968 / 1,077
卒業後
967 星暦557年 橙の月 21日 次は?(2)
しおりを挟む
「次はどうしようか~」
納品の圧力に晒されることもなくなり久しぶりにのんびりした工房で、朝食後のお茶を準備していたらシャルロがソファの背もたれに体を預けてぐわ~っと背を伸ばしながら呟いた。
平和だ。
やっぱ、俺には時間に追われた製造って向いていないよなぁ。
開発の為に根を積めるのは良いが、造らなきゃいけない魔具の材料が積まれている作業机を見るだけで疲れが溜まる気がする俺には、決まった量の魔具や部品を作る作業は辛すぎるし楽しくない。
こんなのをずっとやれって言われたら、うっかりウォレン爺の軍に入らないかという誘いに乗ってしまいそうだ。
もしくは長からの盗賊《シーフ》ギルドの仕事の話とか。
「ちなみに、母曰くまだ過敏《アレルギー》体質安全用魔具は全然足りていないから幾らでも造ってくれて構わないそうだ。
何だったら売り上げ金の支払いを来年になるよう細工するのも大歓迎だとか」
アレクが真面目そうな顔で言った。
それって脱税っぽくない?
大丈夫なのかよ?
というか、これ以上製造は嫌だ!!!
「絶対、嫌~~!!」
シャルロがバタバタを足を振りまわしながら抗議した。
お。
シャルロも俺と同じで製造作業には向いてないんだな。
まあ、アレクだって淡々と作業をしていたが、一日の終わりのため息がかなり深かったよな?
「うむ。
私も嫌だったから、謹んでお断りしておいた」
口元を笑いに歪めながらアレクが言った。
なんだ。
揶揄ったのか。
真面目に言っているのかと思って一瞬焦ったぜ。
「なんかこう、次はもっと気楽な物を開発したい」
命に関わるんだって懇願されるのはもうまっぴらだ。
弱い立場っていうのも脅しに使えるんだな~っというのを今回の騒動でつくづく実感した。
強い立場の人間にだったら『このタイミングが気に入らないなら他に行けば?』と言い切れるのだが、弱い立場の奴に『他に選択肢がないのです!!』と縋られると断りにくい。
しかも弱い立場っていうのが過敏《アレルギー》体質安全用魔具入手に関してだけって言うのが質が悪いし。
恨みを買ったら将来的にシェフィート商会の商売にどう悪影響されるか分かったもんじゃない相手が弱さを前面に押し出して泣きついてくると、どうしようもないって反則だよなぁ。
まあ、命は確かに取り返しがつかないけどさぁ。
暫くは命に関わるような魔具の開発はしたくない。
「美容とかに関係するのももうすぐ社交シーズンだから危険そうだよ」
シャルロが指摘する。
まあ、もう美容関係な発見は暫く出てこないとは思うが、確かにあれも怖かった。
「下手に利権とかに関わりそうなのも暫くいらないかな・・・」
ちょっと遠い目をしながらアレクが言った。
おやぁ?
成分割合分析用魔具でどっかから嫌味でも言われているのかな?
まあ、塩とか小麦粉とかに混ぜ物をして利益率を上げている卸売りや仲介業者が多いって話だったから、それなりに儲けを潰された相手から恨みを買ったんだろうな。
魔具を開発した俺達じゃなくってシェフィート商会の方だろうけど。
そう考えると、アレクの家族に毒探知用魔具が行き渡ったのは良かった。
アレクには水精霊が付いているし、アレクが結婚したら奥さんや子供も守られるだろうけど、現時点でアレクの両親や兄貴たちは別に守らなきゃいけない存在じゃあないからなぁ。
とは言え、考えてみたらアレクの兄貴たちが死んじまったらアレクがシェフィート商会を継がなきゃいけなくなって、俺たちの共同事業に差し支えるから・・・清早に頼んで長男《ホルザック氏》と次男《セビウス氏》を守っておいてもらうかな?
いや、次男が生きていればそっちが長男をある程度は守ってくれるだろうし、一応俺たちが学生時代に長男と次男で跡継ぎ争いをしていたんだから、もしも長男保護に失敗しても次男がシェフィート商会を継げばいいから、次男だけ守って貰えば良いか。
・・・そう考えると、次男だったら十分自分で自己防衛できそうだから、精霊の護衛《ガード》は要らんか。
そんなことをぼんやり考えていたら、アレクがことんとマグをローテーブルに置いた。
「思うんだが、子供用にオモチャなんてどうだろう?
以前浮遊型台車で物凄く楽し気に遊んでいたが、あれは実用の物だった。
もっと小さくて遊びにしか使えないようなオモチャで、とびっきり面白い物を作ったらどうかな?」
おや。
甥・姪に超甘いシャルロならまだしも、アレクには珍しい提案だな。
でも、気軽そうで良いかも?
