830 / 1,038
卒業後
829 星暦557年 紫の月 27日 肩凝り対策(20)
しおりを挟む
シェフィート商会は鉱石系にはそれ程強くないらしく、アレクはさらっと本店の誰かに岩を見せて知らないと言われた後、商業ギルドに持って行ってあの岩について情報収集をした。
そうしたら、意外にもあの岩の特質は知られた物だった。
「魔力を通して光る素材はランプに良く使われるし、冷えるならば食糧の保存や運搬に利用することもあるらしいが、暖まるだけな上に柔らかくなる素材はイマイチ人気が無かったらしい」
緑熱《ジェイパル》石と呼ばれるらしきこの素材は熱を発するだけならばまだしも、柔らかくなって変形することが魔道具の素材に適していないと忌避されて殆ど使われることなく今までは捨てられていたらしい。
「暖かいクッションとかに使えば良くないか?」
元々、クッションは柔らかい方がいいのだ。
寒い中の馬車の御者なんかは絶対にありがたがると思うのだが。
「発熱効果だけを狙うなら普通の発熱の魔術回路の方が効率が良いからね。
クッション効果に余分な魔力を払おうと思えるほど余裕がある人間は、寒いさなかに外で震えるような仕事はしないんだろう」
アレクが肩を竦めながら指摘した。
なるほど。
冬に隊商を動かさなければならないような商人だって、冬に馬車を動かしている際の防寒と尻の保護だけの為に魔具を買える程度成功していたら、御者を雇って自分は暖かい家の中か少なくとも馬車の中に入っているだろう。
寒い真っただ中で震えながら座る様なのは労働者でも下層ランクで、魔具なんぞ買う余裕はない事が多いのだ。
「魔力消費だけを考えると発熱の魔術回路に綿を詰めた方が効率的なのか。
座布団とか毛布とか寝袋に良いと思ったんだけどな」
このぐにゃっとした感覚もそれなりに面白い感じだし。
とは言え、考えてみたら魔力が抜けたら石ころっぽい形になってしまうのだ。
再度魔力を通した際にちゃんと座ったり上に掛けたりするのに丁度いい形になるか、微妙なのかも知れない。
マッサージ用に使うにしても、中心の動く棒の周りにこの素材をまとわりつかせて丁度いい柔らかさと熱を感じさせる形にするにはどうしたらいいのか、工夫が必要そうだ。
「魔力が抜けた時に石のような固まりになるのが問題だな。
何かと混ぜたら液体状かこちらが最初に決めた形のままで固まってくれるならそれなりに使い道がありそうだが」
アレクが手袋っぽい形の防水布で出来た袋に入れた緑熱《ジェイパル》石を指で触って確認しながら言った。
手袋っぽい形にしても、一本一本の指ごとに密封しないと緑熱《ジェイパル》石が偏るんだよなぁ。
細かく密封して小さく区切った袋に入れる形にすれば何とかなるが、そこまでする為には細かく縫いながら規定量の緑熱《ジェイパル》石を砕いて入れる必要があるので、かなり製造に時間と金が掛かりそうだ。
「現時点では魔力を込めるとほとんどの素材から分離しちゃうけど、分離しないで混ざったままで固形化する時の形をもう少し使い勝手出来る素材が何か無いか、色々と実験してみよう。
それにちょっとした冬用の座布団には大きな袋に詰めるだけでも良いよね」
座布団サイズの袋に入れた緑熱《ジェイパル》石を抱きしめながらシャルロが言った。
確かに適度な量の魔力が通って暖かくかつ柔らかくなっている緑熱《ジェイパル》石のクッションは中々良い感じなんだよなぁ。
「先に、筒を集めた形の大雑把なクッションにこれを一個ずつ詰めて適量な魔力を通すクッションを作ってみようぜ。
座っていて気持ちいいし、丁度いい魔力量を規定する魔術回路を作る練習になるし、それこそ俺たちの体重で破れるようだったら布の強度が足りないってことが分かるし」
シェイラ用にお土産にしても良いし。
でも、シェイラに渡すなら、座布団よりも腹巻きかジャケットみたいのが良いか?
まあ、座布団でそれなりに上手く行ったら腹巻き用を作るか。
でも、考えてみたら魔術回路に綿を詰めた腹巻きならまだしも、魔術回路に石をゴロゴロ詰めた腹巻きってかなり重くなるし嵩張るよな。
考えてみたら、重さもちょっと問題か?
