シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
851 / 1,064
卒業後

850 星暦557年 紺の月 28日 久しぶりの訪問(10)

しおりを挟む
「ちなみに魔力感応素材特許の話は何か注意した方がいい点ってありますか?」
アレクがお茶に手を伸ばしながら学院長に尋ねた。

アンディに軽く聞いたところだと、結局魔術回路の改善についても素材特許の一環として扱うらしい。

魔術回路その物の改善としてやるには潜在的な応用範囲が広すぎるので『素材』と『魔術回路』で別建て計算するらしい。
だから魔術回路用に良い素材を見つけたら、古い特許切れした魔術回路に使った場合でも新たに素材特許料が僅かばかりながらも入るとのことだった。

「新しい制度だからな。
最初に役に立つって印象付けた方がいいから、良い魔術回路用の素材を見つけたら古くても広く使われている出力の大きな魔術回路を使っている魔具に使うのを例示サンプルとして提出すると良いかも知れない。
うっかり手近な例を提示して『ごく僅かにしか改善しない』という誤解が広まると、魔術院の職員とかが手続きを面倒臭がって登録に水を差すようなことを言う可能性がある」
ちょっと微妙な表情で学院長が言った。

誰か、魔術学院の中でこの素材特許の新制度に反対する勢力がいるのだろうか?
まあ、普通の素材特許だったら商業ギルドが扱っているからな。
魔力感応素材に関する特許だって商業ギルドが扱いたいと思っていても不思議は無い。
既得権益の一部だと見做している可能性が高いし、魔具の製造や販売にもっと深く食い込める機会と狙っているかも知れない。
そう考えると、魔術院の職員に接待してそれとなく扱いを悪くするように話を持ち掛けても不思議は無いか。
数年冷遇させた後に『利用者が少ないようだし、事務手続きを効率化する為に』とでも言って普通の素材特許と一緒に商業ギルドで扱ってはどうかと提案する計画があるのかも?

本来ならば魔術院の職員と商業ギルドってそれ程仲は良くない筈なんだが・・・ある意味、魔術院の中でトップに昇進する可能性が低い人間だったら自分の懐さえ潤うなら組織間の利害関係なんてどうでもいいんだろう。

バレて魔術院を追い出された後に商業ギルドが拾ってくれるなんて思っているとしたらアホだが。

「なるほど。
何か良いのが無いか、探してみますね!
そう言えば、肩凝り用魔具はどうでしょう?
そろそろ試用が終わっているなら感想を聞いて回収しようかと思うんですが」
シャルロがにこやかに付け加えた。

え??
あの試作品、回収するつもりなのか???

そう言えば、シャルロは今回の試作品は自分の親戚の家令とかにしか配っていなかったっけ?
お上品な家令だったらあっさり試作品を返すかもしれないが、あれを一般事務員から取り上げようとなんてするのは危険だぞ?

「中々好評なようだぞ?
・・・ちなみに、試作品は回収する予定なのか?」
ちょっと顔を引き攣らせながら学院長が答えた。

「改善点があるなら回収して、改造したのを持って来ようかと思ったんですけど?」
シャルロが首を軽く傾げながら応じる。

「何か危険な問題点があるって言うんじゃない限り、現状の試作品はそのまま使ってもらって、改善点があって改造版を造ることになったらそっちの試作品をまた持って来れば良いんじゃないか?
改善してくれって言って変えて貰ったら実は思っていたほど良くなかったなんてこともあるだろうから、改造前のも比較対象としてあった方がいいだろ」
別に、再利用しなければいけない程高い素材を使っている訳でもないのだし。
試作品を回収して事務の女性陣に怨まれるのは嫌だぞ。

「確かに、改造前と後の物を使ってもらって、製造費が変わるならそれだけの価値があるかを聞いてみるのも重要だな」
シェフィート商会の事務員から試作品を回収する大変さを考えたのか、アレクも素早く俺の提案に賛成した。

「そう?
そうかもね。
じゃあ、実家の方の試作品も回収を頼んでいたけど、感想と改造点の要請だけ聞いておいて、そのまま次の試作品が来るまで使っていてって伝えておくね」
シャルロがあっさり頷いた。

うわ~。
既に家令の方に回収命令を出してたのかぁ。
シャルロの実家の王都別邸の家令ってそれなりに年のいった爺さんだったよな?
色々と部下のメイドとかから文句を言われて大変な目に合っていないと良いんだが。

まあ、爺さんだったらメイドをあしらうのも上手いかな?
却って誰か一族の屋敷に若い家令とかが居たら痛い目に合っているかも。

・・・ある意味、どこの屋敷の家令が泣きついてきたのか、シャルロに確認させたら面白いかも。




【後書き】
今話は島とほぼ関係ないですが全話の訪問の続きなのでサブタイトルはそのままです
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

【完結】数十分後に婚約破棄&冤罪を食らうっぽいので、野次馬と手を組んでみた

月白ヤトヒコ
ファンタジー
「レシウス伯爵令嬢ディアンヌ! 今ここで、貴様との婚約を破棄するっ!?」  高らかに宣言する声が、辺りに響き渡った。  この婚約破棄は数十分前に知ったこと。  きっと、『衆人環視の前で婚約破棄する俺、かっこいい!』とでも思っているんでしょうね。キモっ! 「婚約破棄、了承致しました。つきましては、理由をお伺いしても?」  だからわたくしは、すぐそこで知り合った野次馬と手を組むことにした。 「ふっ、知れたこと! 貴様は、わたしの愛するこの可憐な」 「よっ、まさかの自分からの不貞の告白!」 「憎いねこの色男!」  ドヤ顔して、なんぞ花畑なことを言い掛けた言葉が、飛んで来た核心的な野次に遮られる。 「婚約者を蔑ろにして育てた不誠実な真実の愛!」 「女泣かせたぁこのことだね!」 「そして、婚約者がいる男に擦り寄るか弱い女!」 「か弱いだぁ? 図太ぇ神経した厚顔女の間違いじゃぁねぇのかい!」  さあ、存分に野次ってもらうから覚悟して頂きますわ。 設定はふわっと。 『腐ったお姉様。伏してお願い奉りやがるから、是非とも助けろくださいっ!?』と、ちょっと繋りあり。『腐ったお姉様~』を読んでなくても大丈夫です。

公爵令嬢はアホ係から卒業する

依智川ゆかり
ファンタジー
『エルメリア・バーンフラウト! お前との婚約を破棄すると、ここに宣言する!!」  婚約相手だったアルフォード王子からそんな宣言を受けたエルメリア。  そんな王子は、数日後バーンフラウト家にて、土下座を披露する事になる。   いや、婚約破棄自体はむしろ願ったり叶ったりだったんですが、あなた本当に分かってます?  何故、私があなたと婚約する事になったのか。そして、何故公爵令嬢である私が『アホ係』と呼ばれるようになったのか。  エルメリアはアルフォード王子……いや、アホ王子に話し始めた。  彼女が『アホ係』となった経緯を、嘘偽りなく。    *『小説家になろう』でも公開しています。

【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!

しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。 けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。 そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。 そして王家主催の夜会で事は起こった。 第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。 そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。 しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。 全12話 ご都合主義のゆるゆる設定です。 言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。 登場人物へのざまぁはほぼ無いです。 魔法、スキルの内容については独自設定になっています。 誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

処理中です...