢の村人たちは拍手喝采で喜んでくれていた。それからは客人としてもてなされ、肉や魚などの料理が出された。ちゃんと食料を持って逃げていることに感心する。
料理の味は美味しいんだけど食材が気になった。何の肉とか魚だろ。しかし残念なのは、二人の奴隷とは一緒のテーブルで食事できなかったことだ。やはりこの村でも当たり前に人間上位種の身分があり、半獣人は別の場所で食事させられた。だがそれでも俺の奴隷ということで随分と優遇された処置だったようだ。まあここは人間の村だから仕方がない。
その夜は俺だけ長老のテントに泊まることになり、二人の奴隷は特別に村人が作ってくれたテントで寝れることになった。
普通なら半獣人の奴隷は野宿させられるところだが、やはりあの宝が効いている。
テントなのでフカフカの大きなベッドでという訳にはいかないが、シーツに薄い掛け布団があるだけでありがたく、朝まで熟睡できた。
起きると既に朝食の準備がされており、昨日と同じように場所は離れていたが、奴隷二人もごちそうになった。
そろそろ旅立とうと思い始めていたその時、慌てた感じで村の男たちが長老を訪ねてきた。
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