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卒業後
812 星暦557年 紫の月 11日 肩凝り対策(3)
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久しぶりに学院長視点の話です。
【本文】
>>>サイド アイシャルヌ・ハートネット
「こんにちは~」
久しぶりにウィルが現れた。
新年明けに港の方で色々と騒がしい事になっていると思ったら、それが更に貴族街の方まで飛び火して中々愉快なことになっていたようだった。やっとそれも落ち着いて・・・何を相談しに来たのだろうか?
基本的にウィルが遊びに来るときは何か質問があることが多い。
デリケートで危険な情報を国の上層部に上げるルートとして頼ってくることもあるが。
親や親族といったネットワークが無いのでこちらに頼るようなのだが、ある意味親族経由で変な迂回をされるよりはこちらに来てくれて上層部に直接話を流す方が良い事も多いので、ありがたいと言える。
まあ、ウィルの場合だったらシャルロに相談してオレファーニ侯爵家経由になるだろう。そうなると基本的にはウォレン・ガスラートに伝わるから、最終的にはほぼ同じ場所に情報が流れるが・・・数日は遅れが出るので自分の所に来てくれる方が良い場合が多かろう。
流石に今回の一斉調査と人身売買組織関連の情報だったら、一緒に働いていた軍部なり税関の人間なりに伝えると思うが。
何の件なのかな?
「今度、肩や首周りの凝りや、腰痛なんかに効く魔具を開発できないかちょっと相談している所なんです。
そこでちょっと気になったんですけど、こちらで温泉を通して以来、教師や職員の凝りとか腰痛が良くなったかを知りたいので皆に聞いて回っても良いですか?」
差し入れの焼き菓子を寄越しながらウィルが頼んできた。
随分と今回は平和なお願いのようだ。
ふむ。
肩凝りね。
「構わんが・・・どれ程肩凝りに苦しむ人間がいるのか、知らんぞ?」
焼き菓子の包みを開き、皿に載せて机の上に出しながらお茶の準備をする。
基本的にウィルは自分が美味しいと思った菓子を差し入れに持って来るので、もてなすなら持ってきた菓子を出すのが一番喜ばれる。
ちゃんと自分が食べる分も計算に入れて秘書や職員に回せるようにそれなりに多めな個数を持って来るし。
シャルロが熱心に王都の甘味処のリサーチをしているので、時折新しい店の美味しい菓子も持って来てくれるので職員には有難がられている。
「あ、やっぱり学院長は肩凝りに悩まされていないですか。
ちなみに学院長ってそれなりに定期的に今でも鍛錬して体を動かしています?」
ポットに茶葉を入れるこちらを見守りながらウィルが尋ねる。
昔の『泥水でなければ何でも大丈夫』だと言っていた頃とは変わり、最近はそれなりに茶葉にも拘るようになったのか、時折茶葉の銘柄まで聞くようになってきた。本当に此奴も大人になってきたな。
そのうち結婚して子供を持つようにもなるのだろうか?
中々感慨深い。
精霊の加護持ちは極まれに子孫にまで精霊の加護が続くことがあるので、子供をもうけることをそれとなく国も推奨している。
ごり押しして逃げられては困るのでそれ程露骨ではないが、このままウィルがオスレイダ商会の娘と付き合い続けて結婚を考えるような様子を見せるなら、そのうちシェイラ嬢に王都での仕事の話が行くかもしれない。
まあ、あの女史も一筋縄でいかない女性だがな。下手に国がウィルを囲い込もうとしていると思われたら何をするか分かったものではないから、ごく緩い話になるだろう。
それはさておき。
「特級魔術師はいつ何時戦場に駆り出されるか分からないんだ。
勿論今でも鍛錬は続けている。
身体の調子もその方が良くなるしな。
お前も鍛錬は続けた方が良いぞ?」
魔力が多ければ老いが遅れるというのは魔術師の業界ではほぼ常識として知られているが、魔力だけではなく鍛錬もすることでただ単に長生きするだけでなく、永く快適に毎日を過ごすことが出来るようになる。
鍛錬は常に続けるべきだ。
まあ、常に逃げることを忘れていないウィルだったらそこら辺は言わなくても大丈夫だろうが。
少なくとも、足腰だけはいつになっても鍛えるのは止めないだろう。
「まあそうですね~。
ちなみに他の教師の方々も鍛錬しているんですかね?
一応魔術師って非常時の招集に応じる義務があるじゃないですか」
お茶を受け取りながらウィルが尋ねる。
「招集義務以前に元気いっぱいで悪戯ばかりやりまくるガキどもを追いかけるのに、皆足腰だけは鍛えられている。
それでも運動不足な連中は遠足や野営研修の担当を任せるから、否が応でも体を動かす羽目になるしな」
儂の魔術学院に戦場でへたばる様なもやしは要らん。
「あ~じゃあ、あまり誰も肩凝りには最初から悩んでないかな?
まあ、取り敢えず教員や職員に色々聞いて回りますよ。
ちなみに学院長は全然そう言う悩みはないんですよね?」
儂が焼き菓子を一つ手に取ったら、ウィルがいそいそと自分も焼き菓子に手を伸ばした。
「業務の邪魔をしなければ質問して回るのは構わん。
肩凝りは試験後の成績の集計を取る為なんかに只管書類と睨めっこをしなければならない時期以外は特に問題にはならないな」
「ですよね~」
そう言えば、老眼鏡を作る前は少し肩凝りが気になっていた気もするな。
魔術学院でそろそろ老眼鏡が必要そうなのと言ったら誰だろう?
【後書き】
特級魔術師でも老眼には勝てずw
【本文】
>>>サイド アイシャルヌ・ハートネット
「こんにちは~」
久しぶりにウィルが現れた。
新年明けに港の方で色々と騒がしい事になっていると思ったら、それが更に貴族街の方まで飛び火して中々愉快なことになっていたようだった。やっとそれも落ち着いて・・・何を相談しに来たのだろうか?
基本的にウィルが遊びに来るときは何か質問があることが多い。
デリケートで危険な情報を国の上層部に上げるルートとして頼ってくることもあるが。
親や親族といったネットワークが無いのでこちらに頼るようなのだが、ある意味親族経由で変な迂回をされるよりはこちらに来てくれて上層部に直接話を流す方が良い事も多いので、ありがたいと言える。
まあ、ウィルの場合だったらシャルロに相談してオレファーニ侯爵家経由になるだろう。そうなると基本的にはウォレン・ガスラートに伝わるから、最終的にはほぼ同じ場所に情報が流れるが・・・数日は遅れが出るので自分の所に来てくれる方が良い場合が多かろう。
流石に今回の一斉調査と人身売買組織関連の情報だったら、一緒に働いていた軍部なり税関の人間なりに伝えると思うが。
何の件なのかな?
「今度、肩や首周りの凝りや、腰痛なんかに効く魔具を開発できないかちょっと相談している所なんです。
そこでちょっと気になったんですけど、こちらで温泉を通して以来、教師や職員の凝りとか腰痛が良くなったかを知りたいので皆に聞いて回っても良いですか?」
差し入れの焼き菓子を寄越しながらウィルが頼んできた。
随分と今回は平和なお願いのようだ。
ふむ。
肩凝りね。
「構わんが・・・どれ程肩凝りに苦しむ人間がいるのか、知らんぞ?」
焼き菓子の包みを開き、皿に載せて机の上に出しながらお茶の準備をする。
基本的にウィルは自分が美味しいと思った菓子を差し入れに持って来るので、もてなすなら持ってきた菓子を出すのが一番喜ばれる。
ちゃんと自分が食べる分も計算に入れて秘書や職員に回せるようにそれなりに多めな個数を持って来るし。
シャルロが熱心に王都の甘味処のリサーチをしているので、時折新しい店の美味しい菓子も持って来てくれるので職員には有難がられている。
「あ、やっぱり学院長は肩凝りに悩まされていないですか。
ちなみに学院長ってそれなりに定期的に今でも鍛錬して体を動かしています?」
ポットに茶葉を入れるこちらを見守りながらウィルが尋ねる。
昔の『泥水でなければ何でも大丈夫』だと言っていた頃とは変わり、最近はそれなりに茶葉にも拘るようになったのか、時折茶葉の銘柄まで聞くようになってきた。本当に此奴も大人になってきたな。
そのうち結婚して子供を持つようにもなるのだろうか?
中々感慨深い。
精霊の加護持ちは極まれに子孫にまで精霊の加護が続くことがあるので、子供をもうけることをそれとなく国も推奨している。
ごり押しして逃げられては困るのでそれ程露骨ではないが、このままウィルがオスレイダ商会の娘と付き合い続けて結婚を考えるような様子を見せるなら、そのうちシェイラ嬢に王都での仕事の話が行くかもしれない。
まあ、あの女史も一筋縄でいかない女性だがな。下手に国がウィルを囲い込もうとしていると思われたら何をするか分かったものではないから、ごく緩い話になるだろう。
それはさておき。
「特級魔術師はいつ何時戦場に駆り出されるか分からないんだ。
勿論今でも鍛錬は続けている。
身体の調子もその方が良くなるしな。
お前も鍛錬は続けた方が良いぞ?」
魔力が多ければ老いが遅れるというのは魔術師の業界ではほぼ常識として知られているが、魔力だけではなく鍛錬もすることでただ単に長生きするだけでなく、永く快適に毎日を過ごすことが出来るようになる。
鍛錬は常に続けるべきだ。
まあ、常に逃げることを忘れていないウィルだったらそこら辺は言わなくても大丈夫だろうが。
少なくとも、足腰だけはいつになっても鍛えるのは止めないだろう。
「まあそうですね~。
ちなみに他の教師の方々も鍛錬しているんですかね?
一応魔術師って非常時の招集に応じる義務があるじゃないですか」
お茶を受け取りながらウィルが尋ねる。
「招集義務以前に元気いっぱいで悪戯ばかりやりまくるガキどもを追いかけるのに、皆足腰だけは鍛えられている。
それでも運動不足な連中は遠足や野営研修の担当を任せるから、否が応でも体を動かす羽目になるしな」
儂の魔術学院に戦場でへたばる様なもやしは要らん。
「あ~じゃあ、あまり誰も肩凝りには最初から悩んでないかな?
まあ、取り敢えず教員や職員に色々聞いて回りますよ。
ちなみに学院長は全然そう言う悩みはないんですよね?」
儂が焼き菓子を一つ手に取ったら、ウィルがいそいそと自分も焼き菓子に手を伸ばした。
「業務の邪魔をしなければ質問して回るのは構わん。
肩凝りは試験後の成績の集計を取る為なんかに只管書類と睨めっこをしなければならない時期以外は特に問題にはならないな」
「ですよね~」
そう言えば、老眼鏡を作る前は少し肩凝りが気になっていた気もするな。
魔術学院でそろそろ老眼鏡が必要そうなのと言ったら誰だろう?
【後書き】
特級魔術師でも老眼には勝てずw
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