シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

951 星暦557年 黄の月 7日 新しい伝手(15)

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「ケッパッサって街の事、何か知ってる?」
美味しい昼食をご馳走になり、人心地がついたところでリビングに移動しのんびりと冷やしたお茶を飲みながらシャルロがキャリーナとジャレットに尋ねた。

「ケッパッサ?
南の方にある湿地と荒野がぶつかるところにある街ですか?」
キャリーナが聞き返す。

「そう。
毒が特産物って話らしいから毒探知用の魔具も良いのが無いかと思って行ってきたんだ」
シャルロが頷きながら返す。

「ああ~。
元々、ジルダスの方で争いに負けた連中が移り住んだって場所らしいな?
それなりに農作物だって育つ場所だった筈なのに、復讐と金儲けの為に毒物を育てまくっていたらいつの間にか川の北側はジルダスのような乾燥した荒野に、南側は沼だらけな湿地に変わっていたって御伽噺みたいな話を聞いたことがあるが」
ジャレットが更に付け加えた。

おお~。
マジか。
毒草とか毒になるのを育てすぎたせいで、風か水の精霊に嫌われて一帯が変わっちまったのかな?

まあ、単に毒性の強い植物を育てすぎて植物の生態系が狂って土地の保水能力とかが失われだけかも知れないが。

「え、あそこ等辺って元は普通に農作物が育つ場所だったんだ?
ジルダスと変わらないぐらい不毛な地に見えたけど」
シャルロが驚いたように言った。

『金の為に地を荒らす毒草を敢えて育てるなら、我らの手で循環を助ける必要もあるまいと精霊が手を引いたのだ。
精霊が減った土地の命の循環はたやすく壊れ、再生は難しい』
蒼流が突然現れてシャルロの言葉に答える。

なる程ねぇ。
精霊自体に毒は関係ないが、それでも他の植物や生き物を殺す様な毒性の強い植物だけを選んで育てられると不快に感じるんだね。

「うわ、毒草を育てると精霊にそっぽ向かれるんですか?!
耕作地以外の所でも毒草を見かけたら駆除しておくように見回り兵とかに言っておかないと!!」
ジャレットが蒼流の言葉に慌てた。

「まあ、自然な環境の中でむしゃむしゃ食べられない様に毒で身を護る植物は多いから、毒があるからって駆除しまくったらそれはそれで自然のバランスが壊れちゃうよ。意図的に毒草を敢えて育てるようなことをしなければ良いんだと思う」
シャルロが宥める様に言い聞かせる。

「そうよ、花や実が綺麗だったり美味しくても根に毒があったり、新芽だけ危険だったりって植物の生存戦略にも色々とあるんだから変に毒草は駆除だ!なんて命令を出しちゃ駄目よ」
キャリーナがジャレットを窘めた。

まあ、そうだよなぁ。
普通に美味しいだけの植物だったら鹿や兎や他諸々の動物にガンガン食べられちまうから、ある程度の毒を使った自衛は植物にとっては必要な場合も多いんだろう。
それを人間の都合だけでバランスを崩れた規模で育てるのが駄目なだけで。

「まあ、それはともかく。
一応ケッパッサにちょっと珍しい染料や香辛料もあったから幾つか仕入れてきた。
もしかしたらシェフィート商会の方で継続的にあそこと交易を始めるかも知れないが・・・そうなるとジルダスの呪具と同じで、今度はケッパッサから怪しげな毒が流れ込みやすくなるかもしれないから、あそこと取引が生じる際の注意点なんかをそれとなく東大陸の商会にでも聞いておくといいかも知れない」
アレクがジャレットに告げた。

何か珍しい鮮やかな朱赤っぽい色があったらしいんだよな。
染料ってそこで育つ植物や鉱物に左右されるから、他の土地で同じ色が入手できないことも多い。もしもアレクのお袋あたりがこの色は売れる!!と直感したらシェフィート商会の船がケッパッサと交易を始めることになるだろう。

その際に色々欲しくない余分な物まで流れ込むことになるだろうが。
というか、危険性を鑑みて取引を自粛しても、他の商会がいつか同じ物を見つけて商売を始めちまうだろうからなぁ。
どうせ要らん物までそのうち入って来るならば、先駆者として『あの色ならシェフィート商会!!』と言われる利益を確保するよう動くだろうとの話だった。

朱赤がそんなにいい物なのか、俺的には不明だが。
普通の赤だって、色が褪せてきたら朱赤っぽくなるんだから暫く着ていたらそれっぽい色にならないかね?

まあ、細かい色の違いなんかに関しては男と女の感性は全然違うらしいから、俺が何を言ってもしょうがないし、アレク達も立場が弱いらしいからな。

「分かった、気を付けておくよ。
・・・良い染料があるならこちらから船を出すのも手かもしれないな。
どの程度需要があるかにもよるが、農作物があまり育たない地域ならば交易として農作物と染料とを取引して、アファル王国から来た船にここで売りつければ商会にとっては時間の節約になるし、此方にとっては交易品が増えるかも知れん」
腕を組んで考え込みながらジャレットが言った。

「まあ、小さな島の方が変な物が持ち込まれるのを止めやすいかも知れんが・・・確実に染料を大量に仕入れることになるとは限らないから、あまり大々的に始めたら赤字になるかもだぞ?」
アレクがジャレットに注意する。

「ここは生地の色とかも限られているからね。
綺麗な色を自分たちで染められるようだったらそれはそれでいいし。幾つかサンプルを入手して試してみても良いかも知れないわね」
キャリーナも中々乗り気なようだ。

「・・・毒見用の毒探知の魔具はあるんだよな?
あれで一応全部先に調べた方が良いかも知れないぞ。
毒の扱いに慣れた街だから特に何も言わないだけで、実は扱いを気を付けないと身体に害があるような染料の可能性だってあるんだ、気を付けてくれよ」
今回入手した毒探知の魔具は置いていけないが、晩餐会の主催者《ホスト》側が毒見するのに使うような大型の持ち運びを考えていない様な毒探知の魔具は輸入品の検査とかにも使っている筈。

だとしたら食べ物じゃなくても服なんかに使う可能性が高い染料の検査にも使っておけば、後から問題が起きたりしなくて済むだろう。

・・・今回買ったのに関しても、後で確認しておくか。
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