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第二部 旅のはじまり~星占いの少女編~
星占いの少女編 第二話
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街のそこそこ大きな宿を拠点に定めてから、しばらくの間は交渉の時。
忙しいのは座長であるイルサーダのみで、彼が興行の予定を組んでくるまでは比較的自由な時間が許された。
そんな訳で、雷砂はその自由な時間を利用して、リインと二人、街へと繰り出していた。
もちろん、延び延びになっていた二人きりでの買い物という約束を果たすためである。
実際の所は、ごろごろと暇そうにしていたところを、二人でデートでもしてこいと追い出されたのが実状ではあるが、まあ、こうして二人で外出したことに意義があるのだ。
その経緯は重要ではないと、己を納得させつつ、雷砂は隣を歩くリインの横顔を見上げる。
もともと、セイラほど感情表現が豊かではない彼女ではあるが、今日はなんだか嬉しそうに見えた。
双子の姉であるセイラとそっくりな顔立ちでありながら、リインから受ける印象は大分違う。
髪や瞳の色が違うせいもあるのだろうが、簡単に言ってしまえば、セイラが動、リインが静と言った感じだ。
リインはセイラに比べて喜怒哀楽の感情表現が薄く、普段はちょっぴり無表情な所もある。
だが、しばらく一緒に旅をしているうちに、雷砂にもリインの感情の変化がずいぶんと分かるようになってきていた。
「……なぁに?雷砂」
雷砂の視線を感じたのだろう。リインがちらりと雷砂を見る。
その目元からも隠しきれない喜びが伺えて、雷砂もなんだか嬉しくなった。
「リインが、嬉しそうだなって思って」
素直に口にすれば、リインの目元がほんのり赤く染まり、
「うん。嬉しい」
そんな小さな声が雷砂の耳朶を打つ。
「そっか」
「雷砂と一緒で、嬉しい」
「うん。オレもリインと一緒だから嬉しいよ」
穏やかに優しく、そんな言葉を交わしあい、どちらからともなく手を握る。
そしてそのままゆっくりと、二人は今日到着したばかりの街を見物して歩くのだった。
「それにしてもこの街って、占い師が多いよな?」
リインと手をつないで歩きながら、雷砂がきょろきょろと珍しそうに周囲を見回す。
雷砂の言葉通り、それなりに広く整備された道の至る所に占いの看板を掲げる露店の様なものが見て取れた。
手をつなぎ、仲良く歩く二人は立派なカップルに見えるらしく、占いの店の前を通り過ぎる度に声がかかる。
その度に、リインは何とも嬉しそうなはにかんだ顔を見せた。
雷砂はそんな彼女を可愛いなぁと見上げつつも、なんでこんなに占い師が多いんだろうと不思議に思って発したのが先ほどの言葉だったわけだ。
「この街の別名、雷砂は知らない?」
「別名?」
「享楽と占いの街。この街は、そんな風にも呼ばれている」
「享楽と、占い……」
「この街は楽しみを積極的に取り入れる街。だから私達の一座も一年に一度は必ずこの街を訪れる。この街にくれば、必ず仕事の目があるから」
「ふぅん。なるほどな」
「そしてこの街は占いでも有名。力の確かな占い師が多くて、占いを求める人がひっきりなしに訪れる。でも、まあ、こう言った道に露店を出しているような占い師は、駆け出しだったり、力のない人が多くて、実力のある人はまれみたいだけど」
「へえ~。そうなんだ」
頷きながら、雷砂は興味深そうに周囲を見回した。
道端に店を開く占い師達の格好は様々だ。
年老いた者も、若い者も混在して、誰もが道行く人の興味を引こうとしている。
そして、その手元の道具も様々だった。
カードの様なものであったり、水晶のような玉を持つ者や細長い棒の様なものをじゃらじゃらと騒がしく鳴らしている者もいる。
