上 下
15 / 74
三章

「永遠のライバルは二つ名ロリっ子⁉」その④

しおりを挟む

「ご主人、このエルフかなり弱ってます、いまこそ止めを」
「コラコラ、怖い事を言うなよ」

 スカーレットが超真顔で言うから吹き出しそうになった。
 さてと、これからどうしようか、と思っていたその時、事態が急変する。突然、瓦礫の陰から無数の触手が飛び出し襲い掛かってきた。
 アンジェリカは号泣状態で更に位置的に背後を取られていたので触手に捕まってしまう。一気に両手両足、胴体を触手に巻き付かれ身動きできぬ状態で宙に持ち上げられる。

「こ、これは……」

 うひょぉぉぉっ、超マニアックな光景。美少女エルフに触手が巻き付いてるとか、もうアニメの世界だ。

「こらぁぁぁっ、アキト、見るなぁぁぁっ‼ 後で絶対ぶっ飛ばすからな‼」

 色々と丸見えなのに、見るなとか無茶をおっしゃる。俺の記憶に永久保存決定。
 しかしスライムの色が聞いてたのと違う。青や水色ではなく紫系の半透明だ。

「えっ⁉ デカっ。想像してたのより迫力あるな」

 姿を現したスライムの本体は、ぷにょぷにょしていて半円形だが、大きさがワンボックスカーを二台並べたぐらいに巨大だ。
 本体からは無数に触手が飛び出しており、俺たちを捕まえようと襲ってきている。だがスピードは速くないため距離を取っていれば躱す事はできた。

「ご主人、お気を付けください。これは毒のあるナームスライムです」
「毒って、アンジェリカ、体は大丈夫なのかよ」
「だ、だい、じょぶにき、きまっててるで、しょ。たっ、ただ、しびれ、て動けない……だけよ」
「それ大丈夫じゃないだろ。負けず嫌いだなぁ」
「ご主人、心配なさらずとも死にはしません。少しの間、動けないだけです。まあ絞められたり叩きつけられればダメージは負いますが」
「普通にピンチだな。でも倒すにしても、あいつが捕まったままだと邪魔だから、先に助けよう」
「分かりました。ご主人の命令とあらば」

 スカーレットは納得いかないという拗ねた顔をしている。だがすぐ行動に移す。
 腰に付けたウエストポーチ型の魔法の道具袋から大きめのナイフを取り出すと、アンジェリカに巻き付いている触手を全て切り裂いた。
 スゲー、まさに疾風迅雷の動き。流石スピードが大事な盗賊だ。しかもナイフ捌きといい戦い慣れてる。なんて頼もしいんだろ。
 アンジェリカは受け身を取れず地面に落ちたが、どうやら無事なようだ。本当はお姫様抱っこでカッコよく受け止めたらよかったんだけど、スライムの本体に近付くの怖いから止めた。

「クリス、アンジェリカを頼む。回収して後ろに下がっていてくれ」
「はいにゃ。と言いたいのですが、クリスチーナは動けないのですにゃ。実はいま捕まったのにゃ」
「ってコラっ、お約束かましてんじゃねぇ‼」
「ごめんなさいなのにゃぁぁぁっ。なんだか痺れてき、たの、にゃ」

 この天才いいね職人が、いつの間に捕まったんだよ。しかもアングル凄いことになってんじゃん。触手がメイドインジャパンかよってぐらい仕事しすぎ‼
 てかスライム先輩、最高でーーーーすっ‼ 俺得映像あざっす。
 しかーしっ、そんな偉大なスライム先輩を倒さなくちゃならんとは、辛すぎる現実だ。毒さえ、毒さえなければ連れて帰るのに。

「スカーレット、クリスも助けてやってくれ」
「やれやれですね」

 しぶしぶだがスカーレットはクリスに巻き付いた触手を切り裂き解放し、自分より遥かにデカい猫娘を軽々と抱え後方へと運んだ。この隙に俺はアンジェリカを助けクリスの横に転がした。

「お前らは邪魔だからそこにいろ」
「は、はにゃ」
「く、そっ、全部お、お前のせ、いだからな、アギ、ド。おぼえ、でろよ」

 睨むなよ、怖いっての。でも即効性の毒でしびれて動けないわけだし、イタズラ、じゃなく攻撃しほうだいだな。このスライム召喚できたら使える奴かも。

「服は溶かさないようだけど、麻痺の他に気を付けることはないか?」

 スカーレットと左右に分かれて安全な間合いを保ちながら会話する。

「触手に捕まれば、魔力や体力を奪われます」
「了解した。で、どうやって倒すのがいいと思う」
「先程斬った触手を見てください。徐々に溶けています。そのうち水分になって消滅するはずです。ナームスライムは分裂したら増殖するタイプではないので、斬ってダメージを与えていけば倒せます。ただこんなに巨大なものは初めて見ました」

 流石スカーレットさん、なんでも知ってて役に立つ。

「んっ⁉ でもなんか水分にならず固まってゼリー状に、っていうか復活しようとしてないか?」
「た、確かに……申し訳ありませんご主人、私が知っているスライムとは違ったようです」
「謝る必要はない。それより、斬るんじゃなく押し潰してもいいんだよな。攻撃は任せろ。スカーレットはスライムの気を引いてくれ」
「御意」

 力強く言ったスカーレットはスライムに近付き触手を引き付ける。そして余裕ある動きで躱し続けた。
 俺は後ろへと回り込み、大きな建物の一部であっただろうスライムと同じぐらい巨大な瓦礫を持ち上げる。

