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卒業後
809 星暦557年 紫の月 7日 人探し(12)
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前回飛ばした従姉妹さんの状況説明っぽい話です
【本文】
「ありがとう、本当に助かったよ」
オレファーニ邸の書斎の中とは言え、姪っ子を探しに王都まで戻って来ていた侯爵から直接礼を言われ、俺は思わず居心地が悪くなって椅子の上で身じろぎをした。
結局、シャルロの従姉妹は貴族街で最初に行った男爵邸に囚われていた。
他の3軒を回って色々暴いたものの肝心の従姉妹殿が居なかったのでもう一度確認の為に昼前に戻ったところ、部屋の中でじっとしていて殆ど身動きしない女性がいる部屋があったのだ。
屋敷の反対側でちょっとしたボヤを起こして騒ぎで家人の注意を引いた隙に忍び込こみ、窶《やつ》れてはいたが一応動けたので窓をこじ開け、破いてロープ状にしたシーツを伝って脱出するのを手伝ったのだ。
貴族では下から数えた方が早い男爵とは言え、仮にも貴族の敷地に通りがかりの一般人が入ることはできない。例え窓から女性が助けを求めていても。
出来る事と言ったらせいぜい最寄りの詰め所から警備兵を連れてくる程度で、それだと盗賊《シーフ》ギルドに成功報酬が入るかちょっと微妙だったので本人が自力で脱出したという形にしたのだ。
まあ、鋭い人間が調べれば、窓枠を固定していたネジが緩んでいたのでがたがた揺すったらなんとか開けられたなんて本当なのかとか、女の細腕で仮にも貴族の屋敷で使っているそこそこの品質のシーツを破けるのかとか、色々と突っ込みどころは満載だろうが・・・肝心なのは無辜の貴族令嬢が本人の意思に反して閉じ込められていた場所から自力で逃げてきたという事実なのだ。
「ちなみにお伺いしても構わないのでしたら、男爵は何を考えてキリファ嬢を拘束していたのか教えていただけますか?
流石に貴族が令嬢を自宅に軟禁して身代金の要求をするとも思えませんが・・・」
それとも貴族には貴族流の身代金的な金の要求ってあるのか?
オレファーニ侯爵がため息を吐きながら苦笑した。
「どうも息子と仲良くなって婚姻を自発的に願い出る方向に話を持って行きたかったらしいな」
「・・・貴族社会の婚姻は父親なり後見人なりが決めるものなのだと思っていましたが?」
いや、成人していたらそこら辺は自由なのか?
だが、自由なんだったらある意味勝手に結婚した娘の縁が男爵に利益を齎さない気がするが。
「キリファと父親との仲が断絶と言って良い程険悪なのは明らかだったからな。
元々、身代金を要求していた組織の下っ端がどさくさ紛れに彼女を男爵邸に売った時も、身代金の請求先が私であると言っていたらしいし。
なので本人が求めれば、私が婚姻を承認して男爵家とオレファーニ侯爵家の間に縁が出来ると思ったらしい」
オレファーニ侯爵が教えてくれた。
なんか、疲れてるねぇ。
心眼《サイト》で視ると肩とか首とか腰の影が濃いぞ?
あちこちが凝りまくっているようだ。
今度肩こりに効く魔具でも作ったら売れそうだ。
「なるほど。
実力行使に出ずに味方っぽい感じに話しかけるしかやらない程度に男爵親子が小心者で良かったですね」
裏社会とも伝手があるのだから、それなりに意思を捻じ曲げる薬とかも入手できただろうに・・・それとも色々と騒がしかったからうっかり裏社会に接触して騎士団に目を付けられたくなかったのかな?
まあ、少なくとも侯爵の姪っ子が自発的に裏組織とかヤバい貴族の下で働くことを決めていなくて良かった。
使用人しかいない適齢の男がいる家に一人で留まっていたっていうのはあまり外聞が良い話じゃあないだろうが、そもそもその前に誘拐されて人身売買組織に拘束されていたのだ。
全部ひっくるめて話が無かったことにされるだろうから、一連の騒動で本人が病んでなければ大丈夫だろう。
「ギルドの方も今回の件に関しては沈黙を守ると約束していますので、却って騎士団や警備兵に助けられるよりも話が広まらないと思います。キリファ嬢も冬場に監禁されていたにしては比較的体調が良かったようですから、暫くしたら何も無かったかのように通常に戻れそうですね」
まあ、貴族の娘が危険な一人旅を覚悟する程に冷遇《虐待》されてきたのだ。
それなりに精神的な後遺症はあるだろうが。
少なくとも、盗賊《シーフ》ギルド側は数人しか救出・侯爵邸までの付き添いに関わっていないので、情報漏洩の危険はほぼ皆無だ。
これが騎士団に救出されたりしたら、団長まで話が行く間に関与する人数が多い上に騎士団内では話が洩れまくるだろうから、最終的には数日で貴族界にも話が流れていただろう。
なんと言っても騎士には貴族の若い子息が多いのだ。
しかもどっかの下っ端貴族の次男とか三男だったら、ヤバい状況から救出されたオレファーニ侯爵の姪を娶ることで上手くいけば長男を追い越せるとまで考える奴もそれなりにいそうだし。
将来の展望がない仲間にそれとなく教える口の軽い『仲間想いな』アホも出てくるだろう。
「うむ。
感謝している」
オレファーニ侯爵が重々しく頷いた。
「ギルドの方は契約ですし、俺は仲間の従姉妹の話ですから。
特に恩に着る必要はありませんよ?」
ちゃんと金で報酬は貰っているのだ。
これで終わりということでお互いスッキリ忘れて貰いたい。
変に恩に着られて引き摺られると面倒だ。
【後書き】
なんと言っても彼女持ちだけどウィルもまだ独身ですからね~。
変な婚姻話をお礼代わりに持って来られたりしたら目も当てられないw
【本文】
「ありがとう、本当に助かったよ」
オレファーニ邸の書斎の中とは言え、姪っ子を探しに王都まで戻って来ていた侯爵から直接礼を言われ、俺は思わず居心地が悪くなって椅子の上で身じろぎをした。
結局、シャルロの従姉妹は貴族街で最初に行った男爵邸に囚われていた。
他の3軒を回って色々暴いたものの肝心の従姉妹殿が居なかったのでもう一度確認の為に昼前に戻ったところ、部屋の中でじっとしていて殆ど身動きしない女性がいる部屋があったのだ。
屋敷の反対側でちょっとしたボヤを起こして騒ぎで家人の注意を引いた隙に忍び込こみ、窶《やつ》れてはいたが一応動けたので窓をこじ開け、破いてロープ状にしたシーツを伝って脱出するのを手伝ったのだ。
貴族では下から数えた方が早い男爵とは言え、仮にも貴族の敷地に通りがかりの一般人が入ることはできない。例え窓から女性が助けを求めていても。
出来る事と言ったらせいぜい最寄りの詰め所から警備兵を連れてくる程度で、それだと盗賊《シーフ》ギルドに成功報酬が入るかちょっと微妙だったので本人が自力で脱出したという形にしたのだ。
まあ、鋭い人間が調べれば、窓枠を固定していたネジが緩んでいたのでがたがた揺すったらなんとか開けられたなんて本当なのかとか、女の細腕で仮にも貴族の屋敷で使っているそこそこの品質のシーツを破けるのかとか、色々と突っ込みどころは満載だろうが・・・肝心なのは無辜の貴族令嬢が本人の意思に反して閉じ込められていた場所から自力で逃げてきたという事実なのだ。
「ちなみにお伺いしても構わないのでしたら、男爵は何を考えてキリファ嬢を拘束していたのか教えていただけますか?