雷砂はその一人一人を興味深く眺め、そんな雷砂の様子を見たリインは、
「雷砂も占い、してみたい?もし占うなら、きちんと店を構えている人が良いとは思う。値段は少し、高めだけど」
そんな問いかけを口にする。
「ん~。どうしても占って欲しいことがある訳じゃないんだ。ただ、これだけ色々な占い師がいるんだし、一回くらい占ってもらうのも面白いかなぁって」
「なるほど。それも、面白そう。雷砂、誰か気になる占い師、いる?」
「気になる占い師か。そうだなぁ」
リインの言葉に足を止め、雷砂は周囲をじっくりと見回していく。
だが、だれも彼もが芝居がかっていてちょっと胡散臭そうに見えた。
そんな中、なぜかこちらを必死に見つめている、一人の少女と目があった。
薄墨色の髪と瞳の少女は、ぶかぶかのローブをまとって、周囲の占い師同様、敷物を敷いて地面に座っていた。
一応、小さな立て看板らしきものをおいているので、占いを生業にしているのは間違いないようだが、その手元に特定の道具は見えない。
そのせいで、彼女は只の小さな女の子にしか見えず、そのことが逆に雷砂の注意を引いた。
「よし、あの子に占ってもらおう」
そう言って、リインの手を引いて少女の方へと向かう。
彼女は少し驚いたような顔をして、雷砂を見上げていた。
大人になりきっていない、まだ少しあどけなささえ残るその顔をまっすぐに見つめ、雷砂はにこりと微笑む。
そして、その場にしゃがみ込んで、
「君も占い師?」
まっすぐに、そう問いかけた。
「は、はい。そうです」
「道具は使わないの?周りの人はみんな使っているけど。君は何で占ってるんだ??」
頷いた少女に、疑問のままに問いかければ、少女は少しだけ困った様に笑い、
「わたし、道具は使わないんです。そんなにお金もないし、道具が無くても、占いは出来ますから」
そう答えた。
「ふうん。どうやって」
「星占いです」
「星占い?」
「はい、星を見ます」
「星を見る……」
雷砂が空を指さすと、少女はやっとおかしそうに笑った。
年相応の、可愛らしい笑顔で。
「いいえ。わたしが見るのは空の星ではなくて、あなたの相に現れる星です。ちょっと不思議に思われるかもしれませんけど、私にはその人その人の輝きを見ることが出来るんです」
「へえ。すごいんだな」
「いえ、そんな。まだまだ、駆け出しの占い師です。あの、占って行かれますか?」
「うん。占ってもらえる?」
「はい。では、まず手を見せて下さい」
「手?」
「ええ。手の平にはその人独自の相が出るものですから」
「ふうん。分かった。はい」
雷砂は素直に両手を差し出した。
少女はその手を取り、顔を近づけ丁寧に眺めた。
そして、一通り眺めた後に一つ頷いて、今度は雷砂の顔に手を伸ばす。
「手は戻していただいて大丈夫です。今度はお顔を見させて頂きますね」
言いながら、少女は雷砂の頬にそっと両手を添えた。まるでこれから口づけでもするかのように。
後ろに立っているリインの気配が尖るの感じて、雷砂は口元を綻ばせる。
そして、
「リイン、大丈夫だから」
後ろに向かって小さく声をかけ、後は少女のしたいようにさせた。
彼女は雷砂の顔をつぶさに眺め、そして最後に雷砂の両手を自分の手で包み込んだ。
「では、最後にあなたの星を見ます。力を抜いて、目を閉じて下さい。おでことおでこをくっつけますけど、それだけですから緊張しないで」
「分かった。これで良いか?」
「はい。じゃあ、失礼します」
彼女の声と共に、おでこにこつんと何かが当たる感触。
そして、次の瞬間、息をのむような気配が伝わってきた。
その後、ゆっくりとおでこが離れていき、両方の手も解放された。
もう良いかなと目を開ければ、すぐ目の前にはちょっと呆然としたような少女の顔。
