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第5章 奴隷と死霊術師

第55話 合法奴隷

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「というわけで、奴隷を雇いましょう」

ある朝、部屋でお茶を飲んでいると、アリスちゃんがそんなことを言ってきた。

「どうした?おっぱいが好きすぎて、そっちの道に行きついてしまったか?」

『うちの娘がすいません。
 でも、お父さんとしては、そういう癖も受け入れる準備はできています』

「流石に怒りますよ?
 特にお父さん、もう一回メイド服を着たいですか?」

すると、なぜか静かになるアリスパパの霊。
いったいこの親子に何があったのか色々と気になような、いややっぱりどうでもいいな。

「いえ、それがですね、最近この家が大きくなったじゃないですか。
 それに師匠の本格的な死霊術の修業が始まったので、あんまり掃除や家事に手が回っていないなぁと」

言われてみれば、もっともな理由である。
たしかに、ここ最近、単純な倉庫としての役割や家の機能拡張のために、急激な増築や改築は繰り返しはしたが、肝心の人員はそこまで増えてはいない。
いや、時々雑務用の初心者冒険者や兄弟子、そして雑務用のスピリットやポルターガイスト辺りを闊歩させたことはあるが所詮はその程度。
家の大きさに対して、家事を担当する人員が圧倒的に不足しているのだ。

「一応、臨時で且つ信頼のおける知り合いの冒険者に頼んだり、お父さんに手伝ってもらったりして何とかしましたが……、それでも流石にこれはもう限界です。
 新しい家政婦やら仲間が必要ですよ」

「まぁそうだね。
 でもそれなら普通の家政婦とかを雇うのは……」

「……師匠、一応ここ死霊術師の工房ですよね?
 それなのに普通の家政婦さん雇っていいのですか?」

言われてみればそうである。
こちとら、何があるかわからない冒険者でもあるのに、冥府神の信徒であり、かつ、死霊術師でもあるため、いろいろと危ない身の上なのだだ。
さらに言えば、一応自分はそこまで気にしないが、一般的に魔術師はある程度研究を守秘するのが常だ。
自分だって知られたくない研究成果の一つや二つあったりはする。
そういうのを考えれば、普通のいつでもやめれるような家政婦や非正規よりは、長期雇用や終身雇用を目指して雇ったり、契約系の奇跡で縛っても問題ない奴隷辺りを購入する流れになるのは理解できる。
でも、アリスちゃんが奴隷にこだわるのは別の理由があるのではと思ってしまうのは、こちらの心が汚れているからだろうか?

『それとね、アリス。お父さん聞きたいんだ。
 死霊術でお父さんを蘇生して、家事を手伝わせるのはまぁ気にしないけど、なんでこの間、元妻の姿(※ただし巨乳)みたいなニッチな姿にしたんだい?
 流石に精神ダメージがひどいんだけど』

それはそうと、アリスのお父さん、色々とかわいそうすぎない?
アリスちゃんは家族愛がすごいはずなのに、愛すべき父親にそういうことをするのは、いろいろと不安になってくるんだけど。
何か正当な理由でもあるのだろうか?

「それは、お父さんが蘇ったのをいいことに、買い物ついでという名目で、かつての愛人さんのところへとデートしに行ったからですよ?
 というか、向こうは再婚目指しているって知っているのに、あいさつしに行ったのはいろいろとドン引きです」

う~ん、流石のこれはちょっとアリスパパ擁護できないかな。
まぁ、そういう火遊びを防ぐのが理由であるのなら、さすがにちょっと姿を変えてやりたくなる気持ちはわかる。
が、それでもお母さんの姿を選択するのは……いや、きっちり双方姿をイメージできて、かつ、人形姿でもやり始めた疑惑を持っている人だから、それぐらいの姿に変えないと不安なのだろう。
しかしそれでも、アリスパパ自身が人目に出たくないようにするためとはいえ、元嫁という名のアリスちゃんのお母さんの姿を改変して蘇生するのは、やめてあげてほしい。
でないと、下手したらお父さんの魂にまで悪影響が出て、そっちの姿で固定になるかもしれないぞ?

