35 / 248
第一部 幸せな日々、そして旅立ち
第五章 第三話
しおりを挟む
もう、何日もあの顔を見ていない。
神様が作り出した奇跡の様に綺麗な顔。
ミルファーシカがそう言って誉めると、雷砂はいつも苦笑いを浮かべて、それでもちゃんと「ありがとう」と言って彼女の頭を撫でてくれる。
雷砂が容姿を誉められることを苦手としていることは知っていたが、いつもどうしても口をついて出てしまうのだ。
もちろん悪気はない。
雷砂もその事はきちんと分かってくれていて、だけどやっぱり苦手だから誉められる度に困ったように苦笑いを浮かべていた。
だが、決してミルファーシカを避けることはなく、いつも真っ直ぐに向き合ってくれる。
綺麗で、優しくて、強くて。
ミルファーシカは言葉では言い尽くせ無いくらい、雷砂の事が大好きだった。
その雷砂に、ここしばらく会うことが出来ないでいる。
数日前、雷砂が村に来ていると聞いて喜び勇んで探しに出かけたが見つけることが出来なかった。
その日、雷砂は大変な事に巻き込まれたようだが、その詳細はよく分からない。
村長である父親に訪ねてみたが教えてくれなかったのだ。
そして翌日。
雷砂はどうやら父に呼び出されて村に来ていたようなのだが、学問所に行っていた彼女はその来訪を知る統べなく、会うこと叶わなかった。
娘がどれだけ雷砂を好きか知っているはずなのに、全く腹立たしいくらいに気の利かない父親だ。
余りに腹が立ったのでその日一日、ミルファーシカは父と口をきいてあげなかった。
それから数日は我慢した。
学問所での勉強もあったし、友人達とのつき合いもあったから。
だが、よく我慢できたと思う。
会えそうで会えなかったというのは、思ったよりもキツかった。
そして今日。待ちに待った休息日。
ミルファーシカは、とっておきの笑顔でおねだりした。草原まで雷砂に会いに行きたい、と。
しかし。
いつもであれば、二つ返事でお願いを聞いてくれる父が、どんなに頼んでも頷いてくれなかった。
理由を聞いても、祭り準備で村が騒がしいからとしか教えてくれない。
まるで納得できず、朝食の間中、父と口を聞かなかった。
その後、父は何とも情けない顔をして、後ろ髪引かれる様子で仕事に出て行った。
ミルファーシカは、女中に付き添われて部屋に戻ってから、ずっと窓の外をぼーっと眺めてた。
抜け出してしまおうかとも考えたが、部屋の外にはずっと人の気配がする。
父に言い含められた使用人が交代で見張っているのだろう。
通常の手段で抜け出すのは難しい。
窓は見張られていないようだが、彼女の部屋は二階にある。誰の助けもなく抜け出すのは彼女には無理だ。
ため息をつく。
雷砂が忍んできてくれないかと、決してあり得ない事を考えながら外を眺めていると、よく見知った顔が窓の外を通るのを見た。
一つ下の幼友達、キアルだ。
彼は、母親と二人暮らしで貧しく、よくミルファーシカの家の庭師の手伝いをして小遣い稼ぎをしているのだ。
彼の姿を認めた瞬間、ミルファーシカは窓を開けはなって、幼友達の名前を呼んでいた。
名を呼ばれ、しばらく声の在処を探してきょろきょろした後、キアルはミルファーシカの部屋を見上げてニッコリ笑った。
「ミル」
彼女の愛称で呼びかけ、窓の真下にやってくる。
ミルファーシカは、彼の身軽で俊敏そうな姿と自分の部屋の窓の側まで張り出した木の枝を見比べ、
「ねぇ、キアル。お願いがあるんだけど」
そう切り出すと、彼が決して断らないだろうと言うことを確信しながら、とっておきの笑顔で愛らしく微笑んだ。
神様が作り出した奇跡の様に綺麗な顔。
ミルファーシカがそう言って誉めると、雷砂はいつも苦笑いを浮かべて、それでもちゃんと「ありがとう」と言って彼女の頭を撫でてくれる。
雷砂が容姿を誉められることを苦手としていることは知っていたが、いつもどうしても口をついて出てしまうのだ。
もちろん悪気はない。
雷砂もその事はきちんと分かってくれていて、だけどやっぱり苦手だから誉められる度に困ったように苦笑いを浮かべていた。
だが、決してミルファーシカを避けることはなく、いつも真っ直ぐに向き合ってくれる。
綺麗で、優しくて、強くて。
ミルファーシカは言葉では言い尽くせ無いくらい、雷砂の事が大好きだった。
その雷砂に、ここしばらく会うことが出来ないでいる。
数日前、雷砂が村に来ていると聞いて喜び勇んで探しに出かけたが見つけることが出来なかった。
その日、雷砂は大変な事に巻き込まれたようだが、その詳細はよく分からない。
