異世界で自助努力に徹してます。

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
43 / 65
第2章

043 商品開発(2)

しおりを挟む
「こんにちは~」
久しぶり(と言っても、本棚をオーダーしてからまだ10日も経っていないんだけど)に家具街に足を運び、クジンの親の店に顔を覗かせる。

一人で馬を乗る自信が無かったので、今日は馬車をレンタルして来た。
いい加減、移動手段を開発しないと。帰りにでも適当な絨毯を買って空飛ぶ絨毯を創ろう。

先日ハシャーナの馬を借りて前庭で試してみたところ、ぷかぷか馬の背中の上を浮いているだけだと上手く馬をコントロールできないことが判明した。一緒に同行する人がいると、その人の馬に自発的に付いて行こうとするから問題ないんだけど、一頭だけで移動させようと思うと全くこちらの要求に応じてくれない。

つまり一人で街中を動けるようになりたかったら、ちゃんと馬に乗る方法を学ぶか、その他移動手段を創る必要がある訳だ。
私としては、下手したらノミを移されたり、蹴られたり、噛まれたりしかねない馬の乗り方を学ぶつもりはない。

機械的な移動手段は部品を創るのが難しそうだし、他の人から変な注目を集めても面倒だ。
その点、空飛ぶ絨毯だったら浮遊術そのものはそれ程難しい物じゃないから、人の注目を集めるような物じゃないと思う。
まあ、空飛ぶ絨毯で動き回っている人は見かけていないからアイディアとしては目新しいみたいだけど。創りたければ普通の魔術師でも特に問題なく作れるはずだ。

と云うことで今日は帰りに小さめの絨毯を買わないと。

そんなことを考えながら店な中を見回していたら、私を見かけたクジンが声を掛けてきた。
「あれ、フジノ殿。本棚に何か問題がありましたか?」

「あれはちゃんと想定通りの機能を果たしてくれてますよ~。
今回は、ちょっとした商品開発に協力する気がないか、提案しに来ました」
まあ、断るとは思わないけどさ。

冷蔵庫なんだ。最初のマーケティングを上手くやれば、爆発的に売れるはず。
何と言っても、日本の高度成長期の三種の神器だもんね。
・・・あれってなんだったっけ?冷蔵庫とテレビとエアコン?
テレビは放送局がなきゃ無駄だから無理としても、エアコンモドキな気温をコントロールするような何かはそのうち挑戦してみたい。

「商品開発ですか? 是非!!」
クジンがかなりの熱意をもって答えてきた。

おっしゃ。

さて。
話を店頭でするか、奥でやるか。

魔術院が今回始める特許式魔法陣の売出しの話は、別に秘密にしろとは言われていない。
商品を共同開発するとアフィーヤ長老に言った時も、機密保持について注意しろとは釘を刺されなかった。

まあ、ある意味魔術師って象牙の塔にいるから、あまりそんなことを考えていなかったのかもしれないけど。でも他の魔術師はまだしも、あの切れ者っぽいアフィーヤ女史がそんな学者バカなうっかりをするとは考えにくい。

だから一種のプレ・マーケティングみたいな感じで、話を広めるのは悪くないと考えているんだと思う。


無理に秘密にする必要はない・・・が、変な風に噂が膨れ上がって変形して流れるのも困るかもしれないな。

とりあえず、店頭で普通に話をして、後でクジンにギルドの人とかが興味を示してきたら説明会を開いてもいいと言っておくか。

「今度、魔術院の方で普通の職人にも作れる魔法陣を売り出すことにしたんです。
詳細はまだ魔術院と宰相府の方で話し合っている最中ですが、基本的に売った数に対して特許料という手数料を取る形になると思います。
その第一号の外枠に関して、生産することになる普通の職人さん達とか、買うことになる利用者達の意見を集めて試作品を作ろうと思うんだけど、手伝ってくれません?」

クジンの顔が真剣なものになった。
「一般の職人が作れる、魔法陣ですか?」

「魔法陣そのものは多分銅を使うと思うので、鍛冶屋のルワイドさんにも参加して欲しいですね。
ただ、魔具マジックアイテムって魔法陣だけじゃなくってそれを使う外枠もあるでしょう?
そっちの方の作る人の工夫とかも必要だからクインさんにも一緒に考えてもらいたいんです」

馬車から宙に浮かせて引っ張ってきた冷蔵庫を傍の机の上に置く。
「最初の魔具マジックアイテムはこの冷蔵庫の予定!」

冷蔵庫を開いて冷やしたジュースを取り出し、クジンに渡した。
「生ものは冷やせると長持ちするし、物によってはぐっと美味しくなります。裕福な家庭のキッチンとか、レストランやケーキ類の多いカフェとかに売り込めるんじゃないかと思っています」

「・・・冷たい」
恐る恐るジュースを受け取り、口に含んだクジンが驚いたように呟いた。
そのまま飲み干さず、いつの間にか傍に来ていた初老の男性(似ているからお父さんかな?)にグラスを渡す。

