シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1026 星暦558年 赤の月 10日 想定外な影響

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「そう言えば聞いた?
年初の商業ギルドのパーティで出された酒に、入っていては不味い物が混ぜられていたんですって」
昼食の後にヴァルージャの街をのんびりと歩いていたら、シェイラが思いがけない事を教えてくれた。

「下剤か?
それとも媚薬とか?」
商業ギルドの大物の誰かが死んだって話はアレクから聞いていないから、毒では無いと思うが。

「なんと、自白剤ですって。
しかも、噂では過敏《アレルギー》体質な女性が異変に気がついて調べさせたって話らしいわよ?」
生地の店を覗き込みながらシェイラが言った。

あらら。
過敏《アレルギー》体質安全用魔具に毒探知の機能があることは広めたく無かったんだが。
毒だけじゃなくて自白剤まで分かるとなると、貴族だけでなく商人側からもガンガン購入の打診が来そうだな。

「迷惑な。
と言うか、どこのバカがパーティの不特定多数に出す飲み物に自白剤なんて混ぜたんだ?」
ある意味、貴族の比較的内輪なパーティだったら嫌がらせも兼ねて他の貴族に唆されたヤンチャな息子あたりが渡された薬をこっそり悪戯として仕込むなんて事もあり得なくは無いが、商業ギルドのパーティは悪戯をする様なガキが近付ける環境では無いはず。

しかも年初パーティだったら商業に関心を持つ港や大都市の領主である貴族とかも招かれるのだ。
変な薬を飲ませたら物理的に責任者の首が飛ぶ。

「そこは色んな人が目の色を変えて調査しているみたいね~。
魔術院もそのうち真偽確認の為に依頼が来るんじゃ無い?」
シェイラがにっこりと笑いながら言った。

「なんか・・・誰がやったか疑惑は既にありってやつ?」
手当たり次第に関係者に嘘をつけない様に術をかけて魔術師の立ち合いの元に調査するなんて面倒だし金が掛かるんだが。
シェイラは何を知っているんだろ?

「商業ギルドが面子にかけても目の色を変えて犯人探しをしているのに見つからないとなると、既に犯人は王都を離れているか、絶対に疑われない人物か、真偽の術をかけられても嘘をつかずに言い抜けられるだけの知識があるかだと思わない?」
次の店へと足を進めながらシェイラが言う。

「・・・シェイラじゃあ、無いよね?」
タイミング的に王都にはいたと思うが、歴史学会のパーティに出ていた筈。

「ちょっと、ゲスい男に友人の従姉妹が迂闊な手紙を盗まれて困っていたから、隠し場所を聞く為のアイディアを提供しただけよ?
実際にやったのはどちらとも関係ない、パーティにも出ていない人だから調査で真偽の術を掛けられる可能性もほぼ皆無でしょうし。
まあ、最悪バレても色々と不味い情報が漏れまくって大事になる前に事件が発覚したから、彼女はそれなりに同情して貰えると思うわ」
シェイラが肩を竦めながら応じる。

「う~ん、過敏《アレルギー》体質安全用魔具の効果がバレるぐらいだったら、言ってくれたらヤバい手紙探しぐらい俺がやったのに」
過敏《アレルギー》体質安全用魔具が色々と使い道がある事は出来るだけ広めたく無かったんだがなぁ。
確かに洒落にならない相手からの恨みを買う前に自白剤の混入をばらす為には都合がいい口実だったんだろうけど。

あの魔具の有用性は王宮とか軍部は前から分かっていたみたいだが、商業ギルドにもバレたのは痛いな。
シェフィート商会だって商業ギルドの一員なのだ。
ギルドの圧力がある程度以上になったら無視は出来ないだろう。

「あら、どうせもうあちこちの人にバレていたんだから、今回気付いたのは考えたらずな鈍い人間だけよ。
ある意味、過敏《アレルギー》体質な人相手に売るのが終わっても更に買いたがる人が出てきて良かったんじゃない?」
シェイラが言った。

「やっぱバレてた?
まあ、過敏《アレルギー》体質らしいんだけど調べても原因が分からないとか、買ったんだけど無くしたとか、気が付いたら盗まれていたから再購入したいって客が増えてきたらしいとはアレクも言っていたから、毒探知用に入手しようとしている人間が増えている様だとは思っていたけど」

「幸い、露骨な見た目だから過敏《アレルギー》体質だって言いたくない場合は手袋をしていてもおかしくない女性しか使い難いし、変な薬を盛られて人生が台無しにされる女性が減る事は良いことでしょ?」
シェイラが指摘した。

なる程、男は家で毒味なしで食事ができると言う程度にしか使えないのか。
外で活用出来るのは、手袋であの目立つ手の甲部分を隠せる女性になるのか。

ただまあ、あまり普及しすぎるともっと複雑な複合毒が流行る様になるだけだと思うけどなぁ。
とは言え、パーティで変な自白剤や媚薬を盛られたら分かるって言うのは重要なのかな?

自白剤はまだしも、媚薬は女性の方が致命的な結果になりやすいから公平って言えば公平か。


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