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卒業後
1029 星暦558年 赤の月 11日 ちょっと想定外な流れ(4)
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「洗濯用魔具はもうシェフィート商会に任せることにしたし、次は何を開発しよう?」
お茶を手に持ったシャルロが、ノンビリと工房のソファに座りながら言った。
「あ、ちなみに下手をすると過敏《アレルギー》体質安全用魔具の注文ががっつり増えるかも知れないぞ」
自分の分のお茶を手に取りながら二人に伝える。
「え?
何かあったのか?」
アレクが驚いたように聞いてきた。
「あれ、聞いてないのか?
なんでも、商業ギルドの年初パーティで自白剤が酒に混ぜられていたらしいのを、過敏《アレルギー》体質安全用魔具を身に着けていた女性が気付いて被害が広まる前に回収させたらしい。
お蔭で過敏《アレルギー》体質安全用魔具のオマケの効果が広まった可能性が高いんじゃないか?」
元々、貴族たちの年初に行われる社交会のパーティとかが全部終わってから最後に商業ギルドのパーティが開催される流れなので、もしかしたら既に領地に帰っていた大きな商業を有さない貴族とかには過敏《アレルギー》体質安全用魔具の効果の話はあまり広まらなかったかもしれないが、少なくとも商業ギルドの会員の間ではあっという間に広まったと思ったのだが。
「え、なにそれ??」
シャルロも目を丸くして聞いてきた。
「シェイラが知り合いの女性から聞いたらしいぞ?
過敏《アレルギー》体質の女性が折角だからと言うことで初めて商業ギルドの年初パーティに参加してお酒を飲もうとして、一応体質的に問題がない事を確認しようとしたら変な反応が出たから慌てて警備の人間に知らせたら、極薄いとは言え口が軽くなる程度の自白剤が混ぜられていたらしい」
流石にシェイラやその友人が何やら絡んでいるらしいという話はする気はない。
脅迫されていた話なんぞ広めたら、折角ヤバい手紙を回収しても悪評が立ってしまって意味がない。
第一、幾ら早い目に自白剤を回収させたとは言っても、話しちゃまずい事をばらしちまった人間はいるだろう。
そう言う人間からシェイラやシェイラが大切にする人間が恨まれては困る。
「マジか・・・。
そんな話は聞いていないから、商業ギルドで余程強固に箝口令を敷いたんだろうな」
ちょっと頭を抱えながらアレクが言った。
「シェフィート商会に知らせない程の箝口令か??
過敏《アレルギー》体質安全用魔具の販売元なのに?」
製造を増やせと言う要求が今まで以上に増えるだろうに、知らせないなんて馬鹿じゃないか?
「いや、両親と兄達には話は行っているだろうが、私は家族とは言え名目的にはシェフィート商会の一員ではないからな。
商業ギルドの一員でもないんだ。
そう言う機密事項は流せないだろう。
というか、流すなと釘を刺されたんだろうな」
溜め息を吐きながらアレクが言った。
「大きな商会の中で情報が共有されているんだったら、どうせ話が漏れるのはそう先の話じゃないだろ?
アレクに秘密にしてもしょうがなくないか?」
アレクだったら『秘密だ』と言っておけば秘密をしっかり守れる。
「商業ギルドの年初パーティには他のギルドや貴族の人間も招かれているんだ。
自白剤がばら撒かれたなんて話が漏れたら、とてつもない金額の賠償請求があふれ出しかねない。
魔術院の人間だってどさくさ紛れに請求をしてきかねないから、しっかり調査関連の機密保護契約で縛るまでは絶対に情報を漏らしたくなかったんだろうな」
アレクが肩を竦めながら言った。
おやま。
まあ、そうだよな。考えてみたら魔術院に頼って真偽確認の術を掛けなきゃならないんだ。
先に自白剤がパーティで盛られたなんて話が流れていたら、魔術院の方も色々とごねそうだ。
最初に、調査で分かった事を賠償請求に使えないという感じな契約を結ばせちまえば、かなり商業ギルドの安全を確保できるか。
「シェイラったらウィルにそのことを教えちゃって良かったの?
