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卒業後
759 星暦556年 桃の月 30日 年末の予定(17)
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「ウィルは行かなくて良いの?」
デザートに使う香辛料に関して何やら興奮したように話しているシャルロをアレクの義姉さんに押し付けて撤退した俺に、シェイラが悪戯っぽく聞いてきた。
「俺は食べるの専門。
美味しければ同じのを繰り返し食べるのでも構わないから、新しい香りや刺激を求めてふらふらとスパイス専門店を回る趣味はないな」
第一、数日前に東大陸には行ったばかりだ。
シェイラとだったら『シェイラと一緒にいる』という利点がある上、蚤市はそれなりに見て回って楽しい。
だが今回のシェフィート商会・料理人合同買い付けは基本的に香辛料とお洒落系の生地とか服とかを見て回るんだぞ?
冗談じゃない。
最終的な報酬である美味しさにより磨きがかかったスイーツだって、完成されるまでにはそれなりに日数が掛かるんだから、一緒について行っても直ぐには楽しめないし。
何か必要があって呼び出されたら行くが、今回は王都に残ってシェイラと王都の食事処でも回る方がずっといい。
俺たちの工房だって誰か連絡先が王都にいる方が良いだろうし。
「そう言えば、薬や毒が魔力を込めると効果が増えるって話をちらっと聞いたけど、本当なの?」
パーティの為に解放されているアレクの実家の中を歩き回って美味しそうな食べ物を探しながらシェイラが尋ねる。
「ラフェーン曰く、体に働きかける素材と言うのは魔力が多めに含まれるとその効果が増幅することが多いんだってさ。
だから薬なんかでも劇薬系のはうっかり魔石の傍に置いてたりして魔力を吸収すると危険だから要注意なんだって」
ちなみに、元々劇薬で少量を気を付けて使う為の薬の適量が増えたせいで健康を損ねることはあっても、毒が魔力のせいで効果が変わって薬になることはないらしい。
「ふうん。
じゃあ、遺跡で出てくる香とかで湿気ちゃって効果が確認できなくなっている物でも魔力を込めたら少し元の効果が確認できるものがあるかもってこと?」
ちょっと考え込みながらシェイラが聞いてきた。
ずっと昔から埋まっていた香を燃やしてみるなんて、なんか危険そうじゃね?
「長い時間の間に大量に魔力を含んだり、別の物質を吸収したりして変質している可能性があるだろうから、基本的に遺跡で見つかる物を燃やしたり舐めてみたりするのはしない方が良いんじゃないか?
少なくとも試すなら動物相手にでも実験してからとか、それこそラフェーンを呼んで確認してからにするとかにしてくれ」
シェイラがユニコーンとかユニコーンの眷属みたいのと契約できるのが一番安全なんだが・・・多少は魔力を有するものの、魔法陣に魔力を注ぎ込む技能は無いから使い魔召喚は難しいよなぁ。
それに使い魔との契約は対価として魔力を差し出さなきゃいけないのだ。
お願い事をする際にも魔力を渡す必要があるし、シェイラ程度の魔力じゃあ厳しいだろう。
一緒に暮らしているなら俺が毎晩魔石を充填してそれをシェイラに渡して対価代わりにして貰うっていうのももしかしたら可能かも知れないが、流石に王都からそのためだけに毎日魔石を届けに行くのは厳しいし・・・そんな関係でもないからなぁ。
シェイラも俺も、対等な関係なのが気楽でいいのだ。
どちらかがもう片方に一方的に借りを生じさせる状態は関係を歪めさせて駄目にしてしまうだろう。
ちょっとしたプレゼントとか試作品程度だったら渡しても大丈夫だろうから、今度毒や危険な成分を探知できる魔具とか素材を作れないか、アレクとラフェーンに相談してみるかな?
もしかしたらシャルロ経由でアルフォンスに聞くのも良いかも。
ラフェーンはある程度は本能的に体に害がある物が分かるらしいから、それを探知する道具なんぞ知らない可能性が高そうだ。
俺も清早がヤバい時は教えてくれるから、案外と無防備だし。
でもそんな恵まれた人間は少ないのだ。
体に害がある物を知らせてくれる魔具は開発出来たら凄く需要はありそう。
・・・と言うか、王族とか高位貴族用に既に存在しているかも?
シャルロにも聞いてみるか。
蒼流がいるから本人は絶対に必要無いだろうけど、親父さんか兄貴に貴族御用達な防毒用何かがあるか聞いてもらったらいいかも。
【後書き】
毒探知ってアレルギーはどうなんだろ?
