シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1003 星暦557年 桃の月 27日 家族(?)サービス期間(27)(第三者視点)

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>>>サイド ウォレン・ガスラート

「あ、丁度よかった、お土産があるんだ」
オレファーニ侯爵家の身内用の年末の集まりに出席したら、突然後ろから声を掛けられた。

背中を取られたのに驚いたが、まあ此奴なら仕方が無いかと諦めを感じながら振り返る。
「盗賊《シーフ》っていうのは人に忍び寄る技能も必要なのかの?」

ウィルが肩を竦めた。
「盗賊《シーフ》で稼げるようになる前はスリで食っていたからね。
態と当たって接触を誤魔化すのなんて二流なんだよ。
一流はそよ風のごとくすれ違ったことすら気付かせないんだと俺は教わった」

まあ、確かにぶつかって注意を逸らすタイプはぶつかった時には掏られたことは気付かなくても、何かが無くなっているのを気付いた瞬間にぶつかった人間へ疑惑が集中するだろう。
ぶつかったら顔を見られて覚えられる可能性も高いから、捜査対象にもなりやすいから危険だ。

そうでなくても貴族やその護衛にはぶつかってきた人間を切り捨てるタイプもいるし、確かにあれはまだ腕が十分でない見習いスリの技術なのだろう。

「で?
お土産とは珍しいな。
東大陸で何か面白い物でも見つけたのか?」
毎日コイツが若い女性と一緒に魔術院から転移門でどこかに遊びに行っているのはそれなりに目立っていたらしい。

ジルダスの領事館にいる伝手からウィルが現れたことは聞いていたが、特に問題があったとは報告を受けていない。

「面白いと思うかどうかは微妙かな?
仕事が増えると文句を言われそうな気もしないでもないが、一応教えといてあげようと思う俺の好意を理解して欲しいところだね。
今日会うかと思って持って来てあるから、こっちに来てくれ」
裏の方を指さしながらウィルが言った。

彼も大分とオレファーニ侯爵家に馴染んできたようだ。
最初は貴族というだけで警戒心と緊張感でガチガチだったらしいが。

「これ、知っているか?」
赤ん坊の頭位ありそうな大きな果物を袋から出して、ウィルが渡してきた。

「・・・南の方の果物で、果汁には目が覚める効果があるし種を乾かして焙煎し、砕くと苦みのある香辛料になる物だな」
ついでにそれを更に精製すると麻薬にもなる。

「南の方から船で来たどこぞの商会の女が、ジルダスでこれの栽培を持ち掛けたそうだ。
ジルダスの顔役は2人とも拒否したらしいし、どこかちんけな組織がやることになってもそれを潰すと言っていた。
だが、ケッパッサの顔役はその女が気に入っていたらしいから、ジルダスで断られたらそっちで栽培を始めるかも?」
袋の中から香辛料の入った瓶を取り出して見せながら、ウィルが言った。

香辛料の街であるジルダスでもう一つ香辛料を増やしても然程の大儲けにはならない。
だが、麻薬の素材となれば潜在的な儲けは莫大になる。
それを裏の顔役が拒否とは、意外だ。
あの街とアファル王国との取引量が年々増えていることを考えると、麻薬を忌避してくれるのは有難い事だが。

「ジルダスの顔役がそこまでそれを目の敵にするとは、意外だな?」
確かにあそこの裏社会は麻薬の販売をやっていないと報告が来ているが、麻薬は裏社会の通貨の一つだろうに。

「呪具だけでも面倒なのに、見た目では中毒になっているのが分からない麻薬なんぞ広められるのはまっぴらごめんと言っていたな。
どうやらこれの加工品を使うと疲れを感じにくくなるから最初は仕事の効率が上がったように感じられるけど、だんだん思考が短絡的になる上に他の麻薬中毒者と同じで組織や国への忠誠心や大切な信念も薬の為に捨てる様になるのに、見た目は大して窶れないから周囲から分かりにくいんだそうだ」
ウィルが言った。

なる程。
重度になっていない麻薬中毒患者の見た目なんぞ特に注意したことは無かったが、確かに容姿の悪化というのは本人に変調が起きている事を周囲が気付くきっかけになりやすい。

それが無いとなると、普段より頑張っているように見えるだけとなって麻薬中毒になって信頼できない人間になりつつあるのに気付くのが遅れて、組織への被害が広まりやすいのか。

確かにそれは裏組織でも警戒してもおかしくない。
あちらが呪具に関しても不快に感じているというのはちょっと驚きだが。

ケッパッサとの直接な取引は現時点ではないが、染料に関して良いのがあるかもとせんだってシャルロが言っていた。
ケッパッサは毒や麻薬など色々と危険な物が主たる交易物なので染料を輸入することになるとしたら、要注意だな。

・・・軍部の研究所の人間にでもケッパッサの染料の問題点を研究させてそれを広めて、輸入を断念させる方が良いか?
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