シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

944 星暦557年 黄の月 4~5日 新しい伝手(8)

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考えてみると、若い女が買い出しの船旅に出るなんてあまり聞かない話だ。
しかも買う品が呪具って物騒だ。ペグーの実は確か先日の毒関連の流通網で名前を見た気がするから毒の原材料の一つだと思うし。

良い家の女っていったいどういう『良い家』なんだ??

まあ、俺の知ったこっちゃないが。
取り敢えず、これから会う予定のザグルは何やら女に惚れたはれたで浮ついているかも知れないし、そのライバル顔役は娘が結婚するのに関わっている様だからそっちも色々と忙しいだろう。

そう考えると、今は良い時期なのかも?
少なくとも顔役同士の本格的な闘争に巻き込まれる危険は少なそうだ。
うっかり勝手に副業を始めようと考えた下っ端からちょっかいを出される可能性はあるが。

もう少し聞いていたが、極端に興味を引くような話は無かったので取り敢えず街の中を見て回り、ザグルの酒場に繋がる裏道と地下室を探り、丁度いい感じに何やら連絡に出された若いのが居たので後を追った。

ジルダスもだが、この街も屋根が低いから上を走りやすいんだよなぁ。
なんだってもっと用心して上を確認しないのかは不思議だが。

そっと静かに距離を取りながら若いのの後を追ったら、街の中心地からもう少し北に外れたところにある3階建ての集合住宅に入り・・・そこで別の部屋に移動してそこから地下へ潜って更に別の一軒家へと移動した。
随分と用心深いな。

毒が主要な産物な街だったら、襲撃よりも内部の裏切りによる毒の仕込みの方が危険度は高そうな気がするが。
それとも、そう言う毒への対抗手段が万全だから、襲撃の危険性が高くなるのだろうか?

一軒家に入った男が中で二階の部屋に入り、ドアに入ったすぐ傍で直立して報告しているっぽいのを心眼で視たものの、流石に何を言っているかは聞き取れない。
ここまで用心深くしている顔役だったら家に迂闊に近づいたら敵対勢力だと見做されて攻撃されかねないから、今日は諦めて帰るか。

取り敢えず、女性へのプレゼントに良さそうなものがあるか、アレクに聞いておくかな?
ザグルとやらが全員に会いたいって言うんじゃない限り、俺一人で会いに行けばいいだろうが紹介状だけでなく何か気を引く手土産があったら対応が良くなるかもしれないからな。

◆◆◆◆

「ジルダスのゼブから紹介された」
朝食後にザグルの酒場に行き、バーテンダーっぽい男に声をかける。
日中も昼食を出しているらしいが、流石にまだ開店前なのか若いのが掃除をしているのを見張りながらゆっくりとこの男がカウンターの上を拭いていた。此奴が多分今の時間帯のトップだろう。
奥にいる書類作業をしているっぽい人間が更に上の可能性もあるが。

「ジルダスから?
何が欲しいんだ?」
ちらりと目を上げて尋ねてくる。

「ここの特産物への対応手段、かな?
取り敢えず、紹介状もあることだし、ザグルに会いたいのだが」
ジルダスの顔役のトップから紹介状を貰ったのに、この街で下っ端にしか会わずに話を終わらせたらジルダスの面子を潰すことになる。

毒探知の魔具や解毒の魔具とかが下っ端レベルから購入できるんだったら個人的にはザグルに会う必要はないんだが・・・まあ、将来的な付き合いも考えて、トップに伝手をちゃんと繋いでおく方が面倒が無いだろう。

毒を買う気はないが、毒を売る連中だったら対応手段や新規の毒に関する情報とかを有している可能性は高い。

問題が起きた時に相談できる相手と今から顔を繋いでおいてそれなりに友好的な関係を築いておく方が、問題が起きて弱っている時に新規に関係を築くよりも安全だ。

「ふん。
昨日港に入ってきた幽霊船か」
おっさんが新たなガラスを手に取って布巾で拭いながら言った。

「精霊に動かしてもらっている便利な船でな。
乗っ取っても絶対に動かせないが、西大陸からジルダスまで数日で着く優れモノだ」
これで襲って来ようとするようなアホはさっさと蒼流に海へ沈められた方が話が簡単になるだろう。

「アファル王国のやつらか。
あまりこの街の特産物が売れる先とは聞いていないが・・・まあ、紹介状があるなら、連絡を入れよう」
がん!と蹴りを入れた音に応じて後ろの扉が開き、若いのが首を突っ込んできた。

「アファル王国からの商人?がゼブの紹介状を持ってやってきたとザグルのおっさんに伝えろ」
若いのが頷いて、頭をひっこめた。
そう言えば携帯用の通信機ってこっちにも広がっているのかな?
店舗に持ち込めば部下がトップに伺いを立てるのにも使えるが・・・使っているのだろうか?
通信機があれば一々若いのが報告に行く必要も無いと思うが。うっかり部下に乗っ取られない様に日常の報告や命令は直にやっているのかな?

あまり長やゼブが通信機を使って部下と連絡を取り合っている姿って想像が出来ないが・・・人間が走り回って伝言を伝えるよりも通信機や転送箱を使う方が便利だし安全そうだ。

・・・土産として転送箱の方が喜ばれそうだが、あれは東大陸に広めても良いのかな?
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