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第2章
065 異世界版遠距離通信(9)
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ロール型用紙の壁は高かった・・・。
目の前にあるのは、試作品5個。
何度も色々トライしたのだが、どうしてもロールにならないのだ。
実家のファックスもロール式感熱紙からA4サイズの普通の紙に数年前に変わっていたし、考えてみたら最近あまりロールに縁が無かった。
紙と云う品質に集中するとロールがあちこちでくっついてしまってちゃんと紙が出て来ない。
かといって、紙がつかないことに集中すると紙の質が悪く、場所によってはトイレットペーパーもどきになってしまった。
難しい。
ノートがそこそこ簡単に出来たから大丈夫だと思ったんだけどねぇ。
やはり仕事でほぼ毎日使ってきたノートとここ数年触っていないロールとでは馴染みの深さが違ったか。
しかも、ノートはページが2枚くっついていても大して問題は無いが、ロールは一か所貼りついたらそれでロールが動かなくなっちゃうし。
使えん。
これじゃあ、魔術院の学生にバイトで創ってもらうというのも無理だろう。
やっぱり、A4タイプの紙を足す方式にするか。
だとしたら、掲示板一杯に文字が溜まってからプリントする感じにしたい。
全国の村や街から連絡が来るって云うのに、それに一枚ずつ用紙を使っていたらきりが無い。
だけど、そうとしたらどうしても前の人の通信の文字がどこで終わっているかを何らかの手段で認識して、そこの下から次の文字が出てくる感じにならないといけないんだよなぁ。
頭が痛い・・・。
◆◆◆
「だぁ~!私はこれを大量に作る気は無いんだ! 誰にでも作れるようにしないと」
製品開発なんてした事が無かったのだが、これって奥が深いのね。
まあ、当然と言えば当然な話だけど。
機能だけ考えれば良い訳ではない。
作る労力や素材、使い勝手とか想定外の利用状況におけるバグの事とかも前もって考えておく必要がある。
トイレットペーパーもどきなロールに挫折して製品デザインを考え直した私だが、これはもう一つ重要な事を考えさせた。
誰が創るのか。
王宮で使う本体はいい。
一個もしくは、地方毎に一個だから多くても5つ程度だろう。
だが、地方の村や町に提供する端末の方は膨大な数になる。
それだけの数をフォローするだけの人員を王宮が本当に割く気があるのかは知らないが、可能性としては魔術院の魔術師全員で維持している対魔物結界と同等の数になるかもしれないのだ。
そんな物を私一人で創るなんて無理だし、無理じゃなくっても嫌だ。
平民の生活向上へ協力は惜しまないし、情報の共有化で農業や流通が盛んになるのは大歓迎だけど、他の人の幸せの為に私の人生を犠牲にするような聖人でもない。
としたら。
比較的簡単に作れる物にしないといけない。
だとしたら、これも基本的に普通の職人でも作れる魔具にしようかな。
共鳴効果のある魔石がなければ機能しないから、これを魔術師が創って、ハードの方は職人に作らせれば良い。
ボード用の板はツルツル仕様の白っぽい金属板でいいはず。
まあ、どうしても不都合があるようだったら私が大量に創ってもいいし。
単に平らなボードを大量生産するだけなら大した手間じゃないと思う。
コストカットしたければ職人の皆さんが自分で工夫すれば良い。
と云う事で、出来るだけ端末の構造と魔法陣は単純な作りにしないといけない。
魔力のこもったマジックマーカーは魔術師じゃなきゃ作れないが、これはかなり単純な作りだからそれこそ魔術院の学生がバイトで創れる。
色々問題点とかをちゃんと考えて解決策を前もって考えようとすると、どんどん本体の方が複雑になっていくんだよねぇ・・・。
まあ、大量に創る必要がある端末のを簡単に製造出来る様にして、少数にしか作らない本体に複雑な機構を組み込む方が効率的でもあるんだろうけど。
おかげで、益々あちこちで躓いている感じだ。
・・・疲れた。
ケーキでも食べに行って、気分転換でもしよう。
◆◆◆
「おお~~! ショートケーキじゃない!」
ミズバンの店に甘い物をせびりに来た私を迎えてくれたのは、シュークリームとショートケーキだった。
イチゴのシーズンがそこそこ短いから、いつでも食べられるという物じゃないんだよね、これ。
ふふふ~。
まあ、日本の本格的なスイーツのような蕩ける美味しさはないけど、でもこれはこれで十分美味しい。
うん、やっぱりイチゴやフルーツをもっと手軽に食べられるように、温室農業に参加しなくっちゃね。
さっさと遠距離掲示板にけりをつけて、デザートのバラエティを増やすことに貢献しよう!