「このような魔具マジックアイテムを普通の職人が作れるようにするのですか?」
ゆっくりと冷やしたジュースを味わってから、その初老の男性が私に聞いてきた。

「ええ。一個売るごとに魔術院に使用料を払わなきゃいけないし、利用者も動力としての魔石を定期的に買う必要があるけど、少なくとも作る人間が魔術師である必要はないから普通の魔具マジックアイテムよりはずっと安く多数を普及出来ると思います。
基本的に現在売られているような魔術師が作る魔具マジックアイテムとは競合しない物を開発するつもりですが、他にも『有ったら便利だな』っていうような魔具マジックアイテムを思いついたらその相談も魔術院の方で受け付ける予定です」


◆◆◆


「錫では弱いから、鉄の方がいい」
ルワイドが試作品の冷蔵庫を調べながら主張した。
あの後、急遽呼びだされたルワイドと何人かの職人さんと冷蔵庫について意見を戦わせ始めた。

「ジュースとかを入れるとしたら濡れる可能性があるから鉄じゃあ錆びちゃうでしょう」
私が反対する。
・・・考えてみたら、日本の冷蔵庫では別に結露なんて無かったが、暑い部屋で物を冷やしていたら冷たいビールを入れたガラスが濡れるのと同じで、空気中の水分が結露するはず。

「あと、多分冷蔵庫の周りが結露する可能性が高いから、水を受けとめるトレーが必要かも」

私の言葉に、クジンが冷蔵庫を開けて木と金属の間に手を入れてみた。
「本当だ、湿っている」

横から冷蔵庫の脇へ手を挟み、ルワイドも唸った。
「じゃあ、鉄を錫で覆ったブリキにしよう。それなら錆びない」

へぇぇ。
ブリキのバケツやじょうろって通販のカタログで見たことあったけど、あれって鉄を錫で覆ったものなんだ。ブリキって現在でもレトロな物に使われているようだから、それなりに使い勝手がいいんだろう。

「木はニスを染み込ませて撥水性を上げておかないと腐りそうだね」
クジンが考え込む。

「気密性が高い方が冷気が逃げなくていいんだけど、下手したら木が腐るかもしれないわね。それなりに定期的に木の外箱は交換出来るようにした方がいいかも」
魔法陣は魔石さえ充電すれば何年でも使える(んだろう、多分)のだから、この冷蔵庫の寿命は極めて長いものになる。中が定期的に濡れる木が腐ったからと云って捨てて次を買う必要はないだろう。

もっとも将来の需要を考えるんだったら、買い替え需要をある程度引き起こす商品にしておく方がいいのかもしれないけど。
まあ、それはもう少し社会全体が豊かになってから考えることにしよう。

「ちなみに、この外箱の扉にバネを付けて自動的に閉まるように出来る?
開けっ放しちゃうとあっという間に魔石を使いきっちゃうから」

試作品は洋服ダンスの扉を参考に魔術で創った箱に魔法陣を付けただけの代物なので、外箱も内箱も単に蝶番で開閉するだけで、自動的に閉まる仕組みは無い。
バネを付ければ自動的に閉まるはずだと思うのだが、いまいちバネのイメージが上手くて来ていないのか、変に固いか脆いバネになってしまったのだ。
ここはプロに任せようと思って途中であきらめた。
ついでに本職のバネを見せてもらったらベッドのコイル付きマットレスを創る時にも役に立つし。

「バネ? 扉に?」

「そう。ちょっと長めのバネを押し込むような感じで蝶番の外側に付けたら、扉を閉める方向に力を加えることにならない?」
ちょっと不格好になるかもしれないが。
この世界でも、小さいバネって作れるのかなぁ。
それとも、扉を上に開ける形にして勝手に閉まる形にする方がいいか?

「嵩張りそうだったらつっかい棒を付けて、扉は上に開ける方がいいかもしれないけど。
キッチンに置くんだから、あまり場所を取るようじゃあ困ると思う」

「でも、レストランなどに売るなら、それなりのサイズが必要になります。大きな扉を上を押し上げようと思ったらかなり力が必要になりますよ?」
クジンが指摘する。

おっと。

試作品は私は部屋で飲み物を冷やすのに使うことを考えていたからコンパクトなサイズになったが、メインなターゲット層が業務用もしくは金持ちの大きな世帯となると、実はそれなりに大きく造る必要があるかもしれない。

ここら辺は本当にターゲット層に聞いてみないことには分からないなぁ。

「誰か、知り合いにレストランやカフェをやっているような人いません?それとか大きな屋敷を切り盛りしている主婦か家政婦とか」
クジンに聞いてみる。
ある意味、二番通りとはいえ、王都でそれなりの位置に店を開けるんだから、クジンの家だった実はターゲット層に入るぐらい豊かかもしれないし。

「え~と.・・・今晩の夕食の時にでも、何人か知り合いのシェフや菓子職人に話をしてみます」

「ついでだから、ここに連れてきて下さい!
日中や夜が忙しいっていうなら早朝でも良いですよ」
菓子職人~~!!
是非会いたい。

「じゃあ、俺は明日までにちょっとどんなバネが出来るかやってみる」
ルワイトが約束した。

「よろしく!」

ふふふ~。
いい感じに話がすすみそう?


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

子爵家三男だけど王位継承権持ってます

極楽とんぼ
ファンタジー
側室から生まれた第一王子。 王位継承権は低いけど、『王子』としては目立つ。 そんな王子が頑張りすぎて・・・排除された後の話。 カクヨムで先行投降しています。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...