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卒業後
859 星暦557年 青の月 28日 魔術回路の素材(9)
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今回はアンディ視点です
【本文】
>>>サイド アンディ・チョンビ
「あ、今日の新素材特許と魔法陣特許の部分更新申請にはアンディも出てくれ」
特許申請の申し込みは情報漏洩と登録前の横取り申請を避けるために、基本的に事前情報は出さずに申請して担当が受理するだけだ。
受理の審査会で実際の説明を受け、類似の登録が無いか、新規の特許として認めるに値するだけの新規な機能があるか等を申請を受け付けて数日以内に確認して処理することになる。
申請者と受理者がグダグダな関係だと特許制度の信頼に関わるので基本的に関係性の薄い人間が担当することになるのだが、同じ魔術院の中の魔術師なのだ。
関係性が全くないなんて言うのは無理なことなので、ここら辺はかなりなあなあになっているが。
上司であるバズール師の言葉に、渡された書類へ目を通して思わず目を丸くする。
「この3人は魔術学院での同期でそれなりに親しくしているんですが・・・」
俺が一番付き合いがあったのはアレクだが、他の2人ともそれなりに付き合いがあったからバズール師にはウィルやシャルロに頼みごとをする際に利用されてきたので、上司も良く知っている筈なのだが。
「今回は単に魔術回路の部分更新申請だけではなく、新素材特許も関わってくるからな。
商業ギルドに接待されて新制度を骨抜きにしようとしている人間もおる。
儂に直通で不審な行動を報告できる申請者の味方側の人間も巻き込んでおけば、露骨なことが出来んだろう」
そう言えば、バズール師は最初に新素材特許制度の話が出てきた時の賛成者の一人だったっけ?
どこで誰とどう取引したのか知らないが、自分が賛成した制度がぽしゃらない様に見張っておけということか。
アレク達ってことは、あの暖かいマッサージ素材かな?
冬になる前に大量生産の準備をしておきたいって話は聞いているし。
◆◆◆◆
「こちらが新規商品です。
魔術回路を変更し、組み替えることで通信用魔具と連動させて転移箱の送り先を変更できるようにしました。
可変性にしたことで誤送の危険もある事から、必ず通信中でないと転移出来ない様にされている他、相手が留守の場合に連絡を試みたことが分かるよう名前を残せるようにしてあります」
二つのちょっと大ぶりな転移箱を、手前の机とドアの前に立っているシャルロの横のサイドテーブルの上に置きながらアレクが説明する。
連携対象を可変出来る転移箱か。
それは中々便利そうだな。
魔術院でも転移門を設置しないような小さな村への連絡に転移箱を使うようになったのだが、各村につき一個転移箱が必要なため、通信部が転移箱で埋もれそうになっているという悲鳴が上がってきているのだ。
向こう側が通信を受信しないと送れないというのは微妙な気もするが・・・まあ、通信に気付かないような魔術師は転移箱の中に書類が届いていても気づかず、やっと気付いた時には『どうせ今まで遅れても大丈夫だったんだ、次にせっつきが来るまで放置しても良いだろう』と見なかったふりをするような輩が多い。ならば必ず絶対に通信を受けないと転移箱を使えないというのは現実的な対応手段だな。
まあ、現実では微妙なところかもだけど。
送る担当は嫌がるが、対応を追いかける担当は喜びそうだ。
「ちなみにこれですと通信用の共鳴魔石を転移箱で送ることも可能なので、転移箱さえ向こうにあれば他の相手へ繋いでいく事も可能です」
もう一つ転移箱を取り出して中が空なのを俺たちに見せ、それをウィルに渡しながらアレクが付け加える。
「取り敢えずお見せしますね」
アレクが転移箱に『青の月28日特許申請時テスト用紙』と大きく書かれた紙と共鳴魔石を入れ、通信機を起動する。
「は~い」
シャルロがドアの傍で通信機を起動し、転移箱を開けたら中から紙と共鳴魔石が出てくる。
アレクが自分の方の転移箱を開けて中が空になっていることを見せた。
まあ、最初から向こうに入れておくなんて仕込みを特許申請の時にするとは思ってないけど。
そうやっている間にシャルロが転移箱の横にある通信機の共鳴魔石を取り換えた。
「じゃあ、次はこっちで行きま~す」
ウィルが受け取って窓際に持って行っていた転移箱から音が鳴り、ウィルが通信機を起動する。
「こちらウィル」
いや、そんなの分かってるから。
ウィルが転移箱を開けて、中から出てきた紙を俺の横にいる主任審査官のところに持ってきた。
『青の月28日特許申請時テスト用紙』
ちゃんと受け取った後に相手を変えられているようだ。
「伝言はこんな感じになります」
アレクが再度転移箱の横の通信機を使うが、今度はシャルロが何もしない。
すると
「後で応じますので名前を言ってください」
と知らぬ女性の声が流れてきた。
・・・いや、あれってパディン夫人の声じゃないか??