村長である父親に訪ねてみたが教えてくれなかったのだ。
そして翌日。
雷砂はどうやら父に呼び出されて村に来ていたようなのだが、学問所に行っていた彼女はその来訪を知る統べなく、会うこと叶わなかった。
娘がどれだけ雷砂を好きか知っているはずなのに、全く腹立たしいくらいに気の利かない父親だ。
余りに腹が立ったのでその日一日、ミルファーシカは父と口をきいてあげなかった。
それから数日は我慢した。
学問所での勉強もあったし、友人達とのつき合いもあったから。
だが、よく我慢できたと思う。
会えそうで会えなかったというのは、思ったよりもキツかった。
そして今日。待ちに待った休息日。
ミルファーシカは、とっておきの笑顔でおねだりした。草原まで雷砂に会いに行きたい、と。
しかし。
いつもであれば、二つ返事でお願いを聞いてくれる父が、どんなに頼んでも頷いてくれなかった。
理由を聞いても、祭り準備で村が騒がしいからとしか教えてくれない。
まるで納得できず、朝食の間中、父と口を聞かなかった。
その後、父は何とも情けない顔をして、後ろ髪引かれる様子で仕事に出て行った。
ミルファーシカは、女中に付き添われて部屋に戻ってから、ずっと窓の外をぼーっと眺めてた。
抜け出してしまおうかとも考えたが、部屋の外にはずっと人の気配がする。
父に言い含められた使用人が交代で見張っているのだろう。
通常の手段で抜け出すのは難しい。
窓は見張られていないようだが、彼女の部屋は二階にある。誰の助けもなく抜け出すのは彼女には無理だ。
ため息をつく。
雷砂が忍んできてくれないかと、決してあり得ない事を考えながら外を眺めていると、よく見知った顔が窓の外を通るのを見た。
一つ下の幼友達、キアルだ。
彼は、母親と二人暮らしで貧しく、よくミルファーシカの家の庭師の手伝いをして小遣い稼ぎをしているのだ。
彼の姿を認めた瞬間、ミルファーシカは窓を開けはなって、幼友達の名前を呼んでいた。
名を呼ばれ、しばらく声の在処を探してきょろきょろした後、キアルはミルファーシカの部屋を見上げてニッコリ笑った。
「ミル」
彼女の愛称で呼びかけ、窓の真下にやってくる。
ミルファーシカは、彼の身軽で俊敏そうな姿と自分の部屋の窓の側まで張り出した木の枝を見比べ、
「ねぇ、キアル。お願いがあるんだけど」
そう切り出すと、彼が決して断らないだろうと言うことを確信しながら、とっておきの笑顔で愛らしく微笑んだ。
0
お気に入りに追加
190
あなたにおすすめの小説
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~
クロン
ファンタジー
転生したら貴族の長男だった。
ラッキーと思いきや、未開地の領地で貧乏生活。
下手すれば飢死するレベル……毎日食べることすら危ういほどだ。
幸いにも転生特典で地球の物を手に入れる力を得ているので、何とかするしかない!
「大変です! 魔物が大暴れしています! 兵士では歯が立ちません!」
「兵士の武器の質を向上させる!」
「まだ勝てません!」
「ならば兵士に薬物投与するしか」
「いけません! 他の案を!」
くっ、貴族には制約が多すぎる!
貴族の制約に縛られ悪戦苦闘しつつ、領地を開発していくのだ!
「薬物投与は貴族関係なく、人道的にどうかと思います」
「勝てば正義。死ななきゃ安い」
これは地球の物を駆使して、領内を発展させる物語である。
神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。
そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは?
そこで彼は思った――もっと欲しい!
欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果――
※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!
夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ)
安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると
めちゃめちゃ強かった!
気軽に読めるので、暇つぶしに是非!
涙あり、笑いあり
シリアスなおとぼけ冒険譚!
異世界ラブ冒険ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる