シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

805 星暦557年 紫の月 5日 人探し(8)

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書斎っぽい場所は、奥の何もない壁の一部に魔力を通して魔力認証で壁を動かすタイプの魔具式な入り口で隠された部屋だった。

一体いくら掛けたんだよ??
この豪華絢爛な部屋を見られた時点で悪事に加担してるのはモロバレなんだから、証拠書類を置いている部屋をここまで念入りに隠す意味なんてないだろうに。
しっかり外径と内径の差を比べないと分からない様に造られた感じだ。壁一面に書類棚があり、その反対側の壁に板が固定されて机代わりになっているなんとも機能的なスペースだった。
もしかしても倉庫の場所がバレてお宝が没収されても書類等々は見つからずに済むと期待してたんかね?

「大したもんだな」
感心したように赤が部屋の中を覗いて言った。

「もしかして人身売買組織の隠れた裏のトップだったりするのか、ここの持ち主?」
ここまでしっかりした隠し場所ときっちり整頓された資料とか、見たことないぞ。
脅迫用の資料、今迄の取引相手、売り上げ等々。
パラパラと手に取った資料を見ただけでも、かなり色々と分かりそうだ。

「これはちょっと取引相手を調べて、都合の悪い書類を捨てた後は騎士団の幹部にでも情報を流してしっかり中身を精査させるかな」
幾つかの資料を素早く抜き出しながら赤が呟く。

裏社会の組織同士、お互いに公開されたら困る弱みは入手し合っていたようだ。

「考えてみたら、売られた人間はどうなるんだ?」
元々、アファル王国内で奴隷制度は違法だ。
貴族や豪商の屋敷に閉じ込められているケースなんかもあるし、奉公人っぽく見せかけて実質奴隷なケースもある。
国外だったら奴隷が合法な国もあるからそちらは文字通り買い戻す必要があるだろう。

「資料で分かる範囲の違法な労働環境に囚われている人間や愛人の代用として閉じ込められている人間は国が助ける筈だ。
海外へ売られたアファル王国人の買戻しもそれこそこいつらの財産を利用して国が買い戻すだろう。
どさくさ紛れに誘拐されて売られた国外からの旅行者は・・・微妙かも知れないな」
赤がため息を吐きながら言った。

なんとまあ。
海外に旅行に出るというのはそう言う危険もあるのか。
俺だったら捕まる可能性も低いし誘拐されても逃げられると思うが、シェイラが国外に出る時は必ずついて行く方が良さそうだ。
あのアホ兄貴が誘拐される分には身代金の要求を無視する様に説得出来れば構わないが。

「さて。
誘拐された人間を確認する貴族邸が少し増えたな」
書類を素早く確認し終わった赤が背中を伸ばした。
俺は日中に仮眠をとったが、赤はずっと起きているのかも知れない。
そろそろ無理が効かない年齢なんじゃないか~?

「そう言えば、豪商とかはどうなんだ?」
ヤバいという噂が流れていた商会の名前も幾つかここの書類の中にあったようだが。

「殆どの所は既に調べて騎士団に情報を流している。
ただ、商業ギルドの副ギルド長は盲点だったな。
此奴は先に調べた方が良いかも知れない」
赤が顔をしかめながら一枚の紙を取り出して指で叩いた。

「副ギルド長?
あんまり話を聞かないな。
最近変わったのか?」
ギルド長の話とかは稀にアレクの話に出てくるが、副ギルド長なんて存在している事すら知らなかった。

「商業ギルドのギルド長は大手商会の利害調整や貴族との交渉を兼ねた社交が上手い人間で、基本的にそれがあいつの役割だ。
商業ギルドの実務は実質的にはほぼ表に出てこない副ギルド長が受け持っていて・・・もう10年以上そいつが王都の商業の流れを管理してきたと言って良い。
賄賂も要求しないし変な贔屓もしない真面な人間だと思われていたんだが・・・ここでそれなりに金のやり取りがあるという事は、実は想像以上に腹黒かったようだな」

マジかぁ。
普通に働いているんだったら人身売買組織となんて取引する必要は無いだろう。
一体何に利用しているんだ?
しかも悪い噂が殆ど流れてこないなんて。
もしかして、ヤバそうな情報を知られた相手を誘拐して国外に売るように依頼でもしていたんかね?

普通に売るだけだったらいつか情報が漏れる可能性があるから、ギリギリ死ぬか死なないかぐらいまで痛め付けるのが好きなヤバい性癖相手への売却か、喉を潰しての売り出しか。

清廉そうに見える人間って実は一番危険なのかも知れないな。

「ヤバい人間だったら証人を自分の家に残してなんておかないだろ?
書類は色々とあるかも知れないが・・・」
表社会で偉い奴らは自分の手を汚したりはしないから、殺しだって何人も間に人を入れて依頼しているから今回のような大々的な捜査でも捕まる可能性は低い。

まあ、だからこそ捜査の法的根拠を必要としない俺たちじゃなきゃ悪事を暴けないかも知れないが。

「普段だったら人身売買組織に頼むような不都合な人間を処分できなくて閉じ込めている可能性はあるから、調べる価値はあるさ」
にやりと笑いながら赤が応じた。

確かにね。
下手をしたら、地下室に閉じ込めて水も食料も出さずに飢え死にするのを待っている可能性もあるか。



【後書き】
偉い人なんて誰も信用出来ないw
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