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卒業後
878 星暦557年 萌葱の月 7日 水除け(17)
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「遮熱機能と冷風機は販売する為の製造の準備が夏の終わり後になりそうだから、下手に試作品として出さない方が良いと兄から助言された」
アレクがいつもの朝茶の時に徐に言い出した。
昨日は幾つか試作品を配って回ったのだが、どうやら今日は回収に回らなきゃいけないらしい。
まあ、俺は学院長の所に持って行っただけだから、一か所だけだが。
「あ~確かにね。
まあ今ってそれ程風が強くないから、あの庭用の結界は必要ないって言えば必要無いか。
程よく涼しくて気持ちいい環境で庭を楽しみながらお茶が飲めて良いと思ったんだけど、確かにあれって来年の夏まで待つんだったら色々と類似品を造る連中が出てくるだろうねぇ」
ちょっとため息を吐きながらシャルロが頷いた。
「ああ。
だからシャルロの母君やその他親族に配った分も、防風はまだしも遮熱機能は削除し冷風機能分は取り外して回収して来てくれ」
一応試作品を配る際にアイディアも実物も他に漏らさないって保証する機密保護契約は結んでいるんだけどね。
それでも使用人の誰かが夕食の際にちょっとしたネタとして話すだけでも模造品を造るアイディアにはなるからなぁ。
模造品のネタの出所を探し出して雇用主に損害賠償を請求するよりは、最初から準備が出来るまではアイディアが漏れないようにする方が良いだろう。
家族や魔術学院を損害賠償で訴えるのは微妙だし。
「そうだね。
取り敢えず、母上の所は噴水にいる精霊にちょっと水を冷やすよう頼んでおくよ。
それで庭が少し過ごしやすくなるだろうから」
あっさりシャルロが言った。
なる程。
冷水を噴水から噴き出したら、それで庭全体がそれなりに涼しくなりそうだな。
噴水じゃなくてもちょっとした水撒き用の魔道具で冷水を撒くことで周囲の気温も下げられそうだが・・・まあ、これを大々的に設置するのは難しいかな。
それこそ軍の訓練所とかの傍でそう言うのを設置したら暑さで倒れる連中が減るだろうが、軍の連中は暑さで倒れるようなひょろい人間はもっと鍛えればいいんだ!!と言いそうだから、環境を快適にする魔具を買おうとは思わないだろうなぁ。
冬の寒さは体の動きが鈍くなるから、もしもの時の戦闘に差し支えるってことで防寒用機能付きの防御結界の購入に踏み切ったらしいが、暑いのは倒れる前にしっかり水分補給すれば何とかなるって感じなのだろう。
それに実際の遠征とかに行った時に暑さに負けて倒れるんじゃあ困るし。
「代わりにケレナに却下された冷やす下着機能を普段着用のシャツにでもして配っておけばいいと思うんだが、どれがいいかな?」
アレクが提案する。
あ~。
シャツ程度だったら別にアイディアを模造されてもそれ程痛くはないし、折角快適に過ごせる魔具を試作品として配ったのに翌日に回収しようとしたら相手が不満に思うかもだからな。
ちょっと不具合が発覚したので回収、代わりにこちらを使ってくださいと涼しくなるシャツを配れば良いか。
「直接冷やすのよりは、風が出るタイプの方が汗をかいたらそれが乾いて涼しく感じる程度で丁度良いんじゃないか?」
単に冷えるだけって言うのは体に触れていないと効果が無いし、シャツの折れ目とかの所の冷えたのが動いた際に突然触れるとちょっとぎょっとすることもあるからな。
「確かにそうだね。
微風程度だったら大して魔力が必要無いし、冷やすだけのって下手すると水が垂れてくるしね」
シャルロが頷く。
「薄い下着タイプのシャツを入手して、ちゃちゃっと風吹き下着の試作品を仕上げて冷風機を回収がてら配って来るか。
ちょっとパディン夫人に魔術回路の縫い付けを手伝ってもらう必要があるかも」
アレクが立ち上がりながら言った。
「ついでに下着タイプな薄いシャツを買いに行くのも同行を頼んだら?
幾ら服の下に着ると言っても、野暮ったすぎて着たくないって言われるようなのじゃあ困るが、無駄にお洒落なのを買ってもしょうがないから。
丁度いいぐらいにそっけない女性用下着を見つけるのは俺らにはハードルが高いんじゃないか?」
まあ、アレクだったらシェフィート商会に行ったらお袋さんなり義姉さんなりに頼めるかもだが。
とは言え、あの二人もそれなりに裕福な部類だからなぁ。
少なくとも魔術学院で配る分は多分事務所のおばちゃん連中が強奪しそうだから、安い素朴なタイプで良いと思うんだが。
シャルロの実家だったらもう少し良いのが必要かも。
というか、考えてみたら貴族だったら絹以外は肌に触れるのも嫌とか言い出すか?
綿でも大丈夫かもだが、この時期の下着ってどんなのを着ているんだろ?
そう考えると一言で風吹き下着と言っても、サイズだけでなく素材も何種類か揃えないとダメそうだな。
【後書き】
そっと微風が静かに流れるシャツ。
汗疹対策に良さそう。
とは言え、大量に汗をかいたら塩分が肌に残って不快感はあるのかな?
