シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

301 星暦553年 緑の月 5日 でっち上げの容疑

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「また、軍から依頼が入った」
温泉を作り終わり、さて真面目に仕事に戻ろうかと思っていたら盗賊《シーフ》ギルドから呼び出しがかかった。

こうも呼び出しが多いと、もう正式に関係を絶ってしまおうかとも思えてきたが・・・それなりに情報源としては便利だから悩ましい。

でも、政府関係からの仕事は断りたいんだが。
思わずため息が漏れた。
「今度は何です?」

「前回の調査で見つかった資料から、他にもガルカ王国に通じている人物が複数見つかったらしい。
そのうちの一人に対して、協力させるためにその証拠もしくは何か弱みになる資料を盗ってこいとのことだ」

何それ。
証拠があるから通じていると見なされているんだろ?
その証拠か弱みになる資料を盗ってこいなんて、前回の捜査を都合良く使っているだけなんじゃないの??

軍がそんなことをするなんて、がっかりだな。
警備兵とかに比べると軍はまともだと思っていたのに。

「証拠があるから他国に通じていると見なしているのでしょう?
なのに証拠を盗ってこいなんておかしいですね。
今度もまた税務調査に紛れ込んでどさくさ紛れに証拠探しをしろと?」

長が不機嫌な顔をして首を横に振った。
「いや。
相手の職場や自宅に夜中にでも忍び込んで盗んでこいだとさ」

はぁ??
そりゃあ、依頼を持ってきたのはは盗賊《シーフ》ギルドへだから、盗みに入るというのは裏社会の依頼としては正しい姿かも知れないが。

何だって俺がそんな違法行為をしなければならないんだ。
「冗談じゃない。
俺は既に足を洗ったんです。
前回みたいな合法な調査に手を貸すというのならまだしも、こんな見つかったら逮捕されて俺が弱みを握られる羽目になるような依頼、受けるわけがないでしょうが」

グラスにワインを注ぎながら長がこちらに目をやった。
「・・・断ると、依頼主の情報を得ることが出来ないぞ?」

裏社会の決まりで、受けた依頼に関しては依頼主の素性を知る権利を主張できる。
とは言っても、ギルドに直接依頼してきた下っ端の名前なんぞ知ったところで、大して役には立たないが。
それでも腕がたつ人間だったら紐をたぐり寄せるように、下っ端の情報から上まで辿っていくことは可能だ。

ただし。
怪しげな依頼を受けて依頼主の素性をしる権利を行使した場合、『知りすぎた』と後から命を狙われる可能性は高い。
また、依頼人が捜査機関に捕まれば依頼を遂行しなくていいが、捕まるだけの証拠や情報を集められなかった場合はどれだけ不本意だろうと依頼を遂行するか違約金を払うことになる。

だが。
何だってこんな理不尽な案件の依頼主のことを俺が知る必要があるんだ?
「・・・ターゲットは誰なんです?」

依頼を受ける前にターゲットを知らせるか否かはギルド側の判断に基づく。
ターゲットを漏らしたことで何か問題が起きたらギルドが責任を問われる可能性があるが、ターゲットが分からなければ仕事を受けない人間も多いのでそこら辺は仕事を仲介する人間の判断によるのだ。

「アイシャルヌ・ハートネット学院長だ」
苦い顔でワインを飲み込み、長が答えた。

「はぁ??
何を言っているんですか。
学院長が他国に通じている訳がないでしょうが。
第一、特級魔術師にスパイモドキなことをさせる必要性もないでしょう。
戦争中に相手の弱みを握って戦略的に重要な場面での裏切りを強要するというのならまだしも、現時点では戦争の話もないんだし」

なんと言っても、学院長は魔術院の人間の中でも特にまともな人間なんだぞ?
長だって以前の悪魔騒動の際にそのことを知っているような事を言っていたのに。

「ギルドは依頼主に『ターゲットがそんなことをするわけが無いからその案件は請けない』とは言えないんだよ。
依頼を受けた人間が不審に思って勝手に調べて依頼主の悪事を暴くのはそいつの自由だが」

おい。
つまり、俺に違約金を払う羽目になる危険を犯して依頼を受け、依頼主の悪事を暴くことで結局ただ働きしろと言うことかよ??!!

「・・・ギルドや下町の人間だって、学院長に恩があるんですよね?
学院長のために動く人間に、少しは資金を提供しようとは思いませんか?」

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