784 / 1,038
卒業後
783 星暦557年 赤の月 6日 更に方向転換(8)
しおりを挟む
「もっと強く押さえつける様に出来ないかだって~」
王都のオレファーニ侯爵家別邸にコルセットもどき試作品の感想を聞きに行って帰って来たシャルロがメモを見ながら報告した。
「マジか?!
あれでも呼吸が阻害される一歩手前程度だぜ?
動くんだったらあれ以上締めていたら厳しいだろ??」
思わず女性陣の正気を疑いながら聞き返す。
踊るのだってそれなりにハードな運動だ。
だからこそ汗をかくって言うのに、呼吸も碌に出来ないような拘束具を付けてそれをしようなんて、あり得ないだろうに。
「ふくよかでウエスト周りが気になる人は、運動したり食事制限して痩せるよりも数刻我慢して浅く息をすることで細く見えるんだったらそっちを好むんだって~。
しかも貴族男性ってか弱い保護してあげなきゃいけないような女性が好きな人も多いから、呼吸困難で倒れたら却って良い感じに関係を深められるかもって親に唆されてぎゅうぎゅうに締め付けるケースもあるらしいよ」
シャルロが何とも言えない貴族社会の実態を暴露してくれた。
なるほどねぇ。
女性陣もしっかり家の中なり外なりで働かなきゃいけない商家や職人の家だったらか弱くて直ぐに倒れるような女は迷惑なだけだが、動き回って働く必要のない貴族だったら保護する対象として見做す女性はか弱い方が男の自己評価にプラスになって好まれるのかね?
子供を産むのにあんまりひ弱じゃあ困るだろうが、変に元気で出回られるよりも家で大人しくしている妻の方が浮気とかの心配をしなくて済んでいいのかも。
「だが、絹のコルセットだったらある程度以上無理に引っ張ったら糸が切れるなり布が破けるなりして圧力を解放するが、魔具の結界だったらそのまま使用者を殺しかねないぞ。
既存のコルセットは無理に締めても中の女性が息絶える前にコルセットの方が壊れる可能性が高いからある意味思いっきり引っ張っても誰かの死に繋がったりしないだろうが、魔具だったら魔石が尽きない限り同じ圧力で圧迫し続けるから・・・下手をしたら使用者が窒息死する可能性だってゼロではない。
我々の魔具が人を殺害する可能性があるのは困る」
アレクが眉をひそめながら言った。
「そこまで無理する女性には買わないでくれって感じだな。
つうか、考えてみたら王宮って決まった魔具以外は機能が阻害される筈じゃなかったっけ?
王宮舞踏会が開催される場所もその阻害範囲内だったら、王宮に辿り着いた途端にコルセットが解放されちゃってドレスが破れるなんていう悲劇になりかねないな。
・・・そう考えると、今回のコルセットもどきはケレナだけの特注品って事にしておく方が無難じゃないか?」
貴族や豪商たちが出席する夜会の数は星の数ほど・・・とまでは言わないけどかなり多い。
王宮での舞踏会なんてかなり限られるが、重要性に関してはずば抜けて高い筈だ。
そう考えるとその一年のうちでも指折りに重要な舞踏会で、ドレスが破けるなんて言う悲劇を引き起こしたら責任問題が悲惨なことになりそうだ。
「おっと。
そう言えば、そうだったな。
王宮でのパーティに使えないとなると致命的か」
アレクが目を丸くして考えてから合意した。
「まあ、王宮以外の舞踏会でもお洒落を楽しみたがる女の人は多いだろうけど・・・確かに、あの圧迫感よりも更にきつくしてって言われるのはちょっと困るよねぇ。
どう考えても健康的じゃあない」
シャルロも頷きながら言った。
「なんかこう、胸元はまだしも背中にすっと細い棒を突っ込んでさっと水分を吸収できるような魔具を作ってトイレに行く時とかちょっと休む際についでに使って汗を乾かすようにするのはどうかなんて思うけど、一瞬で乾かすようなのは難しいし、あまり長くかかりすぎると下痢かと思われかねないしで微妙だよなぁ」
一瞬で乾かすようなモノだったら熱風を吹き付けて乾かすのが一番確実だが、そんな物を肌に直接付けて起動したりしたら火傷してしまう。
かと言って呑気に何ミルもかけていたら腹の調子が悪いんじゃないかって噂が流れそうだ。
「あ~トイレに行ったら化粧直しをする人が多いし、ちょっと気分転換にお茶を飲むこともあるから多少の時間は大丈夫だけど・・・まあ、もうケレナはコルセットもどきで満足してくれたし、他の人の分を頑張って作らなくて良いんじゃない?
汗の処理程度だったら美顔器程は売れなそうだし」
シャルロがぶっちゃけながら結論を出した。
「・・・まあ、そうだな。
あまり女性の社交関連にまつわる魔具なんかに手を出さない方が無難そうだ」
アレクも合意した。
おや?
商売になれば何でも良いのかと思っていたが、女性の社交関連には何か嫌な思い出でもあるんかね?
