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卒業後
894 星暦557年 萌葱の月 16日 久しぶりに遠出(15)
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もう1日(場合によってはもっと)余分にレディ・トレンティスの屋敷に滞在し、俺たちは色々と調べることになった。
まず、アレクによる帳簿や取引資料の確認。
「取り敢えず執務室にあった資料を調べたところ、こちらの寡婦支援団体とこの商会との取引がここ1年で急激に増えていますね。
その他の収入や支出額は変わっていないので、忘れっぽくなったのが原因とは考えにくいです」
確かに忘れっぽくなって買った物をもう一度買ったから支出が増えたって言うんだったら一つの商会だけでなく全般的に万遍なく増える筈だよな。
まあ、寡婦支援団体は支援する人間が増えるような事故や病気が流行ったんだったらあり得なくはないが。
「ちなみに、この地方で多数の人が死ぬような事故や疫病があったという話は王都には流れていませんし、メイド長や執事、果樹園で一緒に働いた子供や農夫に話を聞いてもそんな事実はないとの話です」
アレクが付け足す。
ちゃんと調べてあったらしい。
「そうよねぇ。
それに女の人でも子供を日中預けて働けるようにしてあるから、孤児ならまだしも寡婦だからって支援が必要な事はあまり無い筈だし」
レディ・トレンティスが頬に手をやりながら言う。
確かに子供さえ日中安全に過ごせるなら、夫が死のうと女性が働いて何とかなる場合も多い。
それなりに村全体で助けてくれる田舎なら特にそうだろう。
先日の果樹園での作業でも、確か手伝いに来ていたガキの一人は父親がいないと言っていたが特に痩せていたり服がボロかったりする様子も無かった。
「次は僕ね~。
ケレナと手分けして色々屋敷の人の話を聞いて回ったんだけど、おばあさまのメイドの一人が去年の夏に新しく入ってきた家令補佐と結婚したんだって。
ちなみにその家令補佐は元々地元の村で生まれたんだけど、賢いから王都の学院へ送って貰ってあちらの大手商会で働いていたそうだよ。
どこの商会なのかは結局誰も知らなかったけど」
シャルロが報告。
前職場の情報や推薦状は貴族の屋敷で就職する時なんかは基本的に必須なんだが、地元の村出身でそれなりに知り合いがいたせいでちゃんと裏どりしなかったらしいな。
『領民だったら悪事を働かない』なんて信じちゃいけないんだけどなぁ。
シャルロの親戚ってスラフォード伯爵もだけど、下の人間を信じすぎじゃない?
まあ、お人よし過ぎて危険だって事で他の領民が頑張って支えるのかもだが。
「俺はちょっと屋敷の中を調べたんだが・・・レディ・トレンティス用の茶葉にちょっと記憶障害を起こして人が言う事を信じて従いやすくなる薬草が混ざっていた」
レディ・トレンティスが何か薬を常用するんだったらそれが一番怪しいのだが、実は人一倍健康な彼女はあの年になっても風邪を引いたりお腹を下したというような特定の病気にならない限り薬は飲まないとのことだった。
ここ最近も、特に病気にはなっていないので何も薬は飲んでいないと言われた。
他の皆も食べる普通の食事に変な物を混ぜるのは非効率的なので、レディ・トレンティスだけが飲食するジャムやお茶、飴などを全部調べて回ったら、どうやら彼女のお気に入りの高級茶葉が怪しかった。
ちょっと特有な香りがあるお茶な為、来客時にはもっと一般的なのを出すらしく文字通りレディ・トレンティス専用の茶葉なのでターゲットになっても不思議は無い。
そして特有な香りに誤魔化されてヤバい薬草が混ぜられていたのだ。
「なにそれ!!??」
シャルロがびっくりしたように声を上げた。
「レディ・トレンティスについている水精霊が有害成分を毎回消していたから問題はなかったんだが、精霊たちは担当の人間が有害な成分を摂取しそうになったら消していただけで、それを混ぜ込むのに関しては注意を払っていなかったから誰が犯人かは不明だそうだ」
清早に色々聞いてもらったんだが、元々お気楽で人間の事なんてあまり個別に認識していないし覚えていない小精霊たちだ。
いつから茶葉に変な薬草が混ぜられたのか、誰がやっているのか等々は全然分からなかった。
まあ、シャルロの調べに出てきたその結婚したメイドが怪しいんだろうが。
「あら。
精霊さんなんていたの?」
レディ・トレンティスが少し首を傾げて聞いた。
「おばあさまは優しい人だから精霊にも好かれるんだね!」
シャルロが呑気にほほ笑む。
いや、好かれるのは事実かも知れないが、気まぐれな精霊が常時付き添って健康管理しているのはシャルロ大好きな蒼流が過保護だからだぞ。
まあ、お蔭でこの穏やかで優しい老婦人が早くボケるなんてことにならなくて済んだんだが。
ちらりとアレクがこちらを見たが、そ知らぬふりをしておいた。
「取り敢えずその家令補佐とメイドを捕まえるか?
