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卒業後
792 星暦557年 赤の月 21日 一斉調査(9)
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「隣に行くんじゃなかったのか?」
窓に向かった俺を見て、俺の後を付いてきていたヴェルナスが尋ねる。
「こっちがお偉いさんの通路だろうから、手っ取り早くそれを使って行こう」
カーテンを押しのけ、窓を開けたら目の前に隣家の窓がある。
普通に閉まっているように見えるが・・・よく観察すると、下部の所に小さな引っ掛かりがあった。
それを軽く触って押しながら右に動かしたらあっさり隣家の窓が中へ動いた。
「おお~。
中から開けて貰わなくても開くのか」
ヴェルナスが窓の下を覗き込みながら言った。
「向こう側から開けてもらわなきゃならないんじゃあ、緊急時の脱出経路に使えない」
もっと金を掛けるんだったら認証機能を兼ねた魔具でこちら側から開けるような仕組みにするのも可能だが、そこまで金を掛ける気はなかったっぽい。
ある意味、こういう誰でも外から開けられる仕組み窓って泥棒にとっては素晴らしい贈り物とも言えるのだが・・・大抵そう言うのを使うのって警備兵や国軍の目をかいくぐって移動したがるヤバい連中だから、下手に手を出すと数日後に死体がどっかに浮かぶことになりかねないんだよなぁ。
まあ、今回は国軍と一緒だから何をやっても大丈夫・・・な筈。
変装もしてるし。
半歩分の隙間を超えて窓から隣の部屋に入ってみると、窓と扉以外の壁にびっしり棚が備え付けられて大量の書類が仕舞われていた。
そこそこ整理してある様だし、これなら調べる側も喜びそうだ。
「裏帳簿とか違法取引の書類を調べるのが得意な連中を呼ぶと良いんじゃないか?」
後ろからついてきたタルージュを振り返って提案する。
「・・・だな」
ここは隣の店舗・倉庫と所有者とかを分けて、疑われない筈の場所として書類を隠さずに置いていた可能性が高い。
ちょっと不用心な気もするが。
心眼《サイト》で家の中を確認したら、下の地下室に昔アレクと一緒に見たシェフィート商会の金庫室みたいのが視えた。
おや。
もしかして違法な資金の置き場所もかねているのか、この家?
1階の窓の格子が全部溶接して開かない様にしてある事を鑑みると、本部の可能性もある。
タルージュの部下が下に降りて玄関を空けて兵を呼び込んでいる。
中にいた人間は隣の捜索が始まった時点で裏から逃げたのかな?
ぱらぱらと書類を手に取って中身を確認しているタルージュを放置して、取り敢えず机・・・の横に置いてある花瓶の乗ったお洒落な台の隠しに入っていた鍵を取り出し、ドアへと向かう。
何やら金属で出来た枝と花っぽい芸術作品(?)が花瓶の中に立ててあったが・・・花瓶の水を取り替えるのが面倒だったのね?
だったら花瓶なんぞ置かなきゃいいのに。
部屋の家具として置いてあっても違和感がない物で、手入れを必要とせず、あまり真剣に調べられない場所が必要だったのかな?
書斎机は探し物をしている人間が一番念入りに調べる場所だし、本棚や絵の後ろの金庫っていうのも典型的な隠し場所だからな。
まあ、どちらにせよ俺が探せば直ぐに見つかるけどね。
階段で地階に下り、玄関から入って直ぐ東側の部屋に行き、奥にある納戸っぽい棚の中にあった狭い隠し階段を降りると狭い地下室に辿り着く。
上から持ってきた鍵で扉を開いたら、大きな金庫があった。
「こいつは・・・大きいな」
呆れたようにヴェルナスが言った。
「王都本部の金庫かも?
だとしたらここか、この近所の家が本部なんだろうな」
そっと金庫の扉に触れ、中の歯車の動きを心眼《サイト》で確認しながら手前のダイヤルを動かしていく。
魔力認証は最初に騙してあるから、後は歯車の組み合わせが嵌れば開く。
桁数が多かったので暫し時間が掛かったが、ダイヤルを順番に右に左にと回していったら最後にカタンと音がして金庫の扉が解除された。
おっし。
「中に入るのは任せる。
ちなみにこういうタイプの金庫室って中に閉じ込められると酸素が足りなくなるから、常時2人以上の人間を待機させて一人は外で扉が閉まらない様に見張っておく方が無難かも?
あと、閉めるだけで鍵が掛かる仕組みになっているから、さっさと中身を運び出して国軍の倉庫なり金庫なりに移しておくことをお勧めするね」
昔のシェフィート商会の支店長の息子(だったっけ?)じゃないが、うっかりトイレに行くからとか食事に出るからとか言って扉を閉めて中に誰かが閉じ込められたらヤバいし、そうじゃなくても鍵が閉まってしまった度に俺が呼び出されても困る。
「便利だな~。
こういう金庫は内通者がいない限り、開くのにやたらと時間が掛かるもんなんだが。
今後も依頼しても良いか?」
ヴェルナスが言ってきた。
横でタルージュもうむうむと頷いている所を見ると、どうも国軍にも国税局にも金庫破りのプロがいないらしい。
「俺は自分の仕事で忙しいんだ。
時間を掛ければ開けられるなら自力で頑張ってくれ。
なんだったら金庫製造業者にでも研修にいかせて、腕を磨かせたらどうだ?」
俺は別格としても、盗賊《シーフ》ギルドの人間は心眼《サイト》がなくてもそこそこの速度で金庫破りが出来る。
当局側の担当者が開けるのに時間が掛かりすぎるなら、それは鍛錬が足りないだけだ。
制限時間内に開けなかったら3日食事はカビの生えた堅パンと殆ど味も具も無い薄いスープって決まりにしたら、きっとあっという間に腕が上がるぞ?
