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卒業後
835 星暦557年 紺の月 5日 肩凝り対策(26)
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学院長視点です
【本文】
>>>サイド アイシャルヌ・ハートネット
「こんにちは~」
何やら軽い感じにウィルが現れた。
先日肩凝りに関する調査をしたいと現れたばかりだが、今日は試作品の提供に来たのか?
「おはよう。
試作品の提供だったら事務局の方に出してくれ。
まあ、一応私も使ってはみるが」
お茶を淹れるためにお湯を沸かそうと立ち上がりながら告げる。
「あ。
まだ人に渡すような試作品は完成していないですね。
肩用はそれなりに完成しているんですが、頭と首のマッサージでちょっと色々と試行錯誤し始めているんで」
一瞬動きを止めたウィルが、にっこり笑いながら答えた。
・・・試作品を持って来るつもりが無かったな、こいつ。
話を色々と聞いて回ったからには当然試作品が来るだろうと事務員たちは期待しているぞ?
「肩用だけでも試作品を持ってきたらどうだ?
相当の人数に試させた方が売り出す前に問題点が洗い出せて良いだろうに」
来月には学院祭があるので、それなりに裏方仕事が増えて事務局で大分とストレスが溜まってきているのだ。
「そうですね~。
もう一段階改善される可能性も高いですが、取り敢えず肩のマッサージ機能の方だけでも試してもらっておくと良いかもですね。
色々と話を聞かせて貰ってますし。明日にでも持ってきます」
ちょっと考えるような顔をしてから、あっさりウィルが頷いた。
意外と時間がかかっているな。
此奴らの開発は思いがけない方向へ逸れることも多いようだが、各開発点に関しては比較的早く解決するか、見切りをつけているようなのに。
「試作品を持ってきたんじゃなかったのなら、今日は何の用事で来たんだ?」
肩凝り用魔具を開発していて想定外なヤバい発見なんぞは無いと思うのだが。
「ご相談なんですが、魔術回路そのものじゃなくって魔力に反応する素材で、魔具を造りやすかったり魔力の消費効率を上げたりするようなのを発見した場合って魔術院の方でその発見の保護と使用料を徴収してもらえるような制度ってありませんかね?
魔具用新素材の開発って普通の商業ギルドの特許登録になるとすると俺たちにとっては使い勝手が悪いし実効性も微妙な気がするんです。魔力に関連する素材だったら魔術院の方で何とか魔術回路の特許と絡めた感じで登録・保護するシステムって出来ませんか?」
執務机の前に座りながらウィルが尋ねてきた。
ふむ。
「魔具に使う素材なのか?
素材の使い方に関する新発見だったら魔術院から追加で褒賞金がある程度は出るぞ?」
学生中にも、属性を普通の魔術師でも視える様にするやり方の発見に関してはウィルにそれなりに金が入った筈だが。
「加工技術も含むんで特許に近い形かな?と思うんですよ。
一つは緑熱《ジェイパル》石を使い勝手良くする方法。
もう一つは魔術回路の素材をもしかしたら改善できるかもと思っているんですが、色々と試行錯誤してみるなら特許みたいな継続的な収入が欲しいかな?って話し合っていて」
ポットで淹れたお茶が注がれるのを見ながらウィルが言った。
緑熱《ジェイパル》石か。
魔力に反応する素材というのはあまり多くないが、あの石は反応が顕著かつ入手が容易な素材なのでそれなりの数の魔術師や工房の職人が使えないかと色々と工夫してきたものの、頑固に使い勝手が悪いままな素材だ。
あれを使い勝手良く出来るとしたら、確かに報奨金よりも特許使用料の方がいいだろう。
どうしても一括で払う報奨金は魔術院がケチるから、総合的な収入としては小さくなりがちだ。
特許使用料だと魔術院ではなく工房・・・というか最終的には魔具を買う購入者が払うことになるので、それなりに微々たる割合だとしても積み上がればかなりの金額になることが多い。
勿論、売れればだが。
魔術回路に使う素材も銅や鉄や銀を使うというのではなく、何か加工した素材でより良く出来るというのだったら確かに莫大な利益に繋がる可能性もある。
まあ、魔術回路のような根本的な部品だったら更に工夫が重ねられて特許料を何人かの発明で分け合う形になって最終的には極僅かな割合になるだろうが。
それでも利用される数が違うので、特許的扱いをする価値は十分にあるだろう。
魔術院に取っても自前の予算を使う形になる報奨金よりも、使用料の一部が魔術院にも入る特許の方が長期収入を期待出来るし。
ただ、素材だとするとどうやって不正使用を発見するかの検査制度を話し合う必要がありそうだな。
「新しい制度を造るとなると色々と面倒な手続きが必要になるから、それだけの価値がある発明が無ければ中々動きが始まらない。
だからせめて緑熱《ジェイパル》石関連の試作品でも持って来てくれ。
私も魔術院と王宮の石頭どもと話を始めておこう」
確かデジレは学生時代に緑熱《ジェイパル》石の研究を一時期していたことがあったな。
結局断念していたが、あれが実を結んだとなったら協力するか?
拘りがあったからこそ、後から知らされたら横槍を入れてきかねないし、先に巻き込んでおこう。
【後書き】
魔術院にとって、不正使用をキャッチする制度の人員の方が収入より増える様では制度導入の意味が無いですからね~。
【本文】
>>>サイド アイシャルヌ・ハートネット
「こんにちは~」
何やら軽い感じにウィルが現れた。
先日肩凝りに関する調査をしたいと現れたばかりだが、今日は試作品の提供に来たのか?
「おはよう。
試作品の提供だったら事務局の方に出してくれ。
まあ、一応私も使ってはみるが」
お茶を淹れるためにお湯を沸かそうと立ち上がりながら告げる。
「あ。
まだ人に渡すような試作品は完成していないですね。
肩用はそれなりに完成しているんですが、頭と首のマッサージでちょっと色々と試行錯誤し始めているんで」
一瞬動きを止めたウィルが、にっこり笑いながら答えた。
・・・試作品を持って来るつもりが無かったな、こいつ。
話を色々と聞いて回ったからには当然試作品が来るだろうと事務員たちは期待しているぞ?
「肩用だけでも試作品を持ってきたらどうだ?
相当の人数に試させた方が売り出す前に問題点が洗い出せて良いだろうに」
来月には学院祭があるので、それなりに裏方仕事が増えて事務局で大分とストレスが溜まってきているのだ。
「そうですね~。
もう一段階改善される可能性も高いですが、取り敢えず肩のマッサージ機能の方だけでも試してもらっておくと良いかもですね。
色々と話を聞かせて貰ってますし。明日にでも持ってきます」
ちょっと考えるような顔をしてから、あっさりウィルが頷いた。
意外と時間がかかっているな。
此奴らの開発は思いがけない方向へ逸れることも多いようだが、各開発点に関しては比較的早く解決するか、見切りをつけているようなのに。
「試作品を持ってきたんじゃなかったのなら、今日は何の用事で来たんだ?」
肩凝り用魔具を開発していて想定外なヤバい発見なんぞは無いと思うのだが。
「ご相談なんですが、魔術回路そのものじゃなくって魔力に反応する素材で、魔具を造りやすかったり魔力の消費効率を上げたりするようなのを発見した場合って魔術院の方でその発見の保護と使用料を徴収してもらえるような制度ってありませんかね?
魔具用新素材の開発って普通の商業ギルドの特許登録になるとすると俺たちにとっては使い勝手が悪いし実効性も微妙な気がするんです。魔力に関連する素材だったら魔術院の方で何とか魔術回路の特許と絡めた感じで登録・保護するシステムって出来ませんか?」
執務机の前に座りながらウィルが尋ねてきた。
ふむ。
「魔具に使う素材なのか?
素材の使い方に関する新発見だったら魔術院から追加で褒賞金がある程度は出るぞ?」
学生中にも、属性を普通の魔術師でも視える様にするやり方の発見に関してはウィルにそれなりに金が入った筈だが。
「加工技術も含むんで特許に近い形かな?と思うんですよ。
一つは緑熱《ジェイパル》石を使い勝手良くする方法。
もう一つは魔術回路の素材をもしかしたら改善できるかもと思っているんですが、色々と試行錯誤してみるなら特許みたいな継続的な収入が欲しいかな?って話し合っていて」
ポットで淹れたお茶が注がれるのを見ながらウィルが言った。
緑熱《ジェイパル》石か。
魔力に反応する素材というのはあまり多くないが、あの石は反応が顕著かつ入手が容易な素材なのでそれなりの数の魔術師や工房の職人が使えないかと色々と工夫してきたものの、頑固に使い勝手が悪いままな素材だ。
あれを使い勝手良く出来るとしたら、確かに報奨金よりも特許使用料の方がいいだろう。
どうしても一括で払う報奨金は魔術院がケチるから、総合的な収入としては小さくなりがちだ。
特許使用料だと魔術院ではなく工房・・・というか最終的には魔具を買う購入者が払うことになるので、それなりに微々たる割合だとしても積み上がればかなりの金額になることが多い。
勿論、売れればだが。
魔術回路に使う素材も銅や鉄や銀を使うというのではなく、何か加工した素材でより良く出来るというのだったら確かに莫大な利益に繋がる可能性もある。
まあ、魔術回路のような根本的な部品だったら更に工夫が重ねられて特許料を何人かの発明で分け合う形になって最終的には極僅かな割合になるだろうが。
それでも利用される数が違うので、特許的扱いをする価値は十分にあるだろう。
魔術院に取っても自前の予算を使う形になる報奨金よりも、使用料の一部が魔術院にも入る特許の方が長期収入を期待出来るし。
ただ、素材だとするとどうやって不正使用を発見するかの検査制度を話し合う必要がありそうだな。
「新しい制度を造るとなると色々と面倒な手続きが必要になるから、それだけの価値がある発明が無ければ中々動きが始まらない。
だからせめて緑熱《ジェイパル》石関連の試作品でも持って来てくれ。
私も魔術院と王宮の石頭どもと話を始めておこう」
確かデジレは学生時代に緑熱《ジェイパル》石の研究を一時期していたことがあったな。
結局断念していたが、あれが実を結んだとなったら協力するか?
拘りがあったからこそ、後から知らされたら横槍を入れてきかねないし、先に巻き込んでおこう。
【後書き】
魔術院にとって、不正使用をキャッチする制度の人員の方が収入より増える様では制度導入の意味が無いですからね~。
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