シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
841 / 1,038
卒業後

840 星暦557年 紺の月 16日 肩凝り対策(31)

しおりを挟む
「これも良いねぇ・・・」
2段ほどの階段っぽい形に空気を入れたクッションの周りに改造緑熱ジェイパル石を入れてふんにゃり暖かいようにした巨大椅子もどきクッションに体を投げ出して、シャルロがふやけたような笑顔で言った。

「まあ、来月辺りにはちょっと暑くなりすぎて秋までお預けになるがな。
同じような柔らかくなる素材で冷えるのがあったら夏用に欲しいところだな」
俺用の巨大クッションをシャルロにとられたので、シェイラ用に造ったのを引っ張り出してそれに身体を投げ出しながら合意する。

肩凝り用魔具に関してはあちこちに長期使用の健康被害テストをして貰う為に1刻とか2刻とか半日とかの単位で使い続けても肌が赤くなったりヒリヒリしたりと言った健康被害の兆候が出て来ないか確認中なので、試作品の製造と配布が終われば暫くやることが無い。

魔術回路用に魔石を砕いたのを素材に混ぜてどうなるかは多少テストしたらそれなりに興味深い結果が出たが、こちらはしっかり制度設計が終わって法的に保護されるようになってから本格的な試行錯誤を始めれば良いだろうということで取り敢えずは放置。

と言うことでちょっと暇になった俺たちは、毎朝さらっと会って話し合いをする以外は各々好きなことをやっていたのだ。
アレクはシェフィート商会の協力。
シャルロは・・・何やらマッサージに目覚めたのか色々とマッサージの得意な人の所に行って肩だけでなく腰回りとかのマッサージの仕方を教わっていた。

もしかして、ケレナが妊娠する予定なのかね?
現時点ではまだ別の命が宿っている様子はないが、妊婦って腰とかが凝って大変らしいからなぁ。
下手な魔具を生まれる前の命の傍に使って変な副作用があったらヤバいから、人間の手で揉むのが一番良さげという事で今から練習しているのか?

まあ、それはともかく。
俺は、シェイラが言っていた改造緑熱ジェイパル石の更なる活用を研究していた。

ベッドのマットレスに使うのは・・・試してみたらまあまあだったが、今の時期だともう暖かくなり過ぎな感じかな。
俺はちょっと涼しいぐらいのところに薄めの布団を掛ける程度が好きなんで、がっつり下から熱が伝わってくると微妙に寝苦しい。

真冬に何らかの形で使えないか、秋ぐらいにもう一度研究してみても良いけど。

椅子のクッションでも良いのでは・・・とも言われたので、まずは大きな改造緑熱ジェイパル石の固まりを作ってそれに座ってみようとしたのだが、ふにゃっと柔らかいと体重をかけると基本的にぺしゃんこになってしまう事が判明。
椅子の形をキープ出来ないのだ。

普通の安楽椅子の尻と背中部分のクッションを改造緑熱ジェイパル石で入れ替えてみると・・・まあ、柔らかくて座り心地は良いが、普通の良質なソファが暖かくなっただけと言う感じで、微妙に特別感が無い。

それにシェイラの所へ届けるのに安楽椅子ごと持って行くのは大変だ。
そこで、空気を通さない生地を床に直接置く大き目なクッション兼椅子っぽい物にしようと少し平べったい2段分の階段のような直方形を組み合わせた形に造り、空気を入れてそのクッションの前と上に改造緑熱ジェイパル石を入れる形にしてみた。

後ろはそのままにしておいて、空気を入れたり抜いたりできるようになっている。
改造緑熱ジェイパル石は取り出せないのでそちらの重さとサイズは変わらないが、少なくとも本体の大部分のサイズは空気が入ったクッションなので空気を抜けばかなり持ち運びしやすい大きさになる。

最初は単なるクッションとして改造緑熱ジェイパル石を入れてみたのだが、どうせならと言うことでがっつり多めに入れてクッションの形がかなり自由に変わるようにしてみたら・・・椅子というよりも大きなクッションの固まりか、それこそ休んでいる土竜《アスカ》の身体みたいな感じに大きな柔らかい固まりになり、体をぐで~と預けるのに凄く快適な感じになったのだ。

普段からきっちり派なアレクやパディン夫人からの評価からは微妙だったが、ぐにゃぐにゃ派のシャルロには大好評だった。
シェイラにはまだ持って行っていないが・・・どうだろ?
休みならシェイラもぐだ~とすることもあるよな?

意図的にクッションを転がして使わない限り頭が載る部分は常に上になるようにしてあるから、体を投げ出していたら砂埃だらけになるってことは無いと思うが、床に直接置くので砂埃避けにカバーを付けて時折洗えるようにもしてある。

「これも売り出してみたら~?
家で楽にするのに凄く向いていると思うなぁ」
シャルロが提案する。

「う~ん、大きいからそれなりに魔石代が高くつくぞ?
それに貴族はそんなぐだぐだした格好じゃあ寝転がったりしない・・・んじゃないのか?」
普通に屋敷に住んでいる貴族様なんて常にきっちりしていそうな気がする。
シャルロを見ていると違うのかもだが。

「確かに貴族には売りにくいかなぁ。
子供用になら良いかもと思うけど、ちょっとぐで~っとなりすぎて堕落しちゃいそうだから、教育上悪いって言われちゃうかも?」
軽く笑いながらシャルロが言う。

「確かにそれに座って育った子供は姿勢が悪くなりそうだな。
まあ、普通の椅子で育っても姿勢が悪い人間はいるから、個人の資質によるのだろうが。
取り敢えず、肩凝り用魔具の売り上げがどうなるかはっきりするまではこちらは売り出さない様にしよう。
下手に急激に緑熱《ジェイパル》石の需要を増やし過ぎると、製造費の計算が狂う」
アレクが巨大クッションの問題点を指摘した。

確かに。
このクッションって空気で本体部分は誤魔化しているとはいえ、かなり大量の緑熱《ジェイパル》石を使うんだよね。
これが人気になりすぎて肩凝り用魔具の素材の入手費用が上がっては困るな。

取り敢えずは個人的に使うだけにしておこう。







【後書き】
ダメになるクッションは商売上の理由により、販売は見合わせましたw。
完全に形が自由になるのでは無く、空気入りクッションで床に置く大きなクッションの形を確保してその細部が体重でふにゃっと変わる感じです。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

処理中です...