アナフィラックショックで死ぬ事はあり得るんだから本人にとっては毒ですよね。
デザートに使う香辛料に関して何やら興奮したように話しているシャルロをアレクの義姉さんに押し付けて撤退した俺に、シェイラが悪戯っぽく聞いてきた。
「俺は食べるの専門。
美味しければ同じのを繰り返し食べるのでも構わないから、新しい香りや刺激を求めてふらふらとスパイス専門店を回る趣味はないな」
第一、数日前に東大陸には行ったばかりだ。
シェイラとだったら『シェイラと一緒にいる』という利点がある上、蚤市はそれなりに見て回って楽しい。
だが今回のシェフィート商会・料理人合同買い付けは基本的に香辛料とお洒落系の生地とか服とかを見て回るんだぞ?
冗談じゃない。
最終的な報酬である美味しさにより磨きがかかったスイーツだって、完成されるまでにはそれなりに日数が掛かるんだから、一緒について行っても直ぐには楽しめないし。
何か必要があって呼び出されたら行くが、今回は王都に残ってシェイラと王都の食事処でも回る方がずっといい。
俺たちの工房だって誰か連絡先が王都にいる方が良いだろうし。
「そう言えば、薬や毒が魔力を込めると効果が増えるって話をちらっと聞いたけど、本当なの?」
パーティの為に解放されているアレクの実家の中を歩き回って美味しそうな食べ物を探しながらシェイラが尋ねる。
「ラフェーン曰く、体に働きかける素材と言うのは魔力が多めに含まれるとその効果が増幅することが多いんだってさ。
だから薬なんかでも劇薬系のはうっかり魔石の傍に置いてたりして魔力を吸収すると危険だから要注意なんだって」
ちなみに、元々劇薬で少量を気を付けて使う為の薬の適量が増えたせいで健康を損ねることはあっても、毒が魔力のせいで効果が変わって薬になることはないらしい。
「ふうん。
じゃあ、遺跡で出てくる香とかで湿気ちゃって効果が確認できなくなっている物でも魔力を込めたら少し元の効果が確認できるものがあるかもってこと?」
ちょっと考え込みながらシェイラが聞いてきた。
ずっと昔から埋まっていた香を燃やしてみるなんて、なんか危険そうじゃね?
「長い時間の間に大量に魔力を含んだり、別の物質を吸収したりして変質している可能性があるだろうから、基本的に遺跡で見つかる物を燃やしたり舐めてみたりするのはしない方が良いんじゃないか?
少なくとも試すなら動物相手にでも実験してからとか、それこそラフェーンを呼んで確認してからにするとかにしてくれ」
シェイラがユニコーンとかユニコーンの眷属みたいのと契約できるのが一番安全なんだが・・・多少は魔力を有するものの、魔法陣に魔力を注ぎ込む技能は無いから使い魔召喚は難しいよなぁ。
それに使い魔との契約は対価として魔力を差し出さなきゃいけないのだ。
お願い事をする際にも魔力を渡す必要があるし、シェイラ程度の魔力じゃあ厳しいだろう。
一緒に暮らしているなら俺が毎晩魔石を充填してそれをシェイラに渡して対価代わりにして貰うっていうのももしかしたら可能かも知れないが、流石に王都からそのためだけに毎日魔石を届けに行くのは厳しいし・・・そんな関係でもないからなぁ。
シェイラも俺も、対等な関係なのが気楽でいいのだ。
どちらかがもう片方に一方的に借りを生じさせる状態は関係を歪めさせて駄目にしてしまうだろう。
ちょっとしたプレゼントとか試作品程度だったら渡しても大丈夫だろうから、今度毒や危険な成分を探知できる魔具とか素材を作れないか、アレクとラフェーンに相談してみるかな?
もしかしたらシャルロ経由でアルフォンスに聞くのも良いかも。
ラフェーンはある程度は本能的に体に害がある物が分かるらしいから、それを探知する道具なんぞ知らない可能性が高そうだ。
俺も清早がヤバい時は教えてくれるから、案外と無防備だし。
でもそんな恵まれた人間は少ないのだ。
体に害がある物を知らせてくれる魔具は開発出来たら凄く需要はありそう。
・・・と言うか、王族とか高位貴族用に既に存在しているかも?
シャルロにも聞いてみるか。
蒼流がいるから本人は絶対に必要無いだろうけど、親父さんか兄貴に貴族御用達な防毒用何かがあるか聞いてもらったらいいかも。
【後書き】
毒探知ってアレルギーはどうなんだろ?
アナフィラックショックで死ぬ事はあり得るんだから本人にとっては毒ですよね。
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