「それ全部食べるの?!」
更に詰まれたショートケーキとシュークリームとプリンを見て、シャルノが目を丸くした。
「ストレス溜まってんのよ。ちょっと軽い思いつきで始めたことが、思った以上に人気が出ちゃって興味も無いのに大掛かりな魔具を創る羽目になっちゃって」
お茶を注ぎながらシャルノが肩を竦めた。
「興味が無いんだったら出来ませんって言えば良いじゃない」
「何人かの人間が出来ることだったらやりたくなければ断れるんだけど、私以外の人間には創れないんだろうなぁ~と思うと、何とはなしに断りにくくって。それなりに人の為になる物が出来あがるはずだし」
「善人ねぇ」
「良い人って私のデフォな状態じゃないから、余計ストレスが溜まってんのよ~。でも、これで甘いもの食べすぎで吹き出物が出たら、投げ出してやる」
◆◆◆
「遅くなりまして」
結局、10日程かかった。
最終像への見通しの足りなさが祟って、何カ所か折角出来上がった機能を作り直す羽目になったのが響いた。
そこそこしょっちゅうストレス解消に甘いものの馬鹿食いしたが、結局吹き出物は発生せず。
流石特注製チートな体だ。
ま、それはともかく。
会社勤めしていた頃は、計画だけ練るのが好き実際の仕事を殆どやろうとしない課長を密かに馬鹿にしていたのだが、今回の魔具開発は計画の重要性がずっしりと理解できた経験だった。
会社の時は、クライアントとか上の思いつきでしょっちゅう企画が変わる状況で、完璧な最終点までの計画にあれ程時間を掛けるなんて時間の無駄だったかもしれないが、実際に作業を進めてしまってからそのルートでは最終目的ポイントまでたどり着けないと分かるのなんて更に馬鹿な時間の浪費だ。
どうせこの世界で私が新しく持ち込む考え方から派生している魔具なら、殆ど横槍なぞ入らないはずだ。
今度からはもっと、しっかり最終目的までの設計図を頭の中で描いてから動く事にしよう。
「いえいえ、多数の地点とお遠距離連絡なんて、さぞ、難しい事でしょう。お疲れ様でした」
和やかにカルダールが返事をかえした。
ま、あまり期待してなかったのかもね。
此方からの情報の発信はかなり早い段階で目処がついて、試作品を見せてたし。
「こんな感じになりました」
改善バージョン遠距離掲示板を取り出して見せた。
地方用の端末をサンプルとして2つ。
ペーパートレーが2つ付いている。
「本体は、此方の大きな部分にこちらの用紙とペンで書いた全国へ送る原稿を貼ってください。勿論、直接このペンで書き込んでも大丈夫ですが、原稿を貼るだけでちゃんと共鳴させて地方の掲示板へ発信させたい場合は普通の羊皮紙に書いてでは無理です。
こちらの紙は魔力を多めに通すと元の白紙状態に戻りますので、この用紙の束が減ってきたら王宮魔術師か私に紙のリセットを頼んで下さい。
同じ紙で地方から伝えられてきた情報もプリントできます。
用紙1枚分になったらチャイム音がしますので、この紙を掲示板の上に乗せてこのボタンを押して下さい。
送られてきた情報が印刷されます。
印刷しないとそれ以上の情報が受信され無いので、気をつけて下さいね」
結局、ロールを作れなかった事で紙の自動フィードがどうしても出来ず、印刷そのものは手動でやってもらう事にした。
やっぱ、印刷する分だけ情報が溜まったのを認識したらA4の紙を動かして印刷させるなんて、無理。
モーターの無い世界で、どうやって紙を動かせば良いのかどれだけ悩んでも分からなかった。
ロールのだったら印刷の動きに合わせて回すと云うのが可能そうな感じだったんだけど。
まあ、A4用紙を動かすのだって、絶対に不可能って云う訳じゃあ無いだろうが、疲れちゃったんだよね。
どうせ、これだけ人的労働力に偏った世界で、無理に全自動になんてする必要も無いし。
代わりに、紙は究極のエコなリサイクル専用にした。
これえで、紙を沢山創る必要が無くなる。
と云う事で、私は逃げる!