【後書き】
魔力が抜けると丸みを帯びているとは言え、固い石ころになるのも布団系や座布団としてちょっと致命的かも?
ジェル状のままに出来る方法が見つかれば良いんですけどね。
そうしたら、意外にもあの岩の特質は知られた物だった。
「魔力を通して光る素材はランプに良く使われるし、冷えるならば食糧の保存や運搬に利用することもあるらしいが、暖まるだけな上に柔らかくなる素材はイマイチ人気が無かったらしい」
緑熱《ジェイパル》石と呼ばれるらしきこの素材は熱を発するだけならばまだしも、柔らかくなって変形することが魔道具の素材に適していないと忌避されて殆ど使われることなく今までは捨てられていたらしい。
「暖かいクッションとかに使えば良くないか?」
元々、クッションは柔らかい方がいいのだ。
寒い中の馬車の御者なんかは絶対にありがたがると思うのだが。
「発熱効果だけを狙うなら普通の発熱の魔術回路の方が効率が良いからね。
クッション効果に余分な魔力を払おうと思えるほど余裕がある人間は、寒いさなかに外で震えるような仕事はしないんだろう」
アレクが肩を竦めながら指摘した。
なるほど。
冬に隊商を動かさなければならないような商人だって、冬に馬車を動かしている際の防寒と尻の保護だけの為に魔具を買える程度成功していたら、御者を雇って自分は暖かい家の中か少なくとも馬車の中に入っているだろう。
寒い真っただ中で震えながら座る様なのは労働者でも下層ランクで、魔具なんぞ買う余裕はない事が多いのだ。
「魔力消費だけを考えると発熱の魔術回路に綿を詰めた方が効率的なのか。
座布団とか毛布とか寝袋に良いと思ったんだけどな」
このぐにゃっとした感覚もそれなりに面白い感じだし。
とは言え、考えてみたら魔力が抜けたら石ころっぽい形になってしまうのだ。
再度魔力を通した際にちゃんと座ったり上に掛けたりするのに丁度いい形になるか、微妙なのかも知れない。
マッサージ用に使うにしても、中心の動く棒の周りにこの素材をまとわりつかせて丁度いい柔らかさと熱を感じさせる形にするにはどうしたらいいのか、工夫が必要そうだ。
「魔力が抜けた時に石のような固まりになるのが問題だな。
何かと混ぜたら液体状かこちらが最初に決めた形のままで固まってくれるならそれなりに使い道がありそうだが」
アレクが手袋っぽい形の防水布で出来た袋に入れた緑熱《ジェイパル》石を指で触って確認しながら言った。
手袋っぽい形にしても、一本一本の指ごとに密封しないと緑熱《ジェイパル》石が偏るんだよなぁ。
細かく密封して小さく区切った袋に入れる形にすれば何とかなるが、そこまでする為には細かく縫いながら規定量の緑熱《ジェイパル》石を砕いて入れる必要があるので、かなり製造に時間と金が掛かりそうだ。
「現時点では魔力を込めるとほとんどの素材から分離しちゃうけど、分離しないで混ざったままで固形化する時の形をもう少し使い勝手出来る素材が何か無いか、色々と実験してみよう。
それにちょっとした冬用の座布団には大きな袋に詰めるだけでも良いよね」
座布団サイズの袋に入れた緑熱《ジェイパル》石を抱きしめながらシャルロが言った。
確かに適度な量の魔力が通って暖かくかつ柔らかくなっている緑熱《ジェイパル》石のクッションは中々良い感じなんだよなぁ。
「先に、筒を集めた形の大雑把なクッションにこれを一個ずつ詰めて適量な魔力を通すクッションを作ってみようぜ。
座っていて気持ちいいし、丁度いい魔力量を規定する魔術回路を作る練習になるし、それこそ俺たちの体重で破れるようだったら布の強度が足りないってことが分かるし」
シェイラ用にお土産にしても良いし。
でも、シェイラに渡すなら、座布団よりも腹巻きかジャケットみたいのが良いか?
まあ、座布団でそれなりに上手く行ったら腹巻き用を作るか。
でも、考えてみたら魔術回路に綿を詰めた腹巻きならまだしも、魔術回路に石をゴロゴロ詰めた腹巻きってかなり重くなるし嵩張るよな。
考えてみたら、重さもちょっと問題か?
【後書き】
魔力が抜けると丸みを帯びているとは言え、固い石ころになるのも布団系や座布団としてちょっと致命的かも?
ジェル状のままに出来る方法が見つかれば良いんですけどね。
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる