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卒業後
947 星暦557年 黄の月 5日 新しい伝手(11)
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「こちらはこれに水を入れておいて、誰かを傍に座らせて起動したらいいだけだ。
暫く簡易結界が展開されて湯気が中に少し満ちてくるが、そこに入れた水の蒸気だから害はないし、終わる頃にはそれも消えてスッキリ乾くからデリケートな生地でも蒸気で痛むこともほぼない。結界は蒸気を留める為だけのものだから、中からでも外からでも力を籠めれば突っ切れるので心配せずに中でリラックスしていてくれ」
人身御供として選ばれたらしき薄汚れた若いのと、横で興味深げに話を聞いてるザグルに美顔用魔具の使い方を簡単に説明する。
若いのは『それなりに薄汚いの』と言った俺の言葉通り、薄汚れていて肌荒れも酷く、髪も脂っぽくギタギタな感じなので見違えるほど綺麗になるだろう。
本人が綺麗になりたいと思っているかは不明だが。
裏社会の下っ端で、下手に清潔できれいなのは有り難くない意味で目を付けられやすいからなぁ。
まあ、それを上手く利用してのし上がるようなのもいるが。
俺の説明を聞いて満足したらしきザグルが、若いのに水を入れて美顔用魔具を起動させるように身振りで指示した後、机の上にゴトっと1ハドx1.5ハド程度の箱を置き、蓋を開けてみせた。
中に入っていたのは1ハド近く幅がある腕輪・・・と言うよりもアームガードと呼びたくなるような装飾品(?)とそれに細いチェーンで繋がった指輪だった。
「こちらは、この腕輪を右なり左なりの腕に嵌め、此方の指輪をその腕の指のどれかに嵌めておくんだ。
口に入れる食材や飲み物にこの指輪が嵌った指で触れたら、体に害がある物が含まれていたらピリッと刺激が走る。
ただし、『体に害がある物』であって、『致死性の物』とは限らないから、ちょっとした弱毒も刺激の一部として楽しむような酒や珍味も引っかかるから、変に主催者を糾弾する前に何に引っかかったか確認することをお勧めするぞ」
ザグルが説明してくれた。
東大陸の超辛い料理とかって弱毒なんじゃ無いかと思うのもあるから、今度試してみたら面白いかもだな。
しっかし。
「これって腕輪って言うのか?
一応アームプロテクターだと言い切る程無骨ではないが・・・」
それなりに装飾されていて、すっきりお洒落に仕上げてあるから装飾品だと主張できないことは無いだろうが・・・中々大きい。
長袖のシャツの下に着けておこうと思ったら、シャツは一サイズ大きいのにするか、特注で腕が太いのにする必要があるかも知れない。
裏に調節できる鎖がついているから落ちはしないだろうけど、女性の腕には目立ちそうだ。
女性の夜会服って長袖のはあまりないし、あってもスッキリ体にフィットしているから腕にぶっといアームガードもどきなんぞ付けていたら一目瞭然だろう。
「こっちの大陸でこのサイズの腕輪をしていたら毒探知用だと誰でも分かっているからな。
一応金持ち用にお洒落な形に加工してあるが、毒殺を心配していると公言していることにはなるぞ」
しゅわ~と湯気が出てきた美顔用魔具の傍で落ち着かない様子で不安げにこちらを見ている若いのを興味深げに観察しながらザグルが言った。
どうやら毒殺を心配していると公言する事になってもサイズ的にはこれ以下には出来ない様だ。
女性陣には精霊で対処してもらう方が無難だな。
取り敢えず左腕に腕輪を嵌め、指輪を中指に嵌めて持ってきた毒に一滴水を垂らして指で触れてみる。
「うわ!」
かなりキツイ。
ピリッとした刺激というよりも、ビリッとがっつり痺れる感じだぞ??
「ああ、ちなみに致死性が高ければ高い程刺激が強くなるぞ。
テスト用だからって飲んだらすぐに死ぬような毒を試したら、痛いんじゃないか?」
くつくつと笑いながらザグルが言った。
「死なない毒なんぞ試しても余り意味がないと思うんだが・・・まあ、そうとも言っていられないか」
先日のレディ・トレンティスに使われた薬に水を垂らして、こちらも触れてみる。
「・・・なるほど。
有害だと分かるんだな」
確かレディ・トレンティスの薬は余程大量摂取しない限り薬だけの効果で死ぬ心配はなかった筈。
それでもそれなりにピリッとしたので、有害だとちゃんと分かるらしい。
実際に飲ませて違和感がない程度に薄めた時にどの程度の刺激になるか、後で調べる必要があるが。
と言うか、これって普通の薬も引っ掛かるんじゃ無いのか?
薬でも試して、どの程度が引っ掛かるのか色々と試してみた方が良さそうだな。
普通に強い薬を出しただけなのに毒殺しようとしていると医者が責められたら可哀想だし、そのせいで治療が遅れたら本末転倒だ。
ついでに睡眠薬と媚薬も試してみたが・・・睡眠薬には緩く反応したが、媚薬には効かなかった。
「媚薬には効果が無いのか?」
女性や婚約間際な優良物件扱いな令息なんかにとっては媚薬もかなり危険だと思うが。
それとも一緒に睡眠薬っぽいのも併用されて分かるのかな?
「中毒性があったり、精神が逝かれちまうような強い媚薬には反応するぜ?
だが、ちょっと飽きが入った熟年夫婦が刺激を求めて使うような緩い媚薬には反応しないな。
酒や普通の甘味とかでも緩い媚薬効果があるんだ。
それまで一々反応していたら、流石に文句が出るんでな」
ザグルが応じた。
マジかぁ。
酒って自制心が駄目になるだけでなく、実際に媚薬の効果があるのか??
元々手許が狂いそうになるし自制心が緩まるから酒は適当に舐める程度にしか飲まないが、危険だな!
まあ、シェイラとだったら安全な宿屋でちょっと楽しんでも良いが。
・・・媚薬効果がある甘味って何だろう?
暫く簡易結界が展開されて湯気が中に少し満ちてくるが、そこに入れた水の蒸気だから害はないし、終わる頃にはそれも消えてスッキリ乾くからデリケートな生地でも蒸気で痛むこともほぼない。結界は蒸気を留める為だけのものだから、中からでも外からでも力を籠めれば突っ切れるので心配せずに中でリラックスしていてくれ」
人身御供として選ばれたらしき薄汚れた若いのと、横で興味深げに話を聞いてるザグルに美顔用魔具の使い方を簡単に説明する。
若いのは『それなりに薄汚いの』と言った俺の言葉通り、薄汚れていて肌荒れも酷く、髪も脂っぽくギタギタな感じなので見違えるほど綺麗になるだろう。
本人が綺麗になりたいと思っているかは不明だが。
裏社会の下っ端で、下手に清潔できれいなのは有り難くない意味で目を付けられやすいからなぁ。
まあ、それを上手く利用してのし上がるようなのもいるが。
俺の説明を聞いて満足したらしきザグルが、若いのに水を入れて美顔用魔具を起動させるように身振りで指示した後、机の上にゴトっと1ハドx1.5ハド程度の箱を置き、蓋を開けてみせた。
中に入っていたのは1ハド近く幅がある腕輪・・・と言うよりもアームガードと呼びたくなるような装飾品(?)とそれに細いチェーンで繋がった指輪だった。
「こちらは、この腕輪を右なり左なりの腕に嵌め、此方の指輪をその腕の指のどれかに嵌めておくんだ。
口に入れる食材や飲み物にこの指輪が嵌った指で触れたら、体に害がある物が含まれていたらピリッと刺激が走る。
ただし、『体に害がある物』であって、『致死性の物』とは限らないから、ちょっとした弱毒も刺激の一部として楽しむような酒や珍味も引っかかるから、変に主催者を糾弾する前に何に引っかかったか確認することをお勧めするぞ」
ザグルが説明してくれた。
東大陸の超辛い料理とかって弱毒なんじゃ無いかと思うのもあるから、今度試してみたら面白いかもだな。
しっかし。
「これって腕輪って言うのか?
一応アームプロテクターだと言い切る程無骨ではないが・・・」
それなりに装飾されていて、すっきりお洒落に仕上げてあるから装飾品だと主張できないことは無いだろうが・・・中々大きい。
長袖のシャツの下に着けておこうと思ったら、シャツは一サイズ大きいのにするか、特注で腕が太いのにする必要があるかも知れない。
裏に調節できる鎖がついているから落ちはしないだろうけど、女性の腕には目立ちそうだ。
女性の夜会服って長袖のはあまりないし、あってもスッキリ体にフィットしているから腕にぶっといアームガードもどきなんぞ付けていたら一目瞭然だろう。
「こっちの大陸でこのサイズの腕輪をしていたら毒探知用だと誰でも分かっているからな。
一応金持ち用にお洒落な形に加工してあるが、毒殺を心配していると公言していることにはなるぞ」
しゅわ~と湯気が出てきた美顔用魔具の傍で落ち着かない様子で不安げにこちらを見ている若いのを興味深げに観察しながらザグルが言った。
どうやら毒殺を心配していると公言する事になってもサイズ的にはこれ以下には出来ない様だ。
女性陣には精霊で対処してもらう方が無難だな。
取り敢えず左腕に腕輪を嵌め、指輪を中指に嵌めて持ってきた毒に一滴水を垂らして指で触れてみる。
「うわ!」
かなりキツイ。
ピリッとした刺激というよりも、ビリッとがっつり痺れる感じだぞ??
「ああ、ちなみに致死性が高ければ高い程刺激が強くなるぞ。
テスト用だからって飲んだらすぐに死ぬような毒を試したら、痛いんじゃないか?」
くつくつと笑いながらザグルが言った。
「死なない毒なんぞ試しても余り意味がないと思うんだが・・・まあ、そうとも言っていられないか」
先日のレディ・トレンティスに使われた薬に水を垂らして、こちらも触れてみる。
「・・・なるほど。
有害だと分かるんだな」
確かレディ・トレンティスの薬は余程大量摂取しない限り薬だけの効果で死ぬ心配はなかった筈。
それでもそれなりにピリッとしたので、有害だとちゃんと分かるらしい。
実際に飲ませて違和感がない程度に薄めた時にどの程度の刺激になるか、後で調べる必要があるが。
と言うか、これって普通の薬も引っ掛かるんじゃ無いのか?
薬でも試して、どの程度が引っ掛かるのか色々と試してみた方が良さそうだな。
普通に強い薬を出しただけなのに毒殺しようとしていると医者が責められたら可哀想だし、そのせいで治療が遅れたら本末転倒だ。
ついでに睡眠薬と媚薬も試してみたが・・・睡眠薬には緩く反応したが、媚薬には効かなかった。
「媚薬には効果が無いのか?」
女性や婚約間際な優良物件扱いな令息なんかにとっては媚薬もかなり危険だと思うが。
それとも一緒に睡眠薬っぽいのも併用されて分かるのかな?
「中毒性があったり、精神が逝かれちまうような強い媚薬には反応するぜ?
だが、ちょっと飽きが入った熟年夫婦が刺激を求めて使うような緩い媚薬には反応しないな。
酒や普通の甘味とかでも緩い媚薬効果があるんだ。
それまで一々反応していたら、流石に文句が出るんでな」
ザグルが応じた。
マジかぁ。
酒って自制心が駄目になるだけでなく、実際に媚薬の効果があるのか??
元々手許が狂いそうになるし自制心が緩まるから酒は適当に舐める程度にしか飲まないが、危険だな!
まあ、シェイラとだったら安全な宿屋でちょっと楽しんでも良いが。
・・・媚薬効果がある甘味って何だろう?
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