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一章

「猫系半獣人奴隷とご主人様になった俺」その①

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 移動魔法が発動し、光に包まれその場より消えた俺は次の瞬間には異世界にいた。そう、エルディアナだ。眼前には近代的な建物は何もない、見渡すかぎり広大なジャングルと青い空。遥か遠くには見たこともない巨大な山々が聳え立っている。時間的には真っ昼間だと思う。

「よっしゃー‼ 異世界きたぁぁぁっ‼」

 やむなく引きこもるしかなかったせいで、たまりにたまった今までのモヤモヤが一気に爆発してテンションMAXの雄叫びが出た。そして笑いが止まらなかった。

「あっはははっ‼ 何この急展開、おもしれぇ。うおおおおおっ‼ 俺は自由だぁぁぁ‼ 好き勝手やってやるぜ‼」

 この美しい異世界を見渡しドキドキワクワクしながら自然と発せられた言葉だった。
 ふと足元を確認すると、そこはサスペンスドラマのクライマックスに登場するような岩山、つまりは崖の上で更に祭壇らしきものがある。側には幅の狭い角度が急な階段があり下の方まで続いていた。

「よし、冒険の始まりだ」

 ニートで暇だから色んなゲームで勇者とか冒険者になって遊んだけど、これはガチなんだよな。俺スゲーことになってるよ。
 しかしこの世界を楽しめるかは、結局のところ超人パワーがどこまで通用するかだ。ゲームと違って死ねば終わりだから気を付けねば。それに魔法があるわけだし、早めに対抗方法を知っとかないと。やはり始めは基本の情報収集だ。ということで町を探すとしよう。勇者召喚されたわけじゃないから主人公補正はないし、一から全部やらなきゃならない。これは大変だ。
 とか考えているうちに階段を下りきり巨大な一枚岩の上にでた。なにやら古代遺跡っぽい感じの場所で、半壊状態のパルテノン神殿みたいなのがある。
 いきなり遺跡とかまさにロープレっぽくてワクワクする。でも今はゆっくり探索してる場合ではない。先に進むのが優先される。
 岩の側面に沿って道があり下りきるとそこは父親が言った通りの熱帯雨林系のジャングルだった。向こうの世界とはサイズ感が違う植物が多く、木々だけでなく雑草なども大きく見える。
 どの方向に進めばいいのか分からないが、さっき上から見た時に道らしきものがあったので、そこに向かって歩くことにした。
 見たとこ近くに町はなさそうだし数日は野宿になりそうだが、安全に寝れる場所と食料を手に入れなくてはならない。
 台所にあったチョコとかお菓子をリュックに入れてきたから、これで何日かはもつと思うが、なんで我が家に普段はないお菓子があったのか。
 いま思えば父さんが異世界に行く俺のために用意しておいてくれたんだな。で、まんまと持ってきているし。あと使う予定ないのに最近買ってくれた大型リュックサックもそうだろうな。もう何から何まで父さんの計算通り動かされている。なんか腹立つ。
 大問題は言葉だが、魔法の力が働いているから外の世界から来た者でも理解して普通に喋れるらしい。ただそれは共通言語だけで、民族独自の言葉は勉強しないと分からないと父さんは言っていた。
 とりあえず旅には目的が欲しいと思っている。だからテンプレだが、母親探しと魔王討伐にした。魔王に関してはほぼ冗談ですけどね。
 早いうちに拠点となる町を決めて住むところとお金をなんとかしないとな。一生この世界で暮らすわけだし。
 それからすぐに道を発見したが何も分からないので、気の向くまま左の方向へと一時間ほど歩いてみた。だがずっと同じ光景が続き、まったく進んだ気がしない。
 少し不安になってきたその時、道からそれたジャングルの中で突然に爆発が起こって、爆風と共に炎と黒煙が辺りに広がった。

「ってなに⁉ いきなりとか怖いんですけど」

 この爆発ってもしかして魔法? とか思っていたら連続して爆発が起こる。更に昼間なのに目に見える程の凄まじいいかづちが迸った。これは誰かが戦っているのは間違いない。剣とか魔法で戦ってるの見てみたい。
 でもちょっとまて、ここは冷静に。野次馬は命が危ないかもしれん。いきなり空気読めない魔王級が出てくるかもだし、どっちも悪い奴らかもしれない。勿論、美少女の姫とか巫女の場合もある。それを助けてハーレム展開一直線ってことも、無きにしも非ず。何故ならここは剣と魔法の異世界だからだ。
 よし、行くしかない。ただ、そーっと、まずは覗いてみよう。状況確認は大切だから。と考えていたら、バトル音はどんどん激しくなり近付いてくる。

「うわっ⁉」

 思わず声が出た。大型バスぐらい巨大な猪に似た漆黒のモンスターが、木々と人間らしきものを吹き飛ばし眼前を駆け抜けていく。多分だけど獣じゃないと思う。
 そのモンスターは地面をえぐり飛ばすように急停止すると俺の方を向き、狂気に満ちた赤い瞳で睨み付けてくる。
 やばいやばいやばい、超こえぇぇぇ。こ、殺される。マジ死んだぞ俺。なにこれ、なんなのこの展開。さっき異世界に来たばかりなんですけど。ここはスライムからでしょ。そう、まずは新米勇者の養分となるスライムだよスライム。スライムさんカモーン、この方はどう見てもステージのボス級ですぞ。
 しかし容赦なくこっちのことなどお構いなしに、毛を逆立てた怒れるブラック猪モンスターは周りの木々を吹き飛ばしながら突進してくる。額にはユニコーン張りの白い角があり、その角と全身はバチバチと電気を纏っていた。さっき見えた雷はこいつの仕業か。
 どうすりゃいいんだ、逃げればいいの。いやどう考えても人間のスピードじゃ逃げ切れない。力と頑丈さは超人でも速さは普通なんだよ。
 とはいえ初動は超人パワーで高くジャンプできたりスーパーダッシュも可能だ。だが連続すれば失敗する。力加減が難しく地面が陥没してパワーが逃げてしまうからだ。バランス崩して転んだら終わりだし、靴も確実にぶっ壊れる。これが一番嫌なんだよ。更に言えば、速く動けても視力がついてこないから脳がくらくらして乗り物酔い状態になる。
 ここはもう立ち止まって正面から戦うしかない。今こそ超人パワーを見せる時だ。やれる、俺はやればできる子のはずだ。

「やってやるぜ‼ フルボッコにしてやんよ‼」

 とか言ってますけど既に逃げております。でも逃げ切れそうにない。一歩の幅が違いすぎる。
 このモンスターは猪系だし直線的な動きなら、横に跳べば回避できるかもしれない。もう悠長に考えている暇はない。

「おりゃ‼」

 ヘッドスライディングするように左へ大きく跳び逃げる。これが見事に大成功でモンスターは反応できずに行き過ぎた。
 だがモンスターは急停止するとすぐさま反転し襲い掛かってくる。やはり見逃してはくれないか。しかもこいつ思ったより俊敏でヤバい。これで魔法とかスキル使われたら終わりだ。その前に先制攻撃して倒すしかない。
 邪魔になるリュックを投げ捨てた時、少し地面に埋まっている直径一メートル程の丸い大きな岩が側にあるのに気付いた。これは攻撃に使える。何トンか分からないけど超人パワーなら扱えるはずだ。
 すぐに両手で掴んで上へと力を入れる。思った通り軽々と頭上まで持ち上がった。

「食らえっ‼」

 モンスターの額目掛けて投げつける。既に十メートル以内まで近付いていたことと、岩のスピードが野球ボールを投げたぐらいに速かったのでモンスターは回避できなかった。
 眉間に直撃し、凄まじい激突音と共に岩が砕け散る。よっしゃー、フラフラしてやがる。いける、いけるぞ。もう一発食らわせてやる。
 数メートル移動して似たような大きさの岩を持ち上げ、今度は横っ面に投げ込み直撃させた。だが猪モンスターはまだ倒れない。スゲーなこいつ、岩が砕ける程の衝撃なのにどんだけタフなんだよ。
 運よくこの辺りは岩が多いので遠距離攻撃には困らない。今度は倍の直径二メートルの大岩を持ち上げられるか試してみる。子供の頃に超人パワーを使って山で遊んでた時も、ここまで大きな岩を持ち上げたことはない。

「うおらぁっ‼」

 思ったより簡単に大岩が頭上まで持ち上がった。大きいから扱いにくいけど普通に投げられる重さだ。
 強めに力を開放して透かさず投げつけると、自分でも驚くほどの凄まじいスピードで飛んでいき、ボディーの側面に直撃した。大岩は衝撃で砕け、巨大猪型モンスターは左前足の膝と鼻先を地面についた。

「おっ、流石に効いたか」

 この隙に近付けそうだと判断し、ダッシュして間合いを詰めモンスターの鼻の付け根あたりに超人パンチを入れる。
 モンスターは痛そうに叫び、数メートル後方に吹き飛ぶと同時に横に半回転した後、ガクっと膝から崩れダウンした。やはり山で岩壁がんぺきを叩いて遊び鍛えたパンチは強烈だったか。

「止め刺してやる」

 プロレスラーが一旦相手から離れてロープまで走り、その反動で勢いをつけてから攻撃するように、助走を大きくとってモンスターの横っ腹にドロップキックを入れた。
 モンスターは断末魔の叫びを上げ、大型バス程もある巨躯で木々を薙ぎ倒しながら吹き飛び斜面を転がり落ちて見えなくなった。
 ってマジか⁉ スゲー威力でビックリした。イメージしてた結果と違いすぎるっての。
 これって討伐成功でいいんだよな。力を入れて蹴ったけどスニーカーは壊れずに無事だし、初めての戦闘でまさかの完全勝利。てか素手で簡単に勝ってしまった。
 あれ? 奴はもしかして見掛け倒しで弱いんじゃね。でも冒険者っぽいの何人も倒してたよな。これは俺が強いのか? この手応え、やっぱチートの俺TUEEE状態なんじゃ。
 今のモンスターが上級クラスの強さなら、ラノベ的な夢のチーレム作れるかも。とかヒキオタのくせに大それたことを考えてしまった。
 そんなに都合よくいくわけないからな、世の中甘くないんだよ。しかも全然知らない異世界だし冷静にならねば。悪い奴に騙されてしまう。
 だけどガチバトルはドキドキワクワクした。いや、本当は物凄く怖かったけど。今も心臓バクバクしてるし。
 必死だったから力加減が分からないが、もしかしたら全力だったかも。生まれて初めてあんなに超人パワーを出した。やはり向こうの世界で引きこもっていて正解だ。これはヤバすぎる。
 まあとにかく転移して早々に死亡しなくて良かったよ。
 それから一応は倒れている奴らの様子を見たが、全員死亡していた。犠牲者の中には普通の格好の奴もいれば、冒険者パーティーのように剣士だったり魔法使い、ヒーラー系っぽい奴らもいた。
 体や装備が焦げた感じになっている奴らは雷を食らったようだ。回復魔法とか使うタイミングなく即死だったのかな。ゲームならやり直せるが、現実のバトルは死んだら終わりなんだよな。今更だけど、何とも言い難い様々な感情が湧き上がってくる。その中で一番大きなものは死への恐怖だと思う。
 リュックを拾ってから生き残っている者がいないか奥の方まで捜していたら、人の声が聞こえてきた。それは助けを求める若い女の子の声だった。




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