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卒業後
893 星暦557年 萌葱の月 15日 久しぶりに遠出(14)
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「そう言えば、以前記憶を呼び起こして映像に記録する術を試したことがあったじゃない?
あれをもう一度使ってもらえるかしら?」
発掘現場から戻り、夕食を食べた後にノンビリお茶を飲んでいたらレディ・トレンティスがシャルロに頼んできた。
「え?
勿論良いけど・・・何を思い出したいの?」
シャルロが少し驚いたように尋ねた。
「どうも最近ちょこちょこと物が屋敷で無くなっているのよ。
最初は私が置き間違えたとか、誰かにあげたのを忘れたのかと思っていたのだけど、あまりにも多いから本当に物忘れが酷くなっているなら他にも重要なことを忘れているかもと思って、確認してみようと思って」
ちょっと困ったように首を傾げながらレディ・トレンティスが言った。
うん?
パーティに良く出かける貴婦人が、高額な装飾品をうっかり外して無くす(規定じゃない場所に置き忘れた後、下級使用人が見かけて拝借する事で恒久的に行方不明になる)なんてことはよくある話だが、レディ・トレンティスはそれ程パーティにも出ている様子が無いのに何かを失くすってあるのか?
それよりは手癖の悪い使用人が紛れ込んだと考える方が現実的だと思うが。
「う~ん、勿論術を掛けるのは構わないし、映像化する為の魔具も工房に試作品が残っているから明日にでも取って帰ってこれるけど・・・おばあ様は最近そんな宝石を身に着けて出かけてます?
最後にいつ使ったのかも不明だったらどの時期の記憶を呼び起こせば良いのかが不明だから難しいかも?」
シャルロがちょっと首を傾げながら言った。
「身に覚えのない支払いとか、寄付とかがあるのよ~。
あの術だと忘れていた記憶も呼び起こせるのよね?」
おっとりとレディ・トレンティスが尋ねる。
いやそれって単に家令かその下の人間が嘘をついているんだろ。
貴族だと細かい支出とか寄付なんて碌に覚えておらずに適当にやっているから、口から出まかせを言っても誤魔化せると思ったんじゃないのか?
つうか、レディ・トレンティスがそう言う詳細をちゃんと覚えているタイプなのだとしたら、なんだってそんなバレちゃう嘘を言い出したのかね?
レディ・トレンティスがボケたと思わせて自分に依存させようとでもしているのか?
「支払いとか寄付となると、レディ・トレンティスが思い違いしているのではなく、手続きをしている誰かが思い違いしているか、騙されている可能性が高いのでは?
良かったらちょっとこの屋敷の収支記録を見せていただき、どこにそれらが支払われているか確認してみましょうか?」
アレクが提案する。
「ちなみにそう言う支払い関係の手続きをする家令とか、その見習いとかで誰か新しく人が入ったり、結婚したとか誰かを失ったとか何か個人的な家庭環境が変わった人っていますか?」
今迄ずっとこの屋敷で働いてきたのにレディ・トレンティスを突然騙そうとするなんて通常では考えにくい。
勿論レディ・トレンティスがボケ始めたという可能性もあるが、この数日のやり取りでは変な言動や思い違いはない。彼女がボケ始めたと考えるよりは、ボケ始めたことにして屋敷の資金を流用しようと誰かが企んでいると考えた方が現実的だろう。
『レディ・トレンティスが変な薬を投与されているとかってないよな?』
清早に念話で尋ねる。
ボケ老人をでっち上げるなら、単に『思い違い』だと言い聞かせるだけでなく、本人の意識と記憶がぼやけるような薬を盛るのが一番確実だ。
以前盗賊ギルドで聞いた話では、年老いた当主をさっさと追い払うために、常用する薬をすり替えたり茶葉に薬を混ぜ込むのは時折ある依頼らしい。
大抵はメイドや執事を買収して薬や茶葉をすり替えるのだが、屋敷の使用人の管理がしっかりしていてそう言うのが出来ない時に専門家《ギルド》が雇われるんだそうだ。
まあ、当主の交代に関係するような依頼は下手をすると王宮が出張ってくる重大事件に繋がりかねないので、居なくなる方が喜ばれるような老害以外では盗賊《シーフ》ギルドは手を出さないらしいが。
『シャルロの親しい人には蒼流が水精霊をつけて変な毒や病気にならないように注意しているから大丈夫だよ~』
清早が教えてくれた。
マジかよ?!
流石過保護精霊。
まあ、確かに大貴族なんて色々と危険はあるだろうが・・・直接の両親だけでなく、シャルロが親しい人みんなに付けてるんか。
『もしかしてアレクにもついてるのか?』
俺は清早が毒なんぞを盛られても大丈夫なようにしてくれているって言うのは聞いていたからシャルロも大丈夫なんだろうと思っていたけど、周囲の人間にまで目を光らせているとは知らなかった。
『そうだね~。
何でもシャルロが子供の頃に、従姉妹が婚約者の地位を狙った他の令嬢に毒を盛られてシャルロが大泣きしたことがあったらしいよ』
なるほど。
シャルロが泣くかもって事で予防策な訳ね~。
まあ、王都全部を水洗いするよりは楽だろうし。
じゃあ、レディ・トレンティスから金を騙し取ろうしている奴は、彼女が薬で記憶の欠落が起きていると思って堂々と嘘をついているのかな?