多分、その過敏《アレルギー》体質安全用魔具で自白剤を見つけた女性だって絶対にそのことを人に漏らしちゃいけないって約束させられたと思うんだけど」
少し心配そうにシャルロが聞いてきた。
「・・・どうなんだろ?
商業ギルドとのやり取りに不安があって、約束を契約の形で固める前にシェイラと相談したのかも?
少なくとも商業ギルドの年初パーティにシェイラは出席していなかった筈なんだが」
というか、出席する予定がなかったからこそ色々と案を練れたんだろうと思う。
下手にその場にいて、他の人間と一緒に真偽の術で関与を確認されたりしたら色々面倒なことになるからな。
実態がどうであれ、名目上はシェイラは歴史学会の一員であって商業ギルドには直接関係は無い筈だから、パーティにさえいなければ真偽の術を掛けられる謂れは無い筈。
「取り敢えず我々も下手に知っているとばらさない方がいいから、何処かから正式に話が来るまでは素知らぬ振りをして無難な魔具でも開発していよう。
過敏《アレルギー》体質安全用魔具の生産だってもう軌道に乗っているんだし、我々が製造の手伝いをする必要はないと思うからあまり心配しなくて良いと思うぞ」
アレクがグイッとお茶を飲み干して、お代わりを注ぎに立ち上がりながら言った。
「そっか。
じゃあ、改めて。
次は何にしようか?」
そうなんだよなぁ。
最近は赤ちゃんのオモチャとかオムツの洗濯用魔具とかって平和な魔具の開発をやっていたのだ。
これ以上に無難な開発って何があるだろ?
なんだったらちょっと沈没船探しでもしに、王都を離れるか?
いや、シェイラの友人の従姉妹の手紙を探すために王都にいなきゃいけないから、沈没船探しは無しだな。
さて。
何か興味が湧くものってあったかな?
お茶を手に持ったシャルロが、ノンビリと工房のソファに座りながら言った。
「あ、ちなみに下手をすると過敏《アレルギー》体質安全用魔具の注文ががっつり増えるかも知れないぞ」
自分の分のお茶を手に取りながら二人に伝える。
「え?
何かあったのか?」
アレクが驚いたように聞いてきた。
「あれ、聞いてないのか?
なんでも、商業ギルドの年初パーティで自白剤が酒に混ぜられていたらしいのを、過敏《アレルギー》体質安全用魔具を身に着けていた女性が気付いて被害が広まる前に回収させたらしい。
お蔭で過敏《アレルギー》体質安全用魔具のオマケの効果が広まった可能性が高いんじゃないか?」
元々、貴族たちの年初に行われる社交会のパーティとかが全部終わってから最後に商業ギルドのパーティが開催される流れなので、もしかしたら既に領地に帰っていた大きな商業を有さない貴族とかには過敏《アレルギー》体質安全用魔具の効果の話はあまり広まらなかったかもしれないが、少なくとも商業ギルドの会員の間ではあっという間に広まったと思ったのだが。
「え、なにそれ??」
シャルロも目を丸くして聞いてきた。
「シェイラが知り合いの女性から聞いたらしいぞ?
過敏《アレルギー》体質の女性が折角だからと言うことで初めて商業ギルドの年初パーティに参加してお酒を飲もうとして、一応体質的に問題がない事を確認しようとしたら変な反応が出たから慌てて警備の人間に知らせたら、極薄いとは言え口が軽くなる程度の自白剤が混ぜられていたらしい」
流石にシェイラやその友人が何やら絡んでいるらしいという話はする気はない。
脅迫されていた話なんぞ広めたら、折角ヤバい手紙を回収しても悪評が立ってしまって意味がない。
第一、幾ら早い目に自白剤を回収させたとは言っても、話しちゃまずい事をばらしちまった人間はいるだろう。
そう言う人間からシェイラやシェイラが大切にする人間が恨まれては困る。
「マジか・・・。
そんな話は聞いていないから、商業ギルドで余程強固に箝口令を敷いたんだろうな」
ちょっと頭を抱えながらアレクが言った。
「シェフィート商会に知らせない程の箝口令か??