オモチャなら、製造が間に合わなくても断れない相手に泣きつかれることも無いだろうし。
納品の圧力に晒されることもなくなり久しぶりにのんびりした工房で、朝食後のお茶を準備していたらシャルロがソファの背もたれに体を預けてぐわ~っと背を伸ばしながら呟いた。
平和だ。
やっぱ、俺には時間に追われた製造って向いていないよなぁ。
開発の為に根を積めるのは良いが、造らなきゃいけない魔具の材料が積まれている作業机を見るだけで疲れが溜まる気がする俺には、決まった量の魔具や部品を作る作業は辛すぎるし楽しくない。
こんなのをずっとやれって言われたら、うっかりウォレン爺の軍に入らないかという誘いに乗ってしまいそうだ。
もしくは長からの盗賊《シーフ》ギルドの仕事の話とか。
「ちなみに、母曰くまだ過敏《アレルギー》体質安全用魔具は全然足りていないから幾らでも造ってくれて構わないそうだ。
何だったら売り上げ金の支払いを来年になるよう細工するのも大歓迎だとか」
アレクが真面目そうな顔で言った。
それって脱税っぽくない?
大丈夫なのかよ?
というか、これ以上製造は嫌だ!!!
「絶対、嫌~~!!」
シャルロがバタバタを足を振りまわしながら抗議した。
お。
シャルロも俺と同じで製造作業には向いてないんだな。
まあ、アレクだって淡々と作業をしていたが、一日の終わりのため息がかなり深かったよな?
「うむ。
私も嫌だったから、謹んでお断りしておいた」
口元を笑いに歪めながらアレクが言った。
なんだ。
揶揄ったのか。
真面目に言っているのかと思って一瞬焦ったぜ。
「なんかこう、次はもっと気楽な物を開発したい」
命に関わるんだって懇願されるのはもうまっぴらだ。
弱い立場っていうのも脅しに使えるんだな~っというのを今回の騒動でつくづく実感した。
強い立場の人間にだったら『このタイミングが気に入らないなら他に行けば?』と言い切れるのだが、弱い立場の奴に『他に選択肢がないのです!!』と縋られると断りにくい。
しかも弱い立場っていうのが過敏《アレルギー》体質安全用魔具入手に関してだけって言うのが質が悪いし。
恨みを買ったら将来的にシェフィート商会の商売にどう悪影響されるか分かったもんじゃない相手が弱さを前面に押し出して泣きついてくると、どうしようもないって反則だよなぁ。
まあ、命は確かに取り返しがつかないけどさぁ。
暫くは命に関わるような魔具の開発はしたくない。
「美容とかに関係するのももうすぐ社交シーズンだから危険そうだよ」
シャルロが指摘する。
まあ、もう美容関係な発見は暫く出てこないとは思うが、確かにあれも怖かった。
「下手に利権とかに関わりそうなのも暫くいらないかな・・・」
ちょっと遠い目をしながらアレクが言った。
おやぁ?
成分割合分析用魔具でどっかから嫌味でも言われているのかな?
まあ、塩とか小麦粉とかに混ぜ物をして利益率を上げている卸売りや仲介業者が多いって話だったから、それなりに儲けを潰された相手から恨みを買ったんだろうな。
魔具を開発した俺達じゃなくってシェフィート商会の方だろうけど。
そう考えると、アレクの家族に毒探知用魔具が行き渡ったのは良かった。
アレクには水精霊が付いているし、アレクが結婚したら奥さんや子供も守られるだろうけど、現時点でアレクの両親や兄貴たちは別に守らなきゃいけない存在じゃあないからなぁ。
とは言え、考えてみたらアレクの兄貴たちが死んじまったらアレクがシェフィート商会を継がなきゃいけなくなって、俺たちの共同事業に差し支えるから・・・清早に頼んで長男《ホルザック氏》と次男《セビウス氏》を守っておいてもらうかな?
いや、次男が生きていればそっちが長男をある程度は守ってくれるだろうし、一応俺たちが学生時代に長男と次男で跡継ぎ争いをしていたんだから、もしも長男保護に失敗しても次男がシェフィート商会を継げばいいから、次男だけ守って貰えば良いか。
・・・そう考えると、次男だったら十分自分で自己防衛できそうだから、精霊の護衛《ガード》は要らんか。
そんなことをぼんやり考えていたら、アレクがことんとマグをローテーブルに置いた。
「思うんだが、子供用にオモチャなんてどうだろう?
以前浮遊型台車で物凄く楽し気に遊んでいたが、あれは実用の物だった。
もっと小さくて遊びにしか使えないようなオモチャで、とびっきり面白い物を作ったらどうかな?」
おや。
甥・姪に超甘いシャルロならまだしも、アレクには珍しい提案だな。
でも、気軽そうで良いかも?
オモチャなら、製造が間に合わなくても断れない相手に泣きつかれることも無いだろうし。
0
お気に入りに追加
501
あなたにおすすめの小説
ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後
オレンジ方解石
ファンタジー
異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。
ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。
婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話
Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」
「よっしゃー!! ありがとうございます!!」
婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。
果たして国王との賭けの内容とは――
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな
こうやさい
ファンタジー
わたくしは婚約者や義妹に断罪され、学園から追放を命じられました。
これが「ざまぁ」されるというものなんですのね。
義妹に冤罪着せられて殿下に皆の前で婚約破棄のうえ学園からの追放される令嬢とかいったら頑張ってる感じなんだけどなぁ。
とりあえずお兄さま頑張れ。
PCがエラーがどうこうほざいているので消えたら察してください、どのみち不定期だけど。
やっぱスマホでも更新できるようにしとかないとなぁ、と毎度の事を思うだけ思う。
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
思わず呆れる婚約破棄
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。
だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。
余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。
……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。
よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる