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卒業後
1006 星暦558年 藤の月 3日 棚以外にも使えるよね?(3)
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「取り敢えず、そのカタカタ動く棚の魔術回路からどのくらいの出力を得られるのか確認してみよう。
空気中の魔力も人が居れば良い程度だったら、小さい魔石を付けるだけでも赤ちゃんから魔力を吸収しないで済むかも知れないし、同調させる魔術回路を付けた場合にそっちの魔力でどの程度動かせるか、興味がある」
アレクが立ち上がりながら言った。
確かに、写し出した魔術回路が実際にちゃんと動くのか確認しなきゃだしな。
もっとも、そこそこ良い感じの素材を使って造りも悪くなかった棚があんな蚤市に捨て値で売られていたってことは動くのは間違いないと思うが。
「え~っと、これだな」
ジルダスから帰って来た後に適当に突っ込んだ紙を工房の棚から探して出してくる。
帰ってからもシェイラと遊びに行ったり、オレファーニ侯爵家の集まりに出たり、シェイラと仕立てた服を取りに行って歴史学会のパーティに出席したりと色々と忙しかったから無くさない様にこっちの箱に突っ込んでおいたんだよな。
「どの程度動くか試すのに、振り子のオモチャにでも繋げて球がどう動くか確認してみよう」
シャルロが以前持ってきたオモチャっぽい振り子を引っ張り出して提案した。
「あ~。
これって大した力を加えなくても動くから、これの展開系みたいなオモチャを作れば簡単に動きそうだね」
とは言え、左右に動くだけではそれ程面白くは無さそうだけど。
赤ちゃんをあやすオモチャって左右運動だけじゃなくてもう少し違う動きもなくっちゃ駄目じゃないか?
まあ、簡単なおもちゃを動かせるかの実験だから取り敢えずはこれで良いけど。
オモチャの本体の底辺部分に魔力を吸収する魔術回路を刻みつけ、それを上まで繋いで動きを生む魔術回路の部分を振り子の右端の球に刻む。
「まずは試しに意図的に魔力を籠めてみるな」
手から魔力を放出する感じで振り子の底の部分の側に手を翳す。
直ぐに振り子がカチカチ動き出した。
「そんなに勢いよく動いたら寝てる赤ちゃんが起きちゃうよ」
勢いよく振りあがってぶつかり合う振り子にシャルロが呆れた声を上げた。
「まあ、部屋に入ってきて寝ている人間が垂れ流す魔力を吸収してカタカタ動く程度の想定だからな。
魔術師が魔力を意図的に放出するっていうのはやりすぎなんだな」
というか、ある意味魔術師を雇って魔力を放出させて調べればあの棚にあった魔術回路も直ぐにばれただろうに。
それとも送られた人間は人に恨まれて悪霊にでも祟られるような自覚があったのかね?
ちょっと振り子から離れ、動きが止まるのを待つ間にお茶のお代わりを淹れる。
冷めるのを待っている間に動きが止まったので傍に戻って横に立ってみた。
特に魔力を放出させはしないが、意図的に止もしないで普通に垂れ流す感じにする。
いや、考えてみたら魔術師の『普通に垂れ流す』と一般人の垂れ流しじゃあ量が違うからもう少し絞るべきかな?
そんなことを考えている間に、振り子がじりじりと動き出してちゃんと揺れるのではなく、小刻みにカチカチと当たって音を立て始めた。
「もう少しちゃんと動かないと却って気に障ってダメだろう、これは」
横に来たアレクが言った。
見ていたら、やがて振り子の動きが大きくなってちゃんと揺れ始めた。
魔術師二人の垂れ流しで振り子のオモチャが動く程度の効果があるようだ。
「こう、軽い羽みたいのでふわっと回る感じに動くのをぶら下げて、魔術回路と空気の動きと両方で動く感じにしたらどうかな?」
シャルロが提案した。
「赤ちゃんがぐずった時にちょっと動かして宥めるんだったら風鈴っぽい感じに透き通った感じの音が鳴るのをそれにぶら下げても良いかも知れないな。
赤ちゃんよりも泣かれてイラっとしている大人の方が落ち着く効果がある事になるかもだが」
アレクが付け加える。
どうやら赤ちゃんが泣くというのは周囲の人間にとってもストレスらしい。
まあ、全然気にならないんだったら赤ちゃん用のあやすオモチャなんぞ必要ないよな。
泣いている赤ちゃんなんてあまり縁が無かったから良く知らんが。
孤児院にいた頃は時折入り口近辺に赤子が捨てられることもあった気がするが、色々雑用に駆り出されて忙しかったし、赤ちゃんは死ぬか子供を欲しがる夫婦に養子として引き取られるかで案外と直ぐに消えたし、なんと言っても俺のあそこでの滞在期間は短かったからなぁ。
魔術学院には赤ちゃんなんて居ないし。
「何種類か造ってみて、どこかの赤ちゃんに使ってみて効果を確かめようか。
いや、その前にどうやって動かすかの動力に関して先に考える必要があるね。
大人が傍に立っていないと駄目なんじゃああまり意味がないし、赤ちゃんの魔力を吸収しちゃうのはちょっと危険かも知れないから・・・どうするかな」
シャルロが悩まし気に台座の方に刻んだ魔術回路に触れたら、凄い勢いで振り子が動き始めた。
「うわ。
それってもっと遠くので大人が触れたのを同調させてたらオモチャ側では少しだけ動かす感じにならないかな?」
距離が離れたら魔力がかなり減退するのだ。
だとしたら最初から離れて使う想定で造ったらどうだろうか?