「おらっ、潰れろ‼」

 投げるのではなく持ったままダッシュしてスライム本体に落とすように叩き付けた。するとスライムはゼリーを握り潰したようにバラバラに弾け飛んだ。

「やったね、一撃だろ」
「流石です、ご主人」

 辺り一面に気持ち悪く弾け飛んだスライムは、蒸発して完全に消滅した。復活しようとしていた元触手たちも一緒に消滅する。
 完全勝利できたけど、弱モンスターのスライムだし、そりゃ簡単に倒せるわな。
 それでこの後は、冷凍マグロ状態で動けない二人をどうするかだが、万能奴隷のスカーレットさんが毒消しの薬を持っていたので事なきを得た。

「いまは村の事を考えなきゃだな。と言っても、素直に謝るしかない。何もかも無くなったんだから、どうすることもできないし」

 村があった場所を見詰めながら言った後、アンジェリカの方を見た。

「なによ、私のせいじゃないからね」

 いやいやいや、お前のせいだろ。どんなダイナミックなボケだよ。

「アンジェリカ、一緒に行ってやるから、村の人たちにちゃんと謝れよ」
「うるさいうるさいうるさい‼ 誰が謝るか、バーカバーカ、このド変態鬼畜ヤロー」

 悪態をつくだけついてアンジェリカは空へと飛んで逃げていった。なんて勝手な奴なんだ。どうすんだよ村は。なんだか胃がキリキリと痛くなってきた。
 本当にこれって現実なのか? 一撃で村が消滅するってどゆこと? 夢オチならそれでいいんだけど、って思えるぐらい無茶苦茶だよ。

「ご主人を愚弄するとは許せん。あのエルフ、やっぱり助けるんじゃなかった」
「まあまあスカーレットさん落ち着いて。あいつの事は考えるのをやめよう。疲れるだけだ」

 そう、考えたところで仕方がない。何故なら奴は規格外だからだ。あの魔力と暴君っぷりは普通じゃない。やはり異世界転生者だけのことはある。アニメ見ててもチート能力持った奴らはクズばっかりだからな。
 それから足取り重くキャンプに帰ってきた俺たちを、長老と村の人たちが迎えてくれた。あれだけの大爆発だし、そりゃみんな気になるわな。とにかく事の次第を話し、何もできなかったことを謝罪した。

「そうですか、あのエルフはやはり金色こんじきの破壊神でしたか。しかしあなたたちが謝る必要はありませんぞ。仲間ではないと聞いていますし。それに結果的にはスライムを退治してくれたわけですから、感謝しております。我々が生きてさえいれば、また村は作る事ができます、お気になさらぬように」

 なんて素晴らしい長老と村人なんだよ。その優しさと前向きな力強さに心が温かくなって泣けてくるぜ。

「辛いのは皆なのに、気を使ってもらってありがとうございます。でも、このままじゃ俺の気がすみません」

 この優しい人たちをスルーとか、俺の良心が許さない。なので皆が家を建てるための資金として、残りの宝箱全部を村に渡すことにする。

「スカーレット、お前のお宝だけど、全部あげてもいいだろ」
「それはもうご主人の物です。奴隷の私に何かを所有する権利などありません。お好きにお使いください。それにほとんどは前のご主人が集めたものですから」
「そうか、ありがとうな」

 主人からのお礼の言葉を聞いたスカーレットは感無量状態で、照れくさそうに顔を赤くして尻尾をブンブン振っている。
 ウエストポーチの魔法空間から宝箱を二つ取り出す。鞄に軽く手を入れ頭に思い浮かべるだけで吸い付くように現れ、引き出すと同時に小さくなっていたものが元の大きさに瞬時に戻る。本当に便利で楽しいぜ、魔法ってやつは。
 宝箱のサイズは幅35センチ奥行40高さは30ほどあり硬貨や宝石だけならかなり詰め込める。
 宝箱を見て村人たちはざわつき始めた。そしてゆっくりと皆の前で蓋を開けて中を見せる。宝石や金貨の神々しい輝きと共に、村人たちから歓声が上がった。

「長老さん、これを貰ってください。全然足りないと思うけど、皆の家を建てたり、道の整備や村を囲う防御壁を造ったりするのに役立つはずです」
「お待ちくだされアキト殿。これ程の大金、受け取れません。お気持ちだけで」
「これは俺のためでもあるんです。それに旅を続ける資金は別にありますから」
「アキト殿、あなたという人は……あったばかりの他人の我らを、ここまで思ってくれるとは、あなたは女神エルディアナ様のような人だ」
「じゃあ、貰ってくれますね」
「ありがたく、本当にありがたく頂戴いたします」

 大勢の村人たちは拍手喝采で喜んでくれていた。それからは客人としてもてなされ、肉や魚などの料理が出された。ちゃんと食料を持って逃げていることに感心する。
 料理の味は美味しいんだけど食材が気になった。何の肉とか魚だろ。しかし残念なのは、二人の奴隷とは一緒のテーブルで食事できなかったことだ。やはりこの村でも当たり前に人間上位種の身分があり、半獣人は別の場所で食事させられた。だがそれでも俺の奴隷ということで随分と優遇された処置だったようだ。まあここは人間の村だから仕方がない。
 その夜は俺だけ長老のテントに泊まることになり、二人の奴隷は特別に村人が作ってくれたテントで寝れることになった。
 普通なら半獣人の奴隷は野宿させられるところだが、やはりあの宝が効いている。
 テントなのでフカフカの大きなベッドでという訳にはいかないが、シーツに薄い掛け布団があるだけでありがたく、朝まで熟睡できた。
 起きると既に朝食の準備がされており、昨日と同じように場所は離れていたが、奴隷二人もごちそうになった。
 そろそろ旅立とうと思い始めていたその時、慌てた感じで村の男たちが長老を訪ねてきた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

処理中です...