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卒業後
1030 星暦558年 赤の月 11日 ちょっと想定外な流れ(5)
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結局、過敏《アレルギー》体質安全用魔具の製造に関しては手伝えと言われることは無いだろうとは思われるものの、一応実家の方にそれとなくアレクが確認した方が良いだろうと言うことになって、俺たちは取り敢えず新しい魔具の開発に関してはちょっと待つことにした。
なのでアレクは実家に戻り、シャルロは家でケレナやデルブ夫人やその他メイドに何か便利な魔具で欲しい物が無いかを聞いて回ることに。
何もなかったらドリアーナに押しかけて何か新しい調理用魔具のアイディアを無理やり貰っても良いし。
どうせドリアーナ関連の開発だったら賄いを貰うのが目当てなので、数を売れなくても構わないし、一番あれが気楽かも。
で、俺はちょっと盗賊《シーフ》ギルドに話を聞きに来た。
暗殺《アサッシン》ギルドに直接聞きに行くのはなんだけど、過敏《アレルギー》体質安全用魔具の効果の話が広まって更に買いたがる人間が出てきたら、そのうち毒の効果が激減しちゃったせいで恨まれる??というのを確認したいからね。
流石にシャルロを直接殺そうとする程のアホはいないと思うが、俺やアレクやアレクの家族に嫌がらせで襲撃をするぐらいの事を考える可能性はあるかも知れない。
誰も金を払っていないんだし直接依頼を阻止した訳でも無いんだから、多分殺すところまでは行かないだろう。だとしたら襲撃を受けて誰かが痛い思いをするよりも、先に金を払うなり何か魔具を差し出すなりして手を打てるか聞きたいと思ったんだよね。
で。
夕方から盗賊《シーフ》ギルドの酒場や隠れ家を見て回り、長がいる場所を見つけたので、そこに繋がる入口を兼ねた酒場に入った。
流石にね~。
『怒ってるかな?』って聞きに行く時は勝手に侵入しない方が良いかも?と言うことで今回はちゃんと声を掛けて入ろうと思ったのだ。
「長に会えるかな?」
酒場の奥で客をそれとなく見張りながら帳簿を付けているっぽい赤に声を掛ける。
「ほう?
やっと商業ギルドのパーティでの話を聞いたのか?
遅かったな」
にやりと笑いながら赤が言った。
考えてみたらこのおっさんも長の片腕として長いよなぁ。
俺がガキの頃から長もその片腕二人も顔ぶれが変わっていないんだが・・・こういうのって年を取った上層部が消える時ってちょっと無謀な若いのが挑戦して後釜に入るか何かで、次の交代までが長いものなのかね?
中途半端に年がいって経験があるのって上に勝てないと最初から諦めてて挑戦しないのかも?
「一応体質に問題がある人間に売る形にしているし、露骨に身に着けているのが分かるようにって気を使ったんだぜ?
まさかあれを着けた人間がいる会場で不特定多数に自白剤をバラまかれる様な事態が起きるとは思わなかった」
と言うか、特定の人間に自白剤を飲ませる代わりに不特定多数にばら撒き、あれを早期な事態収拾の口実に使うなんて恐ろしい事を遣ろうと思いつく人間がいるとは普通考えないだろう。
若いのが集まるヤバいパーティで混ぜる麻薬にそう言う効果があるのが含まれることはあっても不思議は無いが、商業ギルドの年初パーティなんて・・・常識的に考えたらならあり得ない。
まあ『あり得ない』って皆が思っていたから出来ちゃったんだろうけど。
「来たら通せと言われている」
すっと赤が後ろの扉を指して言った。
長も俺が来るかもって思ってたのかぁ。
その位ヤバい??
ちょっと頭が痛いな~と思いながら扉を通り、階段を降りて下へ行く。
そのまま進まずに左側にある隠し扉を開き、階段を上がって別の建物へ入った。
「久しぶりだな」
机でワインを片手に書類を見ていた長が声を掛けてきた。
「長は変わらないようですね~。
俺はもうこっちからは引退したから来る用事は無いなずなんですけど、ちょっと造った魔具の便利さが想定外に早く広まっちゃったから、どのくらい裏社会の連中に不都合が起きているのか聞いておきたいと思って」
「まあ、専門《ギルド》の人間が本格的に困る程の事ではないから、あっちはそれ程気にしてないぞ?
