シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

960 星暦557年 黄の月 19日 新しい伝手(24)

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「魔具本体と指輪が物理的に繋がっていなくても近くにあれば大丈夫なこの機能って凄いよな」
指輪に機能を持たせる魔具は多いが、基本的に指輪本体に魔石を嵌めこんでそれを動力源にするか、チェーンで腕輪のような本体に繋ぐかしなければ機能しない。

東大陸で入手した毒探知用魔具は微細な魔石を指輪に入れてそれを本体の腕輪と同調させることでそれなりの出力が必要な機能を指輪に持たせることが出来る、非常に優れた設計だ。

「態々今回の改造では繋がっていないと機能しない様に魔術回路を変えたけどね~」
シャルロが茶化すように口を挟む。

「まあ、手の甲を覆う程のブレスレットっぽい本体が見える様にあるってことで体質的に何かの食材に過敏《アレルギー》反応する人用って言うのがはっきりして良いからな。
相手をビリっと驚かせて一歩下がらせる程度の魔具だったら指輪に付ける魔石だけでもなんとかなるし、離れても同調できるこの魔術回路は使わない方が良いだろう」
アレクが小さくため息を吐きながら言った。

アレクとしてはこの素晴らしい機能を特許登録して色々と売り出せないのが残念なんだろうなぁ。
とは言え、登録したら誰かが改造版毒探知用魔道具に搭載して、元の形に戻してしまう可能性がある。

それに、大元の発明は東大陸の誰かがやったのだ。
それを俺たちが何食わぬ顔して登録して利益を得るのは微妙だ。
多分気付かれないだろうとは思うし、正式に異議を申し立てる事も無いだろうが、一応本質的には違法行為だ。
それに何より、あっちの裏社会から恨まれたり利益を返せって脅されたりするかも知れない。

というか、そ知らぬ顔をしてシェフィート商会で毒探知用魔具の改造版を売り出しても俺たちと言う技術が流出した情報源まで辿り着けないかも知れないが、特許登録して利益を受け取るようにしたら金の流れで誰が諸悪の根源か分かっちまう確率が高まる。

「そう言えば、この魔具をなんて呼ぶ?
色々苦労して過敏体質用の魔具だって擬装しているのに、俺たちが『毒探知用魔具』って呼んでいたら意味がないだろ」
少なくともウォレン爺にはすぐばれる。

あの爺さんがこの毒探知用魔具を国に召し上げさせずに売り続けさせてくれるかどうかは五分五分ってところかなぁ。
少なくとも、『召し上げない代わりに国の要人にはただで提供しろ』とか位は言われそうだ。

「過敏《アレルギー》体質用魔具で良いんじゃない?」
シャルロがあっさり返す。

「過敏《アレルギー》体質安全用魔具とでもしないか?
過敏《アレルギー》体質が危険だというのをついでに理解して貰っておけば販売の制限を掛けにくいだろうし、単なるお洒落として買いたがる人間も減らせるだろう」
アレクが言った。

「でもさぁ、考えてみるとそうなると毒を盛られそうな可哀想な人は過敏《アレルギー》体質じゃないと使えないってことになるね」
シャルロがちょっと残念そうに指摘する。

「一気に致死量の毒を盛られる場合は駄目だが、徐々に毒を摂取させられて病死っぽく殺されそうな人は『何か体質が変わって合わない食材が出たのかも』ってことでこの過敏《アレルギー》体質安全用魔具を買うかも知れないぞ?
考えたんだが、この過敏《アレルギー》体質安全用魔具はまず何か所かで食材への過敏《アレルギー》体質の確認サービスを低額で提供して、過敏《アレルギー》体質が分かった人に求められれば売りつける形にしたら良いんじゃないか?
その際に、体質っていうのは年月とともに変わることもあるから友人なんかで最近体調が悪いって人がいたら試すように勧めてみたら良いって言っておけば良い」
アレクが提案した。

ふむ。
「確かに聞いたことも無いような機能の魔具なんだから、突然買わせようとするよりも、何が悪いのかを認識させるのを手伝ってから売りつける方が上手く行きそうだな。
だが、店先で準備しておく食材だけで見つからなかったらどうするんだ?」
店に出して置ける食材なんて限られている。
それを全部片っ端から指を突っ込んで調べていくのも時間が掛かるから、過敏《アレルギー》反応が出やすい典型的な食材以外だったら見つかる可能性が低そうだ。

「そう言う場合は10日程度、低額で貸し出して毎日の中で自分が飲んだり食べたりする食材を全て試すように言ったら良いだろう。
あと、よく使う化粧品も一応指で触れて試してみると良いかも知れないと助言しておこう。
それで何も見つからなかったらしょうがない」
肩を竦めながらアレクが返す。

確かにそれで良いか。
誓約契約しておけばちゃんと返って来るだろうし、失くした場合にも購入額を払うってことにしておけばこちらに損はない。

「なんかでも、そのうち実際に毒を盛られている人に引っ掛かりそう・・・」
シャルロが指摘する。

「そう言ってきたら『おや、そんなことがあったんですか。幸運でしたね~』とそ知らぬ振りをするしかないだろうな」
アレクが言った。

考えてみたら、実際に毒を盛られる人間よりも過敏《アレルギー》体質で困っている人間の方が多いのだ。
多分。
そちらに露骨に目立つ魔具を売りつけていけば、それでいいだろう。
それなりに目立つのだから、過敏《アレルギー》体質ではないのに毒を用心しているからという理由だけであれを装着するのは・・・多分避けるだろう。

王族や高位貴族が自宅で食事を毒味なしに楽しむためにあれを買って使う分には、好きにしてくれということで俺たちの知った事じゃあない。
願わくは、暗殺《アサッシン》ギルドとか毒を売る裏社会の連中とかにこれの事がバレないと期待したいけどな~。

勿論、国にも。


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