「……!!」

なお、自分のその発言を聞いたアリスは、眼を見開いて反応をした。
もっともそれは忌避感によるものではなく、まるで何かいいことを聞いたかのような邪悪な笑みを浮かべており……。

『はいやめ!これ以上この話はやめよう!』

「そうだね!アリスちゃん!
 というわけで早速奴隷を雇いに行こうね!!
 アリスちゃん好みのおっぱいの大きい娘を探そう」

「な!だ、だから!別に私はおっぱいは好きじゃありませんよ!」

かくして、我々はアリスちゃんが悪の死霊術師に堕ちる前に、なんとか話題変換に成功。
そのまま、なし崩しにアリスと共に買い物へと出かけるのでしたとさ。

★☆★☆

「おお、おお!これはこれはイオ様ではないですか!
 こんなむさ苦しいところへようこそいらっしゃいませ。
 ほれ、そこの!急いでお茶の準備を……」

「わ~!本物のイオ様だ~!
 安産のお守りちょうだ~い!」

「こら!卑しい真似をするな!
 …まったく、いやイオ様、本当に失礼いたしました」

そうして私達が現在いるのは、最近この村によく来るようになった奴隷商の元である。
最も奴隷商人と言っても、この国において奴隷商のグレードはそれこそピンキリ。
ただの有料の人材紹介に過ぎないものから、クッコロのような元人攫いと吸血鬼への餌集め係、さらには隠れ死霊術師に新鮮な肉を供給するような邪悪な集団まで様々である。

「ああ、もちろんわかっているとは思いますが、うちは……」

「死霊術の素材やら信仰の強制はNG。
 できる限りの衣食住の保証。
 そう言う話でしょう?わかってるよ」

そして、この奴隷商はそんな奴隷商人の中でもかなりクリーンな人。
なんなら、きちんとした冒険神の信徒でもあり、毎日祈りを欠かさないし、一部奇跡も使える。
奴隷商というよりは、廃村や王都から借金や孤児などで余った人材を開拓地に送り付ける、そんな人だったりする。

「では、本日はどのような入用で?
 もしかして、私兵や弟子をお求めで!?
 それなら、今は特別に生まれつき魔力量が多い子や、純粋な元盗賊。
 さらには中立神より奇跡を授かっている娘いますが!」

そして、そんな彼だからだろう。
彼の手元にいる奴隷たちは基本的のどれも高品質であり、一定以上の素質持ちが多い。
なお、彼はここ以外にも他村の村長や冒険者の宿、さらには領主とも面会予定があるとか。
う~ん、なかなかやりおるな。

「いや、今回は普通に家事手伝いだね。
 広い家でも物怖じせず、少なくとも最低限の家事や意思疎通ができる人。
 あ、それと魔力感知や放出なんかもできればうれしいかな?」

「失礼ですが、魔力感知や放出ができるなら、この地域では普通に魔導士扱いになるかと思われますよ」

「まぁ、だよな」

アリスちゃんが物覚えがいいから忘れがちだが、魔法使いというのはそこそこに貴重な存在である。
それこそ、基礎中の基礎である魔力の感知や魔力放出ができるだけで、宿屋で魔法使いですと言っても詐欺ではない程度に。
実際この村でも魔力を扱える人は数えるほどしかいないし、それが実戦レベルともなればさらに貴重だったりはする。

「でもまぁ、魔力云々の扱い方や感知については、魔道具を適当に貸し与えれば、大体半年もすれば覚えられるでしょ。
 だからそっちに関しては、あんまり気にしなくていいか」

「それは、内弟子を取るのとは違うんですか?」

違うのだ!!
とはいっても、ある意味では初期のアリスちゃんと同じような扱いになるわけで。
アリスちゃんはあくまで自主的に魔法の勉強をしていたためこのような形になったが、実際真面目に学ぶ気がないのなら魔道具の貸し出しをする気もない。
それにあくまで家事手伝いがメインだから、死霊術を覚えてしまったがために、後はある程度極めるしか生存ルートの残っていないアリスちゃんは別として、そこまで真面目に魔法を教えるつもりもないしね。

「ふむ、なかなかよさそうな条件ですが……」

「でも、この後他のお得意様のところに出かけたりもするんでしょ?
 なら、それ用の奴隷はそっちに回してあげて」

「了解です。
 それでは、気立てのいい子を中心に、ご紹介させていただきますね」

そうして、奴隷商が声をかけると、馬車の中から2人の子供が出てくる。
ちょっと年齢が若くてぎょっとはしたが、それでもどうやら彼女らが奴隷商一押しらしい。

「ええ、彼女らは若いですが、すでにこちらで教育し終えている雑務奴隷です。
 文字も読めますし、買い物程度の計算はできます。
 約束を守る契約魔法も結んでおりますし、最低限の家事はしっかり教育済みです」