なんだったらその家令補佐の机や家を調べて裏帳簿でも探してもいいし」
解雇だったら今すぐ出来るだろうが、悪事を裁かずに野に放ったら別の人間が被害に遭うかもしれない。
下手にレディ・トレンティスの屋敷で働いたっていう推薦状を偽造されたら次の屋敷で悪事を働いた時にこちらが責められる可能性もあるし。
「取り敢えず裏帳簿があるかを探してくれ。
私はちょっとこの家令補佐の前の職場が見つかるか、商業ギルドと兄に確認してみるよ」
アレクが提案した。
幾ら色々知っているセビウス氏でも、流石に幾らでもいる小悪党まで把握はしていないんじゃないか?
まあ、手慣れているっぽいからそう言う組織が存在しているのかもだが。
【後書き】
蒼流の過保護具合をシャルロにバラして蒼流の不興を買いたくないので言い回しは微妙なウィル君w
まず、アレクによる帳簿や取引資料の確認。
「取り敢えず執務室にあった資料を調べたところ、こちらの寡婦支援団体とこの商会との取引がここ1年で急激に増えていますね。
その他の収入や支出額は変わっていないので、忘れっぽくなったのが原因とは考えにくいです」
確かに忘れっぽくなって買った物をもう一度買ったから支出が増えたって言うんだったら一つの商会だけでなく全般的に万遍なく増える筈だよな。
まあ、寡婦支援団体は支援する人間が増えるような事故や病気が流行ったんだったらあり得なくはないが。
「ちなみに、この地方で多数の人が死ぬような事故や疫病があったという話は王都には流れていませんし、メイド長や執事、果樹園で一緒に働いた子供や農夫に話を聞いてもそんな事実はないとの話です」
アレクが付け足す。
ちゃんと調べてあったらしい。
「そうよねぇ。
それに女の人でも子供を日中預けて働けるようにしてあるから、孤児ならまだしも寡婦だからって支援が必要な事はあまり無い筈だし」
レディ・トレンティスが頬に手をやりながら言う。
確かに子供さえ日中安全に過ごせるなら、夫が死のうと女性が働いて何とかなる場合も多い。
それなりに村全体で助けてくれる田舎なら特にそうだろう。
先日の果樹園での作業でも、確か手伝いに来ていたガキの一人は父親がいないと言っていたが特に痩せていたり服がボロかったりする様子も無かった。
「次は僕ね~。
ケレナと手分けして色々屋敷の人の話を聞いて回ったんだけど、おばあさまのメイドの一人が去年の夏に新しく入ってきた家令補佐と結婚したんだって。
ちなみにその家令補佐は元々地元の村で生まれたんだけど、賢いから王都の学院へ送って貰ってあちらの大手商会で働いていたそうだよ。
どこの商会なのかは結局誰も知らなかったけど」
シャルロが報告。
前職場の情報や推薦状は貴族の屋敷で就職する時なんかは基本的に必須なんだが、地元の村出身でそれなりに知り合いがいたせいでちゃんと裏どりしなかったらしいな。
『領民だったら悪事を働かない』なんて信じちゃいけないんだけどなぁ。
シャルロの親戚ってスラフォード伯爵もだけど、下の人間を信じすぎじゃない?
まあ、お人よし過ぎて危険だって事で他の領民が頑張って支えるのかもだが。
「俺はちょっと屋敷の中を調べたんだが・・・レディ・トレンティス用の茶葉にちょっと記憶障害を起こして人が言う事を信じて従いやすくなる薬草が混ざっていた」
レディ・トレンティスが何か薬を常用するんだったらそれが一番怪しいのだが、実は人一倍健康な彼女はあの年になっても風邪を引いたりお腹を下したというような特定の病気にならない限り薬は飲まないとのことだった。
ここ最近も、特に病気にはなっていないので何も薬は飲んでいないと言われた。
他の皆も食べる普通の食事に変な物を混ぜるのは非効率的なので、レディ・トレンティスだけが飲食するジャムやお茶、飴などを全部調べて回ったら、どうやら彼女のお気に入りの高級茶葉が怪しかった。
ちょっと特有な香りがあるお茶な為、来客時にはもっと一般的なのを出すらしく文字通りレディ・トレンティス専用の茶葉なのでターゲットになっても不思議は無い。
そして特有な香りに誤魔化されてヤバい薬草が混ぜられていたのだ。
「なにそれ!!??」
シャルロがびっくりしたように声を上げた。
「レディ・トレンティスについている水精霊が有害成分を毎回消していたから問題はなかったんだが、精霊たちは担当の人間が有害な成分を摂取しそうになったら消していただけで、それを混ぜ込むのに関しては注意を払っていなかったから誰が犯人かは不明だそうだ」
清早に色々聞いてもらったんだが、元々お気楽で人間の事なんてあまり個別に認識していないし覚えていない小精霊たちだ。
いつから茶葉に変な薬草が混ぜられたのか、誰がやっているのか等々は全然分からなかった。
まあ、シャルロの調べに出てきたその結婚したメイドが怪しいんだろうが。
「あら。
精霊さんなんていたの?」
レディ・トレンティスが少し首を傾げて聞いた。
「おばあさまは優しい人だから精霊にも好かれるんだね!」
シャルロが呑気にほほ笑む。
いや、好かれるのは事実かも知れないが、気まぐれな精霊が常時付き添って健康管理しているのはシャルロ大好きな蒼流が過保護だからだぞ。
まあ、お蔭でこの穏やかで優しい老婦人が早くボケるなんてことにならなくて済んだんだが。
ちらりとアレクがこちらを見たが、そ知らぬふりをしておいた。
「取り敢えずその家令補佐とメイドを捕まえるか?
なんだったらその家令補佐の机や家を調べて裏帳簿でも探してもいいし」
解雇だったら今すぐ出来るだろうが、悪事を裁かずに野に放ったら別の人間が被害に遭うかもしれない。
下手にレディ・トレンティスの屋敷で働いたっていう推薦状を偽造されたら次の屋敷で悪事を働いた時にこちらが責められる可能性もあるし。
「取り敢えず裏帳簿があるかを探してくれ。
私はちょっとこの家令補佐の前の職場が見つかるか、商業ギルドと兄に確認してみるよ」
アレクが提案した。
幾ら色々知っているセビウス氏でも、流石に幾らでもいる小悪党まで把握はしていないんじゃないか?
まあ、手慣れているっぽいからそう言う組織が存在しているのかもだが。
【後書き】
蒼流の過保護具合をシャルロにバラして蒼流の不興を買いたくないので言い回しは微妙なウィル君w
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