シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
上 下
835 / 1,077
卒業後

834 星暦557年 紺の月 4日 肩凝り対策(25)

しおりを挟む
「古くて破棄しようとしていた魔石の粉の方がいいなんて意外だね~」

中サイズの新しい魔石を砕いた粉、小サイズの新しい魔石を砕いた粉、中小の各サイズの魔石で破棄寸前の魔石を砕いた粉と、大サイズの破棄寸前の魔石を砕いた粉を混ぜた緑熱《ジェイパル》石を入れた手袋を前に、シャルロがプニプニと手袋を指で押しながら言った。

ここ数日、砕いて使う為に魔石を何種類も入手し、元の魔石の大きさだけでなく砕いた魔石の細かさや残存魔力の量、混ぜる時の緑熱《ジェイパル》石の状態等々を色々と試してきた。
ちなみに新しい大きな魔石は高すぎるので試していない。
魔石って大きいのは馬鹿みたいに高くなるから。

面白い事に、新しい魔石だと中サイズと小サイズで多少反応が違うのだが、破棄寸前で魔力の再充填が殆ど出来なくなった魔石だとサイズに関係なくほぼ同じ効果になった。

しかもシャルロが言ったように破棄寸前の魔石を細かく砕いた微細な粉を混ぜるのが一番望ましい効果が得られたのだ。

「お蔭でかなり経済的に造れることになって助かった。
何か他にも破棄寸前の魔石の使い道が無いか、実験してみたいところだな。
それこそ、インクみたいにして魔術回路を描けないか、実験してみても良いかも知れない」
アレクが提案した。

「ただ水や油に溶いただけの粉じゃあ乾いた時にバラバラになって魔術回路が崩壊しそうじゃないか?
膠とかに混ぜても濡れたり熱くなった時に溶けるんじゃあ困るし、魔術回路が変な風に変形して暴発とかしたら責任問題になりそうだぜ。
それよりも銅線や鉄線を精製する際に混ぜ込んで魔術回路を作ったら何か効果があるか試した方が良いかも?」
インクにして筆やペンで描ける魔術回路というのも確かに魅力的だが、魔具とは魔石と言うそれなりに危険にもなり得る物の魔力を安全かつ便利に取り出す為の道具でもあるのだ。

安全性が絶対に損なわれない様にしないといけない。

「取り敢えず魔術回路への活用は後にして、まずはこの改造版緑熱ジェイパル石を使った肩もみ用魔具をさっさと完成させよう。
そうだ、ウィルは僕たちが試作品を作って試している間に学院長の所に行って、素材に関する特許制度みたいなのに関して相談して来てよ。
改造版緑熱ジェイパル石だけじゃなくってそれこそ魔術回路のインク版とか、より効率のいい魔術回路を造る素材にしても、普通の商業特許じゃなくって魔術院の特許で保護させないと大した効果はなさそうだし、どうせ魔具に使うんだから魔術院から規制させてお金も徴収させる方が僕たちにとっても面倒が無くていいでしょ?」
シャルロが一番良かった手袋型魔具の試作品をプニプニと頭に当てて動かしながら提案した。

「アンディ経由で提案するんじゃなかったのか?」
確かそんな話をしてなかったっけ?

「肩もみ用の魔具とかお尻の暖まるクッション程度なら良いけど、魔術回路の効率性とか製造方法が変わる可能性があるなら規模が違うじゃん。
ちゃんときっちり制度が固められる前に魔術回路の方が上手くいってうっかり話が漏れたりしたら、全部ひっくり返されかねないよ。
そうなったら待ち時間が増えるからね~。
大きくなりそうな話は上の方で最初にしっかり利権も含めて決めさせないと」
シャルロが肩を竦めながら言った。

流石貴族のお坊ちゃま。
利権とか影響の大きさとかでどう話を進めるべきかなんて俺じゃあ考え付かないな。
というか、俺だったらそんな利権が入ってくるような問題は面倒で、最初から守るのは無理だと諦める。

アレクだったら・・・どうだろう?
少なくともシャルロみたいに特に力むことなく『上に決めさせる』なんてあっさりとは言えない気がする。

まあ、アレクも40~50年後ぐらいには商業ギルドのトップかトップの補佐位になっているかも知れないから、将来的にはってやつかな?