少女の薄墨の瞳は、この世のものではない何かを見ているかのようにその焦点は曖昧で、何とも神秘的に見えた。
だが、それも束の間。徐々に焦点が結ばれて、彼女の視線が雷砂の上に戻ってくる。
だが、戻ってきてからしばらくの間、彼女は口を開こうとしなかった。
雷砂もせかすようなことはせずに、ただ待つ。まっすぐに、少女を見つめたまま。
少女もまた、雷砂をまっすぐに見つめていた。
そして、ゆっくりと一度だけ瞬きをし、それから小さな声で、言葉を紡ぎ始めた。
「貴方の相は王者の相で貴方の星は、とても大きい。貴方は強く、何者にも負けない心を持っていて、進む道の先には栄光が見えます」
少女の抑揚のない声は、淡々と雷砂を称え言祝いだ。
後ろで、リインが小さくすごいと呟き、雷砂も過分なほめ言葉に軽く目を見開く。
だが、少女の言葉はまだ続いていた。
「ですが、貴方の光は強すぎて、闇をも引き寄せる。引き寄せられた闇は貴方の光を弱め、取り込むために、周囲の者へも手を伸ばすでしょう」
「……どういう、ことだ?」
「このままでは、貴方はいずれ、周囲の者に不幸をもたらす。貴方が大切に思う者ほど闇は深く執着し、より強い不幸を与えることでしょう。それを防ぐ方法は唯一……」
「うそ!そんなのはでたらめ!!」
「リイン!?」
少女の言葉を聞き続けることが我慢できなかったようにリインが叫び、その腕の中に雷砂を抱きしめた。
まるで少女の言葉から、雷砂を守るように。
雷砂は驚いたようにリインを見つめ、少女は夢から覚めたように素の表情に戻っていた。
そして、怒りの眼差しを向けるリインを、戸惑ったように見つめた。
「あ、あの……私……」
「雷砂、信じちゃダメ!こんなの、インチキに決まってる!!」
「リイン。オレは大丈夫だから落ち着いて?」
「でも……」
「大丈夫だ。だから、ちょっと離れて待ってて?すぐに、行くから」
「……わかった。待ってる」
「ありがとう。すぐにいく。そしたら、デートの続きな?」
リインの背中をそっと押して、少女の店から引き離した後、雷砂は再び少女へと目を向けた。
その眼差しを受けた少女が、おびえたようにびくりと震え、そんな少女の反応に雷砂はちょっと困ったように微笑んで、
「気にしなくていい。君は素直に占っただけだ。そうだろ?堂々としていていいんだ。さて、お代は?いくら?」
言いながら、雷砂は胸元からお金の入った皮袋を取り出した。
そんな雷砂の態度と言葉に、少女は驚いたように目を見開く。
「あの、怒らないんですか?変な占いをしてって」
「どうして?怒る必要なんてないだろ?君はただ占っただけなんだから。結果ばかりはどうしようもないことだしな。……もしかして怒られたことが、あるのか?」
「……はい。望まない答えを、ほしがらないお客様は多いですから」
「そうか。それは災難だったな」
雷砂は心を込めてそう答え、代金を提示しない少女の手の平に、銀貨を一枚握らせた。
「あ、あの。これじゃあ、もらいすぎです!!」
「いいよ。それだけの価値がある占いだったと思うから。ねえ、さっきいいかけた唯一の方法って……」
「え?」
「……いいや。なんでもない。占い、ありがとな。君が怒られるのは、君が正直でまじめに占ってるからだ。大変だとは思うけど、恥じるようなことじゃない。むしろ誇って良いことだと、オレは思うな」
その言葉と雷砂の眼差しに、少女はなんともいえない表情で俯くと、雷砂の視線から逃れるようにローブのフードを深くかぶった。
そんな彼女を見ながら、雷砂は言葉を紡ぐ。
「なんだ。隠しちゃうのか?せっかくきれいな髪なのに」
「……そんなの、嘘です。わたしの髪も目もぜんぜんきれいなんかじゃない」
「そうかな?オレは好きだけどな、君の髪と目の色。すごく、優しい色だ」
