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4 闇
駅前
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6月6日。その日がやってきた。俺は勝手にこれがデートの一種だろうと思っていた。
渡辺の私服を見るのはこれが二回目。一回目はテスト期間中、麗奈の家で見た。でも2人きりで私服で会うのは初めてだ。俺は、雑誌やネットを使って、自分の持つ洋服を組み合わせて、なるべくオシャレに仕上げたつもりだ。
待ち合わせ場所は旭公園。少し早く着いてしまったと思っていたが、渡辺の方が先に来ていた。
「ごめん、待たせた」
「ふぇっ?あ、ううん。私が早く着きすぎちゃったの」
「行く?」
「うん」
渡辺は気のせいかいつもよりも元気が無く、楽しくなさそうだった。駅前に行きたくないのか、俺と会いたくなかったのか、よくわからないがとにかく駅へと向かった。
「わあー、このお店いいなあー」
駅前についた。
さっきの不安とは裏腹に、渡辺はとても元気だった。渡辺好みの店を見つけてははしゃいでいる。
しかし、渡辺にとって、駅前は馴染みの場所のはずだ。なのにどうしてこんなに、はしゃいでいるのだろう。
「前までこの店なかったの?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「だって、聖マリアンヌ生だったらここら辺にも来るんじゃないの?」
「あー、そっか、そうだよねー・・・
私、あまり外に出るの好きじゃなくて・・・」
「何を隠している?何で嘘をつく?」
「隠してないから!何も隠してない!」
ああしまった、こんなズケズケと聞くんじゃなかった。つい、麗奈や亮介と接するようにしてしまった。
でも何を隠している?俺にも言えないことなのか?わざわざ力を貸して、と言われてここまで来た俺の身にもなってほしい。それでキレられても困る。
「ごっごめん、嫌なこと思い出しちゃって・・・」
「別にいい」
「れ、麗奈はこういうのが好きかなあー」
「赤いほうがいいと思う」
思わずため息が出る。ギクシャクして気まずい。
渡辺はレジへと行き、会計を済ませている。
「用事済んだ?」
「うん、ありがとう、ついてきてくれて」
「力を貸すってこれでいいわけ?」
そう聞くと渡辺は黙りこくってしまう。黙られてもわからない。ちゃんと話してくれないとわからない。付き合って確かに日は浅いが、そんなに信用がないのだろうか。
「ごめん、ちょっと、お手洗いに行ってきます」
渡辺はトイレへと駆け込んでしまった。
あれから20分が経った。さすがに遅すぎる。調子でも悪いのだろうか?少し様子を見に行くべきか?
ああ、やっちゃった・・・翔くんに冷たく当たってしまった。駅前に来ると嫌なことばかり思い出しちゃって、怖くなる。でも、翔くんから力をかりるの!翔くんは何だか私と似てて、たくさん辛いことを乗り越えてきている気がする。だから、翔くんと一緒ならきっと私は強くなれる。
トイレにこもってる場合じゃない!そろそろ、出よう。
バタン
トイレから出ようとしたとき、聞き覚えのある声がした。
『うっそ?ありえなーい』
『でもでも本当だって!』
えっ、なんで、嘘、この声は、まさか・・・
聞き間違いだよ、早く出よう。
顔を下げながら、トイレから出る。
「まじかよ」
女子高校生と思われる2人組とすれ違ったとき、1人がこう言った。
無視して急いで歩いていく。
「ちょっとちょっとおー?そこのササキさん?」
ササキと呼ばれて、足が止まる。やっぱり、この聞き覚えのある声は・・・
「英美里だよ?もしかして忘れちゃったの?」
英美里、その名前を聞いて、寒気がした。体がかすかに震えているのがわかる。怖くて後ろを振り返ることができない。後ろには英美里がいる。一番会いたくない、英美里がいる。
「あたしは忘れてないよお?だってササキさんは悪人だもんねえ」
「あたしたちを裏切ったんだよねー」
もう1人の声はたぶん、ルカ。私たちは聖マリアンヌに入学してからずっと一緒にいた。私だって、みんなと離れたかったわけじゃない。私は何も悪くない!
