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卒業後
303 星暦553年 緑の月 5日 でっち上げの容疑(3)
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さて。
この下っ端に悪事をしている自覚がなければ、このまま直ぐに上司に話を持って行くか、もしくは普通に上司とのアポイントメントを取るだろう。
後ろ暗い事をやっていると思っているなら夜になるまで上司に連絡を取らない可能性が高いな。
こんなことに巻き込まれるとは思っていなかったので、今日の服装は下町を歩いてもおかしくないちょっと古い普段着だ。
先程昼食を取った際に、慌てて若い用務員が着るようなつなぎを入手しておいたのだが、それに着替える必要がある。
酒場を出た下っ端を追跡し、第3騎士団本部へ入っていたのを確認した。
そのまま本部入り口の前を通り過ぎて角を曲がり、身体強化の術を使って壁に飛び乗って敷地内の外壁近辺に生えている大木へ飛び移る。
・・・敷地のど真ん中に大木があったら訓練とかに邪魔なのは分かるが、壁から飛び乗れる範囲にこんな便利な大木を残しておくなんてなってないなぁ。
それはともかく。
まずは適当な掃除道具でも拝借して、用務員が日中から掃除をしていそうな場所へ行くふりをして下っ端の側に行っておくか。あの条件を記した紙が人の手に渡れば、下っ端が誰かに今回の依頼について報告したことが分かるのでその紙を追っていけば良い。
だが、出来ればその会話も聞きたい。
こういう時に、相手の服にでも付けられる極小の通信機端末があれば便利なんだがなぁ。
流石にどれだけ短距離用にしても、それなりの重量が必要になってしまうのが問題なのだ。自分で持ち歩く分には苦にはならないが、相手の服に忍び込ませたら重さでばれてしまう。
木の上でつなぎに着替え、掃除道具置き場がありそうな場所へ歩きながら心眼《サイト》で下っ端を観察したが、どうやら自分の部屋に戻ったのか、座り込んで動いていない。
特に誰かとアポイントメントを取った様子もなかったから、夜まで待つのか??
だとしたらこの下っ端も悪事に荷担している自覚があるのか。
特級魔術師を嵌めるような案件となれば、大抵何も知らないカモを数人通して何か起きた場合はそちらに罪を負わせることが多いのだが。
それとも、黒幕はいつも悪事を働いていて、今回は何をやっているのか知らないにしても下っ端レベルですら悪事であると言うことを自覚しているのかな?
どちらにせよ、後でこいつのオフィスと自宅も調べてみた方がいいな。
悪事に荷担している下っ端というのは、賢い場合は上から切られたときの保険用にそれなりの証拠を確保していることも多い。
どうせなら一番上だけでなく関係者全てを一網打尽したい。
◆◆◆◆
結局日が暮れるまで動かなかった下っ端のお陰で、そいつが働く一角の廊下がすっかり綺麗になってしまった。
さすがに午後全てを掃除に過ごすつもりはなかったので、人通りがない間は適当な部屋に忍び込んで暇つぶしに書類に目を通していたのだが・・・。
そう言えば、第3騎士団って軍部の情報収集の部隊だったんだね。
騎士団だから、情報を集めてそれに基づいてスパイや違法取引を行っている商人・貴族を急襲したりといった事が多いのだが、どちらにせよ情報収集が主たる業務だ。
お陰で、王国に関する色々面白い話を読む羽目になった。
後ろ暗い話にはそれなりに精通しているつもりだったが、国が把握している話というのは裏社会が把握しているのとはまた少し違うようだ。
勿論、『今頃こんなことを調べているの?』と思うような裏では『暗黙の了解』的な常識のこともあったり、『おいおい、何を見当違いな結論に達しているんだ』と思うような阿呆な結論に至っている報告書もあったが。
そんなこんなで時間を潰していたら、やっとあの下っ端が条件を記した紙を手に部屋を出た。
俺もモップとバケツを手に持って、さりげなく違うルートで下っ端が向かっていると思われる方向に進む。
どこまで行くのか知らないが、ずっと後ろを用務員が着いてきたら怪しむだろうからな。
まあ、誰かにつけられているなんて夢にも思っていないのか、下っ端は一度も振り返らなかったが。
下っ端は3階のそこそこ偉い奴らがいる一角の部屋に入っていった。
誰かが来ても掃除をしていたかのように見せられるよう、すぐそばの角を曲がったところにバケツを置き、モップを手に下っ端が入っていった部屋の前の扉に忍び寄る。
下手に人よけや探知の結界を張ったら魔術を探知する魔道具に発見される可能性があるので、心眼《サイト》の精度と範囲を広げて辺り一帯に誰かが近づいたら分かるようにした。
これは魔術院に入る前からやっていた奥の手で、魔術ではないから探知されないし、魔術を知らなくても出来るのだが・・・久しぶりにやると頭に鈍い痛みが走る。
少し鈍ってきているかも知れない。
とは言え、足を洗ったはずの職業の技を磨き続ける意味も無い気がするが。
・・・長や学院長とかが頼み事をしてこなければ良いのだ!
そんなことを考えながら耳を澄ませていたら、部屋の中で下っ端の状況説明が終わった。
「何だこれは!」
どうやら条件の紙を渡したらしい。
「その条件を飲まなければ今回の依頼を請けないと相手が主張しているらしく・・・。
どうしましょう?」
がりがりと頭を掻くように部屋の持ち主の手が動いた。
ふむ。
この苛立ちようを見るに、この男にもこの条件を丸呑みする権限はないようだな?
素晴らしい。
この下っ端に悪事をしている自覚がなければ、このまま直ぐに上司に話を持って行くか、もしくは普通に上司とのアポイントメントを取るだろう。
後ろ暗い事をやっていると思っているなら夜になるまで上司に連絡を取らない可能性が高いな。
こんなことに巻き込まれるとは思っていなかったので、今日の服装は下町を歩いてもおかしくないちょっと古い普段着だ。
先程昼食を取った際に、慌てて若い用務員が着るようなつなぎを入手しておいたのだが、それに着替える必要がある。
酒場を出た下っ端を追跡し、第3騎士団本部へ入っていたのを確認した。
そのまま本部入り口の前を通り過ぎて角を曲がり、身体強化の術を使って壁に飛び乗って敷地内の外壁近辺に生えている大木へ飛び移る。
・・・敷地のど真ん中に大木があったら訓練とかに邪魔なのは分かるが、壁から飛び乗れる範囲にこんな便利な大木を残しておくなんてなってないなぁ。
それはともかく。
まずは適当な掃除道具でも拝借して、用務員が日中から掃除をしていそうな場所へ行くふりをして下っ端の側に行っておくか。あの条件を記した紙が人の手に渡れば、下っ端が誰かに今回の依頼について報告したことが分かるのでその紙を追っていけば良い。
だが、出来ればその会話も聞きたい。
こういう時に、相手の服にでも付けられる極小の通信機端末があれば便利なんだがなぁ。
流石にどれだけ短距離用にしても、それなりの重量が必要になってしまうのが問題なのだ。自分で持ち歩く分には苦にはならないが、相手の服に忍び込ませたら重さでばれてしまう。
木の上でつなぎに着替え、掃除道具置き場がありそうな場所へ歩きながら心眼《サイト》で下っ端を観察したが、どうやら自分の部屋に戻ったのか、座り込んで動いていない。
特に誰かとアポイントメントを取った様子もなかったから、夜まで待つのか??
だとしたらこの下っ端も悪事に荷担している自覚があるのか。
特級魔術師を嵌めるような案件となれば、大抵何も知らないカモを数人通して何か起きた場合はそちらに罪を負わせることが多いのだが。
それとも、黒幕はいつも悪事を働いていて、今回は何をやっているのか知らないにしても下っ端レベルですら悪事であると言うことを自覚しているのかな?
どちらにせよ、後でこいつのオフィスと自宅も調べてみた方がいいな。
悪事に荷担している下っ端というのは、賢い場合は上から切られたときの保険用にそれなりの証拠を確保していることも多い。
どうせなら一番上だけでなく関係者全てを一網打尽したい。
◆◆◆◆
結局日が暮れるまで動かなかった下っ端のお陰で、そいつが働く一角の廊下がすっかり綺麗になってしまった。
さすがに午後全てを掃除に過ごすつもりはなかったので、人通りがない間は適当な部屋に忍び込んで暇つぶしに書類に目を通していたのだが・・・。
そう言えば、第3騎士団って軍部の情報収集の部隊だったんだね。
騎士団だから、情報を集めてそれに基づいてスパイや違法取引を行っている商人・貴族を急襲したりといった事が多いのだが、どちらにせよ情報収集が主たる業務だ。
お陰で、王国に関する色々面白い話を読む羽目になった。
後ろ暗い話にはそれなりに精通しているつもりだったが、国が把握している話というのは裏社会が把握しているのとはまた少し違うようだ。
勿論、『今頃こんなことを調べているの?』と思うような裏では『暗黙の了解』的な常識のこともあったり、『おいおい、何を見当違いな結論に達しているんだ』と思うような阿呆な結論に至っている報告書もあったが。
そんなこんなで時間を潰していたら、やっとあの下っ端が条件を記した紙を手に部屋を出た。
俺もモップとバケツを手に持って、さりげなく違うルートで下っ端が向かっていると思われる方向に進む。
どこまで行くのか知らないが、ずっと後ろを用務員が着いてきたら怪しむだろうからな。
まあ、誰かにつけられているなんて夢にも思っていないのか、下っ端は一度も振り返らなかったが。
下っ端は3階のそこそこ偉い奴らがいる一角の部屋に入っていった。
誰かが来ても掃除をしていたかのように見せられるよう、すぐそばの角を曲がったところにバケツを置き、モップを手に下っ端が入っていった部屋の前の扉に忍び寄る。
下手に人よけや探知の結界を張ったら魔術を探知する魔道具に発見される可能性があるので、心眼《サイト》の精度と範囲を広げて辺り一帯に誰かが近づいたら分かるようにした。
これは魔術院に入る前からやっていた奥の手で、魔術ではないから探知されないし、魔術を知らなくても出来るのだが・・・久しぶりにやると頭に鈍い痛みが走る。
少し鈍ってきているかも知れない。
とは言え、足を洗ったはずの職業の技を磨き続ける意味も無い気がするが。
・・・長や学院長とかが頼み事をしてこなければ良いのだ!
そんなことを考えながら耳を澄ませていたら、部屋の中で下っ端の状況説明が終わった。
「何だこれは!」
どうやら条件の紙を渡したらしい。
「その条件を飲まなければ今回の依頼を請けないと相手が主張しているらしく・・・。
どうしましょう?」
がりがりと頭を掻くように部屋の持ち主の手が動いた。
ふむ。
この苛立ちようを見るに、この男にもこの条件を丸呑みする権限はないようだな?
素晴らしい。
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