「同じ部屋に居る時と離れた部屋に居る時と、何段階か分けられるようにした方が良いかも知れないな。
そう考えると、音が鳴るようにしたらどの程度動いているかも判断しやすくて良いかも?」
アレクが提案する。
うむ。
まずは幾つか試作品を造ってみよう。
空気中の魔力も人が居れば良い程度だったら、小さい魔石を付けるだけでも赤ちゃんから魔力を吸収しないで済むかも知れないし、同調させる魔術回路を付けた場合にそっちの魔力でどの程度動かせるか、興味がある」
アレクが立ち上がりながら言った。
確かに、写し出した魔術回路が実際にちゃんと動くのか確認しなきゃだしな。
もっとも、そこそこ良い感じの素材を使って造りも悪くなかった棚があんな蚤市に捨て値で売られていたってことは動くのは間違いないと思うが。
「え~っと、これだな」
ジルダスから帰って来た後に適当に突っ込んだ紙を工房の棚から探して出してくる。
帰ってからもシェイラと遊びに行ったり、オレファーニ侯爵家の集まりに出たり、シェイラと仕立てた服を取りに行って歴史学会のパーティに出席したりと色々と忙しかったから無くさない様にこっちの箱に突っ込んでおいたんだよな。
「どの程度動くか試すのに、振り子のオモチャにでも繋げて球がどう動くか確認してみよう」
シャルロが以前持ってきたオモチャっぽい振り子を引っ張り出して提案した。
「あ~。
これって大した力を加えなくても動くから、これの展開系みたいなオモチャを作れば簡単に動きそうだね」
とは言え、左右に動くだけではそれ程面白くは無さそうだけど。
赤ちゃんをあやすオモチャって左右運動だけじゃなくてもう少し違う動きもなくっちゃ駄目じゃないか?
まあ、簡単なおもちゃを動かせるかの実験だから取り敢えずはこれで良いけど。
オモチャの本体の底辺部分に魔力を吸収する魔術回路を刻みつけ、それを上まで繋いで動きを生む魔術回路の部分を振り子の右端の球に刻む。
「まずは試しに意図的に魔力を籠めてみるな」
手から魔力を放出する感じで振り子の底の部分の側に手を翳す。
直ぐに振り子がカチカチ動き出した。
「そんなに勢いよく動いたら寝てる赤ちゃんが起きちゃうよ」
勢いよく振りあがってぶつかり合う振り子にシャルロが呆れた声を上げた。
「まあ、部屋に入ってきて寝ている人間が垂れ流す魔力を吸収してカタカタ動く程度の想定だからな。
魔術師が魔力を意図的に放出するっていうのはやりすぎなんだな」
というか、ある意味魔術師を雇って魔力を放出させて調べればあの棚にあった魔術回路も直ぐにばれただろうに。
それとも送られた人間は人に恨まれて悪霊にでも祟られるような自覚があったのかね?
ちょっと振り子から離れ、動きが止まるのを待つ間にお茶のお代わりを淹れる。
冷めるのを待っている間に動きが止まったので傍に戻って横に立ってみた。
特に魔力を放出させはしないが、意図的に止もしないで普通に垂れ流す感じにする。
いや、考えてみたら魔術師の『普通に垂れ流す』と一般人の垂れ流しじゃあ量が違うからもう少し絞るべきかな?
そんなことを考えている間に、振り子がじりじりと動き出してちゃんと揺れるのではなく、小刻みにカチカチと当たって音を立て始めた。
「もう少しちゃんと動かないと却って気に障ってダメだろう、これは」
横に来たアレクが言った。
見ていたら、やがて振り子の動きが大きくなってちゃんと揺れ始めた。
魔術師二人の垂れ流しで振り子のオモチャが動く程度の効果があるようだ。
「こう、軽い羽みたいのでふわっと回る感じに動くのをぶら下げて、魔術回路と空気の動きと両方で動く感じにしたらどうかな?」
シャルロが提案した。
「赤ちゃんがぐずった時にちょっと動かして宥めるんだったら風鈴っぽい感じに透き通った感じの音が鳴るのをそれにぶら下げても良いかも知れないな。
赤ちゃんよりも泣かれてイラっとしている大人の方が落ち着く効果がある事になるかもだが」
アレクが付け加える。
どうやら赤ちゃんが泣くというのは周囲の人間にとってもストレスらしい。
まあ、全然気にならないんだったら赤ちゃん用のあやすオモチャなんぞ必要ないよな。
泣いている赤ちゃんなんてあまり縁が無かったから良く知らんが。
孤児院にいた頃は時折入り口近辺に赤子が捨てられることもあった気がするが、色々雑用に駆り出されて忙しかったし、赤ちゃんは死ぬか子供を欲しがる夫婦に養子として引き取られるかで案外と直ぐに消えたし、なんと言っても俺のあそこでの滞在期間は短かったからなぁ。
魔術学院には赤ちゃんなんて居ないし。
「何種類か造ってみて、どこかの赤ちゃんに使ってみて効果を確かめようか。
いや、その前にどうやって動かすかの動力に関して先に考える必要があるね。
大人が傍に立っていないと駄目なんじゃああまり意味がないし、赤ちゃんの魔力を吸収しちゃうのはちょっと危険かも知れないから・・・どうするかな」
シャルロが悩まし気に台座の方に刻んだ魔術回路に触れたら、凄い勢いで振り子が動き始めた。
「うわ。
それってもっと遠くので大人が触れたのを同調させてたらオモチャ側では少しだけ動かす感じにならないかな?」
距離が離れたら魔力がかなり減退するのだ。
だとしたら最初から離れて使う想定で造ったらどうだろうか?
「同じ部屋に居る時と離れた部屋に居る時と、何段階か分けられるようにした方が良いかも知れないな。
そう考えると、音が鳴るようにしたらどの程度動いているかも判断しやすくて良いかも?」
アレクが提案する。
うむ。
まずは幾つか試作品を造ってみよう。
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