「まぁ、年齢こそ少々若いですが……残念ながら、体つきがいい娘やベテランの類はほかに先約がありますので」

なるほど、彼女らは品質にこそ問題ないという事が見た目のせいで舐められる、そういう雑務用奴隷というわけか。
それに、聞いたところもう少し年齢が上の奴隷は、すでにほかのお得意様から予約済みらしいので、あまり深く追求するのもことだ。
というわけで面接代わりに、いくつかの質問を行ってみる。
へ~、君達元商人の家出身なのか。
え?伝説の武器の仕入れに失敗したせいで、貴族に家をつぶされた?
借金代わりにこうして親から親戚、そして奴隷商に売られてしまったと。
なんというか、せちがれぇなぁ。

「うん、OKOKこの子達ならいろいろと問題なさそうだね。
 とりあえずは、一旦この子たちを雇うことにするよ」

「毎度アリです。
 ……あ、チップのほうは結構です。
 というか、教会でお世話になっているのに、ここで多めにもらうなんて、とても申し訳なさすぎますよ!」

残念ながら、彼に対して多めの料金を払うのは断られてしまった。
でもまぁ、個人的には奴隷を守りながらこんなくそ危険地帯を行き来してくれる気合の入った奴隷商故に、彼には多少サービスしてもぜひ生き残ってほしいのは、私の嘘偽りない本音だ。

「でも、流石にあの家に追加の家政婦が2人だけではいろいろと足りないと思うのですが。
 もう一人くらい紹介できる奴隷はいませんか?」

「あぁ、すいませんが残りは基本的にどの子も先約がある子ばかりでして……。
 あ~、でもあれなら……いや、万が一があったらいやだからなぁ」

そして、流石に子供二人だけでは雑務用のメイドとは言え、物足りないために、もう一人紹介してもらうことになった。
が、どうやらそいつは、この比較的善良な奴隷商が出し渋るレベルの人材らしい。
しかし、それでも見てみなきゃわからないと思い、その人材を見せてもらうことにした。

「……」

なんと、そこには最低限の治療だけを施された、傷だらけの子供以上淑女以下ぐらいの死んだ目をした女奴隷の姿が!!

「……えっと、その子は……」

「誤解しないで言っておきますと、彼女が傷だらけなのは基本的に自業自得です。
 なぜなら、彼女はここに来る途中に、こちらの馬車を襲った盗賊団の一員です。
 一応護衛の冒険者がいましたので、ギリギリ人死こそ出ませんでしたが、怪我人や馬を殺されるくらいはされましたからね」

「一応、コイツ自体の強さは並程度ですし、私の奇跡で怯む程度のごみでしたが、それでも、仲間と一緒に積極的にこっちを襲いかかる悪意は本物でしたよ。
 そのくせに、仲間が殺されたとたん真っ先に逃げようともしたのもコイツですし、追いついた瞬間命乞いもしました」

「一応、契約系奇跡で聖痕をばっちり刻ませてもらいましたし、行動や言動は完全制御済みです。
 それに、背後関係も特にない、正真正銘のただのクズであることも判明しています。
 それに最低限の言葉はしゃべれますし、一応の家事もできます。
 がそれでも正直こいつを家事奴隷として雇うのは、いろんな意味でお勧めできかねますね」

まぁ、それはそうだろうな。
というか、話を聞くと戦闘奴隷とかそう言うので売り払えば?と思わないでもないが、それにしては強さがいまいちらしい。

「……というか娘、よく見ると獣人だね。
 えっと……猿の獣人ってことでいいのかな?」

「……リスだ!!」

おお!どうやら、意識ちゃんとあるししゃべれるのは事実の様だ。
にしても、長い尻尾や三角形の獣耳から、アイアイとかそう言うのだと思ったが、どうやら読みは外れてしまったらしい。

「おい、そこの乳袋。
 私は確かに捕まった、ただの奴隷だ。
 しかし!それだけで我が獣人の誇りが完全に失ったと思たら大間違いだ!
 我らは獣人!只人よりも優れた身体能力と五感を持つ、選ばれた種族で……ぴゅい!?」

そして、一度口を開けばやけに口が悪いこと悪いこと。
獣人という種族に誇りを持っているらしく、色々と言動がめんどくさそう。
さらには、強いとか言ってるくせに、奴隷商の馬車を襲ってあっさり返り討ちにあっている事実を考慮すると……まぁ、正直強さもそこまでなんだろう。
ここまで見せてもらってわかることは、正直彼女の存在自体余りものの厄介娘であり、普通に考えるなら、彼女を雑務奴隷として購入するメリットはないということだ。

