シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1008 星暦558年 藤の月 5日 棚以外にも使えるよね?(5)

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「強いバネじゃなくって弱いのを長いめに巻いておいてそれが飾り紐を吊るした輪を回す感じが良いんじゃないかな。
ついでにちょっと紙袋でも当たる感じにしてカサカサ音が鳴るようにしたら良いかも?」

シャルロの従姉妹とやらに一人目の赤ちゃんが気に入った音について聞いてみたら、
(1)母親の歌声
(2)乳母の歌声
(3)カサカサした枯れ葉や紙が軽くこすれるような音 
が好きだという返事が来たらしい。

流石に母親や乳母の歌声はどう考えても無理だし、枯れ葉も暫くしたらボロボロになって崩れてしまうだろう。
そうなると紙をちょっとくしゃくしゃにして適当に擦れる感じに出来ないか、試すしかない。

「考えてみたらオルゴールの音とかを聞かせたかどうか不明だから、そっちも試してみる?
キャシーナのところの子はちょっともう育っちゃたけど、他にも親戚の中に夜泣きする年齢の赤ちゃんがいるから、そっちで試せるかも?」
シャルロが付け足した。

「・・・まあ、輪に飾り紐を付けて回すのだったらついでにそこにオルゴールの銅板の様な物を付けて回したら似た感じの音が出る筈だから、オルゴールの音が好きかは試してみる価値があるかな。
やはり紙くずをそれなりの値段がするオモチャに着けるのは微妙だし、音にしても聞いている大人も良いと思える音色の方が売れやすいだろう」
アレクが頷いた。

確かにね~。
赤ちゃんが喜ぶのが一番重要だけど、オモチャを売り出す際に実際に泣いている赤ちゃんの傍で動かして試す訳ではないから(多分)、大人から見て(聞いて)効果がありそうだと思えるような音と見た目の方が売れやすいだろう。

俺としても、紙屑のカサカサした音の方がチャイムの音よりも好かれるなんて納得いかないし、紙屑が付いたオモチャとチャイムがぶら下げられているオモチャとが売られていたら、確実にチャイムの方を買う自信がある。

それで赤ちゃんに効果が無くても紙屑が付いた方を改めて買うのではなく、歌が得意な乳母を雇うんじゃないかなぁ。

まあ、乳母を雇うかどうかはかなり怪しいが。
いや、シェイラが発掘現場で忙しいとしたら乳母は必須か。
・・・歌が下手な乳母っているのかな?
乳母にしたって赤ちゃんがご機嫌で寝ていてくれる方が楽だろうから、歌えるというのは自分が楽をする為にも重要な技能な気がする。

「オルゴールにしてもどんな感じの曲が好きかとか、あるのかな?」
音色的には似たり寄ったりになるが、曲の感じ的には元気なのとかゆっくり静かっぽくて眠くなりそうなのとかあるが、やっぱゆっくり静かっぽいのが寝かしつけるのに良いのだろうか?

それともまずは泣いているのを止めさせるためには注意を引く必要があり、それには元気なのが良いのか?

「確か本家に幾つかオルゴールがある筈だから、それを全部試してもらおう。
実家の侍女に手伝ってもらうのはちょっと悪い気もするけど・・・美顔用魔具の試作品でも差し出せばきっと喜んで母上が侍女を貸してくれると思う」
シャルロが言った。

「・・・シャルロの母親って既に美顔用魔具を持っているだろ?」
試作品やその後の改造版とか、4つか5つは持っている筈だが。
顔は一つなんだから、幾つも必要ないだろうに。

「貴族ともなると侍女が綺麗なのもお互いに見栄を張るポイントになるし、やっぱ『使いたいです~』って顔で見つめられるのも微妙なんだって。
だから侍女たちに使わせる分も欲しいんだけど、そうなると必要な数がぐっと増えるって言ってた」
肩を竦めながらシャルロが言った。

へぇぇ。
貴族の暮らしがそれを支える使用人より良いのは当然の事だし、侍女だって十分それに慣れているだろうに。
美顔用魔具って服や食事や宝石を越えた魅力があるんかね?

シャルロが情報収集を頼んでいる間に、適当にオルゴールっぽい音が鳴る銅板みたいのを輪に着けて動いた時に鳴らす仕組みを作っておこう。
曲っぽくするのは後回しで良い。
取り敢えずは音さえ鳴るように作れれば、後で修正は簡単だろう。

・・・バネで輪が動く時の速度を調整する方法も考えないとだな。
緩いバネでも、赤ちゃんがぐずらなかったせいでがっつり力が溜まっていたら勢いよく動きそうだ。
飾り紐が勢いよく動いて絡まっても困るし、音が大きくなったり変な感じに早送りになって赤ちゃんがびっくりしても良くないだろう。
多分。

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