却ってギルドに入っていない素人の仕事がやり難くなったと微妙に喜んでいるぐらいだ」
ペンを置きながら長が笑った。
ああ~。
まあ、暗殺《アサッシン》ギルドだったら毒を使うにしても複合毒を使うとか、呼吸で吸い込むタイプを使うとか、いろいろやりようはあるからな。
単純に食事に混ぜるだけの毒ではどうせ毒味が付くような上の人間には通用しないし。
化粧品とかに混ぜて皮膚から吸収させるタイプだったらバレることが多くなるかもしれないが、貴族や豪商の女だったら化粧も自分でやるというよりはメイドや侍女にやらせるから、過敏《アレルギー》体質安全用魔具があっても毒に気付かない可能性も高いかも?
「それは良かった。
シェフィート商会が警告をかねて襲撃されても後味が悪いし」
一応売り出す前にそっちの危険性は言ってあったんだけどね。
アレク母とかは強かった。
「ある意味、一番被害を被るのは毒を素人に売りつける裏の流通業者だろうが、あいつらは去年幾つか大きい所が潰されて、まだ業界のトップ争いが終わっていないからな。
タイミングが良かった」
にやりと笑いながら長が言った。
あっちはシェフィート商会は関係ないからな。
表立って動いたのは軍部だし、俺の関与も・・・ほぼ知られていないだろう。
多分。
俺だって清早に守られているから毒を盛っても効かないし。
そう考えると、大丈夫そうかな?
「それは良かった。
ところで。
ついでにちょっとお伺いしたいんだけど、ブラグナル男爵の息子たちって裏と何か繋がりがあったりします?」
これからシェイラの友人の従姉妹を脅した兄弟の家に忍び込んで問題の手紙とかを盗んでくる予定だが、後で面倒なことになりそうなのか知っておきたい。
「あそこか?
ちんけな美人局モドキな脅迫者なんぞ、特にどことも近い関係はないぞ。
必要に応じて領地のゴロツキを何人か王都に呼び寄せて荒事をちょっとやらせている程度だ」
肩を竦めながら長が教えてくれた。
そっか。
男爵なんて貴族としては大したことは無い連中だから、王宮の中堅文官の家系かと思っていたが、田舎の領地持ちなのか。
まあ、だからこそ収入がはっきりしないから身の丈に合わない贅沢も出来てしまい、それを賄うために脅迫なんて手段に出たんだろうな。
なのでアレクは実家に戻り、シャルロは家でケレナやデルブ夫人やその他メイドに何か便利な魔具で欲しい物が無いかを聞いて回ることに。
何もなかったらドリアーナに押しかけて何か新しい調理用魔具のアイディアを無理やり貰っても良いし。
どうせドリアーナ関連の開発だったら賄いを貰うのが目当てなので、数を売れなくても構わないし、一番あれが気楽かも。
で、俺はちょっと盗賊《シーフ》ギルドに話を聞きに来た。
暗殺《アサッシン》ギルドに直接聞きに行くのはなんだけど、過敏《アレルギー》体質安全用魔具の効果の話が広まって更に買いたがる人間が出てきたら、そのうち毒の効果が激減しちゃったせいで恨まれる??というのを確認したいからね。
流石にシャルロを直接殺そうとする程のアホはいないと思うが、俺やアレクやアレクの家族に嫌がらせで襲撃をするぐらいの事を考える可能性はあるかも知れない。
誰も金を払っていないんだし直接依頼を阻止した訳でも無いんだから、多分殺すところまでは行かないだろう。だとしたら襲撃を受けて誰かが痛い思いをするよりも、先に金を払うなり何か魔具を差し出すなりして手を打てるか聞きたいと思ったんだよね。
で。
夕方から盗賊《シーフ》ギルドの酒場や隠れ家を見て回り、長がいる場所を見つけたので、そこに繋がる入口を兼ねた酒場に入った。
流石にね~。
『怒ってるかな?』って聞きに行く時は勝手に侵入しない方が良いかも?と言うことで今回はちゃんと声を掛けて入ろうと思ったのだ。
「長に会えるかな?」
酒場の奥で客をそれとなく見張りながら帳簿を付けているっぽい赤に声を掛ける。
「ほう?
やっと商業ギルドのパーティでの話を聞いたのか?