「いがが……ごごごご……」

「あぁ、こいつは元邪神の崇拝者なので、奇跡魔法もよく効きますよ。
 契約聖痕を付けた時に、主人の命令に逆らえなくはしてますが……それでもこの契約聖痕も万能ではないし、効果も費用対効果にあってるとは言い難い。
 外れ奴隷の名にふさわしいやつですよ」

聞けば聞くほど面倒くさいし、そもそも元犯罪者の奴隷故に、もしもの時は最後まで責任を持たなければならないのだろう。
そういう意味でも、今回はこの奴隷とはご縁がなかったとスルーしたいのが本音ではある。
が、それでも少しだけがあった。

「あ、そいつに関しては、最悪死霊術の素材にされても結構です。
 むしろその方が、皆さん喜ばれると思いますよ」

「お、おい!貴様、それでは約束がちが……ぴぎ!?」

「黙れ、貴様の命の保証はあくまで次に売り渡すまで限定だといっただろう。
 強盗なのに、ここまで生かしてもらっただけでありがたく思え」

おそらく、ここで彼女を見捨てると今後二度と彼女に会えないかもしれない。
そのため、私はしぶしぶ、店主やアリスパパの反対を押し切り、初めの2人に加えて、この札付き獣人奴隷も購入するのでしたとさ。

☆★☆★

そして、その日の夜。
我が家の居間にて。

「というわけで、ベネちゃん。
 この子たちが新しくこの家でお世話になる家政婦兼奴隷たちで「ね、ねぇさん!?ねぇさんじゃないか、なんでここに!?」」

「……人違いです」

「い、いや!その愛称に、見た目、どう見てもねぇさんじゃないか!?
 ほら、私だよ私、マートだよマート!
 ベネ姉さんの愛しの妹のマートだよ」

「いえ、知りませんね。
 私に妹はいませんし、人違いでしょう」

「そ、そんなひどい!
 で、でもここに姉さんがいるなら話は早い!
 お願い姉さん!このただでさえ汚れた只人、その上カルトの死霊術師とか言う邪悪な売女を嵌められたんだ!
 だから、さっさとこいつを殺して……ぶへぇ!?」

「全然知りませんね。
 とりあえず、その小汚い口を閉じてください。
 獣臭過ぎて、鼻が曲がりそうですよ」

「ちょ!や、やめてねぇさ……ぐべぇ!?
 ね、ねぇさんも誇り高い獣人の血が流れているなら……ごぼぉ!?
 は、話を聞いて、んげふぅ!?」

淡々と新しく雇ったはずの獣人奴隷に、殴るけるの大暴力を働くベネちゃん。
恐怖する新人子供奴隷2人。
そして、今まで一緒に過ごしてきたはずなのに、見たことのない行動を繰り広げるベネちゃんに困惑する私含めたこの家の一同。

「……魂や魔力の波長が似ていたから、もしかしたらと思って連れてきたけど……。
 どうやら、いけないおせっかいだったかなぁ……」

「すくなくとも、仲のいい姉妹関係ってわけじゃなさそうだね」

そんな光景をヴァルター共に見ながら思わずそう口から洩れてしまう。
なお、今回自分がなぜ問題あるとわかってあの奴隷を雇ったといえば、それは単純にこの獣人がベネちゃんの血縁関係ではないかと、思ったからだ。
魂の波長や魔力の質、種族こそ人間であるベネちゃんと獣人である新人奴隷と違いはあるが、魔力や魂からは確かに血のつながりを感じさせられた。
なので、あのままだ奴隷として転売されると殺されてしまうかもしれないので、保護代わりに買い取ったわけだが、どうやら今回に限ってはいろいろと失敗であったようだ。

「で、でも、あれに関しては母さんがいけなかったんだよ!
 それに母さんも、混沌神様やあの人に忠誠を誓えば……って、あ」

「……」

「あ、あれはまずい、流石に止めなきゃ」

口論の末、今までおろおろしているかおっとりした姿しか見たことのなかったベネちゃんが、両手で獣人奴隷の首を絞めてしまった。
流石にこれはまずい判断し、ヴァルターと二人でなんとかベネちゃんの暴走を止めるのでした。
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