シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
992 / 1,038
卒業後

991 星暦557年 桃の月 17日 家族(?)サービス期間(15)

しおりを挟む
「お久しぶり。
ちょっとした式典とか、お偉いさんが出て来る会議で着れる様な服を一着作ってくれ。
出来るだけ目立たないで周囲に溶け込む感じに頼む」
前回連れて来られたシェイラの知り合いの店に連れて来られて、対応に出てきたおっさんにお願いする。

「式典と会議では服の方向性が違いますが・・・」
ちょっと困った顔で言われた。

「それっぽい服だったら誤魔化せるだろ?
飾りとか袖とかを簡単に付け替えたらどっちでも使える様に出来ないか?
どちらの用途でも必要とならない可能性の方が高いと思うから、態々2着は作りたくないんだよね」
シャルロの婚約式で懲りたので礼服を作っておくことは吝かではないが、沢山そろえる必要はないだろう。

式典なんかは場合によってはそれなりに貧乏貴族や軍で活躍した平民とかも出て来るから地味っぽいのでも何とか見逃してもらえる筈。
そして地味だったらお偉いさんが出て来る会議とかでも使えるだろう。

第一、式典にせよお偉いさんとの会議にせよ、俺たちが何か良い事をした褒美なり、お偉いさんが何か頼みごとをしたいからってやることになるんだろ?

なのになんだって俺がお偉いさんの常識に合わせて高くつく服を作らなきゃいけないのか、ちょっと納得がいかないんだ。
とは言え、無理にこちらの主張をごり押しして出席者全般から顰蹙を食らうよりは、影で笑われる程度に収めた地味な服で妥協したい。

「式典用の礼服は特徴的な襟の形がありますので、事業関係の会議では使えませんが・・・式典用の襟をボタンで付けられるようにしておきますか」
ちょっとため息を吐きながらおっさんが言った。

どうやら襟を上にボタン止めして誤魔化すという抜け道は元々あるようだ。

「ああ、それで頼む。
出来るだけ動きやすくて長い間クロゼットに放置しておいても変色とかが目立たないで使えるのが良いな。
男性用の服だったらそれ程露骨に主流なデザインとか色が変わって数年前のは着れないってことは無いだろ?」

盗賊《シーフ》時代に貴族の屋敷でのパーティとかの際に下働きとして紛れ込んでいた時も、女性の服のファッションに関しては色々と煩く誰もが話題にしていたが、男性の服に関しては人を批判するのが好きなタイプ以外はそれ程気にしていないようだった。

つまり、多少服のファッション性が不味くても、男はそこで評価されないのだ!
余りにも酷かったら眉を顰められるようだが、流石にそこまで酷くなる前にシェイラなりアレクなりシャルロなりが指摘してくるだろう。

女性だって綺麗な服を着ることが存在意義じゃあないと思うんだが、何故か女性は服のセンスが悪いとか流行遅れだとかな状態で社交界に顔を出すとほぼ全方面から集中攻撃(裏でだが)を受けるんだよなぁ。

女性に対する価値観がファッション性重視なのが常識なのに、それをちゃんと考慮していないという点で『あの人は他の面でも駄目なんだろう』という評価になっているっぽい。

そうは言っても、アレクの母親のように事業の面でバリバリに働いている女性だっているし、以前王宮で探し物をさせられた時に追い出されて屯していた官僚を見たところそっちにも女性がいたんだから、ファッション第一である必要性はないと思うんだけどなぁ。

まあ、ファッションに関わりたくない人間だったらそういうパーティとか式典に関係ない分野の仕事を選ぶのかな?
でもある程度以上偉くなっちゃったら社交もしろって上から強制されそうだけど。
お洒落に興味がない女性はある程度以上は偉くなれないのかね?
ある意味それって有能な女性より美貌を生かして周囲の男に取り入るのが得意な女が偉くなりそうな気がするが。

まあ、俺は男に生まれて良かったよ、本当に。

そんなことを考えつつ、適当に店員さんの助言を聞き入れながら地味っぽくいざという時に夜の街に紛れ込めるような目立たない色の服をオーダーし終わってシェイラの方へ行った。

「こちらとこちら、どっちがいいと思う?」
シェイラが何やら生地を二つさしながら聞いてきた。

そんなこと分かるかよ・・・。
だけど、ここで『どっちでも良いんじゃない?』は禁句らしい。
以前、ケレナが親族の女性の夫に関して物凄い勢いで話していたのを聞いた限り、『どっちでもいいじゃない?』は『まだ終わらないの?』と同じぐらい許されない罪っぽい。

「・・・生地ってどんな服に使うのかによるんじゃないのか?」
取り敢えず、ちょっと苦しいが判断を下さなくて済む相槌を捻り出す。

「そうなのよね~。
こんなデザインが良いかと思っているんだけど、此方の新しいデザインも今シーズンの流行りらしいからお勧めだと言われて」
スケッチブックっぽいのにある女性の姿を見せられた。
その女性が来ている服がデザインなんだよな?

スカートに長袖、片方の方がちょっとウエスト周りが何か見慣れたラインと違うような気がするが、良く分からない。

「ちなみに、新しいデザインって長く着られるのか?」
なんかこう、女性の流行って一気にばっと広がって何故か翌年にスパッと消えることもあるっぽいんだよなぁ。
新しい流行で古いデザインが駆逐されることもあるが、時折長めに持つのもある気がする。

どっちの方向に流行が流れるのか、俺には分からんぞ。

「どうかしら?
そこら辺はどのくらい名だたる美女が上手に新しいデザインを着こなすかで大分と変わるから、今の時点では何とも言えないわ」
シェイラが肩を竦めながら言った。

「・・・まあ、だったらシェイラがぱっと見て着てみたいと思ったデザインに、そのデザインにあった生地を使えば良いんじゃないか?」
きっとこのデザインならこっちの生地が良いって店員が勧めてくれるだろう。
・・・勧めてくれるよな?!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...