シーフな魔術師

卒業後

851 星暦557年 青の月 5日 魔術回路の素材

「う～ん、これって軍部に多そうな幻獣の毛も集めてみたらどうかな？」

魔術回路用の新素材を見つけられないかと色々試してみたら、中々悩ましい結果が出てきた。

なんと、銅線と混ぜて魔力効率の一番良かったのは土竜《ジャイアント・モール》であるアスカの抜け毛だったのだ。

二番目がユニコーンであるラフェーンの抜け毛。
ついでに試してみたアルフォンスの毛は大きくなった時だと濃度が薄いのか大した効果が無かったが、ミニチュアサイズだと高濃度らしくアスカの抜け毛とほぼ同じレベルだった。
とは言え、ミニチュアサイズだと毛の総量が少なすぎる。

空の魔石は５番目。
4番目は精製して直ぐの空ではない魔石を混ぜた銅線。だが、此方は暫く使っていると魔石の中の魔力が枯渇する関係か、効果が落ちる。
しかも何故か最初から空だった魔石よりも悪くなるという不思議な結果になった。

「現実的な話として、大々的に軍が仕入れる魔具の製造に使えるほど大量な抜け毛が期待できる幻獣は軍にもいないだろう。
それよりはなんだったら先に普通の馬とか人間の毛を試してみたらどうだ？」
幻獣の抜け毛が魔石よりも効果が高いなら、魔術師の髪の毛とかだってある程度効果はあるんじゃないか？
普通の人間だって魔力がある程度はあるんだから多少は効果あるかもだし。

馬の毛は一番効果が無さそうだが、幻獣の毛の親戚バージョンと言うことでついでに試しても良いだろう。

「だったら絹糸とか麻糸とか砂とか灰とかも色々と試してみようよ。
緑熱石も！」
シャルロが楽し気に提案してきた。

何か殆どお遊びの様な気がしてきたが、魔術学院で初めてランプを造った時なんかはどう考えても関係なさそうな卵の殻とかが意外な効果を齎していたからな。

実験してみても良いか。

「この際、木材とか油とか海水とか小麦粉とか胡椒とか、手当たり次第に試してみるか」
流石に幻獣の抜け毛は効果が高くても提案しにくいからなぁ。
それこそ自分たち用の個人的に使う魔具にだったらありだが。

「胡椒は高い。
それよりは卵の殻でも試した方がいいな」
アレクが真面目な顔で言ってきた。

卵の殻ねぇ・・・。
魔術回路がキラキラと煌いたりしたら微妙だが、まああれも何か不思議な魔力に対する反応を示したと言えなくはないから、試す価値はあるか。

◆◆◆◆

「なんかすっかりブラッシングが毎日の習慣になったな」
毎日の遠乗りから帰って来たアレクがラフェーンのブラッシングをする横でアスカの背中にブラッシを押し当てながら呟いた。

やっぱ色々と効果があると思うと、商業用には使えなくても自分たち用に確保しようと欲が出るんだよな。
まあ、以前は土の中を泳ぐ幻獣がブラッシングを必要とするとは思っていなかったし。

今だって『必要』なのかは不明だが、好むのだったら欲が関わらなくてもやるのは吝かではない。

「スキンシップとケアは重要だぞ？」
軽く笑いながらアレクが俺のコメントに返す。

「まあなぁ。
そう言えばアスカ、そこら辺に転がっている物で凄く魔力を通す素材ってあったりするか？」
幻獣なのだから人間と違った感覚があるかも知れない。

『大理石も悪くないぞ？
この国のは微妙だが、西の方のは味も悪くない』首を上げて喉の下を差し出しながらアスカが応じる。

うん？
西の方のは味だけが良いのか、魔力の通りも良いのか。
石に味があるって言うのが微妙なところだが。

「西のとこちらの国の大理石と、どう違うんだ？」

『こちらの大理石は塩辛い。
西の岩の方がまろやかだ』
どうやら味の話をしていたらしい。

大理石って塩味なんだ・・・。
考えてみたら、海水を銅に混ぜるのは試す事にしたが、普通の塩も試しても良いかも知れない。

「大理石って魔力を通すのか？」
アレクがちょっと首を傾げながら尋ねる。

『物によってはウィル達が良く使っている銅よりも通すが、加工が難しいのではないか？』
アスカがあっさり答えた。

そうなんだ？？！！
大理石・・・というか石が魔力を通すというのは想定外だった。
まあ、考えてみたら銅だって鉱石から精製するんだから、石だって純化させれば色々と効果はあるだろうが・・・でも確かに石を針金みたいに折り曲げて魔術回路にするのは向いていなそうだな。

銅に大理石や・・・もう少し安くて砕きやすい石灰岩当たりを混ぜてみたらどうなるか、試しても良さそうだ。

確かどっかの学者が大理石や石灰岩は昔の生き物の骨とかが固まった物だと言っていた気がするから、幻獣や馬の抜け毛に効果あるなら大理石だって効果があるかも知れない。
馬の毛が効果があるかはまだ試していないが。

人間や馬の毛を集めるよりは石灰岩の方が大量に入手しやすいしな。
こっちが効果的である事を期待しよう。