シーフな魔術師

卒業後

824 星暦557年 紫の月 20日 肩凝り対策（15）

「ちなみに、私たちは下を向いて色褪せてはっきり見えない文様や色を判別しようと集中するからかもしれないけど、疲れた時は首の後ろとか頭の後ろや側面を解すと目の疲れや肩凝りに効く気がするわね。
大学院に居た頃は良く教授のごますり代わりにお湯で温めたタオルを頭に載せて、頭や首のマッサージをやっていたら喜ばれたわ」
シェイラが試作品を頭から被る形にして、後頭部で抑えて通常モードで動かしながら教えてくれた。

確かに考古学だと見えるかどうかはっきりしない遺物の詳細を薄暗い部屋や洞窟の中で調べることも多いから、目が疲れそうだ。

フォラスタ文明みたいに森の中とはいえオープンな環境にある遺跡は珍しいから、大抵は暗い場所で色々と調べる羽目になるのだ。
目に負担が大きいだろう。

とは言え。
頭の方に強くしすぎると痣になる刺激を流すのって大丈夫なのかね？

シェイラをじっと心眼《サイト》で観察する限り、多少血流が良くなる程度で極端に影響は出ていないようだが・・・筋肉なんて殆ど無いのに頭を解して意味があるのか？

目が疲れるのは筋肉というよりも頭の凝りなのかな？
「どんな感じ？」

刺激を一段階上げてみたシェイラに声を掛ける。

「う～ん・・・気持ちいいかも？
でも、やっぱり長時間使ったら痣になる様な魔具を頭に使うのは心配かなぁ。
卒中とかになりやすいなんて言う副作用があったら困るし」

確かに。
神殿の高位神官による治療が直ぐに出来る状況にでもいたんじゃない限り、卒中はほぼ助からない。
そんな病気を引き起こすなんてことになったら問題だ。

それに卒中は年寄りに多い病気だが、若い人間だって頭を殴られて翌朝に死んでいたなんてこともあるから、頭への攻撃・・・というか刺激は怖い。
確か昔会った神官の話だと、頭を殴られて死ぬのは頭の中で出血が起きた際にその血が流れる先が無くって頭の中がぎゅうぎゅうになるのが原因だとか言っていた。

まあ、普通に放置しても死ぬんだから血流を増やす魔具を使わなくても死ぬ時は死ぬとは思うが、死ぬのが早くなるのは困る。
卒中に関しては・・・どうなんだろ？

老人が肩凝り用の魔具を使うかは知らんが・・・孫あたりが気を利かして持って行って頭に使ってヤバい事になったりしたら困る。
遺産目当ての殺人に利用されても嫌だし。
因果関係を証明するのは至難の業だろうが、悪評が立つだけでも売り上げには壊滅的な打撃を受けそうだ。

そう考えると、フード式の頭をすっぽり刺激する形の魔具は止めた方がいいかも？
とは言え、首の後ろ当たりまでは刺激を与えても良さげだよな。

頭を殴られて翌朝死ぬようなケースって首の上っていうよりはもっと頭の上の方の後頭部が多い気がする。
まあ、単に首の上は角度的に殴りにくいってだけかも知れないが。
延髄を殴って気絶させるだけの技能がある人間だったらしっかり首の骨を折って殺すか、ナイフで首か心臓を切り付けて殺すか、もしくはちゃんと力をコントロールして気絶だけに済ませるかって感じで狙った効果を出せる。

頭を後ろから殴りつけるのは素人だ。
もしくは、転んで頭を打つとか。

でも、考えてみたら何か段がある時に倒れて延髄を打つと死ぬときもあるか？
あれって大抵首の骨その物が折れているからあまり参考にならないんだよな。

「頭は怖いからなぁ。
実験をしてみて、誰かが死んだりしたら取り返しがつかないし。
頭に使うことを考えるんだったら、温めて人の指で押す程度の力で揉む形の動きを再現させる方が良いかも」
刺激を与えても絶対に死なないなら構わないが・・・流石にうっかりヤバい事になった時に直ぐに命を救えるだけの高位神官の手伝いを頼みつつ実証実験をしようと思ったら、金が掛かりすぎてこれから50年間魔具が売れまくっても収支が赤字になりそうだ。

「こう、骨っぽい棒に肉っぽい柔らかいけど厚みと形のしっかりある素材を巻き付けてぐいぐい押して引いてって動きをさせてみるとか？
中々大変そうだけど」
指をワキワキ動かしながらシェイラが言った。

何かそう言う動きをする魔具ってあったかなぁ？
それこそ蜘蛛型の動くオモチャでもあったら良いかも知れない。
動くぬいぐるみとかオモチャって形で金持ちな子供用に売り出されてないか、シャルロにでも聞いてみるか。

貴族用の高級品だったらそう言うのがあるかも。


【後書き】
高周波マッサージ器みたいのはどうなるのか・・・？