雷砂は心からそう言ったが、少女から返ってくる言葉はなく、リインを待たせていることもあり、雷砂は少女の返事をそれ以上待つことなく静かにきびすを返した。
そしてそのまま、ゆっくりとした足取りで、自分を待つリインの元へと振り返ることなく歩いていった。
振り返らなかった雷砂は知らない。
雷砂を占った少女が、胸を押しつぶすような罪悪感にその瞳を涙で濡らしていたことを。
胸を押さえ、うずくまったまま少女は思う。
占いの結果を悪くねじ曲げて伝えるように言われたのは事実。
だが、あの占いの結果は紛れもなく本当だった。
だから。
「……私は、悪くない」
少女は呟く。その事実を、確かめるように。
「私は悪くない。悪くない。悪くない……」
その言葉を何度も何度も繰り返した。己に言い聞かせるように、何かに祈るように。
少女は顔を上げ、雑踏に消えゆく黄金色の髪を見る。
その瞬間、さっき貰った優しい言葉が脳裏をよぎった。
『オレは、好きだけどな。……すごく、優しい色だ』
今まで、この仕事を始めてからそんな風に優しい言葉をかけて貰ったことなど無かった。
新米の辻占い師の元を訪れるのは、耳障りのいい言葉を求める遊び半分の者ばかり。
少女の伝える真実が相手の意に叶うことなど、本当に数えるほどしか無かったから。
怒りの言葉や冷たい言葉ばかりを浴びて過ごしていた少女にとって、雷砂の言葉は優しい春の日だまりのような暖かさを感じさせてくれた。
それなのに。
結果として、伝えた事はまごうことなき自実。
だが、少女が雷砂を陥れようとしたのも真実。
その誤魔化しようの無い罪悪感が少女の胸を締め付けた。
「……私は、悪くない」
少女は力なく呟く。
「でも、貴方だって、何も悪くないのに……」
涙が再び溢れ、やせた頬を濡らす。
少女は雷砂の消えた人混みを哀しげな瞳で見つめながら、
「……ごめんなさい」
まるですすり泣くように、小さく小さく呟いた。
忙しいのは座長であるイルサーダのみで、彼が興行の予定を組んでくるまでは比較的自由な時間が許された。
そんな訳で、雷砂はその自由な時間を利用して、リインと二人、街へと繰り出していた。
もちろん、延び延びになっていた二人きりでの買い物という約束を果たすためである。
実際の所は、ごろごろと暇そうにしていたところを、二人でデートでもしてこいと追い出されたのが実状ではあるが、まあ、こうして二人で外出したことに意義があるのだ。
その経緯は重要ではないと、己を納得させつつ、雷砂は隣を歩くリインの横顔を見上げる。
もともと、セイラほど感情表現が豊かではない彼女ではあるが、今日はなんだか嬉しそうに見えた。
双子の姉であるセイラとそっくりな顔立ちでありながら、リインから受ける印象は大分違う。
髪や瞳の色が違うせいもあるのだろうが、簡単に言ってしまえば、セイラが動、リインが静と言った感じだ。
リインはセイラに比べて喜怒哀楽の感情表現が薄く、普段はちょっぴり無表情な所もある。
だが、しばらく一緒に旅をしているうちに、雷砂にもリインの感情の変化がずいぶんと分かるようになってきていた。
「……なぁに?雷砂」
雷砂の視線を感じたのだろう。リインがちらりと雷砂を見る。
その目元からも隠しきれない喜びが伺えて、雷砂もなんだか嬉しくなった。
「リインが、嬉しそうだなって思って」
素直に口にすれば、リインの目元がほんのり赤く染まり、
「うん。嬉しい」
そんな小さな声が雷砂の耳朶を打つ。
「そっか」
「雷砂と一緒で、嬉しい」
「うん。オレもリインと一緒だから嬉しいよ」
穏やかに優しく、そんな言葉を交わしあい、どちらからともなく手を握る。
そしてそのままゆっくりと、二人は今日到着したばかりの街を見物して歩くのだった。
「それにしてもこの街って、占い師が多いよな?」
リインと手をつないで歩きながら、雷砂がきょろきょろと珍しそうに周囲を見回す。
雷砂の言葉通り、それなりに広く整備された道の至る所に占いの看板を掲げる露店の様なものが見て取れた。
手をつなぎ、仲良く歩く二人は立派なカップルに見えるらしく、占いの店の前を通り過ぎる度に声がかかる。
その度に、リインは何とも嬉しそうなはにかんだ顔を見せた。
雷砂はそんな彼女を可愛いなぁと見上げつつも、なんでこんなに占い師が多いんだろうと不思議に思って発したのが先ほどの言葉だったわけだ。
「この街の別名、雷砂は知らない?」
「別名?」
「享楽と占いの街。この街は、そんな風にも呼ばれている」
「享楽と、占い……」
「この街は楽しみを積極的に取り入れる街。だから私達の一座も一年に一度は必ずこの街を訪れる。この街にくれば、必ず仕事の目があるから」
「ふぅん。なるほどな」
「そしてこの街は占いでも有名。力の確かな占い師が多くて、占いを求める人がひっきりなしに訪れる。でも、まあ、こう言った道に露店を出しているような占い師は、駆け出しだったり、力のない人が多くて、実力のある人はまれみたいだけど」
「へえ~。そうなんだ」
頷きながら、雷砂は興味深そうに周囲を見回した。
道端に店を開く占い師達の格好は様々だ。
年老いた者も、若い者も混在して、誰もが道行く人の興味を引こうとしている。
そして、その手元の道具も様々だった。
カードの様なものであったり、水晶のような玉を持つ者や細長い棒の様なものをじゃらじゃらと騒がしく鳴らしている者もいる。
雷砂はその一人一人を興味深く眺め、そんな雷砂の様子を見たリインは、
「雷砂も占い、してみたい?もし占うなら、きちんと店を構えている人が良いとは思う。値段は少し、高めだけど」
そんな問いかけを口にする。
「ん~。どうしても占って欲しいことがある訳じゃないんだ。ただ、これだけ色々な占い師がいるんだし、一回くらい占ってもらうのも面白いかなぁって」
「なるほど。それも、面白そう。雷砂、誰か気になる占い師、いる?」
「気になる占い師か。そうだなぁ」
リインの言葉に足を止め、雷砂は周囲をじっくりと見回していく。
だが、だれも彼もが芝居がかっていてちょっと胡散臭そうに見えた。
そんな中、なぜかこちらを必死に見つめている、一人の少女と目があった。
薄墨色の髪と瞳の少女は、ぶかぶかのローブをまとって、周囲の占い師同様、敷物を敷いて地面に座っていた。
一応、小さな立て看板らしきものをおいているので、占いを生業にしているのは間違いないようだが、その手元に特定の道具は見えない。
そのせいで、彼女は只の小さな女の子にしか見えず、そのことが逆に雷砂の注意を引いた。
「よし、あの子に占ってもらおう」
そう言って、リインの手を引いて少女の方へと向かう。
彼女は少し驚いたような顔をして、雷砂を見上げていた。
大人になりきっていない、まだ少しあどけなささえ残るその顔をまっすぐに見つめ、雷砂はにこりと微笑む。
そして、その場にしゃがみ込んで、
「君も占い師?」
まっすぐに、そう問いかけた。
「は、はい。そうです」
「道具は使わないの?周りの人はみんな使っているけど。君は何で占ってるんだ??」
頷いた少女に、疑問のままに問いかければ、少女は少しだけ困った様に笑い、
「わたし、道具は使わないんです。そんなにお金もないし、道具が無くても、占いは出来ますから」
そう答えた。
「ふうん。どうやって」
「星占いです」
「星占い?」
「はい、星を見ます」
「星を見る……」
雷砂が空を指さすと、少女はやっとおかしそうに笑った。
年相応の、可愛らしい笑顔で。
「いいえ。わたしが見るのは空の星ではなくて、あなたの相に現れる星です。ちょっと不思議に思われるかもしれませんけど、私にはその人その人の輝きを見ることが出来るんです」