・・・アレクの長兄氏はそこまで野心がないか?
アレクの母親がどの程度頑張って尻を叩くかと、それにどのくらいまで従うかによるかな?

まあ、それは今はどうでも良い。
まずは学院長に会いに行くか。
とは言え。
「ちょっと魔術回路に魔石の粉を混ぜた銅線や鉄線を使ったらどうなるか、まず実験してみないか?
アイディアだけで話をした場合に、以前の転移箱みたいに誰かにアイディアを盗まれて先に製作されちゃうかもだぞ?」

「流石に何もかも私たちで造るのは無理だから、最初の試行錯誤は他に任せても良いんじゃないか?
最初のちょっとした試行錯誤程度で改善できないぐらい良い出来の物が出来上がってしまうなんて事はないだろう。色々と試行錯誤して徐々に良くなっていくなら後から色々実験しても良いんじゃないか?」
肩を竦めながらアレクが言った。

まあ、確かにね~。
俺たちはちょっと新しくて便利な魔具を造るのが楽しいんであって、何が何でも画期的な技術開発を独占開発してぼろ儲けしたい訳ではないんだし。

ぼろ儲けをしたいなら、海底に眠る沈没船を蒼流や清早に探して持ってきてもらうのが一番手っ取り早い。

でも、あまり楽過ぎると人生楽しくないからね。
欲張らんで良いか。






【後書き】
油性ペンで描ける魔術回路w
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

ある、義妹にすべてを奪われて魔獣の生贄になった令嬢のその後

オレンジ方解石
ファンタジー
 異母妹セリアに虐げられた挙げ句、婚約者のルイ王太子まで奪われて世を儚み、魔獣の生贄となったはずの侯爵令嬢レナエル。  ある夜、王宮にレナエルと魔獣が現れて…………。  

婚約破棄されて勝利宣言する令嬢の話

Ryo-k
ファンタジー
「セレスティーナ・ルーベンブルク! 貴様との婚約を破棄する!!」 「よっしゃー!! ありがとうございます!!」 婚約破棄されたセレスティーナは国王との賭けに勝利した。 果たして国王との賭けの内容とは――

仰っている意味が分かりません

水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか? 常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。 ※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。

どうぞ「ざまぁ」を続けてくださいな

こうやさい
ファンタジー
 わたくしは婚約者や義妹に断罪され、学園から追放を命じられました。  これが「ざまぁ」されるというものなんですのね。  義妹に冤罪着せられて殿下に皆の前で婚約破棄のうえ学園からの追放される令嬢とかいったら頑張ってる感じなんだけどなぁ。  とりあえずお兄さま頑張れ。  PCがエラーがどうこうほざいているので消えたら察してください、どのみち不定期だけど。  やっぱスマホでも更新できるようにしとかないとなぁ、と毎度の事を思うだけ思う。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。

(完)実の妹が私を嵌めようとするので義理の弟と仕返しをしてみます

青空一夏
ファンタジー
題名そのままの内容です。コメディです(多分)

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

思わず呆れる婚約破棄

志位斗 茂家波
ファンタジー
ある国のとある夜会、その場にて、その国の王子が婚約破棄を言い渡した。 だがしかし、その内容がずさんというか、あまりにもひどいというか……呆れるしかない。 余りにもひどい内容に、思わず誰もが呆れてしまうのであった。 ……ネタバレのような気がする。しかし、良い紹介分が思いつかなかった。 よくあるざまぁ系婚約破棄物ですが、第3者視点よりお送りいたします。

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

処理中です...