ちゃちゃっと使い方をカルダールに見せて、後はID用の魔石を大量に創ることになる魔術院側の人間に任せて、私はさっさと姿を消した。
一応魔術院の特許課(いつの間にかそんな部署が出来ていた)に機能とか創り方とかじっくり説明してあるから、あとは任せて大丈夫でしょう。
目の前にあるのは、試作品5個。
何度も色々トライしたのだが、どうしてもロールにならないのだ。
実家のファックスもロール式感熱紙からA4サイズの普通の紙に数年前に変わっていたし、考えてみたら最近あまりロールに縁が無かった。
紙と云う品質に集中するとロールがあちこちでくっついてしまってちゃんと紙が出て来ない。
かといって、紙がつかないことに集中すると紙の質が悪く、場所によってはトイレットペーパーもどきになってしまった。
難しい。
ノートがそこそこ簡単に出来たから大丈夫だと思ったんだけどねぇ。
やはり仕事でほぼ毎日使ってきたノートとここ数年触っていないロールとでは馴染みの深さが違ったか。
しかも、ノートはページが2枚くっついていても大して問題は無いが、ロールは一か所貼りついたらそれでロールが動かなくなっちゃうし。
使えん。
これじゃあ、魔術院の学生にバイトで創ってもらうというのも無理だろう。
やっぱり、A4タイプの紙を足す方式にするか。
だとしたら、掲示板一杯に文字が溜まってからプリントする感じにしたい。
全国の村や街から連絡が来るって云うのに、それに一枚ずつ用紙を使っていたらきりが無い。
だけど、そうとしたらどうしても前の人の通信の文字がどこで終わっているかを何らかの手段で認識して、そこの下から次の文字が出てくる感じにならないといけないんだよなぁ。
頭が痛い・・・。
◆◆◆
「だぁ~!私はこれを大量に作る気は無いんだ! 誰にでも作れるようにしないと」
製品開発なんてした事が無かったのだが、これって奥が深いのね。
まあ、当然と言えば当然な話だけど。
機能だけ考えれば良い訳ではない。
作る労力や素材、使い勝手とか想定外の利用状況におけるバグの事とかも前もって考えておく必要がある。
トイレットペーパーもどきなロールに挫折して製品デザインを考え直した私だが、これはもう一つ重要な事を考えさせた。
誰が創るのか。
王宮で使う本体はいい。
一個もしくは、地方毎に一個だから多くても5つ程度だろう。
だが、地方の村や町に提供する端末の方は膨大な数になる。
それだけの数をフォローするだけの人員を王宮が本当に割く気があるのかは知らないが、可能性としては魔術院の魔術師全員で維持している対魔物結界と同等の数になるかもしれないのだ。
そんな物を私一人で創るなんて無理だし、無理じゃなくっても嫌だ。
平民の生活向上へ協力は惜しまないし、情報の共有化で農業や流通が盛んになるのは大歓迎だけど、他の人の幸せの為に私の人生を犠牲にするような聖人でもない。
としたら。
比較的簡単に作れる物にしないといけない。
だとしたら、これも基本的に普通の職人でも作れる魔具にしようかな。
共鳴効果のある魔石がなければ機能しないから、これを魔術師が創って、ハードの方は職人に作らせれば良い。
ボード用の板はツルツル仕様の白っぽい金属板でいいはず。
まあ、どうしても不都合があるようだったら私が大量に創ってもいいし。
単に平らなボードを大量生産するだけなら大した手間じゃないと思う。
コストカットしたければ職人の皆さんが自分で工夫すれば良い。
と云う事で、出来るだけ端末の構造と魔法陣は単純な作りにしないといけない。
魔力のこもったマジックマーカーは魔術師じゃなきゃ作れないが、これはかなり単純な作りだからそれこそ魔術院の学生がバイトで創れる。
色々問題点とかをちゃんと考えて解決策を前もって考えようとすると、どんどん本体の方が複雑になっていくんだよねぇ・・・。
まあ、大量に創る必要がある端末のを簡単に製造出来る様にして、少数にしか作らない本体に複雑な機構を組み込む方が効率的でもあるんだろうけど。
おかげで、益々あちこちで躓いている感じだ。
・・・疲れた。
ケーキでも食べに行って、気分転換でもしよう。
◆◆◆
「おお~~! ショートケーキじゃない!」
ミズバンの店に甘い物をせびりに来た私を迎えてくれたのは、シュークリームとショートケーキだった。
イチゴのシーズンがそこそこ短いから、いつでも食べられるという物じゃないんだよね、これ。
ふふふ~。
まあ、日本の本格的なスイーツのような蕩ける美味しさはないけど、でもこれはこれで十分美味しい。
うん、やっぱりイチゴやフルーツをもっと手軽に食べられるように、温室農業に参加しなくっちゃね。
さっさと遠距離掲示板にけりをつけて、デザートのバラエティを増やすことに貢献しよう!
