龍は暁に啼く

高嶺 蒼

文字の大きさ
上 下
57 / 248
第一部 幸せな日々、そして旅立ち

第六章 第八話

しおりを挟む
 また、人が消えたのだと、ガレスは言っていた。
 新たな人が消えたのは昨日。
 それ以降、彼に関する情報も、彼の遺体も上がってはいない。その商人は、前に消えた二人と同じく忽然と姿を消してしまった。
 セイラ達、旅芸人の一座の件も、商人三人の件も、全部村祭りの準備が始まってからの短い期間におきた。偶然にしては、すこし不自然に感じる。
 だが、今のところ手がかりは何も上がってないらしい。

 雷砂はとりあえず、昨日起きた商人の失踪事件についての詳細をガレスに聞き、それからその足を村長邸へと向けた。
 詳細といえるほどの情報もまだ無いのだ。
 いなくなった商人は、家人との打ち合わせをすっぽかし、そのまま帰って来なかった。その前にあった他の商人達との会合には参加し、特に不自然な様子はなかったようだ。
 おそらく、その会合から、宿へ戻る途中に何かあったのだろう。その何かが分からない。

 オレに何が出来るだろうー足早に村長の家に向かいながらそう自問する。
 やれる事といっても、ガレスのやっている事の補足程度の事しか出来ないだろうと思う。
 なるべくこの村に顔を出し、ガレス達が中々足をのばせない村の外れや村の外を見まわるー出来ることといったらそれくらいだ。だが、やらないよりはいいだろう。
 その申し出をする為に、雷砂は村長の元へ急いでいる。ついでに何か新たな情報があればいいと思いながら。

 目的地へ小走りに向かう途中、商店が立ち並ぶ辺りに通りかかると、なぜか村人達から次々に声がかかった。
 内容はほぼ同じ。村長が雷砂を捜してるとの伝言。
 声をかけてくれた村人それぞれに、雷砂は短いながらも律儀に返事を返し、眩い微笑みを投げかけて駆け抜けていく。
 雷砂の微笑みを受けたものは皆一様にうっとりとして頬を染めるのだった。老若男女、まるで関係なく。

 ほどなくして。
 雷砂は大きな門の前に立っていた。村長の家の門だ。小さな村の村長ではあったが、この一族は代々村長を務めていて、家はそれなりに裕福だった。邸宅のある敷地も広い。雇っている使用人もこんな田舎にしては多かった。
 雷砂は閉じた門の前に立ち、周囲を見回す。いつもなら、顔なじみの門番がいるはずだが、今日は姿が見えない。
 どうしたんだろう……そう考えながら、もう一度見回すと、屋敷の方から見慣れた男が走ってきた。

 「申し訳ない、ちょっと用足しをしていて……ん?雷砂か。旦那様に用事なのか?」

 男は親しげにそう言って、雷砂が何も答えないうちに通用門のカギを開けて通してくれた。
 礼を言い、玄関へ向かう。
 玄関で、来客を告げるベルを鳴らすと、この屋敷の万事を取り仕切っているゼフという老執事が扉を開けてくれた。
 彼も、雷砂が何も言う前に中に入るよう促し、

 「よく来たね、雷砂。旦那様は書斎にいらっしゃるよ」

 にっこり笑ってそう言った。それから、普通の子供にするように皺深い手で雷砂の髪を優しく撫で、


 「用事が終わったら厨房においで。何か甘いものを用意しておくように言っておくから。お茶をしていく時間はあるかい?」

 「少しなら平気」

 「それは良かった。なら、お嬢様と一緒にお茶を頂くといい。甘いものはお茶と一緒に出すように言っておこう。それでいいかな?」

 「ああ。ミルの様子は見ていこうと思っていたから。元気にしてるかな?」

 「大丈夫。ああ見えて、お嬢様は強いお方だからね。今日は反省して大人しくしていらっしゃるが、元気にしておられるよ」

 「良かった」


 そう言ってほっと息をついた。老執事は、そんな雷砂の様子を微笑ましげに見つめ、それから、

 「さ、旦那様の所へ。雷砂の事を待っていらっしゃるよ」

 そう促した。
 雷砂は頷き、書斎へと向かう。
 その後姿を、老執事は少し痛ましそうに見守っていた。
 彼にとっての雷砂はただの子供だった。周りより能力があるゆえに早く大人にならざるを得なかった、ただの子供。
 そんな子供に頼らざるを得ない状況が腹立たしかったし、頼られる事を当然として受け入れ、更に子供の時間をすり減らすあの少女が哀れだった。

 「早く色々な事が落ち着いて、あの子が無邪気に遊べるようになればいいのだがね」

 そんな事を呟きながら、午後のお茶の指示を与える為、老人は一人厨房へと向かうのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。 ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。 下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。 幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない! 「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」 「兵士の武器の質を向上させる!」 「まだ勝てません!」 「ならば兵士に薬物投与するしか」 「いけません! 他の案を!」 くっ、貴族には制約が多すぎる! 貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ! 「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」 「勝てば正義。死ななきゃ安い」 これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

処理中です...