不器用なカノジョ

高嶺 蒼

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部活見学~弓道部編・楓side~

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 「しかし、相変わらず小さいな」

 頭の上に手を置きそう言うと、ソラはへにゃんと眉をハの字にした。

 「うー、カエちゃんまで。牛乳とかいっぱい飲んでるし、好き嫌いもないのに、なかなか伸びないんだ」

 はーとため息をつくソラを上から見下ろすと、身長の割にボリュームのある胸が目に入ってくる。

 「栄養が全部他の所に取られているんじゃないか?」

 素直な感想を述べると、ソラが目元を赤く染めてこちらを見上げた。少し睨むように。
 だが、元々の顔立ちが可愛らしいのでまるで迫力はなかったが。


 「カエちゃん、それ、セクハラだよう・・・・・・」

 「私は女で、ソラも女だが?」

 「それでもセクハラなのっ。もう~」


 呆れた様に言って、ソラが頬を膨らませる。
 可愛かったので思わず指先でつついたら、更に怒られてしまった。
 少し反省し、素直に謝ると、元々優しい性格のソラはすぐに許してくれたが。

 周囲では同じ弓道部の面々が、見学に来た下級生に弓を触らせたり、構えさせたりしている。
 流石に矢をつがえさせる事は出来ないが、弓に親しんで興味を持ってもらおうという試みだ。
 さて、そろそろ私も仕事をしないとなー楓は自分の弓を持ち上げ、ソラに持たせてやる。


 「わぁ。結構、重いんだね」

 「そうだな。扱うには結構力がいるんだぞ?ほら、引いてみろ」


 そう言いながら、ソラの後ろにまわって彼女の手を取り一緒に弓を引かせてみる。
 なんだか周りがキャーキャーうるさいような気がするが、まあいいだろう。
 ソラの背が小さいので、何だか思いっきりおおい被さるような体制になってしまった。
 腕の中の小さな体が緊張している様に感じるが、きっと気のせいだろう。

 「ソラ、弓道部はどうだ?楽しいぞ」

 耳元で、勧誘を試みる。
 まあ、ソラが軽音部に入りたがっているのは知っているが、ダメもとだ。部長からも、担当した子を必ず勧誘するように言われているしな。
 ソラの答えがないので、ちらりと横目で伺うと、何だか真っ赤な顔をしていた。
 耳まで赤い。
 何でだろうと内心首を傾げながら、


 「やはり、軽音部の方がいいのか?」

 「え・・・・・・っと、その・・・・・・」


 耳元で更に追い打ちをかけ、ソラが口ごもる様子に、少しいたずら心が芽生えた。楓は彼女の耳に更に唇を寄せ、

 「私より、あの女をとるのか?」

 わざと息を吹き込むように、そう言った。
 とたんにソラがぱっと弓から手を離し、驚く楓から距離を取る。真っ赤な顔で、耳を片手で守るように押さえながら。

 「カ、カエちゃん、そう言うの、禁止!」

 ちょっと涙目で睨まれる。だがそんな様子が可愛くて仕方ない。

 「ん、なんだ?ダメだったか?」

 私はただ勧誘をしただけだがなーそう言いながらクスリと笑うと、ソラはますます顔を赤くした。

 「か、勧誘はいいけど、そういう、色気ダダ漏れは、ダメ、だと思う」

 色気ダダ漏れーそうだっただろうか?
 久しぶりにソラに会い、ソラからやっと存在を認知され、つい浮かれていたかもしれない。
 そんな風に少し反省していると、

 「そ、その、私ならいいけど、他の子は、カエちゃんにそんな風にされたら、きっと、誤解しちゃう、よ?」

 そんな可愛いことを言ってくるので、思わず抱きしめてしまった。もちろん弓はちゃんとおいた後で、だ。
 再び周囲から黄色い声が。
 だが、そんな事は気にせずに、腕の中のソラの顔をのぞき込む。
 ソラは困ったような顔をしていたが、嫌そうな顔ではなかった。

 「ソラになら、いいんだな?大丈夫だ。他の生徒に、こんな事はしてないよ。ソラにだけだ」

 久しぶりに幼なじみとして再会したせいで、何だか歯止めがきかない。まあ、小さい頃はこんなスキンシップは日常の様に行っていたものだが。
 ちょうど胸のちょっと上の当たりにソラの顔が来て、胸のした辺りに結構な存在感のものがぎゅっとくっついている。その柔らかさを体で感じながら、お互い成長したものだなと感慨深く思う。

 「私に、だけ?」

 驚いたようなまん丸の目。
 なんだ、その顔は。私がそんなに節操がない女だと思っているのか。
 そんな風に思いながら、普段の自分を振り返る。
 普段の彼女はどちらかというと淡泊でクールなのだ。
 そんなクールなところがたまらないと、たまに言われたりもするが、こんな甘々なキャラは自分らしくないとは思う。
 だが、ソラだけはとことん甘やかしたいと思う。可愛くて仕方がない。
 久しぶりに再会したというのに、変な話ではあるが。