「それ全部食べるの?!」
更に詰まれたショートケーキとシュークリームとプリンを見て、シャルノが目を丸くした。
「ストレス溜まってんのよ。ちょっと軽い思いつきで始めたことが、思った以上に人気が出ちゃって興味も無いのに大掛かりな魔具を創る羽目になっちゃって」
お茶を注ぎながらシャルノが肩を竦めた。
「興味が無いんだったら出来ませんって言えば良いじゃない」
「何人かの人間が出来ることだったらやりたくなければ断れるんだけど、私以外の人間には創れないんだろうなぁ~と思うと、何とはなしに断りにくくって。それなりに人の為になる物が出来あがるはずだし」
「善人ねぇ」
「良い人って私のデフォな状態じゃないから、余計ストレスが溜まってんのよ~。でも、これで甘いもの食べすぎで吹き出物が出たら、投げ出してやる」
◆◆◆
「遅くなりまして」
結局、10日程かかった。
最終像への見通しの足りなさが祟って、何カ所か折角出来上がった機能を作り直す羽目になったのが響いた。
そこそこしょっちゅうストレス解消に甘いものの馬鹿食いしたが、結局吹き出物は発生せず。
流石特注製チートな体だ。
ま、それはともかく。
会社勤めしていた頃は、計画だけ練るのが好き実際の仕事を殆どやろうとしない課長を密かに馬鹿にしていたのだが、今回の魔具開発は計画の重要性がずっしりと理解できた経験だった。
会社の時は、クライアントとか上の思いつきでしょっちゅう企画が変わる状況で、完璧な最終点までの計画にあれ程時間を掛けるなんて時間の無駄だったかもしれないが、実際に作業を進めてしまってからそのルートでは最終目的ポイントまでたどり着けないと分かるのなんて更に馬鹿な時間の浪費だ。
どうせこの世界で私が新しく持ち込む考え方から派生している魔具なら、殆ど横槍なぞ入らないはずだ。
今度からはもっと、しっかり最終目的までの設計図を頭の中で描いてから動く事にしよう。
「いえいえ、多数の地点とお遠距離連絡なんて、さぞ、難しい事でしょう。お疲れ様でした」
和やかにカルダールが返事をかえした。
ま、あまり期待してなかったのかもね。
此方からの情報の発信はかなり早い段階で目処がついて、試作品を見せてたし。
「こんな感じになりました」
改善バージョン遠距離掲示板を取り出して見せた。
地方用の端末をサンプルとして2つ。
ペーパートレーが2つ付いている。
「本体は、此方の大きな部分にこちらの用紙とペンで書いた全国へ送る原稿を貼ってください。勿論、直接このペンで書き込んでも大丈夫ですが、原稿を貼るだけでちゃんと共鳴させて地方の掲示板へ発信させたい場合は普通の羊皮紙に書いてでは無理です。
こちらの紙は魔力を多めに通すと元の白紙状態に戻りますので、この用紙の束が減ってきたら王宮魔術師か私に紙のリセットを頼んで下さい。
同じ紙で地方から伝えられてきた情報もプリントできます。
用紙1枚分になったらチャイム音がしますので、この紙を掲示板の上に乗せてこのボタンを押して下さい。
送られてきた情報が印刷されます。
印刷しないとそれ以上の情報が受信され無いので、気をつけて下さいね」
結局、ロールを作れなかった事で紙の自動フィードがどうしても出来ず、印刷そのものは手動でやってもらう事にした。
やっぱ、印刷する分だけ情報が溜まったのを認識したらA4の紙を動かして印刷させるなんて、無理。
モーターの無い世界で、どうやって紙を動かせば良いのかどれだけ悩んでも分からなかった。
ロールのだったら印刷の動きに合わせて回すと云うのが可能そうな感じだったんだけど。
まあ、A4用紙を動かすのだって、絶対に不可能って云う訳じゃあ無いだろうが、疲れちゃったんだよね。
どうせ、これだけ人的労働力に偏った世界で、無理に全自動になんてする必要も無いし。
代わりに、紙は究極のエコなリサイクル専用にした。
これえで、紙を沢山創る必要が無くなる。
と云う事で、私は逃げる!
ちゃちゃっと使い方をカルダールに見せて、後はID用の魔石を大量に創ることになる魔術院側の人間に任せて、私はさっさと姿を消した。
一応魔術院の特許課(いつの間にかそんな部署が出来ていた)に機能とか創り方とかじっくり説明してあるから、あとは任せて大丈夫でしょう。
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もし機会があったら続きお待ちしてます。
なろうで読んでました。再度読み直してやはり面白いなと。
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ありがとうございます。
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