花と散る

ひのま

文字の大きさ
上 下
17 / 20
4 闇

駅前

しおりを挟む
 6月6日。その日がやってきた。俺は勝手にこれがデートの一種だろうと思っていた。
 渡辺の私服を見るのはこれが二回目。一回目はテスト期間中、麗奈の家で見た。でも2人きりで私服で会うのは初めてだ。俺は、雑誌やネットを使って、自分の持つ洋服を組み合わせて、なるべくオシャレに仕上げたつもりだ。
 待ち合わせ場所は旭公園。少し早く着いてしまったと思っていたが、渡辺の方が先に来ていた。

「ごめん、待たせた」
「ふぇっ?あ、ううん。私が早く着きすぎちゃったの」
「行く?」
「うん」

 渡辺は気のせいかいつもよりも元気が無く、楽しくなさそうだった。駅前に行きたくないのか、俺と会いたくなかったのか、よくわからないがとにかく駅へと向かった。



「わあー、このお店いいなあー」

  駅前についた。
 さっきの不安とは裏腹に、渡辺はとても元気だった。渡辺好みの店を見つけてははしゃいでいる。
 しかし、渡辺にとって、駅前は馴染みの場所のはずだ。なのにどうしてこんなに、はしゃいでいるのだろう。

「前までこの店なかったの?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「だって、聖マリアンヌ生だったらここら辺にも来るんじゃないの?」
「あー、そっか、そうだよねー・・・
   私、あまり外に出るの好きじゃなくて・・・」
「何を隠している?何で嘘をつく?」
「隠してないから!何も隠してない!」

 ああしまった、こんなズケズケと聞くんじゃなかった。つい、麗奈や亮介と接するようにしてしまった。
 でも何を隠している?俺にも言えないことなのか?わざわざ力を貸して、と言われてここまで来た俺の身にもなってほしい。それでキレられても困る。

「ごっごめん、嫌なこと思い出しちゃって・・・」
「別にいい」
「れ、麗奈はこういうのが好きかなあー」
「赤いほうがいいと思う」

 思わずため息が出る。ギクシャクして気まずい。
 渡辺はレジへと行き、会計を済ませている。

「用事済んだ?」
「うん、ありがとう、ついてきてくれて」
「力を貸すってこれでいいわけ?」

 そう聞くと渡辺は黙りこくってしまう。黙られてもわからない。ちゃんと話してくれないとわからない。付き合って確かに日は浅いが、そんなに信用がないのだろうか。

「ごめん、ちょっと、お手洗いに行ってきます」

 渡辺はトイレへと駆け込んでしまった。


 あれから20分が経った。さすがに遅すぎる。調子でも悪いのだろうか?少し様子を見に行くべきか?




 ああ、やっちゃった・・・翔くんに冷たく当たってしまった。駅前に来ると嫌なことばかり思い出しちゃって、怖くなる。でも、翔くんから力をかりるの!翔くんは何だか私と似てて、たくさん辛いことを乗り越えてきている気がする。だから、翔くんと一緒ならきっと私は強くなれる。
 トイレにこもってる場合じゃない!そろそろ、出よう。

バタン

 トイレから出ようとしたとき、聞き覚えのある声がした。

『うっそ?ありえなーい』
『でもでも本当だって!』

 えっ、なんで、嘘、この声は、まさか・・・
 聞き間違いだよ、早く出よう。
 顔を下げながら、トイレから出る。

「まじかよ」

 女子高校生と思われる2人組とすれ違ったとき、1人がこう言った。
 無視して急いで歩いていく。

「ちょっとちょっとおー?そこのササキさん?」

 ササキと呼ばれて、足が止まる。やっぱり、この聞き覚えのある声は・・・

「英美里だよ?もしかして忘れちゃったの?」

 英美里、その名前を聞いて、寒気がした。体がかすかに震えているのがわかる。怖くて後ろを振り返ることができない。後ろには英美里がいる。一番会いたくない、英美里がいる。

「あたしは忘れてないよお?だってササキさんは悪人だもんねえ」
「あたしたちを裏切ったんだよねー」

 もう1人の声はたぶん、ルカ。私たちは聖マリアンヌに入学してからずっと一緒にいた。私だって、みんなと離れたかったわけじゃない。私は何も悪くない!
 でも、声が出ない。一言いってしまえばいいのに、言えない。

「ササキさーん、こっち見てよーー」
「英美里違うってー、ワタナベさんだって!」
「あっ!そっかあ!ワタナベさんかあ」
「ワタナっぷぷ、ササキぃーーっ!!」

 もう、限界。助けて、たすけてかけるくん・・・




 トイレの方へ駆けつけると、渡辺が聖マリアンヌ生に絡まれている。週末なのに学校でもあるのだろうか、制服を着ているため、一目でわかった。渡辺はササキ、ササキと呼ばれ、キモイとかブスとか、ひどいこと言われている。
 しかし渡辺は言い返そうとせず、下を向き、体を震わせている。

「渡辺!」
「・・・かける、くん?」
「はあ?なになに、ササキ彼氏いんの?」
「うーけーるーーっ!マリアンヌ辞めて、もうそっちで男とか、まじキモイっ!ササキキモイ!ササキモイ」
「英美里、ササキモイはやべーよ!ぷぷ、うける」

 渡辺は何も言わない。たぶん、言えないんだと思う。
 まさか、力を貸してって、このことだったのか?俺をいじめから救って欲しかったのか?過去の自分を辞めて、過去の記憶を消して、過去からの束縛から解放して欲しかったのか?

 ああ、俺と同じじゃないか。
 そう思うと、何もせずにはいられなかった。

「もういねえよ」
「は?なになに、彼氏に言わせちゃうの?彼氏頑張っちゃうの?」
「もう、お前らの知ってるササキはいねえよ」
「何それ?言っとくけどね、あたしたちの方が付き合い長いの、あんたらみたいに今日昨日会ったばっかじゃないの」
「だからお前らのササキはいねえよ。つーか制服でケンカふっかけていいわけ?聖マリアンヌ生が汚れると思うけど」
「は?うっせーよ!」
「え、英美里、やばいかも!人だかりできてる」
「行くぞ、渡辺・・・・

 そういって渡辺の手を取り、その場から離れた。
 離れないように、離さないように強く握った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

どうして隣の家で僕の妻が喘いでいるんですか?

ヘロディア
恋愛
壁が薄いマンションに住んでいる主人公と妻。彼らは新婚で、ヤりたいこともできない状態にあった。 しかし、隣の家から喘ぎ声が聞こえてきて、自分たちが我慢せずともよいのではと思い始め、実行に移そうとする。 しかし、何故か隣の家からは妻の喘ぎ声が聞こえてきて…

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【R18】僕の筆おろし日記(高校生の僕は親友の家で彼の母親と倫ならぬ禁断の行為を…初体験の相手は美しい人妻だった)

幻田恋人
恋愛
 夏休みも終盤に入って、僕は親友の家で一緒に宿題をする事になった。  でも、その家には僕が以前から大人の女性として憧れていた親友の母親で、とても魅力的な人妻の小百合がいた。  親友のいない家の中で僕と小百合の二人だけの時間が始まる。  童貞の僕は小百合の美しさに圧倒され、次第に彼女との濃厚な大人の関係に陥っていく。  許されるはずのない、男子高校生の僕と親友の母親との倫を外れた禁断の愛欲の行為が親友の家で展開されていく…  僕はもう我慢の限界を超えてしまった… 早く小百合さんの中に…

処理中です...