 ほんとはずっと気になっていた。
 無口で引っ込み思案な年下の少女の事が。
 自分にだけ、不器用に甘えてくる、誰よりも大切に思っていた少女を、本当はずっと取り戻したいと思っていた。
 ずっと思い続けた少女が、今、自分の腕の中にいる。それは楓の心を甘くとろけさせた。

 「ああ。お前にだけだよ、ソラ」

 私が、こんな顔を見せるのはーそんな風に思いながら、楓はとろけるような笑顔を浮かべて、愛しい少女を見つめるのだった。
 今が部活中だということも、すっかり忘れて。






 「いや~、今日は参ったわよ、見せつけてくれちゃって」

 部活が終わって、部室で着替えていると部長にそう声をかけられた。怪訝そうな顔をして、首を傾げて部長を見返す。


 「見せつける?何のことです?」

 「ほら。今日、柴本が担当した下級生。確か、悠木ソラちゃん、だっけ?すっごく甘々な空気を出してたじゃない」


 もう、すっとぼけちゃってーと背中を叩かれる。痛い。部長は女子にしては力が強いから、叩かれた場所が地味に痛かった。
 甘々な空気?そんなもの、出した覚えはないがーと楓は真剣に首を傾げる。
 いや、実際は出ていたのだが、本人にはその自覚は無いようだった。

 「で、で?こ、恋人なの?もう下級生に手を着けちゃったの?クールビューティー・柴本楓もいよいよ陥落!?」

 鼻息荒く詰め寄られても困る。
 しかも、クールビューティーとは一体なんだ?私のあだ名なのか?そんな事を考え、混乱する楓。
 クールビューティーの呼び名は、主に楓のファン達の間で出回っている二つ名で、楓は今日この日まできいたことも無かった。

 「久しぶりに会った幼なじみですよ。しかし、恋人ってなんですか?私もソラも女ですよ?」

 きっぱり答えると、部長の熱もやや落ち着いた様だ。

 「えー、ただの幼なじみぃ~?まったく、つまんないオチね」

 ちぇ~っとガッカリしたように部長が唇を尖らせた。その様子に苦笑を漏らし、

 「勝手に期待して、勝手にガッカリしないで下さいよ。ソラは、私の可愛い幼なじみですよ。それに、女同士で恋人なんて、おかしいでしょう?」

 そう答えると、

 「何言ってんのよ、柴本。うちの学校は結構多いのよ?女子同士のカップル。そういうあんたを狙ってる子も多いし、告白されたこととか無いわけ?」

 部長の言葉にしばし考え込んだ。そして思う。そう言えば、そう言う事もあったな、と。
 思い詰めたような顔の女子に呼び出され、好きですとストレートに言われたこともあった。
 ただ、楓にまったくその気がなく、ファンとして好きだと言われたのだと好意の意味を曲解して返答していたので全く発展しなかったが。
 そうか、あれは交際を申し込まれていたのか、と今更ながらに理解し、ぽんと手を打った。

 「え~、今まで気づいてなかったんだ」

 部長に、何だか可哀相な子を見るような目で見られた。

 「女同士で交際とか、普通は考えませんよ」

 そう反論すると、そうねぇと部長も苦笑混じりに頷いた。


 「確かに、本気な子はほんの一部だろうけどね。でも、高校生くらいって同姓に憧れる子も多いから」

 「そんなもんですか?」

 「そんなもんよ。あんたの、えーっと、ソラちゃん、だっけ?あの子もモテそうだから、ちょっとでも気になるなら気をつけなさいよ?」

 「モテそう、ですか?」

 確かにソラはものすごく可愛いが、そんなにモテるだろうか?いや、モテるかもしれない。
 女子にどうか判別はつかないが、少なくとも男子にはモテるだろう。モテるに違いない。
 なんといってもあれだけ可愛いのだ。ついでに胸も大きいし、モテないわけがない。

 「た、確かに、男子にはモテそうです、ね」

 そう認めると、部長はちっちっちっと顔の前で人差し指をふる。


 「柴本はまだまだ甘いわねぇ。小さくて巨乳で可愛くて、あんたとは違った意味ですごくモテるわよ?もちろん、女子に。そうねぇ、年上のお姉さまにモテるタイプかしら。それから、しっかり者の優等生とか、母性本能強そうなタイプにも訴えるものを持っていそうだわ。気をつけないと、すぐ盗られちゃうわよ?」

 「そ、そんな」


 部長の忠告にショックを受ける楓。彼女は自分の認識の甘さに落ち込み、

 「ご忠告、ありがとうございます。気をつけます・・・・・・」

 そう答えることしか出来ないのだった。
 そんな楓を、部長を始め先輩方が面白そうにニヤニヤしながら見ていたことに、楓は最後まで気づくことが出来なかった。

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