流石に貴族が令嬢を自宅に軟禁して身代金の要求をするとも思えませんが・・・」
それとも貴族には貴族流の身代金的な金の要求ってあるのか?
オレファーニ侯爵がため息を吐きながら苦笑した。
「どうも息子と仲良くなって婚姻を自発的に願い出る方向に話を持って行きたかったらしいな」
「・・・貴族社会の婚姻は父親なり後見人なりが決めるものなのだと思っていましたが?」
いや、成人していたらそこら辺は自由なのか?
だが、自由なんだったらある意味勝手に結婚した娘の縁が男爵に利益を齎さない気がするが。
「キリファと父親との仲が断絶と言って良い程険悪なのは明らかだったからな。
元々、身代金を要求していた組織の下っ端がどさくさ紛れに彼女を男爵邸に売った時も、身代金の請求先が私であると言っていたらしいし。
なので本人が求めれば、私が婚姻を承認して男爵家とオレファーニ侯爵家の間に縁が出来ると思ったらしい」
オレファーニ侯爵が教えてくれた。
なんか、疲れてるねぇ。
心眼《サイト》で視ると肩とか首とか腰の影が濃いぞ?
あちこちが凝りまくっているようだ。
今度肩こりに効く魔具でも作ったら売れそうだ。
「なるほど。
実力行使に出ずに味方っぽい感じに話しかけるしかやらない程度に男爵親子が小心者で良かったですね」
裏社会とも伝手があるのだから、それなりに意思を捻じ曲げる薬とかも入手できただろうに・・・それとも色々と騒がしかったからうっかり裏社会に接触して騎士団に目を付けられたくなかったのかな?
まあ、少なくとも侯爵の姪っ子が自発的に裏組織とかヤバい貴族の下で働くことを決めていなくて良かった。
使用人しかいない適齢の男がいる家に一人で留まっていたっていうのはあまり外聞が良い話じゃあないだろうが、そもそもその前に誘拐されて人身売買組織に拘束されていたのだ。
全部ひっくるめて話が無かったことにされるだろうから、一連の騒動で本人が病んでなければ大丈夫だろう。
「ギルドの方も今回の件に関しては沈黙を守ると約束していますので、却って騎士団や警備兵に助けられるよりも話が広まらないと思います。キリファ嬢も冬場に監禁されていたにしては比較的体調が良かったようですから、暫くしたら何も無かったかのように通常に戻れそうですね」
まあ、貴族の娘が危険な一人旅を覚悟する程に冷遇《虐待》されてきたのだ。
それなりに精神的な後遺症はあるだろうが。
少なくとも、盗賊《シーフ》ギルド側は数人しか救出・侯爵邸までの付き添いに関わっていないので、情報漏洩の危険はほぼ皆無だ。
これが騎士団に救出されたりしたら、団長まで話が行く間に関与する人数が多い上に騎士団内では話が洩れまくるだろうから、最終的には数日で貴族界にも話が流れていただろう。
なんと言っても騎士には貴族の若い子息が多いのだ。
しかもどっかの下っ端貴族の次男とか三男だったら、ヤバい状況から救出されたオレファーニ侯爵の姪を娶ることで上手くいけば長男を追い越せるとまで考える奴もそれなりにいそうだし。
将来の展望がない仲間にそれとなく教える口の軽い『仲間想いな』アホも出てくるだろう。
「うむ。
感謝している」
オレファーニ侯爵が重々しく頷いた。
「ギルドの方は契約ですし、俺は仲間の従姉妹の話ですから。
特に恩に着る必要はありませんよ?」
ちゃんと金で報酬は貰っているのだ。
これで終わりということでお互いスッキリ忘れて貰いたい。
変に恩に着られて引き摺られると面倒だ。
【後書き】
なんと言っても彼女持ちだけどウィルもまだ独身ですからね~。
変な婚姻話をお礼代わりに持って来られたりしたら目も当てられないw
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