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卒業後
849 星暦557年 紺の月 28日 久しぶりの訪問(9)
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「お土産で~す」
流石に小舟桟橋が完成するまでは待てなかったので、侵入禁止結界の魔具の設置と空滑機《グライダー》改の試運転の協力をもう数回した後、俺たちは王都に戻って来た。
で、今日はお土産を持って学院長の元へ。
「ほう?
どこに行っていたんだ?」
ちゃんと今日はアレクが話を通してあったせいか、既に学院長室ではソファの傍にお茶の準備が出来ていた。
茶葉をさっとポットに入れながら学院長が俺たちに座るよう身振りして尋ねる。
「久しぶりにパストン島へ行っていました。
意外なほどに発展していたので、最近は嫌がらせではない本格的な実需による略奪行為への対策が必要になってきたようで、侵入禁止結界の設置を手伝う羽目になりましたよ」
苦笑しながらアレクが応える。
「そう言えば、いつかあそこに遊びに行ってみたいものだな。
一番早いのは東大陸のジルダスまで転移門で行って船か?」
学院長が興味を持ったのか聞いてきた。
そう言えば、行ったことないんだっけ?
少なくとも、学院長があっちに訪れたって話は聞いていないな。
別に有名な訪問者全ての報告を受けている訳じゃあないけど、学院長だったら俺らの恩師ってことで訪問していたらジャレットが言及しそうだ。
「そうですね。
纏まった休みが取れそうでしたら俺たちが屋敷船で行くのに一緒でって言うのも快適ですけど」
パストン島もそれなりな宿屋も整備されてきた様だが、侯爵家の子息が整備した屋敷船の寝室の方が居心地は良いと思う。
なんと言っても向うでもそのまま休めるし。
まあ、時間が無いんだったらちゃらっと転移門で行って日帰りでジルダスから往復するのも可能だが。
「最近はトウモロコシとかキビとか、暖かい地域で良く育つ作物を育ててそれを食べる様になっているので、色々と珍しいお菓子や食事もありましたよ。
今日もそのいくつかをお土産に持ってきました」
シャルロがにこやかに土産の入った箱を学院長に差し出した。
学院長って甘い物も食べるが特に甘党でも辛党でもないっぽいから、イマイチ何が好きなのか分からないんだよなぁ。
ある意味、『旨い物』が好きって感じで、適当に甘い物を買って帰れば良いって言う訳じゃないのが中々厳しいんだが、シャルロが厳選したお菓子だったら大丈夫だろう。
「ありがとう。
そう言えばトウモロコシの菓子なんて久しく食べていないな。
パストン島にもそのうち遊びに行ってみよう」
お土産の箱を受け取ってから、ポットにお湯を入れて学院長がソファに腰を掛けた。
「そう言えば・・・ちょっと今回の件で思ったんですけど、精霊にどっかの防衛に関する頼みごとをした場合ってどの程度上手くいくんでしょうか?
僕たちがいる状態だったら問題なくどんな状況にも臨機応変に対応できますが、いない方が多い島の防衛に関して下手に手を貸してもらうと問題が起きないかな~と思って」
シャルロが軽く首を傾げながら尋ねた。
おや。
シャルロも考えていたのか。
俺も清早にお願いしようかな~とも思ったが、どのくらい負担になるか分からないし、将来的にどんなことになるかも想像がつかなかったから最後の手段的な感じに取っておくことにしておいたんだよな。
「基本的に、精霊は争いを好かぬ。
攻め込んでくる奴らを撃退するぐらいならまだしも、争いに積極的な関与を頼まぬ方がいいだろう。
それこそ決まった旗を掲げた船以外は通すななんと言う願いも不可能ではないが・・・偽造された旗でも通すかもしれぬし、反対にちょっと破けたり古くなった本物の旗を認識せずに自国の船を止める可能性もあるな。
それに加護持ちがいない場所での作業を頼むと、現地にいる下級精霊に頼んでそのまま忘れることも多い。下手な頼みごとをするとうっかりしたらずっと先のアファル王国が無くなった後まで頼まれごとを続ける可能性もあるらしいぞ」
苦笑しながら学院長が教えてくれた。
なるほど。
シャルロや俺が死んだ後に突然防衛手段が消え去るのも問題だろうと思っていたが、下手をしたら清早や蒼流ではなく下っ端の下級精霊に頼んで忘れられる可能性があるから、数百年後にもずっと昔に滅んだ伝説の国の旗を掲げないと入港できない不思議な港なんてものが出来上がっている可能性もあるのか。
まあ、どちらにせよ偽造できる旗なんぞあまり役に立たないし、水の下級精霊に旗を認識できるかも微妙だな。
それ以外だと・・・俺たちの魔力を通した水晶とか魔石を目安になんて言ったら俺たちが死んだ後にはそのうち誰も入港できない港が出来上がっちまうし。
魔石や水晶に通した魔力なんて、ある程度は持つが数年したら完全に抜けちまう。
それにそれなりに人気が出てきた補給港に入港する船全部分の魔石や水晶に魔力を込めるのも大変過ぎるから、断固として遠慮させてもらうぞ!
「そうなんですか。
頼んでもどの程度負担になるか分からないし、僕たちがいない状態でどのくらいちゃんと運用できるかも分からなかったので提案しませんでしたが、頼まなくて良かったみたいですね~。
まあ、どこの国だってそれなりに離島の防衛は何とかしているんですから、既存の技術で頑張って貰わないとですね!」
にっこり笑いながらシャルロが言った。
そうだな。
下手にパストン島の防衛だけ完璧だと、他の島とか港町の防衛にまで駆り出されかねん。
さて。
残りは魔力関連の素材特許に関する注意事項を聞けば終わりか。
そう言えば、帰りに肩もみ用魔具の感想も受け取らないとだな。
試作品は別に回収しなくても良いが、そろそろ感想と改善点の受付をいったん打ち切って販売の方に話を進めないと。
【後書き】
感想打ち切りなのに更なる試作品を求められたりw
流石に小舟桟橋が完成するまでは待てなかったので、侵入禁止結界の魔具の設置と空滑機《グライダー》改の試運転の協力をもう数回した後、俺たちは王都に戻って来た。
で、今日はお土産を持って学院長の元へ。
「ほう?
どこに行っていたんだ?」
ちゃんと今日はアレクが話を通してあったせいか、既に学院長室ではソファの傍にお茶の準備が出来ていた。
茶葉をさっとポットに入れながら学院長が俺たちに座るよう身振りして尋ねる。
「久しぶりにパストン島へ行っていました。
意外なほどに発展していたので、最近は嫌がらせではない本格的な実需による略奪行為への対策が必要になってきたようで、侵入禁止結界の設置を手伝う羽目になりましたよ」
苦笑しながらアレクが応える。
「そう言えば、いつかあそこに遊びに行ってみたいものだな。
一番早いのは東大陸のジルダスまで転移門で行って船か?」
学院長が興味を持ったのか聞いてきた。
そう言えば、行ったことないんだっけ?
少なくとも、学院長があっちに訪れたって話は聞いていないな。
別に有名な訪問者全ての報告を受けている訳じゃあないけど、学院長だったら俺らの恩師ってことで訪問していたらジャレットが言及しそうだ。
「そうですね。
纏まった休みが取れそうでしたら俺たちが屋敷船で行くのに一緒でって言うのも快適ですけど」
パストン島もそれなりな宿屋も整備されてきた様だが、侯爵家の子息が整備した屋敷船の寝室の方が居心地は良いと思う。
なんと言っても向うでもそのまま休めるし。
まあ、時間が無いんだったらちゃらっと転移門で行って日帰りでジルダスから往復するのも可能だが。
「最近はトウモロコシとかキビとか、暖かい地域で良く育つ作物を育ててそれを食べる様になっているので、色々と珍しいお菓子や食事もありましたよ。
今日もそのいくつかをお土産に持ってきました」
シャルロがにこやかに土産の入った箱を学院長に差し出した。
学院長って甘い物も食べるが特に甘党でも辛党でもないっぽいから、イマイチ何が好きなのか分からないんだよなぁ。
ある意味、『旨い物』が好きって感じで、適当に甘い物を買って帰れば良いって言う訳じゃないのが中々厳しいんだが、シャルロが厳選したお菓子だったら大丈夫だろう。
「ありがとう。
そう言えばトウモロコシの菓子なんて久しく食べていないな。
パストン島にもそのうち遊びに行ってみよう」
お土産の箱を受け取ってから、ポットにお湯を入れて学院長がソファに腰を掛けた。
「そう言えば・・・ちょっと今回の件で思ったんですけど、精霊にどっかの防衛に関する頼みごとをした場合ってどの程度上手くいくんでしょうか?