アレクがいつもの朝茶の時に徐に言い出した。
昨日は幾つか試作品を配って回ったのだが、どうやら今日は回収に回らなきゃいけないらしい。
まあ、俺は学院長の所に持って行っただけだから、一か所だけだが。
「あ~確かにね。
まあ今ってそれ程風が強くないから、あの庭用の結界は必要ないって言えば必要無いか。
程よく涼しくて気持ちいい環境で庭を楽しみながらお茶が飲めて良いと思ったんだけど、確かにあれって来年の夏まで待つんだったら色々と類似品を造る連中が出てくるだろうねぇ」
ちょっとため息を吐きながらシャルロが頷いた。
「ああ。
だからシャルロの母君やその他親族に配った分も、防風はまだしも遮熱機能は削除し冷風機能分は取り外して回収して来てくれ」
一応試作品を配る際にアイディアも実物も他に漏らさないって保証する機密保護契約は結んでいるんだけどね。
それでも使用人の誰かが夕食の際にちょっとしたネタとして話すだけでも模造品を造るアイディアにはなるからなぁ。
模造品のネタの出所を探し出して雇用主に損害賠償を請求するよりは、最初から準備が出来るまではアイディアが漏れないようにする方が良いだろう。
家族や魔術学院を損害賠償で訴えるのは微妙だし。
「そうだね。
取り敢えず、母上の所は噴水にいる精霊にちょっと水を冷やすよう頼んでおくよ。
それで庭が少し過ごしやすくなるだろうから」
あっさりシャルロが言った。
なる程。
冷水を噴水から噴き出したら、それで庭全体がそれなりに涼しくなりそうだな。
噴水じゃなくてもちょっとした水撒き用の魔道具で冷水を撒くことで周囲の気温も下げられそうだが・・・まあ、これを大々的に設置するのは難しいかな。
それこそ軍の訓練所とかの傍でそう言うのを設置したら暑さで倒れる連中が減るだろうが、軍の連中は暑さで倒れるようなひょろい人間はもっと鍛えればいいんだ!!と言いそうだから、環境を快適にする魔具を買おうとは思わないだろうなぁ。
冬の寒さは体の動きが鈍くなるから、もしもの時の戦闘に差し支えるってことで防寒用機能付きの防御結界の購入に踏み切ったらしいが、暑いのは倒れる前にしっかり水分補給すれば何とかなるって感じなのだろう。
それに実際の遠征とかに行った時に暑さに負けて倒れるんじゃあ困るし。
「代わりにケレナに却下された冷やす下着機能を普段着用のシャツにでもして配っておけばいいと思うんだが、どれがいいかな?」
アレクが提案する。
あ~。
シャツ程度だったら別にアイディアを模造されてもそれ程痛くはないし、折角快適に過ごせる魔具を試作品として配ったのに翌日に回収しようとしたら相手が不満に思うかもだからな。
ちょっと不具合が発覚したので回収、代わりにこちらを使ってくださいと涼しくなるシャツを配れば良いか。
「直接冷やすのよりは、風が出るタイプの方が汗をかいたらそれが乾いて涼しく感じる程度で丁度良いんじゃないか?」
単に冷えるだけって言うのは体に触れていないと効果が無いし、シャツの折れ目とかの所の冷えたのが動いた際に突然触れるとちょっとぎょっとすることもあるからな。
「確かにそうだね。
微風程度だったら大して魔力が必要無いし、冷やすだけのって下手すると水が垂れてくるしね」
シャルロが頷く。
「薄い下着タイプのシャツを入手して、ちゃちゃっと風吹き下着の試作品を仕上げて冷風機を回収がてら配って来るか。
ちょっとパディン夫人に魔術回路の縫い付けを手伝ってもらう必要があるかも」
アレクが立ち上がりながら言った。
「ついでに下着タイプな薄いシャツを買いに行くのも同行を頼んだら?
幾ら服の下に着ると言っても、野暮ったすぎて着たくないって言われるようなのじゃあ困るが、無駄にお洒落なのを買ってもしょうがないから。
丁度いいぐらいにそっけない女性用下着を見つけるのは俺らにはハードルが高いんじゃないか?」
まあ、アレクだったらシェフィート商会に行ったらお袋さんなり義姉さんなりに頼めるかもだが。
とは言え、あの二人もそれなりに裕福な部類だからなぁ。
少なくとも魔術学院で配る分は多分事務所のおばちゃん連中が強奪しそうだから、安い素朴なタイプで良いと思うんだが。
シャルロの実家だったらもう少し良いのが必要かも。
というか、考えてみたら貴族だったら絹以外は肌に触れるのも嫌とか言い出すか?
綿でも大丈夫かもだが、この時期の下着ってどんなのを着ているんだろ?
そう考えると一言で風吹き下着と言っても、サイズだけでなく素材も何種類か揃えないとダメそうだな。
【後書き】
そっと微風が静かに流れるシャツ。
汗疹対策に良さそう。
とは言え、大量に汗をかいたら塩分が肌に残って不快感はあるのかな?
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