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卒業後
310 星暦553年 緑の月 6日 でっち上げの容疑(10)
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>>>サイド アイシャルヌ・ハートネット
「ファルータ公爵が、非公式に軍を通して私がガルカ王国に通じている証拠を入手しようとしました。
たまたま、依頼で指名された盗賊が私に縁がある人間で私の無実を信じて色々調べてくれたのですが・・・。
何故か、学院長室に私が存在すら知らなかった床下の隠し場所が出来ており、そこにガルカ王国からの礼状と将来の報酬に関して記した手紙が出てきました」
人払いをした皇太子の部屋で防音の結界を張り、ウォルダ殿下に今回の事件の話をする。
「その盗賊がファルータ公爵の王都本邸を探したところ、殿下が前ファルータ公爵夫人へ出した手紙と何やら凝りが出来る病気に関する研究論文が出てきたそうです。
私がファルータ公爵に狙われる理由に、何か心当たりはございますか?」
じろりと睨みながら問題の手紙の写しを渡した。
絶対に、この手紙(とその背景にある皇太子と前ファルータ公爵夫人の関係)が事態の根源にあるに違いない。
若気の至りというのは誰にでもある物だが・・・それを紙に記すなんて、王位を継承する者として不注意にも過ぎる。
「これは・・・捨てずに残していたのか」
手紙に目をやり、ため息をつきながら皇太子がソファに身を預けた。
「最近、私に再婚させて若い子供を作らせるよりも、王家の血を引く若者を養子にした方が良いのではないかという話が出てきている」
はぁ?
既に老年になっている王が若い正妃との子供を作ると王位継承に関して争いが生まれる可能性が高いが、まだ王位を継いですらいない、30代の皇太子だぞ??
側室の産んだ病弱な子供は特に突出した才覚を現している訳でも無いのだから、さっさと正妃をとって子供を産ませるのが最適であるだろうが。
どうしても再婚したくないから第2王子の子供を赤子の時から引き取って継承者としての教育を施すというのならまだしも、セリダン殿下に子供はまだ居ない。
しかも、セリダン殿下そのものに問題がるので彼の子供を引き取るということ自体に不安も感じる。
つまり、「王家の血を引く若者」というのは先代かその前に王家の血を引いた者・・・つまり幾つかの公爵家や侯爵家の子供と言うことになるだろう。
しかも、成人したそれらの誰かを養子にするなんて・・・内乱を引き起こそうとしているのか??
「だからさっさと再婚するべきだったのですよ。
殿下の年齢で実子を諦めて養子を取る必要性なぞ、全く無いでしょう」
皇太子が肩を竦めた。
「まだ若いと真面目に取り合っていなかった私も悪かったな。本腰を入れて正妃の選定にかかるよ。
今の時点で養子の話なんて何の冗談かと思っていたのだが、もしかしたらファルータ公爵こそガルカ王国なり何処かの国に通じて、この国を乱れさせて侵攻を手引きするつもりなのかも知れぬ」
成る程。
戦争になった場合、特級魔術師というのは即座に展開出来る重要な戦力である。
内乱に近い状態で国内が乱れていたら、纏まった兵力を集めて展開するのは難しくなる。
が、特級魔術師に対応させるのだったら上にまともな人間さえ残っていれば直ぐに派遣出来る。
「嵌める相手として殿下と近しい私を選んだのは、私怨というところですかな?」
ため息をつきながら皇太子が苦笑いした。
「すまないな。
これ以上そなたに迷惑を掛けぬよう、真剣に取り組むことにするよ。
問題はファルータ公爵だが・・・何か逮捕なり謹慎なりが出来るような証拠は無かったのか?」
さて。
どの位ウィルがファルータ公爵邸を本格的に探したのかは不明だが、昨日依頼が来たばかりだと言っていたから、ファルータ公爵に関係する家屋全てを徹底的に調べる時間は無かっただろう。
ウィルへの依頼そのものの納期が10日という話だったから、少なくともあと9日はファルータ公爵も本格的な行動は起こさないだろう。
「知り合いに、徹底的に探すよう頼んでみましょう。
ファルータ公爵が証拠文書を残しておく程、迂闊であるとは思えませんが」
皇太子が肩を竦めた。
「内乱を起こして私を殺すことのみを目的としていて、終わった後は自分も侵略国に処刑されるのを良しとしているのならまだしも、そうでなければ少なくとも侵略国からの将来の報酬を約束した書類は絶対に残す必要がある。
ファルータ子爵のことは私の子ならば死んでしまえと思っているにしても、現ファルータ公爵夫人との子供だっているのだ。何らかの形で将来を保証する書類があるはずだ」
確かに。
しかも、そう言った正規文書だったらば偽造を避ける為に国印が押されているはずだから、魔力を目当てに探せばウィルも見つけやすいだろう。
王都の屋敷になければファルータ公爵領まで行って貰う必要があるが・・・まあ、何とかなるだろう。
「そうですね。早速取りかかって貰います」
「ありがとう。
私の方も、正妃選びと・・・ファルータ公爵の健康状態について調べさせておこう」
「ファルータ公爵が、非公式に軍を通して私がガルカ王国に通じている証拠を入手しようとしました。
たまたま、依頼で指名された盗賊が私に縁がある人間で私の無実を信じて色々調べてくれたのですが・・・。
何故か、学院長室に私が存在すら知らなかった床下の隠し場所が出来ており、そこにガルカ王国からの礼状と将来の報酬に関して記した手紙が出てきました」
人払いをした皇太子の部屋で防音の結界を張り、ウォルダ殿下に今回の事件の話をする。
「その盗賊がファルータ公爵の王都本邸を探したところ、殿下が前ファルータ公爵夫人へ出した手紙と何やら凝りが出来る病気に関する研究論文が出てきたそうです。
私がファルータ公爵に狙われる理由に、何か心当たりはございますか?」
じろりと睨みながら問題の手紙の写しを渡した。
絶対に、この手紙(とその背景にある皇太子と前ファルータ公爵夫人の関係)が事態の根源にあるに違いない。
若気の至りというのは誰にでもある物だが・・・それを紙に記すなんて、王位を継承する者として不注意にも過ぎる。
「これは・・・捨てずに残していたのか」
手紙に目をやり、ため息をつきながら皇太子がソファに身を預けた。
「最近、私に再婚させて若い子供を作らせるよりも、王家の血を引く若者を養子にした方が良いのではないかという話が出てきている」
はぁ?
既に老年になっている王が若い正妃との子供を作ると王位継承に関して争いが生まれる可能性が高いが、まだ王位を継いですらいない、30代の皇太子だぞ??
側室の産んだ病弱な子供は特に突出した才覚を現している訳でも無いのだから、さっさと正妃をとって子供を産ませるのが最適であるだろうが。
どうしても再婚したくないから第2王子の子供を赤子の時から引き取って継承者としての教育を施すというのならまだしも、セリダン殿下に子供はまだ居ない。
しかも、セリダン殿下そのものに問題がるので彼の子供を引き取るということ自体に不安も感じる。
つまり、「王家の血を引く若者」というのは先代かその前に王家の血を引いた者・・・つまり幾つかの公爵家や侯爵家の子供と言うことになるだろう。
しかも、成人したそれらの誰かを養子にするなんて・・・内乱を引き起こそうとしているのか??
「だからさっさと再婚するべきだったのですよ。
殿下の年齢で実子を諦めて養子を取る必要性なぞ、全く無いでしょう」
皇太子が肩を竦めた。
「まだ若いと真面目に取り合っていなかった私も悪かったな。本腰を入れて正妃の選定にかかるよ。
今の時点で養子の話なんて何の冗談かと思っていたのだが、もしかしたらファルータ公爵こそガルカ王国なり何処かの国に通じて、この国を乱れさせて侵攻を手引きするつもりなのかも知れぬ」
成る程。
戦争になった場合、特級魔術師というのは即座に展開出来る重要な戦力である。
内乱に近い状態で国内が乱れていたら、纏まった兵力を集めて展開するのは難しくなる。
が、特級魔術師に対応させるのだったら上にまともな人間さえ残っていれば直ぐに派遣出来る。
「嵌める相手として殿下と近しい私を選んだのは、私怨というところですかな?」
ため息をつきながら皇太子が苦笑いした。
「すまないな。
これ以上そなたに迷惑を掛けぬよう、真剣に取り組むことにするよ。
問題はファルータ公爵だが・・・何か逮捕なり謹慎なりが出来るような証拠は無かったのか?」
さて。
どの位ウィルがファルータ公爵邸を本格的に探したのかは不明だが、昨日依頼が来たばかりだと言っていたから、ファルータ公爵に関係する家屋全てを徹底的に調べる時間は無かっただろう。
ウィルへの依頼そのものの納期が10日という話だったから、少なくともあと9日はファルータ公爵も本格的な行動は起こさないだろう。
「知り合いに、徹底的に探すよう頼んでみましょう。
ファルータ公爵が証拠文書を残しておく程、迂闊であるとは思えませんが」
皇太子が肩を竦めた。
「内乱を起こして私を殺すことのみを目的としていて、終わった後は自分も侵略国に処刑されるのを良しとしているのならまだしも、そうでなければ少なくとも侵略国からの将来の報酬を約束した書類は絶対に残す必要がある。
ファルータ子爵のことは私の子ならば死んでしまえと思っているにしても、現ファルータ公爵夫人との子供だっているのだ。何らかの形で将来を保証する書類があるはずだ」
確かに。
しかも、そう言った正規文書だったらば偽造を避ける為に国印が押されているはずだから、魔力を目当てに探せばウィルも見つけやすいだろう。
王都の屋敷になければファルータ公爵領まで行って貰う必要があるが・・・まあ、何とかなるだろう。
「そうですね。早速取りかかって貰います」
「ありがとう。
私の方も、正妃選びと・・・ファルータ公爵の健康状態について調べさせておこう」
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