あれをもう一度使ってもらえるかしら?」
発掘現場から戻り、夕食を食べた後にノンビリお茶を飲んでいたらレディ・トレンティスがシャルロに頼んできた。
「え?
勿論良いけど・・・何を思い出したいの?」
シャルロが少し驚いたように尋ねた。
「どうも最近ちょこちょこと物が屋敷で無くなっているのよ。
最初は私が置き間違えたとか、誰かにあげたのを忘れたのかと思っていたのだけど、あまりにも多いから本当に物忘れが酷くなっているなら他にも重要なことを忘れているかもと思って、確認してみようと思って」
ちょっと困ったように首を傾げながらレディ・トレンティスが言った。
うん?
パーティに良く出かける貴婦人が、高額な装飾品をうっかり外して無くす(規定じゃない場所に置き忘れた後、下級使用人が見かけて拝借する事で恒久的に行方不明になる)なんてことはよくある話だが、レディ・トレンティスはそれ程パーティにも出ている様子が無いのに何かを失くすってあるのか?
それよりは手癖の悪い使用人が紛れ込んだと考える方が現実的だと思うが。
「う~ん、勿論術を掛けるのは構わないし、映像化する為の魔具も工房に試作品が残っているから明日にでも取って帰ってこれるけど・・・おばあ様は最近そんな宝石を身に着けて出かけてます?
最後にいつ使ったのかも不明だったらどの時期の記憶を呼び起こせば良いのかが不明だから難しいかも?」
シャルロがちょっと首を傾げながら言った。
「身に覚えのない支払いとか、寄付とかがあるのよ~。
あの術だと忘れていた記憶も呼び起こせるのよね?」
おっとりとレディ・トレンティスが尋ねる。
いやそれって単に家令かその下の人間が嘘をついているんだろ。
貴族だと細かい支出とか寄付なんて碌に覚えておらずに適当にやっているから、口から出まかせを言っても誤魔化せると思ったんじゃないのか?
つうか、レディ・トレンティスがそう言う詳細をちゃんと覚えているタイプなのだとしたら、なんだってそんなバレちゃう嘘を言い出したのかね?
レディ・トレンティスがボケたと思わせて自分に依存させようとでもしているのか?
「支払いとか寄付となると、レディ・トレンティスが思い違いしているのではなく、手続きをしている誰かが思い違いしているか、騙されている可能性が高いのでは?
良かったらちょっとこの屋敷の収支記録を見せていただき、どこにそれらが支払われているか確認してみましょうか?」
アレクが提案する。
「ちなみにそう言う支払い関係の手続きをする家令とか、その見習いとかで誰か新しく人が入ったり、結婚したとか誰かを失ったとか何か個人的な家庭環境が変わった人っていますか?」
今迄ずっとこの屋敷で働いてきたのにレディ・トレンティスを突然騙そうとするなんて通常では考えにくい。
勿論レディ・トレンティスがボケ始めたという可能性もあるが、この数日のやり取りでは変な言動や思い違いはない。彼女がボケ始めたと考えるよりは、ボケ始めたことにして屋敷の資金を流用しようと誰かが企んでいると考えた方が現実的だろう。
『レディ・トレンティスが変な薬を投与されているとかってないよな?』
清早に念話で尋ねる。
ボケ老人をでっち上げるなら、単に『思い違い』だと言い聞かせるだけでなく、本人の意識と記憶がぼやけるような薬を盛るのが一番確実だ。
以前盗賊ギルドで聞いた話では、年老いた当主をさっさと追い払うために、常用する薬をすり替えたり茶葉に薬を混ぜ込むのは時折ある依頼らしい。
大抵はメイドや執事を買収して薬や茶葉をすり替えるのだが、屋敷の使用人の管理がしっかりしていてそう言うのが出来ない時に専門家《ギルド》が雇われるんだそうだ。
まあ、当主の交代に関係するような依頼は下手をすると王宮が出張ってくる重大事件に繋がりかねないので、居なくなる方が喜ばれるような老害以外では盗賊《シーフ》ギルドは手を出さないらしいが。
『シャルロの親しい人には蒼流が水精霊をつけて変な毒や病気にならないように注意しているから大丈夫だよ~』
清早が教えてくれた。
マジかよ?!
流石過保護精霊。
まあ、確かに大貴族なんて色々と危険はあるだろうが・・・直接の両親だけでなく、シャルロが親しい人みんなに付けてるんか。
『もしかしてアレクにもついてるのか?』
俺は清早が毒なんぞを盛られても大丈夫なようにしてくれているって言うのは聞いていたからシャルロも大丈夫なんだろうと思っていたけど、周囲の人間にまで目を光らせているとは知らなかった。
『そうだね~。
何でもシャルロが子供の頃に、従姉妹が婚約者の地位を狙った他の令嬢に毒を盛られてシャルロが大泣きしたことがあったらしいよ』
なるほど。
シャルロが泣くかもって事で予防策な訳ね~。
まあ、王都全部を水洗いするよりは楽だろうし。
じゃあ、レディ・トレンティスから金を騙し取ろうしている奴は、彼女が薬で記憶の欠落が起きていると思って堂々と嘘をついているのかな?
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