でも、声が出ない。一言いってしまえばいいのに、言えない。
「ササキさーん、こっち見てよーー」
「英美里違うってー、ワタナベさんだって!」
「あっ!そっかあ!ワタナベさんかあ」
「ワタナっぷぷ、ササキぃーーっ!!」
もう、限界。助けて、たすけてかけるくん・・・
トイレの方へ駆けつけると、渡辺が聖マリアンヌ生に絡まれている。週末なのに学校でもあるのだろうか、制服を着ているため、一目でわかった。渡辺はササキ、ササキと呼ばれ、キモイとかブスとか、ひどいこと言われている。
しかし渡辺は言い返そうとせず、下を向き、体を震わせている。
「渡辺!」
「・・・かける、くん?」
「はあ?なになに、ササキ彼氏いんの?」
「うーけーるーーっ!マリアンヌ辞めて、もうそっちで男とか、まじキモイっ!ササキキモイ!ササキモイ」
「英美里、ササキモイはやべーよ!ぷぷ、うける」
渡辺は何も言わない。たぶん、言えないんだと思う。
まさか、力を貸してって、このことだったのか?俺をいじめから救って欲しかったのか?過去の自分を辞めて、過去の記憶を消して、過去からの束縛から解放して欲しかったのか?
ああ、俺と同じじゃないか。
そう思うと、何もせずにはいられなかった。
「もういねえよ」
「は?なになに、彼氏に言わせちゃうの?彼氏頑張っちゃうの?」
「もう、お前らの知ってるササキはいねえよ」
「何それ?言っとくけどね、あたしたちの方が付き合い長いの、あんたらみたいに今日昨日会ったばっかじゃないの」
「だからお前らのササキはいねえよ。つーか制服でケンカふっかけていいわけ?聖マリアンヌ生が汚れると思うけど」
「は?うっせーよ!」
「え、英美里、やばいかも!人だかりできてる」
「行くぞ、渡辺」
そういって渡辺の手を取り、その場から離れた。
離れないように、離さないように強く握った。
渡辺の私服を見るのはこれが二回目。一回目はテスト期間中、麗奈の家で見た。でも2人きりで私服で会うのは初めてだ。俺は、雑誌やネットを使って、自分の持つ洋服を組み合わせて、なるべくオシャレに仕上げたつもりだ。
待ち合わせ場所は旭公園。少し早く着いてしまったと思っていたが、渡辺の方が先に来ていた。
「ごめん、待たせた」
「ふぇっ?あ、ううん。私が早く着きすぎちゃったの」
「行く?」
「うん」
渡辺は気のせいかいつもよりも元気が無く、楽しくなさそうだった。駅前に行きたくないのか、俺と会いたくなかったのか、よくわからないがとにかく駅へと向かった。
「わあー、このお店いいなあー」
駅前についた。
さっきの不安とは裏腹に、渡辺はとても元気だった。渡辺好みの店を見つけてははしゃいでいる。
しかし、渡辺にとって、駅前は馴染みの場所のはずだ。なのにどうしてこんなに、はしゃいでいるのだろう。
「前までこの店なかったの?」
「なんでそんなこと聞くの?」
「だって、聖マリアンヌ生だったらここら辺にも来るんじゃないの?」
「あー、そっか、そうだよねー・・・
私、あまり外に出るの好きじゃなくて・・・」
「何を隠している?何で嘘をつく?」
「隠してないから!何も隠してない!」
ああしまった、こんなズケズケと聞くんじゃなかった。つい、麗奈や亮介と接するようにしてしまった。
でも何を隠している?俺にも言えないことなのか?わざわざ力を貸して、と言われてここまで来た俺の身にもなってほしい。それでキレられても困る。
「ごっごめん、嫌なこと思い出しちゃって・・・」
「別にいい」
「れ、麗奈はこういうのが好きかなあー」
「赤いほうがいいと思う」
思わずため息が出る。ギクシャクして気まずい。
渡辺はレジへと行き、会計を済ませている。
「用事済んだ?」
「うん、ありがとう、ついてきてくれて」
「力を貸すってこれでいいわけ?」
そう聞くと渡辺は黙りこくってしまう。黙られてもわからない。ちゃんと話してくれないとわからない。付き合って確かに日は浅いが、そんなに信用がないのだろうか。
「ごめん、ちょっと、お手洗いに行ってきます」
渡辺はトイレへと駆け込んでしまった。
あれから20分が経った。さすがに遅すぎる。調子でも悪いのだろうか?少し様子を見に行くべきか?
ああ、やっちゃった・・・翔くんに冷たく当たってしまった。駅前に来ると嫌なことばかり思い出しちゃって、怖くなる。でも、翔くんから力をかりるの!翔くんは何だか私と似てて、たくさん辛いことを乗り越えてきている気がする。だから、翔くんと一緒ならきっと私は強くなれる。
トイレにこもってる場合じゃない!そろそろ、出よう。
バタン
トイレから出ようとしたとき、聞き覚えのある声がした。
『うっそ?ありえなーい』
『でもでも本当だって!』
えっ、なんで、嘘、この声は、まさか・・・
聞き間違いだよ、早く出よう。
顔を下げながら、トイレから出る。
「まじかよ」
女子高校生と思われる2人組とすれ違ったとき、1人がこう言った。
無視して急いで歩いていく。
「ちょっとちょっとおー?そこのササキさん?」
ササキと呼ばれて、足が止まる。やっぱり、この聞き覚えのある声は・・・
「英美里だよ?もしかして忘れちゃったの?」
英美里、その名前を聞いて、寒気がした。体がかすかに震えているのがわかる。怖くて後ろを振り返ることができない。後ろには英美里がいる。一番会いたくない、英美里がいる。
「あたしは忘れてないよお?だってササキさんは悪人だもんねえ」
「あたしたちを裏切ったんだよねー」
もう1人の声はたぶん、ルカ。私たちは聖マリアンヌに入学してからずっと一緒にいた。私だって、みんなと離れたかったわけじゃない。私は何も悪くない!
でも、声が出ない。一言いってしまえばいいのに、言えない。
「ササキさーん、こっち見てよーー」
「英美里違うってー、ワタナベさんだって!」
「あっ!そっかあ!ワタナベさんかあ」
「ワタナっぷぷ、ササキぃーーっ!!」
もう、限界。助けて、たすけてかけるくん・・・
トイレの方へ駆けつけると、渡辺が聖マリアンヌ生に絡まれている。週末なのに学校でもあるのだろうか、制服を着ているため、一目でわかった。渡辺はササキ、ササキと呼ばれ、キモイとかブスとか、ひどいこと言われている。
しかし渡辺は言い返そうとせず、下を向き、体を震わせている。
「渡辺!」
「・・・かける、くん?」
「はあ?なになに、ササキ彼氏いんの?」
「うーけーるーーっ!マリアンヌ辞めて、もうそっちで男とか、まじキモイっ!ササキキモイ!ササキモイ」
「英美里、ササキモイはやべーよ!ぷぷ、うける」
渡辺は何も言わない。たぶん、言えないんだと思う。
まさか、力を貸してって、このことだったのか?俺をいじめから救って欲しかったのか?過去の自分を辞めて、過去の記憶を消して、過去からの束縛から解放して欲しかったのか?
ああ、俺と同じじゃないか。
そう思うと、何もせずにはいられなかった。
「もういねえよ」
「は?なになに、彼氏に言わせちゃうの?彼氏頑張っちゃうの?」
「もう、お前らの知ってるササキはいねえよ」
「何それ?言っとくけどね、あたしたちの方が付き合い長いの、あんたらみたいに今日昨日会ったばっかじゃないの」
「だからお前らのササキはいねえよ。つーか制服でケンカふっかけていいわけ?聖マリアンヌ生が汚れると思うけど」
「は?うっせーよ!」
「え、英美里、やばいかも!人だかりできてる」
「行くぞ、渡辺」
そういって渡辺の手を取り、その場から離れた。
離れないように、離さないように強く握った。
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