シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1022 星暦558年 赤の月 3日 棚以外にも使えるよね?(19)

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「取り敢えず、『絹と色物は洗えない、勝手に試した場合の被害は自己責任』と注意喚起をした上で、試作品を5か所程置くことになったよ。
評判が良かったらもっと増やしていく事や、専門の貸し出しサービス店への共同出資も考えるそうだ」
昨日は実家に帰ってシェフィート商会に洗濯用魔具の試作品を店舗に置いて従業員に使わせる件について話し合ってきたアレクが、朝食後のお茶の場で報告してきた。

「あ、そうか。
色物や絹は要注意なんだっけ」
シャルロが直ぐに思い当たった様に頷いた。

「要注意?」
基本的に絹なんてつい最近まで縁が無かったし、洗うのはパディン夫人に任せていたからな。
色物も、俺の趣味は褪せたグレーとか焦げ茶だから、色落ちするようなはっきりした色はパディン夫人に頼むようになってからしか買っていない。

「絹は・・・下手な洗濯用石鹸を使うと光沢がガタ落ちするし生地その物が極端に劣化する事もある。
デリケートだから洗う為に擦ったり力を込めて揉むのもダメだ。
色物は運が悪ければ一気に肝心の色が落ちる上に、一緒に洗った服に染料が移ることもあるからどちらも洗う際は腕がいい洗濯女かベテランなメイドに頼まないと危険なんだ」
アレクが教えてくれた。

ああ~~~!
そう言えば、盗賊《シーフ》時代にお邪魔していた貴族の館で、何やら侍女が洗濯メイドに物凄い勢いでどなっていることが偶にあったな。
あれって洗濯を失敗したからなのかも?

「じゃあ、色物や絹はあの美顔用魔具を使えば良いんじゃないか?
というか、あれって元々そっちの用途で造ったんじゃなかったっけ??」
服を着たまま綺麗に出来るとか、椅子の背に掛けておいておけば汚れが除去できるっていうのが最初の狙いだったような気もする。

「・・・まだまだ美顔用の使用の需要が満たせていないから、貴族や大富豪のドレスならまだしも、独身者がデートに行く際に着飾りたいなんて言う場合に使える程余っていない。
あれをそれこそ洗濯用品の貸し出し店に出したらすぐさま盗まれるか、服の代わりに顔や手をすべすべにしたいっていう女性で占拠される可能性が高いぞ?」
アレクが顔をしかめながら言った。

「・・・あの美顔用魔具の貸し出しサービスも始める?」
シャルロがちょっと首を傾げて躊躇しながら提案した。

「いや、あれはまだまだ高額で売れるから母が合意しないだろうし・・・転売価格が高いから盗まれない様にする警備費用が高くつきすぎると思う」
アレクが首を横に振った。

確かにねぇ。
過敏《アレルギー》体質安全用魔具を造るのを手伝わされた時だって、美顔用魔具の製造は止めていなかったみたいだからね。
あっちの工房に手伝って貰えば??って提案したらアレクに凄い顔で『無理だ!!』って言われたし。

下手な食べ物を食べられないせいで茶会に行かない女性や子供の危険対処と女性の美容のどっちが重要なんだよ??と思ったが、同じ貴族と言っても顧客層が違うらしくて過敏《アレルギー》体質安全用魔具の為に納品を待ってくれないかと提案しても聞く耳を持つ人間はほぼ皆無だったらしい。

「取り敢えず何枚か流行遅れで着られなくなった絹の服と、安物から比較的高額な価格帯の色物服も買ってきたから、洗ってみてどうなるか確認して・・・何らかの手段で対応できるのか、確認してみよう」
アレクが軽いため息をつきながら提案した。

「難しいんだったら最初から『使うな』って注意書きしたらどうだ?」
絹なんぞ自分で洗濯しない独身者が着る機会はほぼ無いだろう。

「いや、独身者がデートの為に頑張って買った一張羅を台無しにしたら、絶対に恨まれるし、あちこちで悪評をバラまかれる」
アレクが確信を持って言い切った。

ああ~。
まあ、確かに俺だってシェイラと出かけるのを楽しみにしていたのにそれが台無しになったら腹が立つか。
絹の服を着ようと考える可能性は非常に低いが・・・下手をしたら、母親や付き合っている相手に勧められて買った服やプレゼントで貰った服が絹の可能性だってあるしな。

流石に俺は絹とそれ以外の生地の違いが分かるが、貴族の屋敷とかにお邪魔したことが無い一般の庶民で特にお洒落に興味がないような男だったら絹その物の見分けが付かない可能性だってある。

お洒落に無頓着だったら『絹なのよ!!』と言われてプレゼントされたシャツとかだって絹であることを忘れたり、俺みたいに絹を普通の服と同じように洗ってはいけないと知らない可能性も高そうだ。

「・・・考えてみたら、『絹や色物は洗えない』って注意書きをしても、それを読まない人間も多いんじゃないか?」
というか、ガキの頃に神殿教室をサボったような肉体労働者系だったら碌に文字を読めないのもいるし。

「確かに。
店員に見張らせておいて入って来る人間に説明させていても、忙しい場合にすり抜ける可能性があるしな」
アレクが頭が痛そうな顔をして言った。

「う~ん、やっぱそうなると商会の中でとか、ギルドの中でとか、宿屋でとかって感じで決まった人が日常の服を洗うような状況でだけで使う様にする?
不特定多数が見栄を張りたい時なんかに使うサービスとしては絶対に無理があるかも」
シャルロがため息を吐いて言った。

「まあ、取り敢えず絹と色物を洗ってみて、どんな結果になるか確認してから検討しよぜ」
もしかしたら全然大丈夫かもだし。

・・・多分ダメだろうが。
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