過敏《アレルギー》体質安全用魔具の販売元なのに?」
製造を増やせと言う要求が今まで以上に増えるだろうに、知らせないなんて馬鹿じゃないか?
「いや、両親と兄達には話は行っているだろうが、私は家族とは言え名目的にはシェフィート商会の一員ではないからな。
商業ギルドの一員でもないんだ。
そう言う機密事項は流せないだろう。
というか、流すなと釘を刺されたんだろうな」
溜め息を吐きながらアレクが言った。
「大きな商会の中で情報が共有されているんだったら、どうせ話が漏れるのはそう先の話じゃないだろ?
アレクに秘密にしてもしょうがなくないか?」
アレクだったら『秘密だ』と言っておけば秘密をしっかり守れる。
「商業ギルドの年初パーティには他のギルドや貴族の人間も招かれているんだ。
自白剤がばら撒かれたなんて話が漏れたら、とてつもない金額の賠償請求があふれ出しかねない。
魔術院の人間だってどさくさ紛れに請求をしてきかねないから、しっかり調査関連の機密保護契約で縛るまでは絶対に情報を漏らしたくなかったんだろうな」
アレクが肩を竦めながら言った。
おやま。
まあ、そうだよな。考えてみたら魔術院に頼って真偽確認の術を掛けなきゃならないんだ。
先に自白剤がパーティで盛られたなんて話が流れていたら、魔術院の方も色々とごねそうだ。
最初に、調査で分かった事を賠償請求に使えないという感じな契約を結ばせちまえば、かなり商業ギルドの安全を確保できるか。
「シェイラったらウィルにそのことを教えちゃって良かったの?
多分、その過敏《アレルギー》体質安全用魔具で自白剤を見つけた女性だって絶対にそのことを人に漏らしちゃいけないって約束させられたと思うんだけど」
少し心配そうにシャルロが聞いてきた。
「・・・どうなんだろ?
商業ギルドとのやり取りに不安があって、約束を契約の形で固める前にシェイラと相談したのかも?
少なくとも商業ギルドの年初パーティにシェイラは出席していなかった筈なんだが」
というか、出席する予定がなかったからこそ色々と案を練れたんだろうと思う。
下手にその場にいて、他の人間と一緒に真偽の術で関与を確認されたりしたら色々面倒なことになるからな。
実態がどうであれ、名目上はシェイラは歴史学会の一員であって商業ギルドには直接関係は無い筈だから、パーティにさえいなければ真偽の術を掛けられる謂れは無い筈。
「取り敢えず我々も下手に知っているとばらさない方がいいから、何処かから正式に話が来るまでは素知らぬ振りをして無難な魔具でも開発していよう。
過敏《アレルギー》体質安全用魔具の生産だってもう軌道に乗っているんだし、我々が製造の手伝いをする必要はないと思うからあまり心配しなくて良いと思うぞ」
アレクがグイッとお茶を飲み干して、お代わりを注ぎに立ち上がりながら言った。
「そっか。
じゃあ、改めて。
次は何にしようか?」
そうなんだよなぁ。
最近は赤ちゃんのオモチャとかオムツの洗濯用魔具とかって平和な魔具の開発をやっていたのだ。
これ以上に無難な開発って何があるだろ?
なんだったらちょっと沈没船探しでもしに、王都を離れるか?
いや、シェイラの友人の従姉妹の手紙を探すために王都にいなきゃいけないから、沈没船探しは無しだな。
さて。
何か興味が湧くものってあったかな?
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