自分で録音すれば良いのに。
これから売り出す可変式転移箱全部にあの声が使われるとしたら、パディン夫人が一気に有名になりそうだな。
これって買った人間が好きに応答を変えられるのかね?
「アレク・シェフィート」
アレクが通信機部分に向かって話しかけた。
「こっちでこのボタンが光るようになるので、誰かが何かを送ろうとしたのが分かるようになってます」
シャルロがちかちかと赤く光っているボタンをこちらへ向けて見せ、ボタンを押したところ『アレク・シェフィート』という声が部屋に流れた。
・・・これは普通の携帯用通信機にも欲しい機能だな。
「ちなみに、今回開発した新素材だと、同じ魔石でも以前の銅線を使うよりも有効範囲が2割程広くなります」
アレクが説明した。
おお~~~~!!!
それってめっちゃ重要!!!
これなら俺が頑張らなくても接待された馬鹿にもみ消される事はなさそうだな。
自分用に試作品を3セット位貰えないかなぁ・・・。
【後書き】
人付き合いがマメなので遠地にちょくちょく手紙を送っているアンディ君。
まあ、知り合いに新式転移箱を配っていたらキリが無いけどw
【本文】
>>>サイド アンディ・チョンビ
「あ、今日の新素材特許と魔法陣特許の部分更新申請にはアンディも出てくれ」
特許申請の申し込みは情報漏洩と登録前の横取り申請を避けるために、基本的に事前情報は出さずに申請して担当が受理するだけだ。
受理の審査会で実際の説明を受け、類似の登録が無いか、新規の特許として認めるに値するだけの新規な機能があるか等を申請を受け付けて数日以内に確認して処理することになる。
申請者と受理者がグダグダな関係だと特許制度の信頼に関わるので基本的に関係性の薄い人間が担当することになるのだが、同じ魔術院の中の魔術師なのだ。
関係性が全くないなんて言うのは無理なことなので、ここら辺はかなりなあなあになっているが。
上司であるバズール師の言葉に、渡された書類へ目を通して思わず目を丸くする。
「この3人は魔術学院での同期でそれなりに親しくしているんですが・・・」
俺が一番付き合いがあったのはアレクだが、他の2人ともそれなりに付き合いがあったからバズール師にはウィルやシャルロに頼みごとをする際に利用されてきたので、上司も良く知っている筈なのだが。
「今回は単に魔術回路の部分更新申請だけではなく、新素材特許も関わってくるからな。
商業ギルドに接待されて新制度を骨抜きにしようとしている人間もおる。
儂に直通で不審な行動を報告できる申請者の味方側の人間も巻き込んでおけば、露骨なことが出来んだろう」
そう言えば、バズール師は最初に新素材特許制度の話が出てきた時の賛成者の一人だったっけ?
どこで誰とどう取引したのか知らないが、自分が賛成した制度がぽしゃらない様に見張っておけということか。
アレク達ってことは、あの暖かいマッサージ素材かな?
冬になる前に大量生産の準備をしておきたいって話は聞いているし。
◆◆◆◆
「こちらが新規商品です。
魔術回路を変更し、組み替えることで通信用魔具と連動させて転移箱の送り先を変更できるようにしました。
可変性にしたことで誤送の危険もある事から、必ず通信中でないと転移出来ない様にされている他、相手が留守の場合に連絡を試みたことが分かるよう名前を残せるようにしてあります」
二つのちょっと大ぶりな転移箱を、手前の机とドアの前に立っているシャルロの横のサイドテーブルの上に置きながらアレクが説明する。
連携対象を可変出来る転移箱か。
それは中々便利そうだな。
魔術院でも転移門を設置しないような小さな村への連絡に転移箱を使うようになったのだが、各村につき一個転移箱が必要なため、通信部が転移箱で埋もれそうになっているという悲鳴が上がってきているのだ。
向こう側が通信を受信しないと送れないというのは微妙な気もするが・・・まあ、通信に気付かないような魔術師は転移箱の中に書類が届いていても気づかず、やっと気付いた時には『どうせ今まで遅れても大丈夫だったんだ、次にせっつきが来るまで放置しても良いだろう』と見なかったふりをするような輩が多い。ならば必ず絶対に通信を受けないと転移箱を使えないというのは現実的な対応手段だな。
まあ、現実では微妙なところかもだけど。
送る担当は嫌がるが、対応を追いかける担当は喜びそうだ。
「ちなみにこれですと通信用の共鳴魔石を転移箱で送ることも可能なので、転移箱さえ向こうにあれば他の相手へ繋いでいく事も可能です」
もう一つ転移箱を取り出して中が空なのを俺たちに見せ、それをウィルに渡しながらアレクが付け加える。
「取り敢えずお見せしますね」
アレクが転移箱に『青の月28日特許申請時テスト用紙』と大きく書かれた紙と共鳴魔石を入れ、通信機を起動する。
「は~い」
シャルロがドアの傍で通信機を起動し、転移箱を開けたら中から紙と共鳴魔石が出てくる。
アレクが自分の方の転移箱を開けて中が空になっていることを見せた。
まあ、最初から向こうに入れておくなんて仕込みを特許申請の時にするとは思ってないけど。
そうやっている間にシャルロが転移箱の横にある通信機の共鳴魔石を取り換えた。
「じゃあ、次はこっちで行きま~す」
ウィルが受け取って窓際に持って行っていた転移箱から音が鳴り、ウィルが通信機を起動する。
「こちらウィル」
いや、そんなの分かってるから。
ウィルが転移箱を開けて、中から出てきた紙を俺の横にいる主任審査官のところに持ってきた。
『青の月28日特許申請時テスト用紙』
ちゃんと受け取った後に相手を変えられているようだ。
「伝言はこんな感じになります」
アレクが再度転移箱の横の通信機を使うが、今度はシャルロが何もしない。
すると
「後で応じますので名前を言ってください」
と知らぬ女性の声が流れてきた。
・・・いや、あれってパディン夫人の声じゃないか??
自分で録音すれば良いのに。
これから売り出す可変式転移箱全部にあの声が使われるとしたら、パディン夫人が一気に有名になりそうだな。
これって買った人間が好きに応答を変えられるのかね?
「アレク・シェフィート」
アレクが通信機部分に向かって話しかけた。
「こっちでこのボタンが光るようになるので、誰かが何かを送ろうとしたのが分かるようになってます」
シャルロがちかちかと赤く光っているボタンをこちらへ向けて見せ、ボタンを押したところ『アレク・シェフィート』という声が部屋に流れた。
・・・これは普通の携帯用通信機にも欲しい機能だな。
「ちなみに、今回開発した新素材だと、同じ魔石でも以前の銅線を使うよりも有効範囲が2割程広くなります」
アレクが説明した。
おお~~~~!!!
それってめっちゃ重要!!!
これなら俺が頑張らなくても接待された馬鹿にもみ消される事はなさそうだな。
自分用に試作品を3セット位貰えないかなぁ・・・。
【後書き】
人付き合いがマメなので遠地にちょくちょく手紙を送っているアンディ君。
まあ、知り合いに新式転移箱を配っていたらキリが無いけどw
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