遅かったな」
にやりと笑いながら赤が言った。
考えてみたらこのおっさんも長の片腕として長いよなぁ。
俺がガキの頃から長もその片腕二人も顔ぶれが変わっていないんだが・・・こういうのって年を取った上層部が消える時ってちょっと無謀な若いのが挑戦して後釜に入るか何かで、次の交代までが長いものなのかね?
中途半端に年がいって経験があるのって上に勝てないと最初から諦めてて挑戦しないのかも?
「一応体質に問題がある人間に売る形にしているし、露骨に身に着けているのが分かるようにって気を使ったんだぜ?
まさかあれを着けた人間がいる会場で不特定多数に自白剤をバラまかれる様な事態が起きるとは思わなかった」
と言うか、特定の人間に自白剤を飲ませる代わりに不特定多数にばら撒き、あれを早期な事態収拾の口実に使うなんて恐ろしい事を遣ろうと思いつく人間がいるとは普通考えないだろう。
若いのが集まるヤバいパーティで混ぜる麻薬にそう言う効果があるのが含まれることはあっても不思議は無いが、商業ギルドの年初パーティなんて・・・常識的に考えたらならあり得ない。
まあ『あり得ない』って皆が思っていたから出来ちゃったんだろうけど。
「来たら通せと言われている」
すっと赤が後ろの扉を指して言った。
長も俺が来るかもって思ってたのかぁ。
その位ヤバい??
ちょっと頭が痛いな~と思いながら扉を通り、階段を降りて下へ行く。
そのまま進まずに左側にある隠し扉を開き、階段を上がって別の建物へ入った。
「久しぶりだな」
机でワインを片手に書類を見ていた長が声を掛けてきた。
「長は変わらないようですね~。
俺はもうこっちからは引退したから来る用事は無いなずなんですけど、ちょっと造った魔具の便利さが想定外に早く広まっちゃったから、どのくらい裏社会の連中に不都合が起きているのか聞いておきたいと思って」
「まあ、専門《ギルド》の人間が本格的に困る程の事ではないから、あっちはそれ程気にしてないぞ?
却ってギルドに入っていない素人の仕事がやり難くなったと微妙に喜んでいるぐらいだ」
ペンを置きながら長が笑った。
ああ~。
まあ、暗殺《アサッシン》ギルドだったら毒を使うにしても複合毒を使うとか、呼吸で吸い込むタイプを使うとか、いろいろやりようはあるからな。
単純に食事に混ぜるだけの毒ではどうせ毒味が付くような上の人間には通用しないし。
化粧品とかに混ぜて皮膚から吸収させるタイプだったらバレることが多くなるかもしれないが、貴族や豪商の女だったら化粧も自分でやるというよりはメイドや侍女にやらせるから、過敏《アレルギー》体質安全用魔具があっても毒に気付かない可能性も高いかも?
「それは良かった。
シェフィート商会が警告をかねて襲撃されても後味が悪いし」
一応売り出す前にそっちの危険性は言ってあったんだけどね。
アレク母とかは強かった。
「ある意味、一番被害を被るのは毒を素人に売りつける裏の流通業者だろうが、あいつらは去年幾つか大きい所が潰されて、まだ業界のトップ争いが終わっていないからな。
タイミングが良かった」
にやりと笑いながら長が言った。
あっちはシェフィート商会は関係ないからな。
表立って動いたのは軍部だし、俺の関与も・・・ほぼ知られていないだろう。
多分。
俺だって清早に守られているから毒を盛っても効かないし。
そう考えると、大丈夫そうかな?
「それは良かった。
ところで。
ついでにちょっとお伺いしたいんだけど、ブラグナル男爵の息子たちって裏と何か繋がりがあったりします?」
これからシェイラの友人の従姉妹を脅した兄弟の家に忍び込んで問題の手紙とかを盗んでくる予定だが、後で面倒なことになりそうなのか知っておきたい。
「あそこか?
ちんけな美人局モドキな脅迫者なんぞ、特にどことも近い関係はないぞ。
必要に応じて領地のゴロツキを何人か王都に呼び寄せて荒事をちょっとやらせている程度だ」
肩を竦めながら長が教えてくれた。
そっか。
男爵なんて貴族としては大したことは無い連中だから、王宮の中堅文官の家系かと思っていたが、田舎の領地持ちなのか。
まあ、だからこそ収入がはっきりしないから身の丈に合わない贅沢も出来てしまい、それを賄うために脅迫なんて手段に出たんだろうな。
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