俺にとってはガキの時代にそれなりに仕事をさせて貰う際に利用したから、そこまで悪い思い出は無いんだけどね。
でもまあ、どうせなら人の役に立つ魔具を作りたいからな。
変なパーティ用の魔具なんぞに時間を掛けないでいいか。
【後書き】
ここは戦略的撤退w
王都のオレファーニ侯爵家別邸にコルセットもどき試作品の感想を聞きに行って帰って来たシャルロがメモを見ながら報告した。
「マジか?!
あれでも呼吸が阻害される一歩手前程度だぜ?
動くんだったらあれ以上締めていたら厳しいだろ??」
思わず女性陣の正気を疑いながら聞き返す。
踊るのだってそれなりにハードな運動だ。
だからこそ汗をかくって言うのに、呼吸も碌に出来ないような拘束具を付けてそれをしようなんて、あり得ないだろうに。
「ふくよかでウエスト周りが気になる人は、運動したり食事制限して痩せるよりも数刻我慢して浅く息をすることで細く見えるんだったらそっちを好むんだって~。
しかも貴族男性ってか弱い保護してあげなきゃいけないような女性が好きな人も多いから、呼吸困難で倒れたら却って良い感じに関係を深められるかもって親に唆されてぎゅうぎゅうに締め付けるケースもあるらしいよ」
シャルロが何とも言えない貴族社会の実態を暴露してくれた。
なるほどねぇ。
女性陣もしっかり家の中なり外なりで働かなきゃいけない商家や職人の家だったらか弱くて直ぐに倒れるような女は迷惑なだけだが、動き回って働く必要のない貴族だったら保護する対象として見做す女性はか弱い方が男の自己評価にプラスになって好まれるのかね?
子供を産むのにあんまりひ弱じゃあ困るだろうが、変に元気で出回られるよりも家で大人しくしている妻の方が浮気とかの心配をしなくて済んでいいのかも。
「だが、絹のコルセットだったらある程度以上無理に引っ張ったら糸が切れるなり布が破けるなりして圧力を解放するが、魔具の結界だったらそのまま使用者を殺しかねないぞ。
既存のコルセットは無理に締めても中の女性が息絶える前にコルセットの方が壊れる可能性が高いからある意味思いっきり引っ張っても誰かの死に繋がったりしないだろうが、魔具だったら魔石が尽きない限り同じ圧力で圧迫し続けるから・・・下手をしたら使用者が窒息死する可能性だってゼロではない。
我々の魔具が人を殺害する可能性があるのは困る」
アレクが眉をひそめながら言った。
「そこまで無理する女性には買わないでくれって感じだな。
つうか、考えてみたら王宮って決まった魔具以外は機能が阻害される筈じゃなかったっけ?
王宮舞踏会が開催される場所もその阻害範囲内だったら、王宮に辿り着いた途端にコルセットが解放されちゃってドレスが破れるなんていう悲劇になりかねないな。
・・・そう考えると、今回のコルセットもどきはケレナだけの特注品って事にしておく方が無難じゃないか?」
貴族や豪商たちが出席する夜会の数は星の数ほど・・・とまでは言わないけどかなり多い。
王宮での舞踏会なんてかなり限られるが、重要性に関してはずば抜けて高い筈だ。
そう考えるとその一年のうちでも指折りに重要な舞踏会で、ドレスが破けるなんて言う悲劇を引き起こしたら責任問題が悲惨なことになりそうだ。
「おっと。
そう言えば、そうだったな。
王宮でのパーティに使えないとなると致命的か」
アレクが目を丸くして考えてから合意した。
「まあ、王宮以外の舞踏会でもお洒落を楽しみたがる女の人は多いだろうけど・・・確かに、あの圧迫感よりも更にきつくしてって言われるのはちょっと困るよねぇ。
どう考えても健康的じゃあない」
シャルロも頷きながら言った。
「なんかこう、胸元はまだしも背中にすっと細い棒を突っ込んでさっと水分を吸収できるような魔具を作ってトイレに行く時とかちょっと休む際についでに使って汗を乾かすようにするのはどうかなんて思うけど、一瞬で乾かすようなのは難しいし、あまり長くかかりすぎると下痢かと思われかねないしで微妙だよなぁ」
一瞬で乾かすようなモノだったら熱風を吹き付けて乾かすのが一番確実だが、そんな物を肌に直接付けて起動したりしたら火傷してしまう。
かと言って呑気に何ミルもかけていたら腹の調子が悪いんじゃないかって噂が流れそうだ。
「あ~トイレに行ったら化粧直しをする人が多いし、ちょっと気分転換にお茶を飲むこともあるから多少の時間は大丈夫だけど・・・まあ、もうケレナはコルセットもどきで満足してくれたし、他の人の分を頑張って作らなくて良いんじゃない?
汗の処理程度だったら美顔器程は売れなそうだし」
シャルロがぶっちゃけながら結論を出した。
「・・・まあ、そうだな。
あまり女性の社交関連にまつわる魔具なんかに手を出さない方が無難そうだ」
アレクも合意した。
おや?
商売になれば何でも良いのかと思っていたが、女性の社交関連には何か嫌な思い出でもあるんかね?
俺にとってはガキの時代にそれなりに仕事をさせて貰う際に利用したから、そこまで悪い思い出は無いんだけどね。
でもまあ、どうせなら人の役に立つ魔具を作りたいからな。
変なパーティ用の魔具なんぞに時間を掛けないでいいか。
【後書き】
ここは戦略的撤退w
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる