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卒業後
764 星暦557年 藤の月 13日 ちょっと方向が違う方が良い?(5)
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「どうせならこれ、結界の中で香を垂らしたお湯を蒸気化させてゆったり香りと暖かさを楽しんで、最後にスッキリ汗と汚れが落ちるするようにしたら良いんじゃないか?」
精油を温めて揮発させる機能とお湯を熱して蒸気を出す機能を色々と研究した結果、取り敢えず清掃用の使用は二の次ということにした。
それよりも、お風呂代わりに蒸気でさっと暖まって最後に清浄化機能を動かし汗や埃の汚れもついでに落としてしまう魔具として売り出そうという話になった。
結界の範囲指定を部屋の壁までにすれば部屋の清浄化にも使えるので、日中に家政婦なり使用人なりが使って汚れの目立つ部屋の清掃にも使える。
例え風呂用の魔具があろうと、湯舟半分のお湯を沸かすのに使う魔石量は馬鹿にならない。
その点、この蒸気清浄魔具だったら結界分の魔力消費を含めても三分の1程度で済むのだ。
魔術学院の温泉には負けるが、王都にお湯が地から出てくる温泉は他にはない、筈。多分。
水の蒸気化用の魔術回路を改善したり、小さな部屋を使わなくても効率的に蒸気を利用できるように結界を範囲指定に使ったりと色々やっていたのだが、ふと精油を使ったらさらにゆったりできるのではないかと思ったので提案してみた。
「そうだね。
蒸気で汚れを落とすと風呂に入るよりも肌がしっとりする気がするとケレナも言っていたし、いい感じな香りが仄かに残るんだったら蒸気の量を少なめにしてちょっとしたおしゃべりの際に使っても良いかもだし」
シャルロが賛成した。
「いや、女性のお茶会やお喋りの時に使うのは不味いかも知れない。
これって化粧も取れてしまうだろう?
それよりは男性陣にさっと清潔になれる上に落ち着いた雰囲気で話し合いが出来ると売り込む方が良いかも」
アレクが口を挟んだ。
良い香りを楽しむのって女性陣の方が多いが、確かに化粧が落ちるのは家族以外の人間との集まりの時では致命的かもだな。
殆ど化粧なんてしていない様に見える女性陣でも何やら手を加えているらしく、本人的には譲歩できない違いらしいし。
「取り敢えず、何通りか精油と蒸気の量とを試してみようぜ」
◆◆◆◆
「素晴らしいわ!!!!」
精油を垂らしたのをケレナに試してもらう為にシャルロに持って帰って貰ったら、翌日にケレナが押しかけて来た。
「売れそうだろうか?」
朝食をまだ食べ終わっていなかったアレクがパンにジャムを塗りながら淡々と尋ねる。
「勿論よ!!!
しかもこれだと髪の毛がつやつやになるの!!!
まるで香油を塗ったかのようだけど、べたべたしないし軽い感じで清潔なままだし、素晴らしいわ!!」
ケレナが自分の髪を掴んでこちらに示しながら言った。
基本的にちゃんと手入れをしているからケレナの髪は常にそれなりに状態が良いと思うのだが、確かに今日の方がつややか・・・かも?
それ程注意して見ていないから分からないが、本人があれだけ喜んでいるんだから違いはあるんだろう。
「思うんだけど、夜会用のドレスを着て髪を結った状態で使ったらどうなるか試してみたら面白いかも。
夏なんかは汗で服も髪もぺしゃんこになって困るから部屋を冷やしてくれってよく従姉妹とかに頼まれたんだよね~」
シャルロが付け足した。
「汚れが落ちるなら、ワインとかを掛けてしまった場合に汚れが落ちるかの確認もしてみるといいかも知れないわね。
舞踏会とかでワインをうっかり掛けられたりすると今だったら帰るしかないんだけど、もしもこれでさっと汚れが落ちるなら舞踏会を開催する貴族や王宮は皆競って買い入れるわよ!!」
ケレナが興奮したように続ける。
なるほど。
舞踏会と言うのは身動きが取れない程招待客が来るのが『成功』の証になるので、大抵の貴族はやたらと客を招く。
しかも踊っていたり噂話に夢中になっていたりするので、そこそこ事故は起きるのだ。
混雑を利用して嫌がらせで態とワインを意中の男が気にしている綺麗な令嬢に掛けて退出させようとする人間もいるし。
赤ワインなんぞを掛けられたら基本的に落ちないか、落ちるにしても相当の手間が掛かるので事故が起きたら退場という事が多いのだが、汚れをさっと落とせる魔具があったら主催者の面目躍如ってところだろう。
大抵はそう言う小娘同士の争いと言うのは主催者にとってはいい迷惑なことが多いので、さっと影響を一掃出来たら掛けられた方も退場せずに済むし、かける方も悪名を広めるだけで効果は半減以下となり、嫌がらせへの抑止力にもなるかも知れない。
「それじゃあ、ドレスを着て、髪の毛を結って色々実験に協力してもらえるか?
出来上がったら試作品を家族分も提供する」
アレクの親族にも女性はいるが、やはり舞踏会のドレスとなると伯爵令嬢だったケレナの方が詳しいし実感があるだろう。
「勿論よ!!
あ、口の堅い従姉妹にも手伝ってもらって良い?
私一人の感覚で決めちゃうのもちょっと心配だし」
ケレナが力強く頷いた。
「あ、ついでに僕の母上にも声をかけておくね。
踊らないけどそれなりに手の込んだ服と髪型はするから」
確かに。
ワインを掛けるような嫌がらせは若い年齢層に多いが、夜会や舞踏会に出るような女性の数は中年以上の方が多いぐらいかも知れないしな。
年齢層によって髪型とかも違うし。
でも、化粧が落ちちゃうのはどうするんだろ?
最後にやるのかな?
まあ、色々と頑張って貰おう。
・・・というか、これは工房じゃなくてシャルロの実家の王都別邸で部屋を借りて実験する方が良いかも?
【後書き】
化粧が落ちないように首から下って範囲指定も可能でしょうが、しうすると髪の毛が範囲外になるし・・・化粧は最後にささっとやる事になりますかね?
精油を温めて揮発させる機能とお湯を熱して蒸気を出す機能を色々と研究した結果、取り敢えず清掃用の使用は二の次ということにした。
それよりも、お風呂代わりに蒸気でさっと暖まって最後に清浄化機能を動かし汗や埃の汚れもついでに落としてしまう魔具として売り出そうという話になった。
結界の範囲指定を部屋の壁までにすれば部屋の清浄化にも使えるので、日中に家政婦なり使用人なりが使って汚れの目立つ部屋の清掃にも使える。
例え風呂用の魔具があろうと、湯舟半分のお湯を沸かすのに使う魔石量は馬鹿にならない。
その点、この蒸気清浄魔具だったら結界分の魔力消費を含めても三分の1程度で済むのだ。
魔術学院の温泉には負けるが、王都にお湯が地から出てくる温泉は他にはない、筈。多分。
水の蒸気化用の魔術回路を改善したり、小さな部屋を使わなくても効率的に蒸気を利用できるように結界を範囲指定に使ったりと色々やっていたのだが、ふと精油を使ったらさらにゆったりできるのではないかと思ったので提案してみた。
「そうだね。
蒸気で汚れを落とすと風呂に入るよりも肌がしっとりする気がするとケレナも言っていたし、いい感じな香りが仄かに残るんだったら蒸気の量を少なめにしてちょっとしたおしゃべりの際に使っても良いかもだし」
シャルロが賛成した。
「いや、女性のお茶会やお喋りの時に使うのは不味いかも知れない。
これって化粧も取れてしまうだろう?
それよりは男性陣にさっと清潔になれる上に落ち着いた雰囲気で話し合いが出来ると売り込む方が良いかも」
アレクが口を挟んだ。
良い香りを楽しむのって女性陣の方が多いが、確かに化粧が落ちるのは家族以外の人間との集まりの時では致命的かもだな。
殆ど化粧なんてしていない様に見える女性陣でも何やら手を加えているらしく、本人的には譲歩できない違いらしいし。
「取り敢えず、何通りか精油と蒸気の量とを試してみようぜ」
◆◆◆◆
「素晴らしいわ!!!!」
精油を垂らしたのをケレナに試してもらう為にシャルロに持って帰って貰ったら、翌日にケレナが押しかけて来た。
「売れそうだろうか?」
朝食をまだ食べ終わっていなかったアレクがパンにジャムを塗りながら淡々と尋ねる。
「勿論よ!!!
しかもこれだと髪の毛がつやつやになるの!!!
まるで香油を塗ったかのようだけど、べたべたしないし軽い感じで清潔なままだし、素晴らしいわ!!」
ケレナが自分の髪を掴んでこちらに示しながら言った。
基本的にちゃんと手入れをしているからケレナの髪は常にそれなりに状態が良いと思うのだが、確かに今日の方がつややか・・・かも?
それ程注意して見ていないから分からないが、本人があれだけ喜んでいるんだから違いはあるんだろう。
「思うんだけど、夜会用のドレスを着て髪を結った状態で使ったらどうなるか試してみたら面白いかも。
夏なんかは汗で服も髪もぺしゃんこになって困るから部屋を冷やしてくれってよく従姉妹とかに頼まれたんだよね~」
シャルロが付け足した。
「汚れが落ちるなら、ワインとかを掛けてしまった場合に汚れが落ちるかの確認もしてみるといいかも知れないわね。
舞踏会とかでワインをうっかり掛けられたりすると今だったら帰るしかないんだけど、もしもこれでさっと汚れが落ちるなら舞踏会を開催する貴族や王宮は皆競って買い入れるわよ!!」
ケレナが興奮したように続ける。
なるほど。
舞踏会と言うのは身動きが取れない程招待客が来るのが『成功』の証になるので、大抵の貴族はやたらと客を招く。
しかも踊っていたり噂話に夢中になっていたりするので、そこそこ事故は起きるのだ。
混雑を利用して嫌がらせで態とワインを意中の男が気にしている綺麗な令嬢に掛けて退出させようとする人間もいるし。
赤ワインなんぞを掛けられたら基本的に落ちないか、落ちるにしても相当の手間が掛かるので事故が起きたら退場という事が多いのだが、汚れをさっと落とせる魔具があったら主催者の面目躍如ってところだろう。
大抵はそう言う小娘同士の争いと言うのは主催者にとってはいい迷惑なことが多いので、さっと影響を一掃出来たら掛けられた方も退場せずに済むし、かける方も悪名を広めるだけで効果は半減以下となり、嫌がらせへの抑止力にもなるかも知れない。
「それじゃあ、ドレスを着て、髪の毛を結って色々実験に協力してもらえるか?
出来上がったら試作品を家族分も提供する」
アレクの親族にも女性はいるが、やはり舞踏会のドレスとなると伯爵令嬢だったケレナの方が詳しいし実感があるだろう。
「勿論よ!!
あ、口の堅い従姉妹にも手伝ってもらって良い?
私一人の感覚で決めちゃうのもちょっと心配だし」
ケレナが力強く頷いた。
「あ、ついでに僕の母上にも声をかけておくね。
踊らないけどそれなりに手の込んだ服と髪型はするから」
確かに。
ワインを掛けるような嫌がらせは若い年齢層に多いが、夜会や舞踏会に出るような女性の数は中年以上の方が多いぐらいかも知れないしな。
年齢層によって髪型とかも違うし。
でも、化粧が落ちちゃうのはどうするんだろ?
最後にやるのかな?
まあ、色々と頑張って貰おう。
・・・というか、これは工房じゃなくてシャルロの実家の王都別邸で部屋を借りて実験する方が良いかも?
【後書き】
化粧が落ちないように首から下って範囲指定も可能でしょうが、しうすると髪の毛が範囲外になるし・・・化粧は最後にささっとやる事になりますかね?
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