窓に向かった俺を見て、俺の後を付いてきていたヴェルナスが尋ねる。
「こっちがお偉いさんの通路だろうから、手っ取り早くそれを使って行こう」
カーテンを押しのけ、窓を開けたら目の前に隣家の窓がある。
普通に閉まっているように見えるが・・・よく観察すると、下部の所に小さな引っ掛かりがあった。
それを軽く触って押しながら右に動かしたらあっさり隣家の窓が中へ動いた。
「おお~。
中から開けて貰わなくても開くのか」
ヴェルナスが窓の下を覗き込みながら言った。
「向こう側から開けてもらわなきゃならないんじゃあ、緊急時の脱出経路に使えない」
もっと金を掛けるんだったら認証機能を兼ねた魔具でこちら側から開けるような仕組みにするのも可能だが、そこまで金を掛ける気はなかったっぽい。
ある意味、こういう誰でも外から開けられる仕組み窓って泥棒にとっては素晴らしい贈り物とも言えるのだが・・・大抵そう言うのを使うのって警備兵や国軍の目をかいくぐって移動したがるヤバい連中だから、下手に手を出すと数日後に死体がどっかに浮かぶことになりかねないんだよなぁ。
まあ、今回は国軍と一緒だから何をやっても大丈夫・・・な筈。
変装もしてるし。
半歩分の隙間を超えて窓から隣の部屋に入ってみると、窓と扉以外の壁にびっしり棚が備え付けられて大量の書類が仕舞われていた。
そこそこ整理してある様だし、これなら調べる側も喜びそうだ。
「裏帳簿とか違法取引の書類を調べるのが得意な連中を呼ぶと良いんじゃないか?」
後ろからついてきたタルージュを振り返って提案する。
「・・・だな」
ここは隣の店舗・倉庫と所有者とかを分けて、疑われない筈の場所として書類を隠さずに置いていた可能性が高い。
ちょっと不用心な気もするが。
心眼《サイト》で家の中を確認したら、下の地下室に昔アレクと一緒に見たシェフィート商会の金庫室みたいのが視えた。
おや。
もしかして違法な資金の置き場所もかねているのか、この家?
1階の窓の格子が全部溶接して開かない様にしてある事を鑑みると、本部の可能性もある。
タルージュの部下が下に降りて玄関を空けて兵を呼び込んでいる。
中にいた人間は隣の捜索が始まった時点で裏から逃げたのかな?
ぱらぱらと書類を手に取って中身を確認しているタルージュを放置して、取り敢えず机・・・の横に置いてある花瓶の乗ったお洒落な台の隠しに入っていた鍵を取り出し、ドアへと向かう。
何やら金属で出来た枝と花っぽい芸術作品(?)が花瓶の中に立ててあったが・・・花瓶の水を取り替えるのが面倒だったのね?
だったら花瓶なんぞ置かなきゃいいのに。
部屋の家具として置いてあっても違和感がない物で、手入れを必要とせず、あまり真剣に調べられない場所が必要だったのかな?
書斎机は探し物をしている人間が一番念入りに調べる場所だし、本棚や絵の後ろの金庫っていうのも典型的な隠し場所だからな。
まあ、どちらにせよ俺が探せば直ぐに見つかるけどね。
階段で地階に下り、玄関から入って直ぐ東側の部屋に行き、奥にある納戸っぽい棚の中にあった狭い隠し階段を降りると狭い地下室に辿り着く。
上から持ってきた鍵で扉を開いたら、大きな金庫があった。
「こいつは・・・大きいな」
呆れたようにヴェルナスが言った。
「王都本部の金庫かも?
だとしたらここか、この近所の家が本部なんだろうな」
そっと金庫の扉に触れ、中の歯車の動きを心眼《サイト》で確認しながら手前のダイヤルを動かしていく。
魔力認証は最初に騙してあるから、後は歯車の組み合わせが嵌れば開く。
桁数が多かったので暫し時間が掛かったが、ダイヤルを順番に右に左にと回していったら最後にカタンと音がして金庫の扉が解除された。
おっし。
「中に入るのは任せる。
ちなみにこういうタイプの金庫室って中に閉じ込められると酸素が足りなくなるから、常時2人以上の人間を待機させて一人は外で扉が閉まらない様に見張っておく方が無難かも?
あと、閉めるだけで鍵が掛かる仕組みになっているから、さっさと中身を運び出して国軍の倉庫なり金庫なりに移しておくことをお勧めするね」
昔のシェフィート商会の支店長の息子(だったっけ?)じゃないが、うっかりトイレに行くからとか食事に出るからとか言って扉を閉めて中に誰かが閉じ込められたらヤバいし、そうじゃなくても鍵が閉まってしまった度に俺が呼び出されても困る。
「便利だな~。
こういう金庫は内通者がいない限り、開くのにやたらと時間が掛かるもんなんだが。
今後も依頼しても良いか?」
ヴェルナスが言ってきた。
横でタルージュもうむうむと頷いている所を見ると、どうも国軍にも国税局にも金庫破りのプロがいないらしい。
「俺は自分の仕事で忙しいんだ。
時間を掛ければ開けられるなら自力で頑張ってくれ。
なんだったら金庫製造業者にでも研修にいかせて、腕を磨かせたらどうだ?」
俺は別格としても、盗賊《シーフ》ギルドの人間は心眼《サイト》がなくてもそこそこの速度で金庫破りが出来る。
当局側の担当者が開けるのに時間が掛かりすぎるなら、それは鍛錬が足りないだけだ。
制限時間内に開けなかったら3日食事はカビの生えた堅パンと殆ど味も具も無い薄いスープって決まりにしたら、きっとあっという間に腕が上がるぞ?
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