753 / 1,038
卒業後
752 星暦556年 桃の月 20日 年末の予定(10)
しおりを挟む
「おう、あんたか。商人でもないのによく来るな」
前回ゼブに会うのに経由した酒場に行ってみたらなんとカダがいた。
西部地区全体(今だったらもっと広いのか?)の顔役の左腕が酒場のバーテンダーをやっているなんて、ちょっと驚きだ。
少なくとも王都じゃあ青も赤も、長の使いとして人前に出ることはあっても盗賊《シーフ》ギルドの関与している酒場で働いていることなんてないぞ。
ジルダスの方がスケールが小さいからそうなるのか、それともそれが東大陸のやり方なのか。
裏社会の運営方法まで違うとしたら、ある意味興味深いところだな。
「久しぶり。
ちょっと年末に遊びに来ただけなんだが、ついでに挨拶しておこうかと思ってな。
会えそうか?」
左腕に会えたので、顔役に直に会うのは難しいって言うなら土産を此奴に渡して話を聞いておくのでも良いんだが。
「あ~。
ちょっと待て」
そう言ってカダが奥に消えた。
心眼《サイト》で追いかけると、奥にある隠し部屋の床板の一部を持ち上げ、出て来た梯子を降りて更に下に進む。
酒場の真下ではなくそこから後ろの家の方に歩いて行って、そっちの梯子を登って上に出ていた。
ふむ。
奥側の隣家は顔役の拠点の一つらしい。
普通の一軒屋を使うとは面白い。
こっちみたいに暑い所だったらどっかの店の地下の方が涼しそうな気がするが、日があたらない地下室は嫌いなのかな?
暫し話し合っていたと思ったら、カダが帰って来た。
「会うそうだ」
若いのを顎で呼び寄せ、何やら命じてから俺の方に顔を向けた。
「こいつが案内する。
面倒なことはしないでくれると期待してるぜ」
「おう。
ありがとな。
良かったらこれをどうぞ。アファル王国の土産だ」
シャルロお勧めの珍しく甘くない焼き菓子を取り出して渡す。
裏社会への土産には酒が多いんだが、酒場で酒を土産に渡しても意味が無いだろう。
王都と違って自力でトップに会いに行けないとなったら酒場経由になるので、土産は酒のつまみになるような菓子を選んだのだ。
酒ですらつまみに甘いクッキーを好むシャルロだが、甘くない菓子も食べないことはない。
ある意味、そこまで好きじゃないだけあって、シャルロが勧める甘くない菓子は絶品だ。
これも手が止まらなくなるぞ~。
うっかり独り占めしないようカダに警告して、若い男の後をついて行く。
どうやら、後ろの隣家に拠点を選んだのは、この酒場から簡単にたどり着けないかららしい。
やたらと遠回りしていると思いながら歩いていたのだが、周囲の道を心眼《サイト》で確認したら実際には一応最短距離だった。
途中の道がところどころ塞がれているせいでの『最短』距離だが。
これだったら屋根の上を歩くのが一番早いが・・・流石にそれをやったら危険だろう。
・・・屋根の上も心眼《サイト》で見ると、泥棒除けか呪具がところどころに隠してあるし。
勝手に人の家の屋根の上を歩いているのが悪いとは言え、屋根の上を歩いている時に足が突然麻痺する罠《トラップ》系呪具なんて、凶悪だぞ?
中々殺意満載な防犯装置だ。
それともジルダスでは屋根の上って言うのは泥棒用の通路じゃないんかね?
「ここだ」
何も言わずに黙々と歩いていた若いのが、ゼブがいる家の裏口の前で立ち止まって俺にドアを示した。
開けてくれないのかよ?
向こう側で護衛っぽいのが手ぐすね引いて待っているんだが。
「一応面会は許可されたんだから、お前が開けてそう言ってくれないか?
別に、警備の人間に俺を襲撃させろとカダに命じられた訳じゃあないんだろ?
うっかり警備の人間に攻撃されるのも嫌だし、反撃して報復に付け狙われるのも困る」
シェイラがいるのだ。
変に恨みを買うことは避けたい。
「・・・おう。
話が付いているなら入りな」
ちょっと一瞬驚いたような顔をした若いのが、扉を開けて中に居た人間にぼそりと一言話してから、裏口からどいた。
気が利かないだけか。
全く最近の若いのは・・・。
なんかこう、何処もかしこも若い下層部員の教育がなってない気がするんだが・・・なんでだろ?
俺だってまだ十分に若い筈なのに、『最近の若いのは教育がなってない』なんて思えてくる。
ジジイと付き合いすぎかな?
【後書き】
ちなみに案内役の若いのはウィルとほぼ同年代w
前回ゼブに会うのに経由した酒場に行ってみたらなんとカダがいた。
西部地区全体(今だったらもっと広いのか?)の顔役の左腕が酒場のバーテンダーをやっているなんて、ちょっと驚きだ。
少なくとも王都じゃあ青も赤も、長の使いとして人前に出ることはあっても盗賊《シーフ》ギルドの関与している酒場で働いていることなんてないぞ。
ジルダスの方がスケールが小さいからそうなるのか、それともそれが東大陸のやり方なのか。
裏社会の運営方法まで違うとしたら、ある意味興味深いところだな。
「久しぶり。
ちょっと年末に遊びに来ただけなんだが、ついでに挨拶しておこうかと思ってな。
会えそうか?」
左腕に会えたので、顔役に直に会うのは難しいって言うなら土産を此奴に渡して話を聞いておくのでも良いんだが。
「あ~。
ちょっと待て」
そう言ってカダが奥に消えた。
心眼《サイト》で追いかけると、奥にある隠し部屋の床板の一部を持ち上げ、出て来た梯子を降りて更に下に進む。
酒場の真下ではなくそこから後ろの家の方に歩いて行って、そっちの梯子を登って上に出ていた。
ふむ。
奥側の隣家は顔役の拠点の一つらしい。
普通の一軒屋を使うとは面白い。
こっちみたいに暑い所だったらどっかの店の地下の方が涼しそうな気がするが、日があたらない地下室は嫌いなのかな?
暫し話し合っていたと思ったら、カダが帰って来た。
「会うそうだ」
若いのを顎で呼び寄せ、何やら命じてから俺の方に顔を向けた。
「こいつが案内する。
面倒なことはしないでくれると期待してるぜ」
「おう。
ありがとな。
良かったらこれをどうぞ。アファル王国の土産だ」
シャルロお勧めの珍しく甘くない焼き菓子を取り出して渡す。
裏社会への土産には酒が多いんだが、酒場で酒を土産に渡しても意味が無いだろう。
王都と違って自力でトップに会いに行けないとなったら酒場経由になるので、土産は酒のつまみになるような菓子を選んだのだ。
酒ですらつまみに甘いクッキーを好むシャルロだが、甘くない菓子も食べないことはない。
ある意味、そこまで好きじゃないだけあって、シャルロが勧める甘くない菓子は絶品だ。
これも手が止まらなくなるぞ~。
うっかり独り占めしないようカダに警告して、若い男の後をついて行く。
どうやら、後ろの隣家に拠点を選んだのは、この酒場から簡単にたどり着けないかららしい。
やたらと遠回りしていると思いながら歩いていたのだが、周囲の道を心眼《サイト》で確認したら実際には一応最短距離だった。
途中の道がところどころ塞がれているせいでの『最短』距離だが。
これだったら屋根の上を歩くのが一番早いが・・・流石にそれをやったら危険だろう。
・・・屋根の上も心眼《サイト》で見ると、泥棒除けか呪具がところどころに隠してあるし。
勝手に人の家の屋根の上を歩いているのが悪いとは言え、屋根の上を歩いている時に足が突然麻痺する罠《トラップ》系呪具なんて、凶悪だぞ?
中々殺意満載な防犯装置だ。
それともジルダスでは屋根の上って言うのは泥棒用の通路じゃないんかね?
「ここだ」
何も言わずに黙々と歩いていた若いのが、ゼブがいる家の裏口の前で立ち止まって俺にドアを示した。
開けてくれないのかよ?
向こう側で護衛っぽいのが手ぐすね引いて待っているんだが。
「一応面会は許可されたんだから、お前が開けてそう言ってくれないか?
別に、警備の人間に俺を襲撃させろとカダに命じられた訳じゃあないんだろ?
うっかり警備の人間に攻撃されるのも嫌だし、反撃して報復に付け狙われるのも困る」
シェイラがいるのだ。
変に恨みを買うことは避けたい。
「・・・おう。
話が付いているなら入りな」
ちょっと一瞬驚いたような顔をした若いのが、扉を開けて中に居た人間にぼそりと一言話してから、裏口からどいた。
気が利かないだけか。
全く最近の若いのは・・・。
なんかこう、何処もかしこも若い下層部員の教育がなってない気がするんだが・・・なんでだろ?
俺だってまだ十分に若い筈なのに、『最近の若いのは教育がなってない』なんて思えてくる。
ジジイと付き合いすぎかな?
【後書き】
ちなみに案内役の若いのはウィルとほぼ同年代w
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です
岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」
私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。
しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。
しかも私を年増呼ばわり。
はあ?
あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!
などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。
その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。
英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話
島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。
俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。
仰っている意味が分かりません
水姫
ファンタジー
お兄様が何故か王位を継ぐ気満々なのですけれど、何を仰っているのでしょうか?
常識知らずの迷惑な兄と次代の王のやり取りです。
※過去に投稿したものを手直し後再度投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる