シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
881 / 1,120
卒業後

880 星暦557年 萌葱の月 11日 久しぶりに遠出

しおりを挟む
「ねえねえ、久しぶりに北のサンクタスの方に行かない?
おばあ様は庭でお茶をするのが好きだから、これを届けてあげたいし、あっちなら涼しいから風さえ通るようにしておけば遮熱や冷風機能は要らないと思うんだ。
ついでにあの遺跡も、またもう一度見に行ってみようよ」
休息日明けに工房でお茶を飲みながら次は何をするか話し合おうとしたら、シャルロがちょっと意外な提案をしてきた。

サンクタス?
学生時代に行った、シャルロの祖母が住んでいる別邸がある地方だったっけ?
あの遺跡かぁ・・・俺たちが初めて見た遺跡だったが、ある意味一番ありがたくない記憶がある場所でもある。

とは言え。
流石にもうあの虫と魔物の中間みたいな変な生き物はいないと思うし、なんだったら入る前に先にしっかり下まで調べれば安心だろう。

「そうだな、あちらの方の富裕層にちょっと売り込むのにも、レディ・トレンティスのところで使ってもらうのは悪くはないかも知れない。
ついでに遺跡に遊びに行くのもありか・・・。
そう言えば、あそこの遺跡はもう調べ尽くしてあるんだよな?
流石に今回は遺跡探索の手伝いをする暇はないが」
アレクがマグを受け取りながら応じた。

「新しい方の遺跡はまだまだ調べることがあるからずっと発掘隊が常駐しているらしいけど、サンクタスの方のは時折何かを比較して確認したいことが出てくると足を運んでいるらしいけど、常駐はしていないみたいだから僕達だけで好きなだけ見て回れる」
シャルロが教えてくれた。
学生の頃は毎年夏に遊びに行っていると言っていたが、今でも行っているんかな?
確かに北の方だから王都よりも過ごしやすいだろうが・・・今年ってあまり纏まった休みを取っていないから、試作品を渡すついでにって感じなのかも知れない。

オレファーニ家はそれなりに親族の数が多いから、休息日に遊びに行くにしても行き先が色々ありそうで時間が足りない感じだろうし。
まあ、子供じゃないんだから今では親族で集まって遊ぶってこともあまりないのかな?

「折角空滑機グライダー改が出来たんだから、ケレナも誘って一緒にあれで行くか?
向こうでレディ・トレンティスが興味を示したら空滑機《グライダー》改で空の散策に連れ出しても良いかも知れないし」
流石に腹ばいになって乗る空滑機《グライダー》に貴族の老婦人を誘うのは無理があるが、椅子に座れる空滑機《グライダー》改だったら問題も無いだろう。

試作品を渡すのが目的とは言え、泊めて貰うんだろうから行って翌日に帰るって事にはならないだろう。
レディ・トレンティスにしてみれば孫と時間を過ごしたいだろうし。
そう考えるとケレナを一人こちらで留守番させるよりも、一緒に連れて行っちまった方が無難な気がする。

元々家族ぐるみで付き合いがあったって話だからケレナもそれなりにレディ・トレンティスと付き合いがあるだろうし。

ケレナがレディ・トレンティスと色々庭とか牧場とかを見て回っていれば、シャルロを遺跡に連れ込んでも気の咎めを感じなくて済む。
夕食時だけ一緒でも多分あの老婦人は文句を言わないだろうが、やっぱ人の家に遊びに行って好きなことだけしているって言うのは悪い気がするからなぁ。

まあ、遊びに行くっていうよりは便利な試作品を配りに行くだけなんだからそれ程気を使わなくてもいいのかもだが。

「そうだねぇ。
そう言えば、おばあ様のところで子猫が生まれたって言っていたから、それを見せて貰いにケレナも誘ったら良いかもだね」
シャルロがその気になって頷いた。

子猫ねぇ。
見に行ったら一匹引き取る羽目になるんじゃないか?
まあ、使用人がいるんだし猫の面倒はそっちがみてくれるだろうから特に問題はないかもだが。

でも、猫を飼うなら壊れ物はしまっておいた方がいいぞ~?
猫は犬と違って吠えないから屋敷に『お邪魔』しに行っても問題はない事が多かったが、こっちのことをじっと見ていたと思ったら徐に棚の上に飛び乗って中の物を落とし始めたりすることもあるから、中々微妙な存在だったんだよなぁ。



【後書き】
ちょっとした夏休み代わりかな?

しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...