「へえ。すごいんだな」
「いえ、そんな。まだまだ、駆け出しの占い師です。あの、占って行かれますか?」
「うん。占ってもらえる?」
「はい。では、まず手を見せて下さい」
「手?」
「ええ。手の平にはその人独自の相が出るものですから」
「ふうん。分かった。はい」
雷砂は素直に両手を差し出した。
少女はその手を取り、顔を近づけ丁寧に眺めた。
そして、一通り眺めた後に一つ頷いて、今度は雷砂の顔に手を伸ばす。
「手は戻していただいて大丈夫です。今度はお顔を見させて頂きますね」
言いながら、少女は雷砂の頬にそっと両手を添えた。まるでこれから口づけでもするかのように。
後ろに立っているリインの気配が尖るの感じて、雷砂は口元を綻ばせる。
そして、
「リイン、大丈夫だから」
後ろに向かって小さく声をかけ、後は少女のしたいようにさせた。
彼女は雷砂の顔をつぶさに眺め、そして最後に雷砂の両手を自分の手で包み込んだ。
「では、最後にあなたの星を見ます。力を抜いて、目を閉じて下さい。おでことおでこをくっつけますけど、それだけですから緊張しないで」
「分かった。これで良いか?」
「はい。じゃあ、失礼します」
彼女の声と共に、おでこにこつんと何かが当たる感触。
そして、次の瞬間、息をのむような気配が伝わってきた。
その後、ゆっくりとおでこが離れていき、両方の手も解放された。
もう良いかなと目を開ければ、すぐ目の前にはちょっと呆然としたような少女の顔。
少女の薄墨の瞳は、この世のものではない何かを見ているかのようにその焦点は曖昧で、何とも神秘的に見えた。
だが、それも束の間。徐々に焦点が結ばれて、彼女の視線が雷砂の上に戻ってくる。
だが、戻ってきてからしばらくの間、彼女は口を開こうとしなかった。
雷砂もせかすようなことはせずに、ただ待つ。まっすぐに、少女を見つめたまま。
少女もまた、雷砂をまっすぐに見つめていた。
そして、ゆっくりと一度だけ瞬きをし、それから小さな声で、言葉を紡ぎ始めた。
「貴方の相は王者の相で貴方の星は、とても大きい。貴方は強く、何者にも負けない心を持っていて、進む道の先には栄光が見えます」
少女の抑揚のない声は、淡々と雷砂を称え言祝いだ。
後ろで、リインが小さくすごいと呟き、雷砂も過分なほめ言葉に軽く目を見開く。
だが、少女の言葉はまだ続いていた。
「ですが、貴方の光は強すぎて、闇をも引き寄せる。引き寄せられた闇は貴方の光を弱め、取り込むために、周囲の者へも手を伸ばすでしょう」
「……どういう、ことだ?」
「このままでは、貴方はいずれ、周囲の者に不幸をもたらす。貴方が大切に思う者ほど闇は深く執着し、より強い不幸を与えることでしょう。それを防ぐ方法は唯一……」
「うそ!そんなのはでたらめ!!」
「リイン!?」
少女の言葉を聞き続けることが我慢できなかったようにリインが叫び、その腕の中に雷砂を抱きしめた。
まるで少女の言葉から、雷砂を守るように。
雷砂は驚いたようにリインを見つめ、少女は夢から覚めたように素の表情に戻っていた。
そして、怒りの眼差しを向けるリインを、戸惑ったように見つめた。
「あ、あの……私……」
「雷砂、信じちゃダメ!こんなの、インチキに決まってる!!」
「リイン。オレは大丈夫だから落ち着いて?」
「でも……」
「大丈夫だ。だから、ちょっと離れて待ってて?すぐに、行くから」
「……わかった。待ってる」
「ありがとう。すぐにいく。そしたら、デートの続きな?」
リインの背中をそっと押して、少女の店から引き離した後、雷砂は再び少女へと目を向けた。
その眼差しを受けた少女が、おびえたようにびくりと震え、そんな少女の反応に雷砂はちょっと困ったように微笑んで、
「気にしなくていい。君は素直に占っただけだ。そうだろ?堂々としていていいんだ。さて、お代は?いくら?」
言いながら、雷砂は胸元からお金の入った皮袋を取り出した。
そんな雷砂の態度と言葉に、少女は驚いたように目を見開く。
「あの、怒らないんですか?変な占いをしてって」
「どうして?怒る必要なんてないだろ?君はただ占っただけなんだから。結果ばかりはどうしようもないことだしな。……もしかして怒られたことが、あるのか?」
「……はい。望まない答えを、ほしがらないお客様は多いですから」
「そうか。それは災難だったな」
雷砂は心を込めてそう答え、代金を提示しない少女の手の平に、銀貨を一枚握らせた。
「あ、あの。これじゃあ、もらいすぎです!!」
「いいよ。それだけの価値がある占いだったと思うから。ねえ、さっきいいかけた唯一の方法って……」
「え?」
「……いいや。なんでもない。占い、ありがとな。君が怒られるのは、君が正直でまじめに占ってるからだ。大変だとは思うけど、恥じるようなことじゃない。むしろ誇って良いことだと、オレは思うな」
その言葉と雷砂の眼差しに、少女はなんともいえない表情で俯くと、雷砂の視線から逃れるようにローブのフードを深くかぶった。
そんな彼女を見ながら、雷砂は言葉を紡ぐ。
「なんだ。隠しちゃうのか?せっかくきれいな髪なのに」
「……そんなの、嘘です。わたしの髪も目もぜんぜんきれいなんかじゃない」
「そうかな?オレは好きだけどな、君の髪と目の色。すごく、優しい色だ」
雷砂は心からそう言ったが、少女から返ってくる言葉はなく、リインを待たせていることもあり、雷砂は少女の返事をそれ以上待つことなく静かにきびすを返した。
そしてそのまま、ゆっくりとした足取りで、自分を待つリインの元へと振り返ることなく歩いていった。
振り返らなかった雷砂は知らない。
雷砂を占った少女が、胸を押しつぶすような罪悪感にその瞳を涙で濡らしていたことを。
胸を押さえ、うずくまったまま少女は思う。
占いの結果を悪くねじ曲げて伝えるように言われたのは事実。
だが、あの占いの結果は紛れもなく本当だった。
だから。
「……私は、悪くない」
少女は呟く。その事実を、確かめるように。
「私は悪くない。悪くない。悪くない……」
その言葉を何度も何度も繰り返した。己に言い聞かせるように、何かに祈るように。
少女は顔を上げ、雑踏に消えゆく黄金色の髪を見る。
その瞬間、さっき貰った優しい言葉が脳裏をよぎった。
『オレは、好きだけどな。……すごく、優しい色だ』
今まで、この仕事を始めてからそんな風に優しい言葉をかけて貰ったことなど無かった。
新米の辻占い師の元を訪れるのは、耳障りのいい言葉を求める遊び半分の者ばかり。
少女の伝える真実が相手の意に叶うことなど、本当に数えるほどしか無かったから。
怒りの言葉や冷たい言葉ばかりを浴びて過ごしていた少女にとって、雷砂の言葉は優しい春の日だまりのような暖かさを感じさせてくれた。
それなのに。
結果として、伝えた事はまごうことなき自実。
だが、少女が雷砂を陥れようとしたのも真実。
その誤魔化しようの無い罪悪感が少女の胸を締め付けた。
「……私は、悪くない」
少女は力なく呟く。
「でも、貴方だって、何も悪くないのに……」
涙が再び溢れ、やせた頬を濡らす。
少女は雷砂の消えた人混みを哀しげな瞳で見つめながら、
「……ごめんなさい」
まるですすり泣くように、小さく小さく呟いた。
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空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
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