僕たちがいる状態だったら問題なくどんな状況にも臨機応変に対応できますが、いない方が多い島の防衛に関して下手に手を貸してもらうと問題が起きないかな~と思って」
シャルロが軽く首を傾げながら尋ねた。
おや。
シャルロも考えていたのか。
俺も清早にお願いしようかな~とも思ったが、どのくらい負担になるか分からないし、将来的にどんなことになるかも想像がつかなかったから最後の手段的な感じに取っておくことにしておいたんだよな。
「基本的に、精霊は争いを好かぬ。
攻め込んでくる奴らを撃退するぐらいならまだしも、争いに積極的な関与を頼まぬ方がいいだろう。
それこそ決まった旗を掲げた船以外は通すななんと言う願いも不可能ではないが・・・偽造された旗でも通すかもしれぬし、反対にちょっと破けたり古くなった本物の旗を認識せずに自国の船を止める可能性もあるな。
それに加護持ちがいない場所での作業を頼むと、現地にいる下級精霊に頼んでそのまま忘れることも多い。下手な頼みごとをするとうっかりしたらずっと先のアファル王国が無くなった後まで頼まれごとを続ける可能性もあるらしいぞ」
苦笑しながら学院長が教えてくれた。
なるほど。
シャルロや俺が死んだ後に突然防衛手段が消え去るのも問題だろうと思っていたが、下手をしたら清早や蒼流ではなく下っ端の下級精霊に頼んで忘れられる可能性があるから、数百年後にもずっと昔に滅んだ伝説の国の旗を掲げないと入港できない不思議な港なんてものが出来上がっている可能性もあるのか。
まあ、どちらにせよ偽造できる旗なんぞあまり役に立たないし、水の下級精霊に旗を認識できるかも微妙だな。
それ以外だと・・・俺たちの魔力を通した水晶とか魔石を目安になんて言ったら俺たちが死んだ後にはそのうち誰も入港できない港が出来上がっちまうし。
魔石や水晶に通した魔力なんて、ある程度は持つが数年したら完全に抜けちまう。
それにそれなりに人気が出てきた補給港に入港する船全部分の魔石や水晶に魔力を込めるのも大変過ぎるから、断固として遠慮させてもらうぞ!
「そうなんですか。
頼んでもどの程度負担になるか分からないし、僕たちがいない状態でどのくらいちゃんと運用できるかも分からなかったので提案しませんでしたが、頼まなくて良かったみたいですね~。
まあ、どこの国だってそれなりに離島の防衛は何とかしているんですから、既存の技術で頑張って貰わないとですね!」
にっこり笑いながらシャルロが言った。
そうだな。
下手にパストン島の防衛だけ完璧だと、他の島とか港町の防衛にまで駆り出されかねん。
さて。
残りは魔力関連の素材特許に関する注意事項を聞けば終わりか。
そう言えば、帰りに肩もみ用魔具の感想も受け取らないとだな。
試作品は別に回収しなくても良いが、そろそろ感想と改善点の受付をいったん打ち切って販売の方に話を進めないと。
【後書き】
感想打ち切りなのに更なる試作品を求められたりw
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